サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 先月14日に開通した新東名高速道路。県東部へのアクセスが一段と向上することで、さまざまなビジネスチャンスが期待される。一度に162キロも開通するのは、日本の高速道路史上最長。2014年度には浜松いなさジャンクション(JCT)〜豊田東JCTの約53キロが開通し、最終的には海老名南JCT〜豊田東JCT間の全長254キロになる予定だ。5月の「風は東から」は新東名が東部にもたらす効果を考える。新東名開通を地域振興に結び付けるための各地の動きを取材した。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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新東名開通効果の活用模索 交流人口増やす地域戦略不可欠
定時性の確保で観光や物流に期待

 御殿場JCTから三ケ日JCTまで全長162キロが開通した新東名。特徴は何といっても走りやすさ。東名と比べカーブや傾斜が緩やかなため、より安全で快適、高燃費の走りが可能になった。
 また、東名と交通量が分散されるため渋滞が緩和、高速性・定時性が確保される。災害の発生や悪天候でどちらかが通行止めになっても、もう一方での通行が可能となる。
 GW(ゴールデンウイーク)時期(4月27日〜5月6日)の10日間、御殿場JCT〜三ケ日JCTの交通量は9万2500台。昨年の同時期に比べ22%増加したが、分散効果で東名の交通量は42%減の5万3200台、新東名は5万9700台となり、10キロ以上の渋滞回数も60回から5回に激減した。
 県交通基盤部の村松篤道路局長は「交通量が分散され、定時性が確保できるのは大きなメリット。観光や物流などの産業面はもちろん、地域の医療機関などの連携も進むのではないか」と新東名の効果に期待する。
 特に観光面の期待は高い。目的地までの時間が短くなれば、立ち寄る場所を増やしたり、滞在時間を延ばしたりできる。もう少し足を延ばそうという気にもなるだろう。また、新東名は内陸を通るため、今までとは違った地域にも目が向くようになる。東部が主な商圏としていた首都圏が近くなるだけでなく、中京・関西圏にも広がる。
 例えば、名古屋から3時間圏内は清水周辺だったが、新東名を使えば御殿場まで行ける計算になる。中京圏から御殿場のアウトレットモールに日帰りで来ることも可能だ。
 新東名自体も観光スポットとして人気を集める。東名高速道路を管理するNEXCO中日本は、インターネットによる事前の申し込みで静岡エリア内が乗り降り自由になるプランを企画した(9月30日まで)。
 新たにサービスエリア・パーキングエリアも7カ所設けられた。一般道からも入れるため、地域の産業や観光の起爆剤になることが期待されている。連日、テレビや雑誌をにぎわせており、GW中は7施設あわせて休日で平均30万人、平日で15万人が来場した。これらを巡るバスツアーも好評だ。

■新東名長泉沼津インター周辺(写真右)と開通式の様子。新東名の開通が県東部にどのようなチャンスをもたらすのか


開通機に企業誘致活発化―長泉町
■ファルマバレーの拠点整備が検討されている長泉高校跡地。右手奥は静岡がんセンター

 新東名開通を機に企業誘致に力を入れるのが長泉町。抜群の立地環境を生かし、町内に4つの工業団地を持つ。
 同町の企業立地に関する優遇策は、用地取得に対し最大1億円(うち県費5000万円)の補助と設備投資への補助。県との協調で行っている。また、昨年度から産業振興課も新設した。
 町は本年度、新しくできた長泉沼津インター周辺の土地利用のための調査費800万円を計上した。このエリアは新東名の計画が発表された当時、区画整理の計画が持ち上がったが、地権者の理解を得られず断念した経緯がある。
 同町の杉山僖沃副町長は「ほとんどの車は東駿河湾環状道路に乗ってしまうため、降りる目的は限定的。おのずと土地利用の方向は、交通のアクセスの良さを生かした流通などの業務地に絞られてくるのでは」と語る。インターが実現したことで、住民の意識も変わった今がまちづくりのチャンスという。
 県立静岡がんセンター北側に造成したファルマバレー工業団地には医療関連のベックマン・コールター(本社・米国)などが進出している。昨年12月には同町を含む周辺12市町が「ふじのくに先端医療総合特区」に指定された。これを機に、県立長泉高校跡地に地域企業の医療機器開発や高度な医療人材の育成などを強化するための活用策が検討されている。同町の池田修総務部長は「ファルマバレーのシンボリックな施設を擁する集積地という特徴を最大限生かし、企業誘致を進めたい」と抱負を語る。



