サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 観光立国を標榜する日本。国の成長戦略でも福祉と並び観光は力を入れている産業分野だ。観光は内需だけでなく外需も取り込め、さまざまな分野への波及効果が期待できる。疲弊した地方を立て直す「切り札」とも言われている。全国各地が観光振興に取り組む中、「ニューツーリズム」と呼ばれる新しい旅行の形が現れている。1月の「風は東から」は「ニューツーリズム」にスポットを当て、県東部におけるその現状と振興上の課題を考える。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10

バックナンバー


地域づくりからひもとく観光 プラットフォームの構築急務
ニューツーリズムの台頭
  県東部・伊豆にはさまざまな体験型観光メニューがそろっている
  ■県東部・伊豆にはさまざまな体験型観光メニューがそろっている
 今、昔ながらの団体旅行は影をひそめ、小グループや家族単位での旅行が主流となった。県が3年に1度行う旅行実態調査を見ると、伊豆は約9割が個人旅行客だ。インターネットの普及がこうした個人旅行を後押しする。切符の手配から宿泊までウェブサイトから直接予約できる環境が整っている。
 旅先での過ごし方も温泉につかり、景色を楽しむだけのものから、その土地でしか味わえないさまざまな魅力を体験するものに変わってきている。
 こうした旅行形態の変化は、ニューツーリズムと呼ばれる新しい観光の形を生み出した。
 ニューツーリズムは、体験型、着地型などといわれる旅行形態。グリーンツーリズムやエコツーリズムなどがその代表だが、最近はスポーツや歴史・文化を楽しむもの、ウオーキングなどを取り入れたヘルスツーリズム、普段は入れない工場を見学する産業観光など、幅広い。
 これらは今まで「観光資源」とみなされてこなかったものを掘り起こし、磨き上げて旅行商品にしているのが特徴。観光地だけでなく、どんな地域でも取り組め、今まで観光に関係がなかった分野の人々とも連携できるので、地域おこしの手法として注目を浴びている。
 例えば、田子の浦港のシラス漁は、一艘(そう)引きと呼ばれる特別な漁法で捕ったおいしい生シラスを上手にプロモートした結果、大勢の観光客が押しかけた。西伊豆では漁協と共同で伝統的な船こぎといけすでの餌やりをセットにし、親子連れに人気のツアーになった。いまやB級グルメの代名詞となった「富士宮やきそば」も東京からバスツアーが出るほどになっている。県観光局の池谷廣観光政策課長は「国内旅行市場が冷え込む中、工場萌えツアーや、鉄ちゃん・鉄女(鉄道マニア)、歴女(歴史好き女子)、山ガール(ファッショナブルに山歩きを楽しむ女性)などテーマ性をもったツーリズムはまだまだ人を動かす力がある」とニューツーリズムに期待を寄せる。


課題は販路開拓と人づくり
図  観光プラットフォームイメージ(観光庁ホームページより)
「観光地域づくりプラットフォーム」がワンストップ窓口となって、情報発信・商品販売を行う  
■図 観光プラットフォームイメージ(観光庁ホームページより)
「観光地域づくりプラットフォーム」がワンストップ窓口となって、情報発信・商品販売を行う
 
 一方で、ニューツーリズムには必ず語り部やインストラクターなど、地域の中で先導役を果たす人材が必要となる。また、テーマ性が強く、万人にうけるとは限らない。1回の催行人員にも限界があるため、効率性・収益性は高くない。そのため、旅行会社が扱いにくく、販路開拓が難しい。
 県観光局はこうした課題の解決策として数年前から、「体験型観光商品化企画研修」や商品化の補助事業などを行っている。つくった商品の効果的な情報発信方法を学ぶ「広報PR研修」も開催。マスコミに取り上げられやすいニュースリリースの書き方などのノウハウを伝授している。
 昨年は県内の体験型観光メニューの実態調査も行った。同調査では、体験型観光メニューを提供している255団体から、364のプログラムを入手した。農業、林業、漁業などのエコツーリズムから、スポーツ、食、文化、健康・癒やし、ロングステイなど、内容はさまざまだ。
 運営上の課題として(1)地域の連携不足(2)販路開拓(3)語り部やインストラクターなどの人材不足―が挙げられた。こうした声を受け、県は昨年末に初めて旅行会社と体験型観光メニューを提供する団体との商談会を静岡市のグランシップで開催。体験型観光メニューを提供する50団体がブースを出展、旅行社だけでなく、出展者同士の活発な交流も見られた。
 観光マネジメントに詳しい富士常葉大学非常勤講師の白井昭義さんは「ニューツーリズムを振興するには、地域に『観光プラットフォーム』を作ることが不可欠」と語る。観光プラットフォームは体験型の観光商品を提供する団体と、顧客、旅行会社をつなぐ役割を担う(上図参照)。県は今年、調査で洗い出した体験型観光メニューを一元的に情報発信するウェブサイトを立ち上げる。体験メニューが動画で見られ、情報発信だけでなく予約も受けられるような仕組みにしたい考えだ。



