サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 世界的な科学雑誌「ネイチャー」(12月2日号)でファルマバレープロジェクトが10ページにわたり特集される。「医療・健康」をキーワードにした同プロジェクトの取り組みが世界に発信される瞬間だ。次年度から始まる同プロジェクト第3次戦略計画では、世界レベルのファルマ製品を国内外に売り込むことを大きな目標に掲げている。11月の「風は東から」は、1円でも多く売り上げるための戦略を関係者に聞いた。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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医療系目利きが売り込み指南 ファルマ参入で売り上げアップを
難しい中小企業の市場調査
 ファルマバレープロジェクト(ファルマ)は発足以来一貫して、地元ものづくり企業の高い技術力を生かした医療機器開発に取り組んできた。
 静岡がんセンター、同研究所や国立遺伝学研究所、静岡県と事業連携に関する協定を締結する東京工業大、東京農工大、早稲田大、そして地元企業などが医療現場のニーズに応える製品を次々と生み出した。本年度までに、陽子線治療に伴う直腸へのダメージを軽減する「直腸脱気チューブ」など34件が製品化され、特許出願数は77件を数える。
 これらファルマバレーから開発された製品群は、患者や医療従事者から高く評価されてはいるが、個々の企業努力だけでは販路が見いだせないのが現状だ。
 ネジ製造の東海部品工業は、医療機器分野に新規参入し、緊急時や災害時の人工呼吸器や整形外科用インプラント(プレートやネジ)を製造している。同社の盛田延之社長は「100億円市場といわれているが、今までとは異なる市場のため売り込み先がわからない」と苦労を語る。
 こうした声を受け、ファルマバレーセンター(PVC)は、今夏から中小企業が作る医療機器や部品などの販売支援に乗り出した。
 高砂香料工業OBの白井文晴科学技術コーディネーターを中心に、野村総研、中外製薬のアメリカ現地法人、さらに化学分析機の世界最大手、アジレント・テクノロジー社のOBらが集結、国内外に強力な販売ルートがあり、製品の“目利き”もできるコーディネーター兼アドバイザーチームを結成。中小企業が作る医療機器や部品、技術力を調査し、国内外の大手企業に売り込む。また、日本の薬事法や、海外での規制についても情報収集やアドバイスを行っている。
東部の中小企業が生み出した製品が国内外の医療現場で活躍するーファルマ第3次戦略計画では中小企業の販売支援に力を入れる(写真はイメージです)
■東部の中小企業が生み出した製品が国内外の医療現場で活躍するーファルマ第3次戦略計画では中小企業の販売支援に力を入れる(写真はイメージです)



専門家導入で販路開拓に期待
  「医療健康産業のクラスター形成には、販路拡大が欠かせない」と語る山口総長
  ■「医療健康産業のクラスター形成には、販路拡大が欠かせない」と語る山口総長
 今まで培ったファルマのネットワークもフル活用する。静岡がんセンターの山口建総長をはじめ、製薬業界に詳しいPVCの井上謙吾所長、医療にとどまらず地元ものづくり企業に精通している植田勝智副所長ら、ネットワークが及ぶ範囲は広い。
 台頭著しい中国の医療業界にも、日中医学協会の理事長を務める同センターの安達勇医師を通じた太いパイプがある。こうした従来のネットワークにアドバイザーチームが加わることで、大企業の部品調達部門との橋渡しや、中小企業の製品・技術のPRを積極的に進めていく。
 まもなく、PVCが製品の紹介サイトを立ち上げる。メーンは、インフルエンザ診断薬(タウンズ)、骨腫瘍検査キット(ホリックス)、人口呼吸器(東海部品工業)などだ。ファルマバレーで開発された製品だけでなく、目利き集団のお眼鏡にかなった医療系製品はすべて掲載する。掲載企業を200社ほどに増やすことが目標だ。
 地域の産業クラスター形成に詳しい調査機関・静岡経済研究所の大石人士研究部長は「こうした市場に詳しい専門家の導入やサイトの立ち上げは、販路開拓に欠かせない。また、これらを広くPRすることで、参画する企業が増えることを期待したい」と語る。



