サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 富士山麓(ろく)にはさまざまな食の魅力がある。中でもB級グルメとして注目されているのが、富士つけナポリタン、富士宮やきそば、そして昨年のB-1グランプリで優勝した甲府鳥もつ煮だ。2月の「風は東から」は、1月24日の富士地区分科会でのパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに、みなさまの縁をとりもつ隊の土橋克己代表、富士つけナポリタン大志館の小川和孝特命全権大志、富士宮やきそば学会の渡辺孝秀運営専務、新潟大学法学部の田村秀(しげる)教授を迎え、環富士山で食の魅力をつなげた地域おこしの可能性を探った。コーディネーターはサンフロント21懇話会シンクタンクTESSの大石人士研究員(静岡経済研究所研究部長)。

富士地区分科会パネルディスカッション
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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地元の食文化でまちおこし 県境を超えた連携を模索
大石人士 研究部長 静岡経済研究所
コーディネーター
■大石人士 研究部長
静岡経済研究所

1979年静岡銀行入行。82年静岡経済研究所出向、2005年研究部長。地域ビジョンの策定、総合計画審議会委員、自治体職員の地域課題研究講座講師などを務める。サンフロント21懇話会シンクタンクTESS研究員。

渡辺孝秀 運営専務 富士宮やきそば学会
パネリスト
■渡辺孝秀 運営専務
富士宮やきそば学会

1952年富士宮市生まれ。明治大学卒、77年富士宮市役所入り、現在は総合調整室長兼フードバレー推進室長。2000年中心市街地活性化基本計画の策定を担当、市民まちづくりワークショップを始め、同年「富士宮やきそば学会」を結成。
地域への熱い思いが原動力
 大石 まず、それぞれのB級グルメの特徴や活動を聞かせてください。

 土橋 甲府鳥もつ煮は昭和25年ごろ、そば屋で生まれました。鳥の砂肝、ハツ、レバー、きんかん(生まれる前の卵)を甘辛く煮て、4種類の食感のハーモニーを楽しんでもらう料理です。
 私は今37歳です。子どものころの中心街は非常に活気に満ちていました。ところが大学生活を終えて地元に帰ってみるとさびれてしまって元気がない。甲府市の職員として何ができるかを同僚と飲みながら考えました。その結果、市民活動をしよう、と始めたのが2年前「とりもつ会」という活動です。
 平均年齢33歳、10人で始めた活動ですが、「無理」という言葉をなくし、意見の出やすい環境をつくりながら進めた結果、2年7カ月でB-1に出場できました。「思い」があれば伝わる、かなうと思いました。
 B-1で優勝し、甲府に人がたくさん来るようになった今は、市にチラシ、ポスターなどを支援してもらっています。私も観光開発課という部署に配属されました。動き出せば組織も柔軟に支援してくれると思います。

 小川 つけナポリタンは発掘型ではなく、開発型の商品です。ルールは2つ。つけめんスタイルであることと、トマトスープをベースにもう1つのスープを加えるダブルスープであること。みなさんそれぞれソースにもめんにも工夫を凝らしています。
 開発のきっかけは、2008年9月の東京の某テレビ番組です。富士宮やきそばに負けないものを作りたい、と思っていたときにたまたまテレビ局からお話があり、吉原商店街とのコラボレーションで生まれました。オンエア後の週末には関東一円からアドニスという元祖の店にお客さまが押し寄せました。
 活動が広がるにつれ、商店街の中だけではお店も足りないし、少ない。もう少し活動範囲の広いまちづくり組織「タウンマネジメント吉原」に活動母体を移管しました。

 渡辺 昨年、やきそば学会の活動は10周年を迎え、10年間の活動の経済波及効果を439億円と見積もっています。このうち行政からの予算はゼロです。観光客は年間60万人、はとバスのやきそばツアーが毎日やって来ます。
 富士宮やきそばという言葉は10年前は存在していませんでした。当時、国を挙げて中心市街地の活性化が叫ばれていて、富士宮市も商工会議所と一緒になって町の再生をどう図るかを議論しました。その中で市民60人によるまちおこしのワークショップを開催しました。メンバーの1人が会長の渡辺英彦で、市の担当が私でした。
 2年かかっても富士宮やきそばという言葉は出てきませんでした。そしてタウンウオッチングをしたときに、町なかに鉄板がある駄菓子屋が多いよね、お好み焼きがおいしいね、焼きそばが特徴では?―と誰もがうんちくを語り始めました。これだけ話せるならまちおこしができるだろう、全国に発信できるだろうと急きょ「やきそば」を立ち上げたところ、NHKがそれを取り上げてくれました。民放各社も連日取材してくれ、あっという間に「やきそば王国」になりました。
 短期間で地域ブランドとして認知されたのは、ワークショップのころから事あるごとに地元紙が取り上げてくれたことが大きいと思います。

 大石 ご当地グルメの素材選び、スタートのポイントは何でしょう。

 田村 どんな素材が良くて、何が悪いかはありません。昔からのものでも、新しいものでもいい。3人の話に共通するのは、立ち上がりの勢いの良さ。また、素材以上にかかわる人の地域に対する思いの強さがあります。メニューの良しあしより、むしろそれぞれの活動を参考にしてもらいたいですね。


