サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 【伊豆地区分科会パネルディスカッション】
 少子高齢化、健康志向を反映し、ウエルネスの視点を取り入れた観光振興が各地で行われている。観光交流客数の落ち込みが続く伊豆半島で、ウエルネスは集客のカギとなるのか。11月の「風は東から」は、先月29日に開かれたサンフロント21懇話会伊豆地区分科会のパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに県産業部の出野勉観光局長、県立静岡がんセンター研究所の楠原正俊地域資源研究部長、アジアックスの李衛東社長、船原館の鈴木基文館主を迎え、伊豆観光におけるウエルネスの事例、地域のおもてなしを磨く方法について聞いた。聞き手は財団法人企業経営研究所の中山勝常務理事。
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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ウエルネスが変える観光、住民参加で地域力の底上げを
出野勉県観光局長
■ 出野勉県観光局長
新潟大学人文学部卒業後、昭和50年に静岡県入庁。16年企画部知事公室長、18年健康福祉部参事、19年厚生部理事を経て、20年産業部観光局長就任、現在に至る

楠原正俊県立静岡がんセンター研究所地域資源研究部長
■ 楠原正俊県立静岡がんセンター研究所地域資源研究部長
慶應義塾大学医学部卒業後、同大学病院内科勤務。平成6年ワシントン州立大学心血管研究所リサーチフェロー、12年防衛医科大学校准教授を経て、20年から現職
伊豆で芽生えるウエルネスの取り組み
 中山 本日は「伊豆の観光はウエルネス」と題してお話をうかがいます。まず、静岡県、伊豆の観光の現状についてお話しください。

 出野 平成20年度の観光交流客数は県全体で1億3800万人、全国5位です。昭和63年のピーク時に比べ97%と、全国各地で落ち込みが激しい中では何とかピーク時に近い数字を保っています。ただ、伊豆地区を見ると63年の7300万人余から5割程度の落ち込み、また、地域経済に直接関係する宿泊客数は平成3年の1900万人から1100万人、約6割にまで減少するなど非常に厳しい状況です。
 最近の観光を取り巻く状況は、いわゆる団体旅行の物見遊山型から個人志向、体験志向が増えています。個人客は目的を持ってお見えになりますので、当然ウエルネスツーリズムやグリーンツーリズム、エコツーリズムなどが人気を集めています。6月には空港も開港しました。伊豆観光の落ち込みを挽回する新たなマーケットの創造、そしてコンベンションが観光施策の重要な柱になると思います。

 中山 県東部で展開するファルマバレープロジェクトでは、ウエルネスが一つのキーワードとなっています。静岡がんセンター研究所での取り組みをご紹介ください。

 楠原 医療の進歩に伴って、病院も単に治療するだけでなくプラスアルファが求められています。現在、高砂香料工業と香りの研究を進めていまして、一つは病院に特異的に発生する病臭の研究、もう一つはがんセンターのガーデンホスピタルに植えられたバラの香りの研究です。53種類のバラの成分分析が終わり、今後はそれらを使った商品開発を予定しています。
 また、地元の方々と一緒に地元ならではの香りも研究しています。熱海のダイダイ、戸田のミカン、沼津のお茶などの成分を分析して、患者さんの体を拭くタオルに香りをつけて気分転換を図ってもらっています。

 中山 李さんは中国の方々を日本に送客するお仕事をされています。伊豆の国市で行った健康診断と日本旅館の滞在を組み合わせたモニターツアーは好評だったそうですね。

  中国では改革開放路線で沿岸部が豊かになり、健康への意識が高まっています。ところが健康診断の設備やシステムが未整備のため、需要があるのに国内では受けられません。わざわざヨーロッパまで行っていたのですが、時差もなく、診断の結果も正確な日本で受けられればそれに越したことはない、とモニターツアーに踏み切りました。

 鈴木 温泉を活用したウエルネスプログラムを始めて10年ほどになります。伊豆新世紀創造祭を契機に日本の温泉文化を見直そうと、温泉文化研究会を立ち上げました。活動する中で温泉の気持ちのいい入り方やワッツ(水中指圧)を体験し、「温泉って何て気持ちがいいのだろう」と思ったことが今まで続いている原点です。
 その後、県や市をはじめ多くの人からバックアップを受けながら、「かかりつけ湯」や「伊豆市まるごとTO-JI博覧会」にもかかわってきました。「TO-JI」と横文字にしたのは伊豆を世界の温泉療法のメッカにする、という思いからです。10年でお客さんが困るほど来るはずだったのですが、思惑通りにはなっていません。しかし、手応えは感じています。

 中山 その理由をどうお考えですか。

 鈴木 ウエルネス=健康で大量のお客さまを集めるのは難しい。温泉療法を本当に必要としているお客さまは全体の3〜5%です。その程度だと経営的に合わないのでやめてしまう宿がほとんどでしょう。事実、そんなことをやってももうからない、と見ている同業者が大半です。
 しかし、そうしたお客さまに満足していただけるスキルを持つことが、そのほかの大部分のお客さまにも満足していただける一番の元になると思っています。
 


