サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 少子高齢化で膨らむ社会保障費。国は昨年6月、社会保障改革の柱として医療と介護の制度改革(地域包括ケアへの転換)に着手した。財政を圧迫する医療費を減らそうと、各自治体も市民の健康増進事業に熱心だ。2月の「風は東から」は、「市民の健康」を単なる健康増進施策にとどめるのではなく、まちづくりの核に据えてさまざまな取り組みを進める三島市にスポットを当てた。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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住民主役で三島市の特性磨く人もまちも健康で品格ある都市に
懸念される地域力の低下

三島市に住む75歳以上は約1万2000人、人口11万3000人の1割を超える。高齢化率は23%と県内では低いが、平成32年には29.3%に上昇、約3人に1人が高齢者となる計算だ。
このまま少子高齢化が進み、生活習慣病患者や要介護・寝たきりの高齢者が増えれば、医療費や介護給付金など社会保障費の大幅増は避けられない。地域の活力も低下する。生活習慣病を予防し、介護が必要とならないよう、市民の健康づくりを効果的に行う対策が求められていた。
一方、健康志向の高まりや、食育への取り組み、順天堂大学看護学部の開設やファルマバレープロジェクトを追い風に「健康・医療」をテーマにした新しい産業を興す環境も整ってきた。
同市を取り巻くこうした状況を背景に、豊岡武士市長は「スマートウエルネスシティ=健幸(こう)都市=構想」を立ち上げた。
「健幸」という当て字には「住民が健康で、元気に幸せに暮らせること」の意味を持たせた。従来の市民の健康づくりの枠を大きく広げ、「あらゆる分野を視野に入れた取り組みにより都市そのものを健康にすることで、市民が自然に健康で豊かになれる新しい都市モデルを構築する」と豊岡市長は構想の狙いを語る。

■せせらぎと緑あふれる中心市街。市民自ら楽しみながらこうした景観を守り育んでいる
■せせらぎと緑あふれる中心市街。市民自ら楽しみながらこうした景観を守り育んでいる


まちづくりの核に「健康」
■「人も、まちも元気になる地域づくりをしたい」と語る豊岡市長
■「人も、まちも元気になる地域づくりをしたい」と語る豊岡市長
 スマートウエルネスシティ構想の柱は3つ。(1)市民総参加で健康寿命を延ばす健康づくり(2)生涯を通じて社会参加・地域交流できるまちづくり(3)持続可能な健幸都市づくり―だ。
 健康寿命を延ばす施策として、同市は市民の健康度の実態把握に乗り出す。国の機関と連携し、地域別の疾病の実態や特定健診、特定保健指導などを分析する準備を進めている。その結果を踏まえ、同市の実態に即した科学的根拠に基づく「三島版健康増進施策」を策定する。「ここまで急速な高齢化を経験した国はない。目指すところは全国のモデル」と担当の健康推進部は意気込む。
 また、景観を整備し、歩きたくなる街並みにすることで、市民が自然と健康になる仕掛け作りも行う。昨年、楽しみながら歩ける道を市民に公募したところ、30ほどの提案があった。現在16コースに絞り、順次紹介していく。こうしたルート沿いに気軽に体を動かせる健康器具を配置し、市内4カ所に血圧などの健康チェックができるコーナーも作る予定だ。
 市民と協働の地域づくりに向けては、本年度市内14の小学校区で、「地域づくり市民会議」を開催。防災力と地域の絆をどうつくるか、環境美化をどのように進めるかについて、活発な意見交換を行った。これらを通じて地域のことは地域で考え、問題解決に向けた取り組みを市民自らが実践する「ご近所力」を高めている。 
 持続可能な「健幸都市」を支える経済基盤に向け、医療・健康産業の誘致にも力を入れる。一気に研究所や工場の立地は難しいことから、支店や営業所を市内に新設する企業に補助制度を用意する。ファルマバレーセンターとも密に連携し、工場や研究所を誘致したい考えだ。


品格のあるまちづくり

 「スマートウエルネス」を複層的に補完するもう一つのキーワードが「ガーデンシティ=庭園都市=構想」。市民やNPO、事業者と行政が協働で水、緑、文化、歴史、景観などに「花」を加えた事業を展開。美しく、品格を備えた魅力ある都市を目指している。
 同市が手本とするのがアイルランドのタイディタウン。1958年からごみのない街づくり運動を始めた。現在は景観や環境を含め美しい街並みを形成するコンテストを行うまでに発展し、ヨーロッパ全土から多くの観光客が訪れている。
 ガーデンシティ構想のシンボル地区が三嶋大社から広小路に至る大通りだ。電柱類を地中化し、門前町の風情にあったデザインの照明灯を55基設置。その中段にフラワーポットをつけ、ビオラなど季節の花を植えている。最近ではきれいになった街並みを見ようと、市外から人が訪れるようになった。
 市内に点在する遊休地や水田などにも市民の協力を得て花を植えている。同市中島には「花を愛でる会」が立ち上がり、地域のお年寄りなど約30人が花を植えている。

