サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 2012年初夏に新東名高速道路の御殿場JCT―三ヶ日JCT間162キロメートルが開通する。13年には東駿河湾環状道路が函南町塚本インターまで開通し、伊豆中央道とつながる予定だ。
 12月の「風は東から」は先月28日の懇話会東部地区分科会パネル討論会を取り上げる。パネリストに芝浦工業大学大学院の谷口博昭教授、静岡経済研究所の中島寿志専務理事、三島商工会議所の渡辺靖乃多極分担型地域検討特別委員会委員を迎え、こうした交通ネットワークを東部の活性化にいかに結び付けるかを討論した。コーディネーターはシードの青山茂副社長(懇話会シンクタンクTESS研究員)。
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

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道路網向上で激化する地域間競争 知恵絞り新たな道の在り方模索
谷口 博昭 芝浦工業大学大学院教授
■谷口 博昭
芝浦工業大学大学院教授
1972年建設省採用。88年中部地方建設局沼津工事事務所長、国土交通省道路局長などを経て、国土交通省事務次官。2011年1月から現職

中島 寿志 
静岡経済研究所専務理事
中島 寿志
静岡経済研究所専務理事
1976年静岡銀行入行。80年静岡経済研究所出向、96年研究部長、2010年専務理事。交通ネットワークビジョン検討委員会委員
道に必要な交流機能

青山 今日は整備が進む県内道路網が東部地域にとってどのような価値を持ち、また、どのように活用すればよいかをうかがいます。
谷口 古今東西、道を粗末にして発展した国はありません。古くは足で歩いた東海道、そして戦後、モータリゼーションの発達とともに飛躍的な改良がなされてきました。道は時代ごとのニーズを反映して進歩しています。
 新東名時代にふさわしい道を考える時、まず新しい世紀の社会はどうあるべきかを考える必要があると思います。少子高齢化社会ではコンパクトに集約されたまちづくりが必要でしょう。震災を踏まえて考えると、自立と共生(ともいき)の精神で暮らせる地域社会が理想です。
 街中は車に頼らず、お年寄りや障害者にやさしい、歩いて楽しいことが求められますし、同時に道を介した外部との交流が大切です。たとえば、道の駅や高速道路のサービスエリア(SA)、パーキングエリア(PA)のような、地域との交流の接点となる機能を、道に付加していくことが必要でしょう。
 加えて、隣の町とは伊豆縦貫自動車道のような高規格道路で結ばれれば、離れていても一体的な都市として成り立つのではないでしょうか。まさに、まちづくりと道はセットで考えなければならないのです。
中島 産業面では、静岡県の交通ネットワーク(NW)が飛躍的に高まることで、東部にとって3つの視点が生まれると考えています。
 一つ目は、経済活動の重心。東部の方は、製造業にしろ観光業にしろ、関東圏とのつながりが強いと思います。しかし、新東名が開通すると西へのアクセス時間が短縮され、  新たなビジネスチャンスが生まれてきます。今後は東に重心を置きながらもっと西に目が行くのではないかと思います。
 2番目に東名の複線化が上げられます。静岡県への企業立地を考えるとき、現東名だけでは東海地震などで寸断されるリスクがありますから、進出をためらう企業が少なくありません。これも新東名の開通でリスクが軽減されます。そうすると、再び県内の立地の優位性が高まるのではないでしょうか。
 三つ目に、これからの産業の中で物流は大きな意味を持ちます。ですから、県内に物流機能を立地させる上で非常に優位になると思います。東部が日本の物流センターとしての役割を果たす、そのくらい大きなことを考えてもいい。今、物流機能は集約化されていますので、集積させるための手段として交通NWを有効に使っていくべきでしょう。
青山 東駿河湾環状道路が一部供用されましたが、地域の方の生活にどのような変化がありましたか?
渡辺 生活者の感覚は、地域の活性化というよりは、外に出かけるのに便利になったという段階だと思います。
よく聞くのは、行動範囲が広がったこと。通勤や買い物はもちろん、パートなどの職を選ぶ時、子どもの塾や習い事、病院なども選択肢が増えたと感じています。道路が便利になったことで、生活レベル全般の質が向上しつつありますね。



