サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 本年度は県のファルマバレープロジェクト第2次戦略計画(2007〜10年度)の最終年度。ファルマバレーセンターを中心に、世界トップレベルの研究成果を、地域のものづくりや新サービスの創出に結びつけることを主眼に、県立静岡がんセンターと理工系大学、企業などとの共同研究をはじめ、医療現場のニーズと企業シーズを結びつけた医療機器開発、専門的な人材の育成などで具体的な成果が次々と生み出された。9月の「風は東から」は、これら成果の一つである「認知動作型トレーニング」が、どのような展開を見せているかを紹介する。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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普及する認知動作型トレーニング 医療機器視野に製造拠点づくり始まる
小林寛道東京大学名誉教授
■考案者の小林寛道東京大学名誉教授
新しい健康づくり始まる
 認知動作型トレーニングは、東京大学の小林寛道名誉教授の理論に基づくトレーニング方法。
 これまでの「筋トレ」とは違い、正しい動作の学習を通じて脳・神経系を活性化しながら、身体能力の向上を目指す。大腰筋など体の深い部分にある筋肉を効率的に鍛えられることから、アスリートの育成、子どもの体力向上、お年寄りの転倒予防まで幅広く対応できる。同プロジェクト第2次戦略計画に「科学的手法による健康づくり」として取り入れられた。
 県は小林名誉教授を健康長寿財団の副理事長(2008年度まで)に迎え、三島市にある県総合健康センターで2004〜08年にかけて同トレーニングの効果を研究。その結果を5種類の「認知動作型トレーニングマシンを用いた健康づくり教室マニュアル等」にまとめ上げ、県内の市町に普及している。県健康増進課によると、裾野市、伊東市など4市がトレーニングマシンを導入、同システムによる健康教室は28市町で開催された。
 専門の指導者育成にも力を入れており、しずおか健康長寿財団認定資格の「スポーツウェルネス指導者」養成講座を開催し、165人を養成した(2004〜09年)。静岡産業大学(大坪檀学長)でも県の寄付講座を開催、トレーニング指導者を述べ67人養成している。
 また、中高年の健康増進だけでなく、新たな分野への応用研究も行った。総合健康センターでは、(1)知的障害者更生施設及び障害者支援施設で歩行能力向上に関する研究を実施→歩行能力と歩行動作の改善に効果(2)介護老人保健施設及び特別養護老人ホームで認知症の改善に関する研究を実施→日常生活自立度の向上に効果(3)静岡産業大学とホルモン・免疫に関する共同研究を実施→免疫機能を向上させる効果を示唆―などの研究を行い、今後の展開に期待が膨らむ。
■マシンを利用し、体幹深部の筋肉を効率的に鍛える。子どもからお年寄りまで体力に合わせ、無理なくトレーニングができる(清水町のスポウエル健身塾)。




官から民への事業展開
今後の展開について小林名誉教授と話す堤社長(左)
■今後の展開について小林名誉教授と話す堤社長(左)
 県の認知動作型トレーニングの本格的な普及に先立ち、2004年に同プロジェクト初のベンチャー企業「スポーツ・ウエルネス総合企画研究所」(青山茂社長・清水町)が誕生。トレーニング機器、システムの製造・販売、トレーニングジムの運営・管理、介護予防における運動指導などを行ってきた。
 同社は08年1月、清水町に「スポウエル健身塾サントムーン柿田川」を開設。用途別に11種28台のマシンがそろい、健康増進や運動不足を解消したい中高年や、運動系クラブで技能向上を目指す中高生、速く走りたい小学生など幅広い年齢層の会員が通っている。昨年の市町対抗駅伝では、スポウエル健身塾の会員25人が出身市町の代表にエントリーされた。
 伊東市の山喜旅館(山田幹久代表)は、同市が行った「健脳健身教室」をきっかけに、小林名誉教授の協力で施設内に「十坪ジム(※1)」を開設。トレーニングマシンを置き、女将自らが指導者の資格を取り、宿泊客への新たなサービスと地域住民の健康増進を図っている。
 このほか、兵庫県丹波篠山市や、千葉県柏市で展開する十坪ジムも、静岡での研究成果が活用されている。小林名誉教授は山喜旅館のジムを広げ、低体力の人向けの教室を開きたい考えだ。講師を務める日本大学の教員と協力して、健康と観光、食などを組み合わせた取り組みも行う。小林名誉教授は「ファルマバレープロジェクトを頂点にしながら、行政、民間、そして大学も加わり、トレーニングの下支えができつつある」と普及に手応えを感じている。