自分の街が誇りに変わる
土橋克己 代表 みなさまの縁をとりもつ隊
パネリスト
■土橋克己 代表 
みなさまの縁をとりもつ隊

1973年甲府市生まれ。中央大学卒、96年甲府市役所入り、環境部、税務部、福祉部などに勤務。2008年みなさまの縁をとりもつ隊結成、10年9月のB級グルメの祭典「B-1グランプリ」で優勝した「甲府鳥もつ煮」の代表を務める。

田村秀 教授 新潟大学法学部
パネリスト
■田村秀 教授
新潟大学法学部

1962年東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、国際基督教大学博士(学術)。86年旧自治省入り。自治大学校教授などを経て、2007年新潟大学法学部教授。専門は行政学、地方自治、公共政策、食によるまちづくりなど。
 大石 そもそもパネリストの皆さんは実際に料理を提供している方ではありません。活動をする中での苦労話をうかがいます。

 小川 意識して活動している点が3つあります。
 まず、アドニスで定期的に講習会を開き、参加店舗を増やしています。次に、食べ歩きが面倒という方に1カ所で食べられる「つけナポリタン祭り」を開催し、市民への浸透を図っています。
 3つ目は、目に、耳に訴えながら覚えていただいています。宣伝用のラッピングカーをはじめ、トートバッグ、Tシャツ、携帯ストラップなどのオリジナルグッズや、ゆるキャラブームに乗り「ナポリん」というキャラクターの着ぐるみをつくりました。公式応援ソングもあります。
 具体的な経済効果は分かりませんが、週末になると100食出る店があります。商店街の駐車場に県外ナンバーが目につくようになりました。最初は東京で作っていたオリジナルめんも今は地元で作っています。一番うれしいのは、まちづくりに対する住民の機運が高まり、オリジナルの時計を作ろうとか、おまんじゅうを作ろうとかいう声が出始めたことですね。

 渡辺 いろいろな地域の方たちが視察に来ますが、単に名物を作りたいのか、地域おこしのツールにしたいのかで結果は変わってくると思います。富士宮市は街中の再生という大テーマで多くの市民が集まりました。行政、市民が一体で宝探しをして、そのツールとしてやきそばを発見し、それに「富士宮やきそば」という名前をつけました。
 また、情報発信は重要です。いかにやきそばに付加価値をつけるか、ここは時間をかけ議論しました。
 市民が得意分野を発揮して役割分担したのも大きいと思います。ホームページは得意な人が作ってくれた。北海道でイベントがあると主婦の方が行ってくれた。役割を考え、足りないところは手助けしてくれる人を連れて来て、その1つ1つに小さくても話題性を持たせて、毎日のように発信する。手を替え品を替え、地域ブランドができてきました。

 大石 鳥もつ煮は短期間でグランプリに選ばれました。なぜでしょう。また、それによって町はどう変わりましたか。

 土橋 日本一の団体が集まっているので、新規顧客の開発はやめ、おもてなし班を作り、私たちのところに並んだ方を大切にしよう、としました。
 「縁を取り持つ」から鳥居をつくり、暑い時期でしたのでドライアイスをまき、巫女(みこ)さんがうちわやおしぼりを配りました。待っているお客さんは携帯電話を見ていますので、QRコードにおみくじを仕込みました。お子さんにはくじ。当たりが出たらノベルティーグッズを配りました。奇抜な格好でマイクパフォーマンスをして、目で見て、耳で聞いて楽しめる仕掛けをしました。
 グランプリを取ったことで業界では関連商品が売れました。雇用の拡大効果も表れています。宝飾品産業にも波及しました。市民の方に「よくやった」と言われるのがとてもうれしい。甲府は何もないと言っていた市民が鳥もつ煮で自信を持てるようになりました。


小川和孝 特命全権大志
 富士つけナポリタン大志館
パネリスト
■小川和孝 特命全権大志
富士つけナポリタン大志館

1951年埼玉県生まれ。日本大学農獣医学部卒、74年アパレルメーカー入社、85年衣料品販売会社を設立。2008年つけナポリタンプロジェクトを立ち上げ、10年同プロジェクトをつけナポリタン大志館に改組。

環富士山グルメルートを構築
 大石 各地が連携した環富士山グルメルートができそうですね。

 渡辺 静岡―甲府間はJRの特急が出ています。富士急バスもありますね。B級グルメの旅を旅行社で提案してもらいたい。昨年の「信長公黄葉祭り」には鳥もつ煮にも参加してもらいました。こうした話題を満載しながら地域色を出していきたいと思います。

 小川 静岡側の4市1町でつくる富士山ネットワーク会議では、ご当地グルメを生かした産業交流が話し合われていますので、そこから観光商品化なども進められるのではと思います。

 土橋 問題は首都圏から1時間半の距離なので宿泊客が少ないことです。中央道、東名がありますので、環富士山B級グルメの旅が開発できれば宿泊にもつながると思います。市民団体同士で連携ができればいいですね。

 田村 地域活性化は総力戦です。持ち場、持ち場で力を出す。行政はいかに縁の下の力持ちになるか。商工会や会議所に私は期待しています。やる気、本気、よそ者、ばか者、若者といいますが、失敗を恐れずにやることです。
 それには、地域の皆さん方が自分の土地を知らないといけません。地元にはいろいろなものがあります。ぜひ地域でさまざまな再発見をしてほしいと思います。



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