サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 少子高齢化や若者の旅行離れなど、国内旅行市場は縮小の一途をたどる。また、全国津々浦々で観光振興に力を入れている結果、地域間競争は激化する一方だ。そのあおりを受け、伊豆は観光交流客数、宿泊客数ともに減少傾向が続き、今ではピーク時の6割弱となっている。1月の「風は東から」は、大きな観光マーケットとして期待されている高齢者向けの旅行サービスを取り上げる。今まで旅行に行きたくても行けなかった人々をどのように受け入れているかを紹介する。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10

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高齢化社会の旅の形を模索必要な意識改革と受け皿づくり
栄養士が制限食に対応 稲取・はまべ荘

 稲取温泉のはまべ荘(鈴木文雄社長)は、栄養士として病院で6年間経験を積んだ息子の弘康さんが板場を仕切る。そのため、糖尿病や肝臓病など、食事に制限のある人も安心して利用できる宿だ。
 食事制限のある人から予約が入ると、まず、医者から指導されているカロリーや塩分などの値を聞く。それをもとに栄養管理ソフトで細かな献立表を作り、実際に試作して見た目や味を確かめる。今回は糖尿病の人のための食事を用意してもらった。稲取産の金目鯛の煮付けや伊勢エビの鬼殻焼き、刺身、ところてんなど9品がずらりと並ぶ。これでもたったの570キロカロリー、塩分量は2.4グラムだ。
 勤めていた病院に頼まれて食事制限のある人を受け入れたのがきっかけ。それが口コミで広がり、利用者は延べ1500人を超えた。「家族や夫婦で旅行したくても、食事がネックで出来なかった方は多い。単に制限食を出すだけなら簡単だが、せっかく旅館に泊まりに来るのだから、普段の食事より豪華でおいしい料理でもてなしたい」と弘康さん。一般のお客さんと遜色ない献立が並ぶため、同行者も気兼ねなく食事が楽しめると好評だ。はまべ荘では全体の8分の1程度が制限食を依頼する。お客さんから栄養相談もよく受けるという。

▲はまべ荘の糖尿病用制限食(570キロカロリー)
▲一切れ一切れグラム数を量る。きめ細かな対応が必要なため「1日3組が限度」という


諦めていた旅を実現 東伊豆町観光協会トラベルヘルパー
■トラベルヘルパーの介助で細野高原の
ススキを楽しむ参加者
 東伊豆町観光協会は町と連携し、トラベルヘルパー(外出支援専門員)を育成した。
 トラベルヘルパーは、NPO法人日本トラベルヘルパー協会(理事長・篠塚恭一氏)が認定する介護技術を身につけた外出支援、旅の専門家のこと。健康に不安がある人や体の不自由な人の外出希望や介護旅行の支援などを行っている。
資格を取るには、看護師や理学療法士、介護ヘルパーなどの資格があることが条件。その上に入浴介助や外出先の車椅子介助などの研修を積む。また、地域の観光情報や観光関連施設のバリアフリー状況の把握、公共交通機関や公衆トイレの場所といった知識も求められる。同観光協会には現在、3人のトラベルヘルパーが常駐する。
利用者は介助が必要な高齢者やその家族。長野県に住む74歳の女性(車椅子利用)は、ご主人が旅先での入浴介助をしていたが、ご主人の腰痛が悪化し旅を諦めかけていたところ、トラベルヘルパーの存在を知り東伊豆町に旅行に来たという。
旅行だけでなく、地元のお年寄りの外出支援も行う。町内の新しい名所・細野高原ススキ見学イベントでは、89歳の女性と83歳の男性の介助をした。車椅子の男性は、子どものころ行った細野高原にもう行けないと諦めかけていたが、このサービスを利用して行くことができた。
利用者の体調や意向を細かく聞き、トラベルヘルパーと一緒にツアーを組み立てる同協会の着地型旅行プランナー吉間厚子さんは「高齢になり体が不自由で出かけることを諦めてしまった方が、このサービスで笑顔を取り戻してくれる」とやりがいを語る。最近は町の要請で各種の視察に訪れる団体の支援も行う。視察メンバーに介助が必要な高齢者が必ず入っており「こうしたことが地域のおもてなしにつながる」という。


