サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 富士山の世界文化遺産登録や伊豆の世界ジオパーク登録など、県東部で世界が認める新しい価値が生まれようとしている。これを地域活性化にどのように結び付けるか。4月の「風は東から」は、2月に行われた富士地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、静岡県の谷口せい子観光顧問、ワインツーリズムプロデューサーの大木貴之氏、着地型旅行会社レイラインの田渕正人顧問を迎え、地域の食と観光を結び付けた環富士山の可能性を検証した。コーディネーターはサンフロント21懇話会シンクタンクTESSの野村浩司研究員(静岡総合研究機構主席研究員)。
注:役職はパネル討論当時のものです
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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地元の食文化を観光資源に人とネットワークで物語紡げ
地元ならではの情報が求められる
谷口せい子 静岡県観光顧問
パネリスト
■谷口せい子 静岡県観光顧問

1972年国際観光振興会(現・日本政府観光局)入会、2001-06年香港観光宣伝事務所長として香港、中国広東省での訪日旅行誘致PRを展開。08年から県観光顧問

大木貴之 ワインツーリズムプロデューサー
パネリスト
■大木貴之 ワインツーリズムプロデューサー

都内企業で広告、編集、店舗開発などを経験し、地元山梨県へ。2000年地域の核となる「フォーハーツカフェ」をオープンさせ、食文化を軸とした地域の魅力を発信している
野村 食文化と観光の融合をテーマにお話を伺います。最初に富士山周辺の魅力と可能性について、特に外国人にとって日本の食が来日への動機になるのかをお聞かせください。
谷口 旅のけん引役は女性。女性のハートをいかにつかむかと言われています。食は日本を訪れる外国人にとっても大きな魅力です。2009〜10年、食が旅行動機の1位になりました。中でも米国、香港、フランス、イギリスは「食」が1位。人気は1位寿司、2位ラーメン、3位刺身。以下、うどん、てんぷら、海鮮料理…。今や日常的なラーメンやうどんが上位になっています。
 あるフランス人は、日本のアニメで主人公が食べている「ホカ弁」をぜひ食べたいと来日しました。中国の大ヒットドラマに出た日本の居酒屋が有名になりました。来日動機を高める食はたくさんあります。
 2月に伊豆の吉奈温泉で珍しいもの、そこに行かなければ食べられないものを盛り込んだ静岡初のグルメツアーを行いました。この時はいのしし鍋、うなぎ、富士山の眺望が素晴らしいレストランでの食事が受けていました。
野村 大木さんは甲府のご出身でワインツーリズムを企画、実践されていますね。
大木 ワインツーリズムを通じて地域全体の6次産業化を進めています。一つはブランド化。もう一つはイベントです。山梨には80ものワイナリーがあり、甲州市にはそのうち40軒があります。1年に1日、全部のワイナリーをあけてもらい、産地を歩いて楽しんでもらっています。
 小さい集まりなのでコンセプトは「至らず尽くさず」。短期的には来ていただいてお金を落としてもらうのですが、長期的にはこういう風土ですということを伝えてリピーターになってもらう。地域を育ててもらえる人だけに来てもらうという戦略です。
野村 田渕さんは着地型観光を推進されていますね。
田渕 観光事業者は景気が悪いからお客さんが来ないと言いますが、行きたいところがない、というお客さんが圧倒的に多い。ニーズや思いをいかに地域が受け取っていないかが分かります。
 従来の旅行形態は、発地である東京の旅行会社が机の上で資料を広げて作っていました。しかし、パック旅行のような安売り競争になると内容が似たようなものばかりになりました。そうすると喜ぶ人がいない。満足できない。地域は無理ばかり言われます。誰も喜ばないのがマスツーリズムです。
 一方、地域がお客さんを呼び込もうというのが着地型観光です。旅先の情報というのは旅先にしかありません。また旅先の情報に精通しているのは地域の人。地域に対する誇りや愛着を商品に打ち込もう、というのが目的です。
 今、求められているのは地元の人しか知らないような穴場の情報です。タクシーの運転手さんが普段食べている食堂、安くておいしいもの、B級ご当地グルメです。ありきたりの体験に満足できず、本物に触れたい、その土地の人と触れ合いたいというニーズが生まれています。


