サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 10年が経過した静岡県のファルマバレープロジェクト。「健康増進・疾病克服」と「県民の経済基盤の確立」を目的に、県東部に医療健康産業のクラスターを形成する。4月から第3次戦略計画が始まった。7月の「風は東から」は、プロジェクトを進める4つの戦略やクラスター形成をいかに図るかを関係者に聞いた。
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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中小企業支援し地域経済力向上 販路拡大でクラスター形成を後押し
井伊寛隆 三島青年会議所理事長
■篠原清志
静岡県経済産業部理事

「特区申請や国内外市場の拡大など、クラスター形成のための支援策を考えている」と語る篠原理事

3次戦略は自律的発展期

 静岡がんセンターや創薬探索センターなどの基盤整備に力を入れた第1次戦略計画、地域企業の参入促進を目指した第2次戦略計画が終わり、ファルマバレープロジェクトは本年度、新しいステージに入った。
 この10年で全国的にも指折りの産業クラスターに成長。文部科学省の「都市エリア産学官連携促進事業(※1)」では、採択された全国5つのエリアの中でもっとも高い評価を受けた。
 国の機関を中心に、都道府県の医療健康、商工関係部局や経済団体などからの視察も多く、プロジェクト初期から力を入れてきた「医療現場のニーズを中小企業の高い技術力で製品化する仕組み」は、経済産業省の「課題解決型医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携支援事業」のモデルとなっている。
 また、沼津市や三島市、長泉町では、医療系大学や医療系企業の誘致にも成功した。
 第3次戦略計画(2011〜20)は1次、2次の計画を踏まえ▽ベッドサイドのニーズに応えるものづくり▽医療と産業を担うひとづくり▽健康サービスが充実し高次都市機能が集積したまちづくり▽世界展開の推進の4つを柱に、医療健康産業クラスターの形成をより一層進める。
 県の篠原清志経済産業部理事は「これからの10年を『自律的発展期』と位置付けた。県がプロジェクトを先導した時期は終わり、プロジェクトの理念である『ファルマバレー宣言』を共有した企業や個人が自ら考え実践してもらう段階に入った。単に利益を追求するのではなく、患者・家族の支援、誰かのためにできることをやってもらい、それを行政が応援する」と語る。

※1 地域の個性を発揮し、大学などと連携して新産業を生み出す研究開発型事業

世界展開 国際モダンホスピタルショウに出展
 


クラスター形成のための環境整備
ひとづくり MOTセミナー
 クラスター形成を加速するには、中小企業が医療健康産業に参入しやすい環境が必要だ。プロジェクトのコーディネート役・ファルマバレーセンター(PVC)は、ものづくりから、医療機器等の認証や承認取得、営業・販売までを一貫してサポートする体制を整えた。
 一足飛びに医療機器製造分野への参入が難しい中小企業には、大手医療機器メーカー向けに部品・部材を紹介する内覧会を開催。見積依頼や試作依頼に結び付けている。
 また、診断薬から看護現場での簡単な道具まで、ファルマから生まれた製品は幅広い。医者が使うものは医療機器商社の営業担当、看護師がよく使うものはカタログ販売など、PVCが商社と相談しながらその1つひとつに合った販路のアドバイスを行う。さらに、技術の目利きができるコーディネーターや、大手企業での営業経験や人的ネットワークを持つアドバイザーを5人そろえ、国内外で販路拡大を目指す。「地元中小企業の売り上げを1円でも多くするのが使命」とPVCの植田勝智副所長はいう。
 一昨年から沼津高専(東海大学開発工学部協力)が医療機器開発ができる人材を育成する「富士山麓医用機器エンジニア養成プログラム(文部科学省補助事業)」を始めている。また、PVCによる企業の技術力や経営ノウハウを向上させるMOTセミナーは延べ105人が受講。実際に医療健康分野の事業に取り組んだ企業は11社を数える。
 県はこの秋にも薬や医療機器の許認可にかかる時間の短縮を、「特区」という形で国に要望する。日本の場合、海外に比べて認可が下りるまでに多くの時間と費用がかかり、医療産業の成長を阻害する一因となっている。「そこを切り崩したい」と篠原理事。人体への影響が比較的少ないクラスの医療機器については、国に代わって認証するフジファルマが県内に誕生。時間が大幅に短縮された。
 また、医療機器製造販売の許可を取得するには、品質や安全管理の責任者を置く必要がある。現在は申請時に雇用していることが条件だが、人材の確保がままならない中小企業にとっては大きな負担。許認可が下り、製造販売が始まるまでに配置するなど要件の緩和もあわせて要望する。
 地元中小企業の医療機器分野参入を強力に支援し、産業クラスターの形成を目指す第3次戦略計画。複雑な医療分野への参入を、産学官が知恵を出し合い乗り越えようとしている。


「ファルマから第2のマイクロソフト を」
県立静岡がんセンター 山口 建 総長
県立静岡がんセンター 山口 建 総長始動期からプロジェクトを中心となって牽引してきた県立静岡がんセンターの山口建総長に3次戦略のポイントを聞いた。

―4月から第3次戦略計画が始まりました。
山口 3次戦略は本当の実績を出す時期だ。医療者や患者さんに役立つ製品が開発された、医療機器や部材の売り上げが伸びた、企業が進出した、工場が建った、雇用が増えたというのがファルマの評価基準だ。3次戦略の検討委員会では「ファルマ全体で2兆円規模の産業にしたい」とのビジョンも示された。本県の医療機器・医薬品の総売上は約7500億円(H21薬事工業統計)。産業の範囲をどこまで見るかだが、不可能な数字ではないと思っている。
―すでに売り上げを伸ばし始めている企業もあります。
山口 英科学誌にプロジェクトが取り上げられた。そこに掲載された三協(富士市)はソフトカプセルとその検査機器を製造しているが、海外4社から問い合わせが来た。東海部品工業(沼津市)は自動車のマイクロネジ加工技術を生かし、頭蓋骨を留めるネジを作っている。現在はOEM(※1)だが、年間数万本を生産、海外からの引き合いもある。このネジは医療機器申請中で、まもなく自社製品として製造販売ができるだろう。
―これほど中小企業への手厚い支援を行っているのは全国でも珍しいですね。
山口 ほかのクラスターが大手を中心とする中、ファルマは地域企業も重要なパートナーと考えている。静岡県には、技術力の高い医療系企業とともに、将来、医療機器産業に参入できるポテンシャルを持った企業が多数存在する。これらの企業が活躍する場を作れれば、医療健康産業クラスターの構築が進み、地域活性化が果たせる。更なる目標は、その中から大化けする企業を育てること。将来、この地域から第2のマイクロソフトが出てくるかもしれない。
―これからの課題はなんでしょう。
山口 ファルマバレーの弱点は、現時点では浜松の光技術のような核となる基盤技術がないこと。そこで、国立遺伝学研究所や首都圏の医看工連携協定締結大学(※2)と連携し、基盤技術の導入に努めている。たとえば、慶応大理工学部には医者が実際に触っているかのような感覚で手術が行える医療ロボット技術がある。また、新しい光ファイバー技術や液晶ディスプレー技術も紹介された。こうした基盤技術を、地域企業が活用することによって、付加価値の高い応用技術が生まれてくるのではないかと期待している。

※1 発注元のブランドで販売される製品を製造すること
※2 東工大、東京農工大、早稲田大、慶応大を指す



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