■今後のまちづくりの方向性を表す場所として重要な役割を担う三島駅周辺
■今後のまちづくりの方向性を表す場所として重要な役割を担う三島駅周辺

 「当初は花を植えて何になるのという意見もあったが、花を植えることがお年寄りのやる気につながり、コミュニティーの輪が広がった。防災にもプラスだ。また、健康に関心のうすい約半数の市民には、自然に歩きたくなるような美しい街並みや健康になる仕掛けを構築中だ。これこそスマートウエルネスシティとガーデンシティの相乗効果」と豊岡市長は語る。
花のある美しい街並みにより交流人口も増え、商店も活性化していく。最近は、出店先の問い合わせも多く、空き店舗が足りないほど(産業振興部)だという。



住まい手が都市を選ぶ時代
 市は今年1月、進出企業の撤退表明で白紙になった三島駅南口東街区を含む駅周辺のグランドデザインを策定した。有識者と市幹部職員による委員会(座長・鈴木正勝氏)を立ち上げ、計11回の会議を経て、駅周辺が持つべき機能の方向性を探った。
 ビジョンでは、駅周辺を同市のフロントエリア(フロントとは先進的、先端的の意)と位置付け、スマートウエルネスシティとガーデンシティの理念を具体化する機能を盛り込んでいる。
 例えば、東街区には健康について自ら学ぶ場や市民の心と体の健康を生涯にわたってサポートする機能を集積。ファルマバレープロジェクトの一端を担う医療と介護の“革新基地”と位置付ける。人や情報が行き交い、新しい産業創出の場となることで、持続可能な産業活動や都市活動につなげる役割を持たせる。
 西街区は水と緑と花があふれる街なかの回遊拠点や伊豆観光の玄関口の機能を持たせる。楽寿園は今ある自然や歴史的価値にさらに磨きをかける方法を検討―といった内容だ。
 「住まい手が都市を選ぶ時代。市民だけでなく、企業が進出する際に求められるのが『街の品格』。ドイツのフライブルクは環境に配慮した市民活動を続けた結果、この街に拠点を持つことが環境系企業のステータスになっている。三島が持つ地域資源を磨き上げれば、企業がこぞって進出したがる資質は十分にある。駅周辺はその重要な拠点であり、品格を具現化する場所であるべきだ」と鈴木座長。アスリートの憧れの地、ボルダーやコンベンションで有名なアスペン(共にアメリカ)に共通することは、施設そのものより「もてなしの心」と「都市の品格」。こうした議論が策定委員会での核心だったと振り返る。
 まちづくりの理念をどう具現化するか、駅周辺をどう構築していくか、同市の取り組みが注目される。

 駅前にライフ・イノベーションセンターを
  ■サンフロント21懇話会アドバイザー土居弘幸氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授)
  ■サンフロント21懇話会アドバイザー土居弘幸氏
(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授)
 “健幸”増進や介護予防に視点を置いた三島市の取り組みは、日本の全ての市町村が目指してきたことであり三島市民の活動に大いに期待したい。しかし、もう一方の課題も待ったなしの状況にある。それは「満足の看取り」、市民誰もが願うことである。高齢者の医療において、キュア(治療)一辺倒からケアへの転換が高齢者のQOL(生活の質)を向上させる事実が認知されるようになった。医療者たちが提供できることを全て行う医療から、市民の“生活・人生”を中心とする「住民主権の医療福祉」への転換も“健幸”増進の先にある重要課題であることを提起したい。
 まちづくりと言えば、駿河湾・伊豆・箱根・富士を擁する県東部は、紛れもない世界がイメージする“日本”そのものである。その中心に位置する三島は、豊かな自然環境に抱かれた(1)“健幸”の拠点(2)文化の拠点(世界文化遺産)(3)スポーツの拠点だ。これらが有機的につながり叡智により紡がれたならば“ライフ・イノベーション*”が実現する。それを目に見える形で推進するためには、三島駅前にライフ・イノベーションの「智の集積拠点」が必要だ。ここに若い研究者が自由に研究開発や意見交換できる場所をつくり、そこからさまざまなライフ・イノベーションを生み出していってほしい。そうすれば、三島は「世界へつながる玄関」となるに違いない。

※ライフ・イノベーションとは“生きることの新たな価値の創造”を意味する。


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