サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 昨年末、ファルマバレープロジェクトが国の「総合医療特区」に指定され、医療健康産業クラスター形成に弾みがついた。4月には県内区間で新東名も開通し、2年後にはJR沼津駅北に建設予定の「プラザ ヴェルデ」もグランドオープンする。ハード・ソフト両面のインフラが整備される中、これらを使ってどのような地域振興を図っていけばいいか。6月の「風は東から」は、サンフロント21懇話会のアドバイザーを務める静岡産業大学の大坪檀総合研究所所長、法政大学大学院の坂本光司教授、岡山大学大学院の土居弘幸教授による紙上対談を行った。聞き手は静岡新聞社・静岡放送の原和也東部総局長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3

バックナンバー


都市間連携で未来を描く 東部が輝く価値づくり加速
広域連携の推進支援―EU型の東部連合。懇話会は地域の接着剤の役割を

坂本光司 法政大学大学院教授
坂本光司
法政大学大学院教授

浜松大学経営情報学部教授、静岡文化芸術大学文化政策学部教授、法政大学大学院政策創造研究科教授などを歴任。専門は中小企業経営論、地域産業論

 原 懇話会が発足時から提言している東部の広域連携をどのように進めればよいでしょうか。
 大坪 未来は誰にも見えません。描くものです。これだけの資源を使ってこんな東部にしたいという絵を、皆さんで描いてほしい。そのためには効率的な行政が必要で、日本にないような連携都市の仕組みを新しく考えるべきでしょう。
 懇話会設立当初に考えたのは、EU型の地域連合都市です。東部全体の問題を広域で考える地域議会をつくり、議長は持ち回りで各首長がなる。議会には各市町から議員を派遣すれば、そんな組織がつくれるのではないでしょうか。
 土居 自治体自体もできるところから連携をしていけばいいと思います。どの市町にも企画部や健康福祉部など同じ目的を持つ部署がありますね。福祉や介護などは地域ごとのきめ細かなサービスが必要ですが、産業部などはもっと広域で行った方がよいのではないでしょうか。
 よく「官民一体」と言いますが、広域で連携する場合、官の役割は大きいですが、民間の自由な経営手法を生かさない手はありません。両者の長所を生かした「新しい公共」にもチャレンジしてほしいと思います。
 坂本 ぜひ懇話会には接着剤の役割を果たしてほしい。例えば、各種の団体が行っている同じような行事の取りまとめや、伊豆の突端の人と裾野の企業とのマッチングをするようなイメージです。そのためには、懇話会自体がもっと強化、深化しないとならないと思います。県や市、地域企業などから人を派遣して、機能強化を図ってはどうですか。



ファルマバレープロジェクトの推進支援―人材育成機能の強化と医療産業への転換

 原 ファルマバレープロジェクトは昨年末に国の特区指定を受け、医療健康産業のクラスター化が着実に進んでいますね。
 大坪 ファルマバレーが動き出して10年あまり、地道に続けてきたのが最大の評価です。この時代に県や国からの投資も減っていません。拠点となる静岡がんセンターは、今では治験で黒字化も果たしています。
 坂本 これからの日本は、自動車産業よりは医療、福祉、介護の需要が多くなります。ファルマバレーはすそ野が広いので、観光や健康にいい食品、農業なども入るでしょう。自動車産業や電機機器産業でなく、こうした産業が世界から評価される、あるいは外貨を稼ぐようになって初めてこの国は再び尊敬されるようになると思います。
 原 ファルマバレーに期待することは何ですか。
 土居 ファルマバレーを始める際、海外のリサーチパークなどを視察し、参考にしました。しかし、今、静岡がんセンターは、別の高い価値を提示しています。高度ながん医療、しかも命に関わる部分で患者さんが納得している、満足しているという価値を生み出しています。それは多職種チーム医療や術後のリハビリに見るように、ファルマバレーの理念である「患者家族のために」を高いレベルで具現化しているのです。
 ぜひ、こうした価値を生かし、日本の医療を進化させる人材を育成してほしいですね。
 大坪 長寿化が進めば進むほど、がんになる人が増えていきます。せっかく日本一の静岡がんセンターがあるのですから、臨床の現場で本物の医療スタッフを育てればいい。がんプロフェッショナル育成大学院です。そうすれば世界中からがん医療の従事者がここに来て、「お墨付き」をもらうようになるでしょう。

