サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 伊豆の観光振興策として川勝平太知事が提案した「ジオパーク」の認定に向けた取り組みが始まろうとしている。ジオパークは、地球(ジオ)の成り立ちが分かるような地形、地層や鉱物、温泉などさまざまな地質遺産を見どころとする自然公園。ヨーロッパでは観光ガイドブックの最初のページに土地の成り立ちが出ているほど、地質遺産を楽しむジオツーリズムはポピュラーだ。1月の「風は東から」はジオパークを紹介するとともに、伊豆地域の取り組みについて取材した。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10
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連泊増やす試行を国・県が支援、観光圏整備で「伊豆はひとつ」実現を
地形を楽しむ新手法。伊豆は地質遺産の宝庫
大室山は火山が吐き出した火山岩や火山灰が火口周辺に降り積もってできたスコリア丘。国指定天然記念物を目指している
■大室山は火山が吐き出した火山岩や火山灰が火口周辺に降り積もってできたスコリア丘。国指定天然記念物を目指している
 
温泉水による変質を受けて黄褐色に染まった火山噴出物に、夕陽が当たって黄金色に見えることから名付けられた西伊豆町の黄金崎。県指定天然記念物
■温泉水による変質を受けて黄褐色に染まった火山噴出物に、夕陽が当たって黄金色に見えることから名付けられた西伊豆町の黄金崎。県指定天然記念物 
 
 普段何気なく目にしている山や川、入り組んだ海岸線など、地形にはすべて意味があり、それを読み解く知識があれば違った世界が見えてくる。それがジオパークの魅力のひとつだ。世界遺産とは異なり、環境を保全しながら、教育の普及、観光振興などを目的としている。昨年6月の県議会で川勝知事が伊豆の観光振興策として、ジオパークの認定を目指すよう地域に提案するとともに、その取り組みを支援する姿勢を示したことで、一躍脚光を浴びた。
 ジオパークは、ユネスコが支援して2004年に設立された世界ジオパークネットワークが認定する。現在、世界19カ国64カ所にあり、国内では昨年8月、洞爺湖有珠山(北海道)、糸魚川(新潟県)、島原半島(長崎県)がそれぞれ認定された。
 ジオパークに認定されると、世界ジオパークネットワークのガイドラインに基づく質の高いジオツーリズムの提供が保証される。知名度が国内外で高まり、見学者の増加や雇用の創出など地域の活性化も期待できる。
 川勝知事の発言を受け、県は先月、伊東市内で地元自治体や観光関係者、NPOなどを対象にジオパークについての講演会を開いた。県では、「今までは、きれいとか不思議で終わっていた地質や景観がどのように成り立ち、どのように変化してきたのかを学び、楽しむことができるのがジオパーク」と説明する。県温泉協会西伊豆支部でもジオパークへの理解を深めようと講習会を開催した。
 地質学が専門で、伊豆半島の成り立ちを研究する静岡大学の小山真人教授は「地質学から見た伊豆の魅力は多面的でほかに例を見ない。2000万年前から100万年前までの海底火山の歴史、日本列島と衝突したそれ以降の陸上火山の歴史、そして今でも続く地震・火山活動―と、まさに地球のダイナミックな営みが集約された場所」と語る。
 また、伊豆には人間の歴史と直接かかわってきた地質、地形があり、火山から流れ出した溶岩は江戸城の築城石などに使われた。土肥金山を代表とする金鉱も温泉水の中の成分が沈殿したものだ。大仁金山の遺構も残っている。それらがすべてジオパークの対象となりうる。


