サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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  ファルマバレープロジェクト第3次戦略計画が始まって約半年。難しいと言われる中小ものづくり企業の医療健康産業への進出支援を強力に推し進める中、徐々に成果が表れ始めた。11月の「風は東から」は、ファルマバレーセンター(PVC、長泉町)の活動を中心に、同プロジェクトが目指す「医療城下町」の実現に向けた取り組みを紹介する。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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“医療城下町”目指すファルマバレー サプライヤー育成し企業誘致につなげ
PVCの手厚い支援メニュー
  ■手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」の実演には参加者から多くの質問が飛び交った
  ■手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」の実演には参加者から多くの質問が飛び交った
 ファルマバレープロジェクト第3次戦略計画では、地域企業が医療健康産業に参入しやすい環境整備に力を入れている。中核となって推進するファルマバレーセンターは、次の二つの取り組みを進めている。
 一つ目は、新規に医療健康産業へ進出したい企業の支援。医療機器製造・販売業や製造事業所資格の取得を希望する企業のサポート、医療機器を開発できるエンジニアの養成などを行っている。
 二つ目は、国内・海外の医療機器市場での販売促進。大手医療機器メーカーを対象にした部品・部材の展示会や、市場に詳しいコーディネーターを介したビジネスマッチングなどだ。
 このほか国内外の産業クラスターとの交流、広報PRなどにも力を入れる。PVCの植田勝智副所長は「取り組みを通じ、医療機器開発・製造に携わる地元企業を増やしたい」と語る。


きめ細かな参入支援
■新規参入セミナーの会場は、ものづくり企業をはじめ、医療分野参入に関心が高い自治体職員、金融機関など約80人で埋め尽くされた  
■新規参入セミナーの会場は、ものづくり企業をはじめ、医療分野参入に関心が高い自治体職員、金融機関など約80人で埋め尽くされた  
 医療機器製造業の許可取得には、(1)機器製造に用いる工場への県の認可(2)製造する企業に必要な人的要件(3)薬事法に定められる製造機器のクラスごとの専門機関による承認―などがあり、簡単に参入できるものではない。そこで、PVCは医療機器製造業の許可取得に欠かせない薬事法についてのセミナーや個別相談会を定期的に開催している。
 10月26日に裾野市民文化センターで行われた「医療機器業界新規参入セミナー」には、樹脂成型、金属加工などの製造業を中心にこれから医療産業に参入を希望する34社が集まった。
 プリント基盤製造を手掛ける大京電子(長泉町)もその一つ。民生用(一般的な製品)と違い価格が下がらない医療用部品への本格参入を目指している。営業部の椿昌宏さんは「医療機器製造への参入は中小企業が個別に勉強できる範囲を超えている。どこに相談すればいいのかもわからなかったが、PVCに出合ったことで道筋が見えた」と語る。MOT(技術経営)セミナーや部品・部材交流会などにも積極的に参加し、準備を進める。
 情報機器関連と製造設備の試験器具製造のテクノサイエンス(沼津市)は今年の初めに医療機器製造業許可を取った。もともと顧客の要望に沿ってジャンルにとらわれない活動をしているため、医療業界にも視野を広げたいと参入を決めた。機器事業部の大草達也課長は「許可取得の過程ではPVCの担当者が親身になって相談に乗ってくれた。また、県の助成金獲得のアドバイスなども有効だった」と振り返る。


国内外で販売促進
  ■製品紹介だけでなく、活発な情報交換の場になった医療機器用部品・部材産業交流会
  ■製品紹介だけでなく、活発な情報交換の場になった医療機器用部品・部材産業交流会
 PVCは先月半ばに東京都文京区医科機器会館で県、浜松商工会議所、しずおか産業創造機構と「ふじのくに医療機器用部品・部材産業交流会」を開いた。経済産業省関東経済産業局と日本医療機器工業会(日医工)の協力で、県内企業の製品や技術を日医工会員企業に紹介したほか、医療機器の部品や部材への活用の可能性について意見交換した。
 県内からは54社が参加。その場で商談に発展したケースもあったという。東部の企業にとって今まで交流の薄かった浜松や静岡の企業との接点もでき、参加者からは「相互の技術力を生かした医療機器製品の可能性を探る良い機会となった」との声も聞かれた。12月には、日医工の植竹強副理事長らが参加した企業に個別のアドバイスも行う。
 薬事法の規制が厳しい日本で既存の医薬品製造過程に切り込むのは生半可なことではない。まして実績も知名度もない中小企業は、たとえ技術力が高くてもなかなか取り合ってもらえない。そんな中、新規ルートの開拓に糸口をつかんだ企業がある。
■「ネイチャーに載ったことが世界市場での信用につながった」と語る三協の石川社長  
■「ネイチャーに載ったことが世界市場での信用につながった」と語る三協の石川社長  
 ソフトカプセルの製造やカプセル製造装置、検査装置の設計・製造を手掛ける三協(富士市)は、ファルマのネットワークを通じて今まで門前払い同様だった大手医薬品メーカーと具体的な交渉に入る機会を得たという。
 また、同社は昨年末、世界的な総合科学誌「ネイチャー」のファルマバレー特集で紹介され、それを見たインド第2位の製薬会社や大手商社から引き合いが来た。石川俊光社長は「海外では規模の大小は関係なく、高い技術力を持った会社であれば受け入れられる。しかし、数ある企業の中から目的の会社を探すのは至難の業。ファルマバレーの情報発信はこうした中小企業にとって大変ありがたい」と“ネイチャー効果”を語る。


