サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 伊豆半島2市3町(伊東、下田、東伊豆、河津、南伊豆)を圏域に複数の観光地が連携しながら、滞在型観光を目指す「伊豆観光圏」整備が始まる。8月の「風は東から」は、先月27日のサンフロント21懇話会伊豆地区分科会でのパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに伊豆観光圏整備推進協議会の石井文弥副会長、伊豆体験型観光協議会の鈴木達志会長、県の渡井務観光局長、熊本・阿蘇地域振興デザインセンターの坂元英俊事務局長を迎え、観光圏整備の進め方について議論した。コーディネーターは懇話会シンクタンクTESSの中山勝研究員(企業経営研究所常務理事)。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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観光圏で伊豆の魅力の掘り起こし強化 地域が潤う仕組みづくり不可欠
後藤全弘 県東部地域コンベンションビューロー会長
■石井文弥 伊豆観光圏整備推進協議会副会長
1972年東海自動車入社、総務部長、自動車営業部長、事業部長などを歴任し、現在専務取締役。2007年伊東観光協会長に就任

野村浩司 静岡総合研究機構主席研究員
■鈴木達志 伊豆体験型観光協議会長
1999年アウトドア体験プログラム企画・運営会社を設立、2005年西伊豆へ移住、伊豆全域のグリーン・ツーリズム指導者育成、活動の促進、地域活性化などを手がける
体験型プログラムに地域の人材を活用
 中山 伊豆観光圏について今後の進め方や今ある課題などについてうかがいます。

 石井 伊豆観光圏は2市3町を圏域とし、「海へ山へ、そして温泉〜海洋温泉ストーリー伊豆」をテーマに、長期滞在が可能なさまざまな体験プログラムや周遊の仕組みづくりに取り組んでいます。準備期間が短かったので、組織のあり方や事業内容の十分な検証などを行っているところです。特に専任の事務局スタッフをどうするか、事務局運営費をどうねん出するかが大きな課題です。
 観光圏を進めるにあたっては、行政からの委託事業をこなす従来の観光協会とは違い、「地域の魅力をコーディネートする力」を持った中枢組織が必要と考えます。観光業者やNPOなどのさまざまな活動を総合的にコーディネートして、来た人に伊豆らしさや伊豆の魅力を感じてもらい、同時に地域も繁盛できる、新しい機能が求められていると思います。

 中山 鈴木さんは西伊豆で体験型観光を実際に行っていますね。

 鈴木 伊豆体験型観光協議会(ジョイズ)は西伊豆を拠点に、体験指導者、宿泊施設、食事処、みやげもの店、交通機関などが集まり、伊豆を体験型観光で盛り上げようという団体です。
 ジョイズと、西伊豆漁協、西伊豆町などが提供する「西伊豆ほんもの海遊びフェスタ」では、リタイアした漁師さんに伝統的な櫓(ろ)こぎを習い、いけすまで船をこぎ、タイの稚魚にえさをやる体験プログラム「船長気分で櫓こぎ体験」を開催しています。えさやりは漁協から提案いただき、単に櫓をこぐだけでない、おもしろいプログラムになりました。
 こうした個々の体験を第三者のプロの目で組み合わせると、地元の人には見えてこなかったすごい魅力が目の前に現れてきます。このようなテーマとストーリー性を踏まえた体験プログラムを作っています。

 中山 観光圏を1歩も2歩も先取りした取り組みですね。課題はありますか。

 鈴木 人づくりです。良いプログラムを作っても受け入れられる人数は限られますし、受け入れ人数を増やせばサービスが低下します。
 ガイドを複数確保できればクオリティーは保てますので、地元の漁師や農家の方に初級指導者講習を受けてもらい、ガイドとしてお客さまを受け入れてもらっています。彼らがお客さまの喜ぶ顔を見てうれしい思いをする。ここにどれだけ多くの人を引っ張り込めるか、またビジネスとして成り立つようなシステムをどう作るか、そこがポイントだと思います。



組織に求められる 総合プロデュース力
野村浩司 静岡総合研究機構主席研究員
■渡井務 県観光局長
1975年静岡県庁入り、2001〜05年空港局空港部で静岡空港の路線誘致や利活用策を担当。08年自治局長を経て、今年から現職

野村浩司 静岡総合研究機構主席研究員
■坂元英俊 阿蘇地域振興デザインセンター事務局長 
1979年九州大学大学院農学研究科修了。温厚な人柄とプロデューサー的存在として、阿蘇地域1市7町村の広域連携プロジェクトを熊本県・市町村・民間団体などと協働し推進
 中山 県は観光圏への支援をどのようにお考えですか。