県東部で医療用部品の国際見本市を
 もちろん、これらの販売戦略がうまく稼働するまでには、多くの課題がある。特に、海外に販路を求めた場合、言葉の問題、国によって異なる商習慣・法律、海外市場の調査など、中小企業が支援を必要とする場面は多い。
 植田副所長は「海外の市場調査などは、国の中小企業向け助成金やジェトロの現地事務所などが活用できるだろう。将来的には、4カ国語で対応できるコールセンターや貿易実務代行を含め、医療機器に特化した支援サービスを提供したい」と語る。
 ファルマ第3次戦略計画の期間は10年。その間に、売り込み支援の対象を県東部のみならず全国の中小医療機器メーカーに広げ、「国内外の大手医療機器メーカーが部品や部材を探すときに必ず立ち寄るサイトにしたい」と山口総長。近い将来、キラメッセぬまづで医療用部品の国際見本市が開ければ、という。
 ものづくりから販売まで、医療機器分野のトータルサービスが受けられる環境が整いつつある。PVCでは現在、医療系ものづくり企業の情報を求めている。



  医療機器分野への参入を推進―PVCの「ビジネスマッチング促進事業」 
  訪問した企業の検討をする大竹コーディネータ(左)と武藤麗ビジネスマッチング支援員
  ■訪問した企業の検討をする大竹コーディネータ(左)と武藤麗ビジネスマッチング支援員

 販路開拓の一方で、それを下支えする医療系ものづくり企業を増やす取り組みも進む。
 PVCはこれまでに、企業の技術力や経営ノウハウを向上させるMOT講座や医療機器製造のためのセミナーなどを通じて、専門的人材の育成や経営者の意識改革を図ってきた。
 また、医師・看護師のアイデアを医療機器開発に結びつける「開発テーマ実現化事業」をはじめ、大手医療機器メーカーへの部品・部材の供給を主眼に置いた「富士山ろく医療機器産業フォーラム」などで、地元企業の医療機器分野への参入を促している。
 本年度はマッチングを進める上で最も必要な企業のデータベース化に力を入れている。技術の専門家が企業訪問し、技術力を調査する。
 PVCの大竹輝徳産業化コーディネータは「車や家電業界で鍛えられてきた県内中小企業の技術力は非常に高い。法的なものをクリアすれば、医療機器分野への参入は難しくない」と評価する。
 調査の対象は医療機器の部品・部材に関係する機械、電気、電子、プラスチックなどの業種が中心となるが、中にはユニホームを製造する山本被服(清水町)のように、手術後に患者が身につける病衣(パジャマ)の改良を看護師とともに行っている企業もある。「機械関係だけでなく、木型成型なども技術的におもしろい」(大竹コーディネータ)。
 今年度に入って調査した企業は約100件。企業データは冊子にまとめ、各種のマッチング事業で活用していく。
 地元企業が活躍する医療機器分野の範囲はまだまだ広がりそうだ。



日本の医療現場からものづくりを育てたい
  東海部品工業 盛田延之社長
  ■東海部品工業 盛田延之社長

 ファルマで進めているベッドサイドクラスター発の製品は、使いやすく高品質だ。薬事法があるので時間はかかるが、不便なところは改良しながら進めることができる環境も整っている。
 品質、環境に加え、医療機器における品質マネジメントの国際規格を取ったことで、海外からも注文が来るようになった。しかし、医療機器分野に参入した結果が経営的にプラスになっているかというと、道半ばだ。自分たちの足元(技術)を確認しながら、ファルマで実績を重ねていくことが世界への近道だと思う。
 そのためには、日本の医療業界の意識改革も必要。日本人は海外コンプレックスからか、外国製品を高く評価する傾向がある。日本の医療現場も同じで、医療機器の85%が海外製と聞く。日本のものづくり技術は世界一の水準にあり、国内で作った医療機器が外国製に劣ることは決してない。
 まずはファルマから医療従事者の意識を変え、率先して国内製品を使ってもらうことで、日本にもこんないいものがあるということを認めてもらいたい。
 みこしは一人では担げない。県や国が担いで、皆の力添えがあって初めて上がるものだ。情熱をもち、医療現場から日本のものづくりを育てていきたい。


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ファルマバレーセンターは、地元企業の医療機器、部品などの開発から販売までを無料でお手伝いいたします (ただし、専門家による技術評価を受けていただきます)。
詳しくはファルマバレーセンター(電055(980)6333)へ




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