サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 動物愛護に関する研究・普及を進める公益財団法人「動物臨床医学研究所」(本部鳥取県、理事長・山根義久日本獣医師会長)が、伊豆の国市内に動物の保護や関連する教育、福祉の拠点施設「動物の愛護と福祉のセンター」(仮称)設置を計画している。候補地は同市内のスポーツワールド跡地で、2013年の開設を目指す。サンフロント21懇話会は、6月に同センターの計画推進を県に提言した。
 8月の「風は東から」は先月20日の懇話会伊豆地区分科会パネル討論を取り上げる。パネリストに山根理事長、全日空の大川澄人常勤監査役、県の出野勉文化・観光部長を迎え、同計画の概要や地域にもたらす効果について討論した。コーディネーターは企業経営研究所の中山勝常務理事(懇話会シンクタンクTESS研究員)。
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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動物との共生 伊豆から発信 新たな価値観で地域を活性化
山根義久 動物臨床医学研究所理事長
■パネリスト 山根義久
動物臨床医学研究所理事長

1970-94年山根動物病院院長。94年から東京農工大教授(2009年に退官、現在同大名誉教授)。96年動物臨床医学研究所理事長、05年日本獣医師会会長就任

大川澄人 全日空常勤監査役
■パネリスト 大川澄人
全日空常勤監査役

1969年日本開発銀行入行。その後、日本政策投資銀行総務部長、理事、副総裁を経て06年顧問。07年日本経済研究所理事長。11年より現職。ファルマバレー応援団代表を務める
新しい地域の“核”づくり

 中山 「動物の愛護と福祉のセンター」(仮称)の計画が伊豆の国市で持ち上がっています。施設の概要を教えてください。
 山根 日本では年間約30万頭もの犬が殺処分されています。一方、ドイツでは動物保護の観点から、犬の頭数は厳格に管理され、殺処分ゼロを実現しています。
 この施設は人間と動物の共生と「殺処分ゼロ」の社会の実現を目的に、飼えなくなった犬や猫を保護し、動物愛護団体などと連携して啓発や普及活動、獣医師や看護師の教育などを行うものです。
 伊豆の国市は日本の中心で、気候も良く、新幹線や高速道路など交通の便もいい。以前から関心のあったファルマバレープロジェクトをきっかけに、ここでの計画が持ち上がりました。
 中山 企業や大学誘致とは違った地域の新しい核づくりといえますね。交流人口の拡大も期待できます。
 出野 伊豆の基幹産業である観光業を取り巻く環境は大きく変わってきています。団体客が減り、個人客が主となりました。団体客を囲い込み、旅館やホテルだけが潤った時代から、地域全体がおもてなしの心でお客さんを受け入れる、そういう時代になっています。
 宿泊客数も1991年の1900万人をピークに、2009年には1000万人にまで落ち込みました。ここ数年1200万人で推移していましたが、震災直後、伊豆で30万人分のキャンセルが出たのは記憶に新しいところです。
 県は国際会議やイベント、展示会など、コンベンションによる交流人口の拡大を目指しています。新東名、東駿河湾環状道路などの建設が進み、富士山静岡空港も開港しました。JR沼津駅北には中西部に負けない大型のコンベンションセンターが整備されます。こうしたインフラ整備は伊豆にとって追い風です。あとはいかに地域の皆さんが汗をかくかにかかっています。
 大川 日本はどこも人口減少、高齢化の中でもがき苦しんでいます。原発事故や東日本大震災の影響で日本人の精神面にも大きな変化が生じました。
 今回の震災の影響は一時的だと思いますが、そうでない場合もあります。阪神・淡路大震災のあと、北陸や鳥取県で観光客が減りました。関西方面に人気のエリアだったからという調査結果でしたが、5年、10年経っても客足が戻りませんでした。きっかけは震災ですが、その後の社会構造の変化に追い付かず、淘汰されたと考えられます。
 加えて、公共団体、国の財政ひっ迫も大きな影を落としています。社会構造が変わり、財源が減る中でまちづくりをどうするかが問題になっています。

 