MICE推進で外貨導入―沼津観光協会

 NPO法人沼津観光協会が力を注ぐのが、2年後に沼津駅北にグランドオープンする大型コンベンション施設「ふじのくに千本松フォーラム(愛称:プラサ ヴェルデ)」を活用したMICEの誘致。MICEとは、会議(Meeting)、報奨・研修旅行(インセンティブ旅行、Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議(Convention)、 展示会・見本市、イベント(Exhi bition/Event)の頭文字をとった名称で、多くの集客や交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称だ。
 東部には国際会議が開ける場所が少なく、学会につきものの企業展示ができるスペースが併設された会場もないことから、国際会議が開きにくかった。東部で会場を確保できないため、施設の充実した県の中西部で開いたという学会も少なくない。
 同協会の大川敦士専務理事は「会議施設と展示施設が併設しているプラサ ヴェルデは大変魅力的。大規模な学会だけでなく、数多く開かれる中規模程度の学会も展示場があれば誘致できるものが増えるだろう」と語る。当然、新東名の開通を機に物流や交通の利便性が向上すれば、MICEを誘致・推進する上でプラスの要素だ。
  「いかに“外貨”を地域に落としてもらうか、という明確な目標のもと、東部地域コンベンションビューローとも連携し、主にファルマバレー関連の学会などに的を絞った誘致、運営を図りたい」(大川氏)。富士山や伊豆半島などアフターコンベンションに適した立地もMICE開催の後押しとなる。



アクセス向上を地域振興に
■今年神戸で開かれた「第21回日本創傷・オストミー・失禁管理学会学術集会」には全国から2000人以上の看護師が集まった。東部でもこうした学会の開催が期待される(写真:沼津観光協会提供)

 新東名以外にも各地を結ぶ交通網はここ数年で飛躍的に向上した。県の村松局長は「新東名開通により、東西軸はダブルネットワークが構築された。今後は御殿場JCT以東の整備促進と南北軸の充実に力をいれていきたい」と語る。東部では、伊豆縦貫道の整備が進む。東名、新東名と連絡する東駿河湾環状道路は、13年度に三島塚原〜函南塚本間が開通する。伊豆の中央部、天城北道路は修善寺から大平までが開通し、残る湯ヶ島までの整備が進んでいる。南の河津下田道路13キロ区間は1期と2期に分かれ、2期区間は、今年度新規事業化され、1期区間も都市計画アセスメントを進めている。
 さらに東に目を向けると、2年後に圏央道で東京都八王子市周辺と東名厚木インターが結ばれる。東駿河湾環状道路の開通と合わせ、首都圏と伊豆半島がぐっと近くなる。試算では修善寺まで3時間以上かかっていた時間が1時間40分に短縮される。このように、新しい地域から人を呼び込むチャンスは数年後に迫っている。
 県は新東名開通を契機に内陸部の利活用を検討する「内陸のフロンティアを拓(ひら)く県と市町の企画政策会議」を立ち上げた。「安全・安心で、魅力ある県土“ふじのくに”」を実現するため、(1)防災・減災機能の強化(2)活力ある多自然共生地域の形成(3)家・庭一体の住まいづくり(4)次世代産業の創出―を基本戦略に位置付ける。
 富士市は新富士インター周辺に物流団地の整備を進めている。総面積は約45ヘクタールで、トラックターミナルや倉庫などの流通業務施設を呼び込みたい考え。本年度から造成を開始する。
 一次産業が脚光を浴びる中、「おいしいもの」は遠くから人を呼び寄せる大きな力だ。沼津港には年間約130万人が訪れ、その数は年々増加傾向にあるという。医療産業も変わる。静岡がんセンターを中心に、患者だけでなく研究者や関連企業の交流が深まるだろう。
 新東名に限らず、道路は人の交流や地域づくりを担う大きな存在だ。道路事情が良くなって地域外に人が出て行ってしまっては意味がない。いかに外から人を呼び込めるか、地域の戦略が問われている。




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