ウエルネスプラスアルファを考える
李衛東アジアックス社長
■ 李衛東アジアックス社長
昭和55年中国民航上海管理局(現中国東方航空)に入社。61年から平成2年まで中国民航大阪支店と福岡支店に駐在。平成4年に来日、(株)アジアックスを設立

鈴木基文船原館館主
■ 鈴木基文船原館館主
立教大学社会学部卒業後、昭和51年船原館入社、55年代表取締役就任。伊豆新世紀創造祭を機に新しい温泉療法を活用した地域おこしを始める。18年「かかりつけ湯協議会」代表幹事就任
 出野 これをやったら来年はお客さんが100万人増えるという即効性のある施策はないと思いますが、ウエルネスの視点はやはり重要ですね。
 しかし、1泊ではそうした良さはなかなか分かってもらえない。2泊、3泊をどう組み立てるかが成功のカギだと思います。夜、温泉に入って療法を体験する。では昼間どうするか。井上靖の文学碑がありますよ、環境にいいビオトープがありますよといったプラスアルファ、それが伊豆にはたくさんあると思います。

 李 ツアーのメーンは温泉旅館ですが、日本の旅館の良さも1泊では全然味わえません。夜遅く入って、翌日の昼にチェックアウトだと、旅館とは何かさえも分からない。もう1泊してもらうと良さが分かるし、周辺も見ることができますので、健診ツアーも周辺の観光地を回って2〜3泊で組み立てたいと考えています。

 中山 長く滞在してもらうためには、中国の方に何を提案したらいいのでしょうか。

  私たちは温泉旅館の滞在に健康診断やゴルフ、食の体験などを組み合わせています。観光だけでなく、ビジネスの視察や不動産の購入、また、中国には豊かな農村がありますので彼らは日本の技術を見たいと思っています。
 温泉に入りたいけれど大勢で入るのは恥ずかしい人に露天風呂付きの部屋などは大変喜ばれます。こうした細かな情報をぜひ教えてほしいですね。

 中山 今研究されている地元の香りは新たな地域の観光資源になるのでしょうか。

 楠原 医療の現場で使えるものをまずは考えていますが、香りは旅館でも使えますね。
 わさびやお茶はもう研究し尽くされていますので、地のもので歴史や物語があるが有名ではないもの、そこらにあって見逃されている、というものを期待していたのですが、なかなか出てきません。ぜひそういう隠れた香りの情報提供をお願いします。

 鈴木 旅館仲間と夏みかんや天城に自生する「くろもじ」を使ったミスト作りをしています。また、それを体験メニューとして提供しています。地域に自生しているものを探し出せばまだまだあると思います。


中山勝(財)企業経営研究所常務理事
■ 中山勝(財)企業経営研究所常務理事
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。スルガ銀行入行後、企業経営研究所出向。平成12年部長、20年5月常務理事。サンフロント21懇話会TESS研究員
地域全体で健康の手本を示すことが大切
 中山 ウエルネスや着地型商品が本当に集客ツールとなるのか、どこの地域も必要だと思っていながら結果が出せない部分ですね。

 鈴木 結局、「地域力を高める」ことなのではないでしょうか。それは健康増進の取り組みだったり、子どもたちへの教育だったり、遠回りだけれどそこから手を付けなければならないと思います。
 温泉プログラムで、私たちはセルフケアの方法もお教えしています。今はすぐに薬だ、病院だとなってしまいますが、元来人間には自己治癒力が備わっています。意識を患部に向けることで治ろうという気持ちが湧き出てくる。それこそが一番大事で、市民自身が健康になるという気持ちを少しずつ芽生えさせることが地域を、極端な話、日本を救うのではないでしょうか。
 地域の人たちはもう始めています。この地域の皆さんが元気になって医療費も下がっている、となれば、黙っていてもお客さんが来てくれるのではと思います。

 楠原 日本ではお風呂で亡くなる方が年間約1万人。多くは脳卒中や心臓病と考えられていますが、実は熱中症が原因ではないか、という考え方があります。気持ちがいいからと長風呂をしているうちに熱中症状態になり、意識がぼうっとして倒れておぼれてしまう。であれば、そういう状態を知っておく、お客さんに教えるというのは安全な入浴をするのに必要ですし、予防にも効果的ですね。
 また、沖縄の食生活のように、長生きできることを住民自らが示す。例えばわさびを全員で食べるとか、温泉に入るとか、市民参加型でいろいろなトライアルをしてもらうといいと思います。

 出野 地域力を高めるには、地域のPRはもちろん、受け入れ体制を作ることがすごく重要です。観光事業者だけでなく住民の皆さんが、この町は観光でがんばっているのだからお客さんに親切にしよう、満足してもらおうという気持ちを、それこそ子どもたちから持ってもらわないと、観光客はリピーターになりません。
 今年5月に三島市で、観光立国教育全国大会の第1回が開催されました。学校の授業で観光を切り口に地域を見直そうという取り組みです。地元を愛する心が長い目で見れば経済の活性化をしていくのでしょうし、子どもたちが地域に誇りを持てるような教育をすることが一番大切だと思います。




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