産業の高付加価値化を図る

青山 新しい交通NWができ、地元の人が外に出る機会が増えた。ほしいものに向かって人は動きます。外から人を呼べるような価値を沿道でどれだけつくれるかが試されますね。
谷口 新しい時代は少子高齢化、グローバル化が進み、それに応じた地域をどう再編していくか、市をどう再生していくかが問われます。地域間競争が激化しますから、街の魅力をどう発揮するか、一次産業、二次産業、三次産業をどのように組み合わせるかを考えないとなりません。
 この地域は観光が大きな財産です。寿司、アジのひらき、シラス、わさびなどの一次産業的なものに観光を組み合わせて産業を高めることが大切でしょう。富士山、柿田川といった自然も素晴らしい。歴史では源頼朝、黒船来航の下田、文化なら伊豆の踊子、若山牧水。ジオパーク構想も進んでいます。そうした自然、歴史、文化を生かしながら付加価値の高い産業をつくっていかないと、活性化はままならないと思います。
中島 例えば「スマート観光」というキーワードで伊豆地区を切ってみると、温泉がありますので地熱発電で電力供給をする、地域交通は電気自動車で行う、そういう仕掛けをつくってみる。すると仕掛け自体が新しい観光資源になってきます。
 また物流は成長分野ですから、象徴となる企業を誘致することも重要です。千葉県市川市にあるアマゾンジャパン物流センターは浜松のイオンモールと同じ6万平方メートルです。中では相当数の人が働いています。物流センターはハイテクの塊であり、雇用装置でもあります。そういう象徴的な企業、たとえばユニクロの配送センターを誘致する。それが機能したら、他の企業も来るでしょう。

地域のチーム力を引き出す

青山 「三島コロッケ」を推進するお立場から、地域を元気にするために何が必要でしょう。
渡辺 もっと地域振興に関わる人が「あなたの求めているものはここにある」ことをしっかり発信することが必要ですね。それには、地域全体のチーム力が欠かせないと感じています。
 今年のB-1グランプリは1位、2位、9位に岡山県内のチームが入りました。ご当地グルメをやっているチーム同士が情報交換をしているそうで、現場でのおもてなしの方法も非常にレベルが高いものでした。東北もチーム同士で交流があったと聞いています。東部でも各地でご当地グルメを頑張っている団体がありますが、一つのチームとして地域で売り出そうという気持ちはまだないと感じています。
谷口 地域だけでなく国家としてもチーム力が大切です。国家は国家、地方は地方、コミュニティーはコミュニティー、今はこの役割分担がきちんとなされていない。国家は広域的な交通NWをいつまでにここまでやるという絵をきちんと示す。地方は知事のリーダーシップで個性ある県づくりを目指してもらいたい。
 その際、「新しい公」を念頭に、民の知恵と資金を生かすような規制緩和が必要です。事業仕分けのように過去をいくらいじっても未来は生まれません。削ったものを未来にどう生かすかをセットでやらないと未来のビジョンは生まれてきません。未来志向で歩みながら、軌道修正しながら歩んでいくことが重要です。10年先に見えなかったことでも2、3年歩めば方向性が見えてきます。それをきちんと示すのが政治には必要です。
中島 先日、あるシンクタンクが各界の専門家に実施した予想アンケートによると、2012年にヒットするものとして「スカイツリー経済」が1位になりました。ところが新東名は、事業規模からするとスカイツリーに比べてはるかに大きいにもかかわらずベスト10にも入りませんでした。
 果たしてこれは良いことなのか、悪いことなのか。逆に、あまり注目されていないということはチャンスでもあります。静岡県民は人がいいので、新東名でひともうけ、と考える人はいないのでしょうが、これでひともうけしようという人がたくさん出てくることが、地域にとってプラスになると思います。
渡辺 住民として道路ができることを喜びたいと思います。沿道の住民が大喜びで見送っている九州新幹線のCMには私も感動しました。物心ついたときにはすでに新幹線、東名が通っていましたので、新幹線が通るってこれほど感動的なものなのだ、と気付かされました。ですから、新東名が出来た時はみんなで喜んで気持ちを盛り上げていきたいと思います。
 地域振興に関わる一人として、地域をよく見て、良い部分は過小評価せず、きちんと出していきたい。そうでないと「グランプリ」はとれませんね。

渡辺 靖乃 三島商工会議所 多極分担型地域検討特別委員会委員
■渡辺 靖乃
三島商工会議所
多極分担型地域検討特別委員会委員
静岡県PTA連絡協議会副会長などを歴任。みしまコロッケの会事務局を務める

青山 茂 シード取締役副社長
青山 茂
シード取締役副社長
オリエンタルランドを経て、現在、シード副社長。第10回全国スポーツレクリエーション祭 「スポレクおきなわ」などをプロデュース。サンフロント21懇話会TESS研究員

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