 渡井 伊豆観光圏の整備は、地域の経済団体や、体験型観光をしているNPO、個人などの民間が主体となり、行政も参加してつくる伊豆観光圏整備推進協議会が進めています。かつて県が行った伊豆新世紀創造祭や伊豆ブランド創成事業、観光カリスマ講座の受講生などが多数参加しているので心強いですね。
 残念ながら圏域の関係で国の認定はされたものの、事業支援は受けられませんでしたので、圏域の拡大とともに県でもできるだけ支援したいと思います。特に事務局体制については、相談に乗りながら作っていければと思います。

 坂元 観光圏を進めると同時に組織体をどう進めるかを最初に考えないと、どこかの観光協会が担ったものの、身動きが取れない結果になることもあります。
 人や情報がいつも集まり、プログラムを作るプラットホーム的な組織体と、それを旅行商品に仕上げて売り出すセンター的な組織体が必要ですね。事業の中に「いず丸」という旅行商品を総合的に企画する集団がありますから、ここを強化していくべきでしょう。

 石井 伊豆の場合、既存の組織を使わざるを得ないでしょうが、やはり機能の変化は必要です。地域には、現場のプレーヤーになれる人材はたくさん育成されています。ただ、先ほど申し上げたようにコーディネーターがいない。伊豆全体の広報宣伝は伊豆観光推進協議会が行っていますが、事業の範囲は限られています。
 ゆくゆくは観光協会だけでなく、伊豆60万人の大合併ができれば統一的な意思決定ができると思いますが、いつになるかわかりません。お客さまにとって観光圏の認定エリアや行政エリアは関係ありませんので、伊豆全体で商品づくりができるような、新しい体制が必要だと思います。

 坂元 伊豆が観光に使ってきた資源は全体の2割程度、8割はまだ手つかずでしょう。私たちは見つけた宝にどうやって魅力づけをするのか、その方法を現場の人たちにこと細かに指導しています。また、プログラムの掘り起こしとともに、住んでいる人たちの経済波及効果につながる仕組みも考えないと進みません。よそから人が来ることで自分たちもよくなる、という関係性の構築が不可欠です。
 地域を見ながら作り出したプログラムをどう加工して魅力的にプロモーションするかも大切です。伊豆で言えば、県内や富士、箱根と比較して伊豆のほうがいいよね、というものに仕上げていく。
 伊豆はこれだけの地域を抱えていますから、既存の観光協会の範囲では難しい。財団を立ち上げて、“地域の総合プロデュース”ができる組織体を作る気持ちでやった方がいいと思います。



後藤全弘 県東部地域コンベンションビューロー会長
■中山勝 企業経営研究所常務理事
慶應義塾大学大学院修了。スルガ銀行入行後、1982年企業経営研究所出向。主任研究員、部長を経て、2008年5月常務理事。サンフロント21懇話会TESS研究員

ジオパークで地域のまとまり図る
 中山 組織のあり方と人材をどう育成するかという課題が見えてきました。

 渡井 伊豆地域がまとまるきっかけの一つとして、6市6町がジオパークを推進すると2月に決めました。県はジオパークの認定に向け、テーマとなるジオサイトの広報などを考えています。
 伊豆半島の成り立ちや、そこから生まれた生活文化・伝統文化がうまく説明できるようになると、子どもを含めた地域の皆さんが地域を理解し、誇りを持つようになります。ジオパークを進めることが事務局の体制づくりには直接つながりませんが、地域を語る人の育成という面でプラスになると思います。

 坂元 ジオパークは地形・地質を見るだけでなく、そこに人がどうかかわり、どのような文化歴史ができたのかを学ぶのが重要です。その方が人に語ることが増えますし、地域の人たちが自分たちの地域を知ることに変わります。
 例えば、活火山である阿蘇山の火口には水がたまっています。最初は雨だと思っていました。ところが毎日噴き上がるマグマの蒸気が冷やされて水になっている。古代からこの水が減ると火山活動が活発になると言われていて、それを鎮めるために毎年、阿蘇神社の神主が地鎮祭を行うという歴史が生まれました。今までは神社の行事の一つと思っていたものがジオパークと結びつくことで、そういうストーリーが見えてきます。  伊豆半島にもこういうものがたくさん散らばっていて、どうして魚がおいしく育つのか、という要素もジオパークの内容に入ってくると思うのです。

 鈴木 私たちがお客さまをガイドすることこそがジオツーリズムです。なぜ魚がおいしいのか、なぜブナの原生林があるのか、お客さまと歩きながら一緒に考える。答えを言うのは簡単ですが、問いかけることで会話のキャッチボールを楽しむ。
 いろいろなノウハウがあると思いますし、自分のものにしておくのはもったいない。出し惜しみせず、どんどん提供するつもりです。

 石井 協議会は2月に総会を開き、新しい会員を迎えました。人材の層はかなり厚くなりましたが、この方々にどう活躍していただくのかを整理しないと、集まっただけでは動きません。
 観光圏を地域繁栄運営会社という視点でとらえ、広がりのある観光スタイルを提案したい。また、手のついていない8割の地域資源を掘り起こして、新たな需要を生み出したいと思います。




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