始動期からプロジェクトを中心となって牽引してきた県立静岡がんセンターの山口建総長に3次戦略のポイントを聞いた。
―4月から第3次戦略計画が始まりました。
山口 3次戦略は本当の実績を出す時期だ。医療者や患者さんに役立つ製品が開発された、医療機器や部材の売り上げが伸びた、企業が進出した、工場が建った、雇用が増えたというのがファルマの評価基準だ。3次戦略の検討委員会では「ファルマ全体で2兆円規模の産業にしたい」とのビジョンも示された。本県の医療機器・医薬品の総売上は約7500億円(H21薬事工業統計)。産業の範囲をどこまで見るかだが、不可能な数字ではないと思っている。
―すでに売り上げを伸ばし始めている企業もあります。
山口 英科学誌にプロジェクトが取り上げられた。そこに掲載された三協(富士市)はソフトカプセルとその検査機器を製造しているが、海外4社から問い合わせが来た。東海部品工業(沼津市)は自動車のマイクロネジ加工技術を生かし、頭蓋骨を留めるネジを作っている。現在はOEM(※1)だが、年間数万本を生産、海外からの引き合いもある。このネジは医療機器申請中で、まもなく自社製品として製造販売ができるだろう。
―これほど中小企業への手厚い支援を行っているのは全国でも珍しいですね。
山口 ほかのクラスターが大手を中心とする中、ファルマは地域企業も重要なパートナーと考えている。静岡県には、技術力の高い医療系企業とともに、将来、医療機器産業に参入できるポテンシャルを持った企業が多数存在する。これらの企業が活躍する場を作れれば、医療健康産業クラスターの構築が進み、地域活性化が果たせる。更なる目標は、その中から大化けする企業を育てること。将来、この地域から第2のマイクロソフトが出てくるかもしれない。
―これからの課題はなんでしょう。
山口 ファルマバレーの弱点は、現時点では浜松の光技術のような核となる基盤技術がないこと。そこで、国立遺伝学研究所や首都圏の医看工連携協定締結大学(※2)と連携し、基盤技術の導入に努めている。たとえば、慶応大理工学部には医者が実際に触っているかのような感覚で手術が行える医療ロボット技術がある。また、新しい光ファイバー技術や液晶ディスプレー技術も紹介された。こうした基盤技術を、地域企業が活用することによって、付加価値の高い応用技術が生まれてくるのではないかと期待している。
※1 発注元のブランドで販売される製品を製造すること
※2 東工大、東京農工大、早稲田大、慶応大を指す |