バリアフリー旅行の相談窓口 伊豆バリアフリーツアーセンター

 伊豆各地の宿泊施設や観光施設などのバリアフリー情報を積極的に提供しているのが、伊豆の国市にある道の駅「伊豆のへそ」内にオープンした伊豆バリアフリーツアーセンター。同センターでは通常の観光案内業務と並行して、障害の程度や予算、食事の内容やお風呂など、観光客の要望を細かく聞き、条件に合った施設を紹介している。
希望者には観光や入浴介助をするヘルパーの手配も行う。伊豆長岡周辺なら、長岡リハビリテーション病院や家政婦紹介所に登録している人を紹介する。より専門的な知識・経験が必要な場合は東伊豆町のトラベルヘルパーを利用する場合もある。同センターの内田隆久代表は「支援が必要な人に対して伊豆の旅行の手助けができる施設や人のマッチングを行う」と同センターの役割を説明する。本人の障害の程度や宿泊する施設の状況によってサービス内容が異なるため、実際のサービス内容は旅行者とヘルパーが直接やり取りをする。
ヘルパーの料金は介助する内容にもよるが1時間2500円〜5000円。利用者のほとんどは高齢者の夫婦。一方が少し体が不自由で入浴などに介助が必要になるケースが多い。

■伊豆バリアフリーツアーセンターがある道の駅「伊豆のへそ」


見えている高齢者マーケット
 高齢化社会の進展やユニバーサルデザインの考え方の普及で、以前より高齢者が旅行しやすい環境は整いつつある。今回紹介した3つの事例もそうしたマーケットに対応した取り組みだ。しかし、依然、大部分の観光サービスは“特別な配慮のいらない人々”用だ。
 トラベルヘルパーの取り組みを始めた東伊豆町観光協会は「介護旅行という言葉自体なじみがなく、地元の宿泊施設などへ説明する時も言葉の意味から始めなければならない」という。伊豆バリアフリーツアーセンターもヘルパーの派遣は月に2件ほど。そのため、地域観光サービスの一環として同市観光協会の職員が兼務で行っている。
 一方で「旅行に来る人の多くは高齢者。団体バスなどは約9割が65歳以上」(内田氏)という現実もあり、バリアフリー施設への問い合わせは多い。ある旅館ではあまり使われていなかった貴賓室をバリアフリールームに改装した結果、その部屋の稼働率が格段に上がったという。
 健康増進と癒やしのサービスを提供する伊豆の温泉宿のネットワーク「かかりつけ湯協議会(代表幹事・船原館鈴木基文氏)」は、本年度、加盟52施設を対象に食に関するヒアリングを行った。アレルギー対応や低カロリーメニューの提供、塩分コントロールなど、半数以上の宿で宿泊客の要望を受け入れており(※事前の相談が必要)、持病のある人からの問い合わせも増えているという。しかし、「病院のような厳密なコントロールができない」「カロリー計算できる専門家がいない」「アレルギーフリーの調味料をそろえるのにコストがかかる」など、ニーズはありながら経費や人材面で対応しきれていない状況が浮かび上がった。
■伊豆バリアフリーツアーセンターでは、冊子やホームページなどでもバリアフリー情報を提供している
 当然、旅の目的となる景観や食、温泉、もてなしの魅力があってのことだが、市場がバリアフリーや食事への配慮を求めており、そうしたサービスにお金を払う人は今後ますます増えていく。内田氏は「2000年の伊豆新世紀創造祭でわれわれがバリアフリーの研究を始めた頃、湯布院の関係者がそれを聞きつけて研修に来た。バリアフリーとは何か、高齢化社会とはどんなものか、そのアンテナの高さと行動力が今につながっている。各種の温泉地ランキングで常に上位に選ばれる理由はそこにある」と語る。
サービスの基本に高齢者を受け入れるのが当たり前という観光関係者の意識改革と、それを具体的なサービスに落とし込む行動力が、今、伊豆に一番求められている。


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