最先端の 医療技術を紹介
 中小企業の支援策と並んで最先端の医療技術を学ぶセミナーなども行っている。今月11日には静岡がんセンターで手術支援ロボット『ダ・ヴィンチ』の実演を行った。ファルマバレーに関心のある地元企業をはじめ、医療関係者ら150人が参加。国内で約30機しか導入されていない同機器に触れ、最先端の医療技術を体感した。
 セミナー冒頭で静岡がんセンターの山口建総長は「地域の皆さんに先端技術をしっかり見てもらい、新たな製品づくりに活用してもらいたい」とあいさつ。続いてプレゼンテーションに立った寺島雅典胃外科部長は「実際の手術では指先の感覚がものをいう。このロボットには触覚がないが、感覚が分かるセンサーがつけられれば手術の精度も上がるのではないか」、また、絹笠祐介大腸外科部長は「大腸の領域は広範囲にわたる。今の大きさでは動かす際にアームが邪魔になる。もっと小型化できれば」とそれぞれ課題を挙げた。
 セミナーに参加した自動車部品製造のカナエ工業(富士宮市)の清行雄社長は「手術データの蓄積ができれば再現できるので、将来的に一部分が自動化される可能性もある」、医療用具製造販売のホリックス(沼津市)の堀内喜久二社長は「整形に応用するには骨を切ったり穴を開けたりすることが必要。用途別のアタッチメントの開発が求められるのでは」とそれぞれ自社技術を踏まえた改良点を口にした。


新しい企業誘致の形
 厚生労働省が発表した2010年薬事工業生産動態統計年報によると、静岡県の医療機器生産額は2年連続で全国1位、前年比1114億円増の3069億円と2位以下に大きな差をつけた。これは、大手医療機器メーカーの生産棟が新設されたことが主な要因とされるが、医療機器関連企業が増えていることも一因だろう。
 医療機器製造業許可を取る企業が増え、OEM(発注元のブランドで販売される製品を製造すること)製品を造れる企業のすそ野が広がれば、部品・部材のサプライヤー(供給会社)を求めて大手企業が進出しやすくなる。今や首都圏から1時間の距離は決して誘致の切り札にはならず、今までのような補助金や助成金主体の企業誘致では、地価の安いところにはかなわない。
 日本の薬事法上の品質管理システム(QMS)に基づいたものづくりができる下請けをどれだけそろえられるかが、新しい企業誘致の決め手となる。もちろん、参入する地元企業にも人と設備投資を行うだけの“本気度”が試される。「医療城下町」構想を着実に進めるPVCの取り組みに期待したい。
中小のものづくり企業向けに無料薬事・販路個別相談会


   「ファルマバレーの今後に期待」
経済産業省関東経済産業局参事官 酒寄仁司 氏
  ■「明確な目標とコーディネート力がファルマ成長のカギ」と語る酒寄参事官
  ■「明確な目標とコーディネート力がファルマ成長のカギ」と語る酒寄参事官
 ファルマバレーは「医療城下町をつくる」という明確なコンセプトのもと、医療現場か ら出てくるニーズを中小ものづくり企業の技術で製品化し、産業振興を図っている。医療分野には薬事という「規制」があるので、参入するのは難しい。われわれの管内(1都10県)には同様の医療クラスターがいくつもあるが、中でもファルマバレーは成功事例の一つと認識している。
 注目すべきは県内医療機関1万4千床の大規模治験ネットワークが組まれていること。今後、このネットワークを活用して試作段階の製品を臨床研究として評価したり、ブラッシュアップできるようになれば素晴らしい。
 また、医療機器業界と中小製造業ではお互いに違う文化の中で経済活動をしている。使っている言葉も通じなければ慣習も違う。中小製造業が医療機器に参入するには、間に入る人、つまりコーディネーターが必要だ。ファルマバレーが躍進する背景には、このコーディネート機能の強化がある。ファルマバレーセンターは地域の中小企業の強みをよく把握し、データベース化していると聞く。最近は日本医療機器工業会とも活発に交流している。医療機器の最前線にいる団体との交流は、販路拡大はもちろん業界のアドバイスや技術交流などにつながっていくだろう。
 ファルマバレー関係者の人脈もプロジェクトの大きな財産だ。たとえば、静岡がんセンターの山口建総長が有する幅広いネットワークは有効であり、いかにして同様の人材を多数発掘するかが重要なポイントの一つだろう。
 ファルマバレーが目指す「医療城下町」が実現すること、そしてその先に中小企業の技術力を生かした世界に冠たる医療機器が生まれることを願っている。



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