埋もれた価値を見いだす努力を
野村 次は食と観光の融合という切り口で、この地区へのヒントをお願いします。
谷口 この地ならではの食をアピールするのに大事なのは、マーケットを絞り込んでその思考を把握することです。
 外国人が日本の食に感じる魅力は「健康に良い」です。何と言っても静岡は健康に良い新鮮な海の幸、お茶、老化防止のわさび、オーガニックな野菜の種類が豊富です。ただ、的が絞られていないので何が静岡なのかがぼんやりしています。金目鯛、桜エビ、お茶、いちご、何を絞り込んでアピールするか、皆さんご自身がお考えください。
 また、静岡ならでは、富士市ならではの食の魅力は何といっても富士山に由来したものでしょう。トップバッターは日本酒。クールジャパンの代表ですが、説明がほとんどなされていません。富士山に積もった雪が60年、70年かけて湧水となって、日本酒やビールが作られる。これはすごい価値です。
 富士山の水で作ったお酒を飲んだ、日本の伝統建築で造られた酒蔵で日本酒を味わってきた、というのが顧客満足度を向上させます。三島のうなぎも湧水が泥を吐かせることでよりおいしくなる、これは絶対に目玉になります。
野村 地域の魅力を再発見する、まさに大木さんがされていることですね。
大木 何をテーマにするか、できれば産業として関わっている人が多ければ多いほどいい。物語ですから、長い歴史があった方がいいと思います。 
 よく、ワインだけ集中的にやっていいのか、と言われますが、誰かに何かを伝えるときに全部を伝えるとラップは破れない。一点集中すると破れるし、お客さんは結局全部を手に取ります。名が通っていることは大事です。それに便乗する。また、流行に乗ってしまうと、ブームが去った時に地域に何も残りません。
 価値は一度つくるとPRが楽になります。身の回りにこれだと思ったものを売っている人、提供している人がいます。「山梨しかない」と、やせ我慢している人が必ずいます。それに気が付くか、付かないか。価値を一生懸命伝えている人のノウハウは貴重です。売れないものを売っている人を見つけて話を聞いて、それを紹介していくことが大切です。
田渕 観光という字は「光を観る」と書きます。今、消費者マーケットが光と思っているのは、人々の心が醸し出す生活空間です。
 また、観光のキーワードは連携。一つは地域連携。1次、2次、3次産業が連携して地域一体で取り組むことがお客さんの満足につながっていると思います。
 もう一つは広域連携。お客さんの行動範囲は広がり、行政の区域は関係ありません。しかし、富士市の観光パンフレットには富士宮市の情報が載っていませんね。お客さんにとって不親切です。広域連携して、産業も含めたつながりの中でやっていかないといけません。かつてはどこに行くか、が目的でした。今は何をしたいか、私はどうなりたいのか。テーマや目的で一つのストーリー性のある旅行商品、食が求められています。
田渕正人 レイライン顧問
パネリスト
■田渕正人 レイライン顧問

大手旅行会社で営業や企画、商品開発などに25年間携わった後、長崎県、福井県で着地型観光の推進支援などを行う。2007年より着地型旅行会社レイライン顧問

野村浩司 静岡総合研究機構主席研究員
コーディネーター
■野村浩司 静岡総合研究機構 主席研究員

サンフロント21懇話会シンクタンク TESS研究員
1987年静岡県庁入庁。96年静岡総合研究機構に出向。県議会事務局調査課、清水港管理局企画振興課を経て2008年現職


楽しみながら食文化の交流を
野村 地元の受け入れ態勢や人づくりの重要性はいかがですか。
田渕 地域とお客さんをつなぐ役割がなければ情報発信できませんので、ワンストップで対応できる窓口、組織が必要です。また、仕組みを作るだけでは動きませんから、それを支える人が必要です。食の生産現場があり、加工する2次産業があり、提供する3次産業がある。その現場を見せ、人と交流させればより価値が上がるでしょう。組織と人が絡みあってファンやリピーターが増えると思います。
野村 まず何から始めればよいでしょうか。
大木 人が移動する一番の楽しみは文化の交流。食は文化の源です。人の意識を変えることが大切で、それには地域の何が優れているのかを意識すればいいと思います。
田渕 誰のために何をするかの戦略が必要です。成功するカギは人。一つはホスピタリティー、もう一つはネットワークです。
谷口 着地型観光に必要なのは腹のくくりかたをしっかりすることと、リーダーの存在。それを支えるのが行政です。また、楽しくやらなければ観光ではありません。苦しんで誘致しているようではだめ。リーダーと一緒になって楽しみながら誘致する、これが必要です。



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