ジオツーリズムがカギ。伊東市の熱心な取り組み
ネイチャースクールを主宰する齋藤さんは「今、目に触れている地形も長い年月の間に風化し、また隆起する。自然の営みを理解し、大切に味わいながら守っていきたい」と語る
ネイチャースクールを主宰する齋藤さんは「今、目に触れている地形も長い年月の間に風化し、また隆起する。自然の営みを理解し、大切に味わいながら守っていきたい」と語る
 世界ジオパークに認定されるには、日本ジオパーク委員会の推薦を受けなければならない。推薦できるのは1国につき年間2地域と限定されるため、狭き門だ。
 一番のポイントは、地形や地質、地学や地理学の視点で地球の普遍的な価値を楽しむ旅「ジオツーリズム」が地域活動として定着しているかどうかだという。地元の人たちが、自ら地質遺産を保全し、子どもたちや来訪者に伝えていく活動こそが最も重要であり、住民への啓発活動やガイドの育成、研修などは時間もかかる部分と言われている。
 また、ビジターセンターや自然観察路、説明看板の整備に加え、ジオに根ざした地元特産品の開発や運営組織なども評価の対象になる。
 海外のジオパークに詳しい小山教授は「ジオパークを目指すには、まず地元の人に本当に面白い、と思ってもらうこと。その喜びを観光客に伝えていこうと思うことが重要」と語る。拠点整備は重要だが、新たにハコモノを作る必要はなく、道の駅や学校の空き教室などを活用できる。人が常駐し、展示物があり、分からないことを質問できたり、ジオツーリズムの受け入れができたりすれば良いという。
 ジオパークに向けて熱心に取り組んでいるのが伊東市だ。昨年、城ヶ崎海岸の地質や植物、鳥と昆虫など、地域の特徴を手軽に学べるパンフレットを作った。伊豆新世紀創造祭を機に伊東の自然や歴史を見直す機運が高まり、平成18年5月に「伊東自然歴史案内人会」が発足し、築城石を切り出した石丁場や城ヶ崎海岸などを案内するガイドウオークを行っている。ガイドは同市の養成講座を修了し、認定試験に合格した人たちだ。76人が在籍し、現在は4期生の養成をしている最中という。
溶岩流が作った広場「いがいが根」で行われたジオツアーの様子
■溶岩流が作った広場「いがいが根」で行われたジオツアーの様子
 同市を拠点に活動する「伊豆城ヶ崎ネイチャースクール」(代表・齋藤俊仁さん)のツアーは、黒潮に洗われた城ヶ崎海岸の溶岩地形や大室山山頂での火山弾観察など、ジオツーリズムそのもの。NPO法人まちこん伊東も「伊豆東部単成火山群を学ぶ」などのツアープログラムを提供している。伊豆高原ペンション協同組合は中京地域から年間7000人もの修学旅行生を受け入れ、子どもたちの一部はこうしたプログラムに参加している。齋藤さんは「参加者は地形のおもしろさに目を見張り、成り立ちを聞くことでさらに興味を持つ」とジオツーリズムの手応えを語る。


ジオパーク認定に向け地域一丸。災害情報の提供も
「伊豆はジオパークにふさわしい魅力にあふれている」と語る小山教授
「伊豆はジオパークにふさわしい魅力にあふれている」と語る小山教授
 観光の新たな切り口をジオパークにすることで、伊豆の魅力に厚みと多様性が加わり、ジオツーリズムにより新たな観光客が獲得できる。世界ジオパークに加盟すれば、伊豆の名前が全世界に知れ渡り、同時に防災対策もしっかり発信していくことができる。
 伊豆は多くの研究機関が地震・火山活動の観測点を置くなど、地質研究が盛んな地域。小山教授は「伊東沖の群発地震も、最近は観測データを見ていれば、ある程度の見通しが立つようになった」という。しかし今は、そうした情報や研究成果を一般の人々に伝える手段がない。ほかのジオパークでは、若い研究者を採用し、展示や地元ガイドの育成を行いながら、研究活動にも力を入れている。こうしたことからも「ジオパーク認定に向けた拠点整備や人材育成は伊豆にとって必要だ」と小山教授。長崎県の雲仙地域ではジオツーリズムを通じ、地域の防災体制をPRすることで、逆に観光客に安心感を持ってもらえたという。
 今後、県は市町を集めた会議での情報交換を行うとともに、ジオパークの実現に必要な組織づくりを地域に働きかけていく。県は「関係する人たちが一堂に会して同じ方向を向き、話し合う場を作りたい。伊豆は地質遺産や自然、文化などの地域資源が豊富であり、ジオパーク認定に向けて一つにまとまるのは決して難しい地域ではない」と語る。
 まだ耳なれない「ジオツーリズム」だが、すでに天城や西伊豆など、伊豆各地で着地型観光メニューとして行われている内容だ。通常、ジオツーリズムは2泊、3泊してじっくり楽しむもの。伊豆各地に拠点を設け、連携して質の高いジオツーリズムを提供したい。伊東市観光課は「学問的にきちんとした核があれば地震に関する情報も発信でき、観光客に安心感を与えられる。伊豆半島の成り立ちを学ぶことと観光を抱き合わせで進めていきたい」と意欲をのぞかせる。
 群発地震の影響で年末年始に伊東地区を中心に多くの宿泊施設でキャンセルが出た。しかし、火山活動は災害だけでなく、美しい景観や温泉など、そこに住む人々に多くの恵みをもたらしてくれる。
 地球の恵みを上手に利用した伊豆ならではのジオパークの在り方を地域ぐるみで追求してほしい。




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