人材育成・ものづくりに波及
 徐々に広がりを見せる認知動作型トレーニングだが、課題はマシンの価格と指導者の確保。このうち、指導者の育成、確保は県総合健康センター、静岡産業大学などが継続的に行っているため、生産拠点をどのようにつくるかが今後の大きな課題となる。
 マシン製造は県内外の数社が行っている。マシンの種類により発注先がまちまちで、ノウハウも共有されていないのが現状だ。受注生産のため、一般のトレーニングマシンに比べどうしても高額になる。そこで、製造ノウハウの一元化と県内での製造拠点づくりに向けた動きが始まっている。
 大手自動車メーカーのネジ製造を手がけるイズラシ(堤親朗社長)は技能五輪国際大会が行われた沼津市門池に新工場の建設を予定している。一昨年、認知動作型トレーニングマシン「体幹しぼりマシン」を試作したことをきっかけに、健康関連分野へ進出した。
 工場の規模は約9260平方メートル(事務棟含む)。一部で同マシンの製造(組み立て)も行う。
 敷地内には社員向けのトレーニングジム(約660平方メートル)も完備する。堤社長は「社員の健康づくりや福利厚生の充実は、常に会社にとっての目標。若いころからスポーツを続ける中で健康産業に進出したいという思いもあり、同プロジェクトをきっかけに決意した。多少のリスクはあるだろうが、ぜひ成功させ、事業の柱の一つに育てたい」と意気込む。トレーニングジムは一般にも開放する予定だ。
 小林名誉教授の協力でマシンの図面を取り寄せ、プラスチックや金型、制御装置など、それぞれの部品を担当する「協力会」との打ち合わせも始まった。同マシンはこうした協力会9社の部品を利用している。

  ■イズラシが製造した「体幹しぼりマシン」。従来型よりもコンパクトで置き場所を選ばない


医療機器参入に手厚い支援

 「将来的には医療機器認定も視野に入れたい」と堤社長は言う。認定されれば販路が拡大する。
 だが、医療機器開発には、(1)機器製造に用いる工場への県の認可(隔離された空間であること、洗面台があることなど)(2)製造する企業に必要な人的要件(品質保証、製造責任、事業統括などの人材がいること、医療機器製造従事経験3年以上など)、そして(3)薬事法に定められる製造機器のクラス(不具合があった場合の生命への影響度合いによってクラス1〜4に分けられる)ごとの専門機関による承認―などがあり、簡単に参入できるものではない。
 そこでファルマバレーセンターは、さまざまな支援メニューをそろえている。例えば本年度、経済産業省に採択された「川上・川下ネットワーク構築事業」は、県内の中小企業を部品・部材の供給者(川上)として、医療機器メーカー(川下)との仲介をする事業だ。中小企業の高い技術力を厚生労働省出身の薬事コンサルタントや、医療機器業界団体の理事らが目利きし、医療機器メーカーが求めるニーズとマッチングさせることで、部品・部材の発注につなげる。すでに県内のものづくり企業約70社に対し、得意分野と医療機器開発進出への意欲調査を終わらせているという。
 このほか、医療機器開発に携わる人材の育成や、薬事法に精通したアドバイザーの派遣、勉強会なども行っている。同センターの植田勝智副所長は「イズラシのような新たに医療機器分野を目指す企業はぜひ、こうした支援を活用してほしい。必要な人的資格は何か、工場の搬入、搬出口をどう取ればいいか、また製造機器のクラスによって難易度が大きく異なる薬事法は、専門家のアドバイスが不可欠」と語る。
 認知動作型トレーニングは、行政における健康づくりの普及から民間事業への展開、そしてものづくりと、大きく広がりつつある。今後も第2、第3の事例が生まれることを期待したい。

※1 十坪ジム…10坪ほどのスペースに認知動作型トレーニングマシン数台を設置、認定を受けた有資格者が丁寧に指導する予約制のジム。2006年度経済産業省「健康サービス創出支援事業の委託事業」としてスタートした。




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