ファルマバレーとの連携視野に
 中山 このセンターは動物のがん治療の研究にも協力できそうですね。ファルマバレープロジェクトと連携した研究の可能性はいかがでしょう。
 山根 遺伝子治療や免疫療法の分野で動物のがん研究は非常に進んでいます。
 われわれが行っているのは、マウスなどに人工的にがんを発生させる従来型の動物実験ではありません。人間と同様、自然発症した犬や猫のがんを治療する中で先端医療の研究をしています。
 また、人は5年生存率で考えますが、犬は1年で結果が出ますので臨床研究も早く進みます。こうしたデータは人間の研究にも活用できると考えています。
 出野 新薬の開発には、ばく大な費用と時間がかかります。動物の臨床研究が活用できれば時間短縮にもつながるでしょう。
 また、高度な研究には世界中から人が集まります。関連するコンベンションも数多く開かれますし、今回の計画は教育や啓蒙活動をすると聞いています。参加者は会議だけでなく、地域を観光していきますので地域経済にも貢献します。
 ファルマバレープロジェクトのポイントである「患者・家族のために」、「地域のために」に合致する事業ではないでしょうか。
 山根 このセンターでは、全国に数多く存在する動物愛護団体のネットワークづくりも視野に入れています。レベルの平準化と横のつながりをつくることができれば、全国から大勢、動物好きの方が集まるようになりますね。
 大川 ファルマバレーは数ある地域クラスターの中でも成功例に挙げられます。キーパーソンのリーダーシップ、地域ビジョンの共有、地域資源の活用など、成功する要素を持っているからです。
 今回の計画をファルマバレーに位置付けることは可能でしょう。今は静岡がんセンター中心のイメージが強いですが、これにより産業に幅が出ますし、対象地域も広がり、まさに「バレー」が実感できるのではないでしょうか。
パネリスト 出野 勉
■パネリスト 出野 勉 県文化・観光部長
1975年静岡県入庁。2004年企画部知事公室長、06年健康福祉部参事、07年厚生部理事、08年産業部観光局長を経て、10年4月から現職


地元の積極的関与で相乗効果を
コーディネーター 中山 勝
企業経営研究所常務理事
■コーディネーター 中山 勝
企業経営研究所常務理事

スルガ銀行入行後、財団法人企業経営研究所出向。研究員、部長を経て2008年常務理事。サンフロント21懇話会TESS研究員

 中山 こうした計画の成功のカギは何でしょうか。
 大川 このような計画は財源の調達が難しいと思います。たとえば、ふるさと納税をこの計画に使えないでしょうか。震災のあと、東北地方へのふるさと納税は増えています。日本人の意識が変わってきていますので、そういう形の地域貢献もあると思います。
 もう1点、この計画を伊豆の国市だけでなく幅広いエリアでとらえていただければと思います。伊豆の場合、富士山を意識した地域づくりを考えておられるのでしょうか。ぜひ、計画の推進と同時に富士山がきれいに見えるまちづくりを進めてください。
 出野 財源的には国も県も市も厳しい中で、この計画を地域がどう受け止めるかが重要です。単に施設ができ、人が集まるだけでは成功しない。集まった人たちを地域の交流人口拡大につなげる仕掛けがないとだめだと思いますし、単独でなく複数の仕掛けをしていくことが重要です。
 現在、県は富士山の世界文化遺産登録に向け、全力を挙げています。韮山反射炉も同じく登録を目指す「九州・山口の近代化産業遺産群」の構成資産候補に追加されることが決まりました。こうした地域資源を磨き上げ、外から来る人にとって魅力あるものに育てていくことが大切ですね。
 山根 新しい分野ですから、事業展開はいろいろ考えられます。たとえば子供たちの感性を育てるには、お年寄りを仲介役に動物と触れ合う機会をつくるといい。このセンターができれば清潔な環境で安全に動物と触れ合うことができます。
 命あるものを扱いますから難しい反面、面白い活動ができると思います。成功する、しないは現段階ではわかりませんが、動物と人間が共生できる、成熟した社会を築く活動をここから発信したいと思います。



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