狩野川軸に農業、観光活性化
  カヌーで狩野川をゆったり下る。自然との一体感が魅力
  ■カヌーで狩野川をゆったり下る。自然との一体感が魅力
 観光プラットフォームづくりで先行するのがNPO法人狩野川倶楽部(高橋満春代表理事)が進める「狩野川絆プロジェクト」。総務省の補助事業で、ICT(情報通信技術)を活用し、狩野川流域の農業生産者と消費者を結び付ける「狩野川マルシェ(市場)」と、遊びの専門家・愛好者と観光客を結び付ける「狩野川コンシェルジュ(案内人)」を2本柱に、システムを構築する。
 狩野川マルシェは、流通に乗りにくい多品種で少ロットの農業生産者と、地元の旅館、飲食店、食品加工業者をインターネットで結ぶ。受発注の管理だけでなく、食材の目利きが生産者とユーザーをつなぐ役割を果たし、旬の食材に関する情報を発信し地産地消を促す。
 狩野川コンシェルジュは、狩野川流域で一部の愛好者レベルにとどまっていたサイクリングやカヌー、アユの友釣りなどを体験型観光メニューに仕立て、主に都市生活者に提供する。観光メニューをデータベース化し、リアルタイムで現地情報を発信、予約も受け付ける。
 この事業には流域の伊豆・伊豆の国市、函南町やJAも参加。今月13日の第1回全体会議には、流域で活動する釣りやカヌー、自転車の専門家や観光事業者、農業関係者ら約100人が出席した。
 「観光プラットフォームにかかわる地域の人や団体をいかに増やすかがニューツーリズムを成功させるカギ」と白井さん。それには、今まで観光に直接携わらなかった農業生産者や漁業従事者、また行政や商工会などに、「地域づくりのための観光」を理解してもらう啓発活動も欠かせない。ニューツーリズムの振興には、地域ビジョンとその確立に向けた地道な努力が必要だ。



  地元の「人」が主役の「フジパク」を開催
  「フジパクを通じて地域を元気にしたい」と語る山崎さん
  ■「フジパクを通じて地域を元気にしたい」と語る山崎さん
 富士山博覧会「フジパク」は富士市吉原を中心に、富士宮市、沼津市の一部で展開する短期集中型のまち歩きイベントだ。商店街や町並みを見せ方・使い方によって観光資源に変えていく「オンパク」(温泉泊覧会)の手法を使い、地元の人が地元を紹介するプログラムを短期集中で行う。
 フジパク実行委員長の山崎裕敏さんは富士市中里で酒店を営む。まちづくりをする中で一昨年6月にオンパクを知った。「オンパクに出合い、地域を元気にしたいという思いが徐々に形になっていった」と振り返る。
 9月から毎月1回、まち歩きを始めたところ、参加者の評判は上々。それ以上に「案内役を買って出た人が自分の土地に自信と誇りを持った」と語る。案内役は富士市内に57カ所ある「まちの駅」ネットワークのメンバーを中心に選定している。まちの駅とは、商店街の店主が自分の得意なことや地元の情報などを発信する機能を担うまちづくりの手法の1つで、全国的に広がっている。
フジパクパンフレット  
■フジパクパンフレット  
 今年2月には規模を拡大し、26のプログラムからなる「フジパク」を開催する。江戸時代から400年続く吉原宿の探索ツアーや、岳南鉄道の舞台裏を案内するツアー、酒蔵見学と酒の仕込み水でつくる手打ちそば体験ツアーなど、盛りだくさんの内容だ。
 「やれるところからやっている。『ちょっとお願い』と気軽に頼んで、だめなら次に声をかける。言い方は悪いが地元の人は案外、舞台に上げれば踊ってくれる。きっかけを待っている」と山崎さん。どれだけ手数を打つか、どれだけ種をまけるかが続けていくポイント、という。

富士山博覧会「フジパク」

■期間/2月11日(金)〜27日(日)
■場所/富士、富士宮、沼津市内
■問い合わせ・予約/フジパク実行委員会 電0545(34)4425
■インターネット予約/http://fujipaku.info/

  普段見られない岳南鉄道の裏側を案内するプログラムも
  ■普段見られない岳南鉄道の裏側を案内するプログラムも



■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.