大坪 檀 静岡産業大学総合研究所所長
大坪 檀
静岡産業大学総合研究所
所長

ブリヂストン宣伝部長、ブリヂストン・アメリカ経営責任者、静岡県立大学経営情報学部長、静岡産業大学学長を経て4月より現職


コンベンション機能の多角化促進―誘致だけでなく、地域イベントを量産

土居弘幸  岡山大学大学院教授

土居弘幸
岡山大学大学院教授

岡山協立病院医師を経て、旧厚生省入省。救急医療専門官、危機管理調整会幹事を経て、2001年静岡県健康福祉部技監、03年県理事。10年より現職。専門は衛生学・予防医学。静岡県ファルマバレー技術顧問

 原  JR沼津駅北のコンベンションセンターが2年後にグランドオープンします。
 坂本 コンベンションセンターの運営や企画に周辺市町からある程度権限のある人を派遣してもらい、定期的に勉強会などを開いた方がいいでしょう。広域行政と同じで、そうでないと沼津にある、というだけで終わってしまいかねません。
 また、大きなお祭りが1カ月に1回あるだけでは宝の持ち腐れです。年の半分以上は地元発の多種多様なイベントが行われる、それくらいの準備と覚悟がないといけませんね。
 土居 これからは人にお金をかける時代。いろいろなテーマで人材教育の会合やワークショップを開催すれば、コンベンションセンターの稼働率も上がると思います。
 日本は人材育成についての学問体系や研究に熱心ではありませんが、欧米では人の質を高めるための教育システムなどに力を注いでいます。東部ではもう一歩進めて、教育システムそのものを個人ベースでデザインする。実践的なカリキュラムで、一人一人に合った人材育成方法をデザインしたらどうでしょう。 
 坂本 コンベンションには地域外からも多くの人が訪れますので、この機会に静岡県が持っている情報を発信することが大事です。東部は静岡県の東玄関ですから、産業界の代表的なもの、しかも新商品が常時展示されていたり、最先端の技術が一堂に会していたりする状況がほしいですね。
 また、地域の偉人を紹介するコーナーもつくるべきでしょう。ここは源頼朝や、北海道開拓の祖と言われる依田勉三などを輩出した地域です。子どもたちは地域のことが学べ、大人は産業観光になる。コンベンション、イベントを開くだけでなく、こういう機能も必要と感じます。
 大坪 もう一つ、アフターコンベンションを楽しむことがとても大切です。日本人は得てして勉強や仕事の場で楽しむことを不まじめと考えますが、実は新しい学問や仕事の種はこうした楽しみから生まれます。人は楽しくなると新しい分野に目が向く。これもコンベンションの役割です。



富士山周辺の観光連携―まず、「隗より始めよ」。新たな情報発信とおもてなし強化

 原  最後に富士山周辺の観光連携についてアドバイスをお願いします。
 大坪 緩やかな連携は将来のため必要ですが、やはり「隗より始めよ」。今は伊豆ですら連携ができていませんし、富士山周辺の人々を集めて1回花火を上げておしまい、では意味がありません。まずは、静岡県側から富士山を登ってもらうことを考えてほしい。静岡県がうまくいけばほかの地域も乗ってくるでしょう。
 土居 地域の連携はもう過去の話といっていいかもしれません。今はスマートフォンやipadの時代。各地がいかなる情報発信を行い、それを相互に活用し合うかが鍵です。こだわりの人間がいて、こだわりの人間が地域で磨きあげたものがあれば、あとはそれを情報発信するだけです。情報端末はすでに広まっています。
 今、ビジネスでは高齢者を消費世代としか考えていませんが、彼らは経験豊富な知恵の集団。彼らが地域のいいものを磨き上げる人材になり、その情報を伝えた地域が勝つでしょう。
 坂本 観光は代表的な次世代産業です。観光入込客統計を見ると全国で観光客は増えています。静岡県が減っているに過ぎません。
 伊豆は料理がおいしいと言いますが、日本海の魚のおいしさをご存じですか。風光明媚(び)だと言いますが、美しい景色は至るところにあります。その中で勝つには、ユニークなイベントや一人一人が織りなすおもてなしを磨くしかありません。
 イベントは個別の宿で、地域全体で、いろいろありますが、個が魅力的でなければだめですし、関係者が輝いていなければ客の心は打てません。また、懇話会で徹底的におもてなしの勉強をしたらいい。景気や交通ネットワークのせいにしているようでは進歩はありません。富士山は世界の憧れですし、おいしい食事、美しい街並みに触れたい人は多いのですから。

原 和也 静岡新聞社・静岡放送東部総局長

原 和也
静岡新聞社・静岡放送
東部総局長





■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.