サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 来年6月にも—と期待が高まる富士山の世界文化遺産登録。実現すれば県東部に新たな価値が加わる。サンフロント21懇話会が本年度の活動方針の一つに掲げる「富士山周辺の観光連携の促進」が大きく前進する。10月の「風は東から」は、この新しい価値を地域の活性化にどう活用するかを探った。懇話会代表幹事で日本富士山協会会長を務める岡野光喜スルガ銀行社長と、懇話会会員で富士五湖観光連盟会長を務める堀内光一郎富士急行社長に聞いた。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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富士山を核に観光連携を促進 世界遺産の品格持てる地域に
富士山の環境守る取り組み強化
スルガ銀行 岡野光喜社長(懇話会代表幹事)

岡野光喜 スルガ銀行社長
慶大卒業後、富士銀行勤務を経て入行。1985年頭取、98年より社長兼CEO。日本富士山協会会長、富士山世界遺産センター(仮称)基本構想策定委員会委員

 ― 富士山の魅力をどうお考えですか。
岡野 江戸時代、正月3日に日本橋から富士山を眺める「初富士」という風習がありました。そこから縁起の良い初夢「一富士二鷹三茄子」の言い伝えが広まったと言われています。江戸庶民の間では、富士山は縁起のよいシンボル、信仰の対象として親しまれてきました。また、1853年、ペリーの来航の模様を記した「ペリー艦隊日本遠征記」の表紙には、富士山をバックに日本人とアメリカ人が向き合うような姿が型押しされています。
富士山の魅力は一言ではとても言い表せませんが、見る者に畏敬や畏怖の念を抱かせる何かがあると思います。

― 富士山が世界文化遺産に登録される意味をどうお考えですか。
岡野 世界遺産になるとは、顕著な普遍的価値があることが世界的に認められることであり、われわれがそれを後世に守り伝える義務を負うことを意味します。今、年間33〜40万人が富士山に登ります。これは私見ですが、世界遺産登録を機に、富士山の環境、生態系を維持するための入山制限は必要でしょうし、入山料も検討していかねばなりません。また、現代人が忘れてしまった古くからの富士山信仰などをもう一度思い出してみることも必要でしょう。
世界文化遺産登録が期待される富士山と静岡・山梨両県

― 経済効果についてはいかがですか。
■写真集「富士幻景」
岡野 世界遺産登録はそこにある自然遺産や文化遺産を保護、維持し、次の世代に伝えようというのが本旨。そこに経済効果を期待するものではないと思います。
物見遊山やお土産が目的でなく、富士山の文化的資産を皆さんにご理解いただくさまざまな工夫が必要だと思います。例えば昨年、当社は「富士幻景」という写真集を作りました。古来から日本人の崇敬を集めた富士山が、幕末以降の近代化と対外戦争のプロセスの中で国家の山へと変容していく様子が写真や印刷物340点から見てとれる本です。
また、富士山と周辺に散らばる文化的価値を3Dで立体的に見せるなど、21世紀のIT(情報技術)を使った展示や案内の仕方もあると思います。

 ― 富士山の環境を守る統一したルールも必要です。
岡野 米国のイエローストーンやヨセミテ、ヨーロッパのアルプスに行って気付くのは、富士山の周りほど看板が乱立しているところはないということです。「景観」に関して非常に無神経ですし、条例も市町ごとに違う。富士山を撮ろうとしても、屋根より高い10メートル、15メートルの高さの看板が写りこんでしまいます。国内でも、京都や鎌倉など強い景観規制をかけている場所はありますから、県民一人一人の意識をどう変えていくかでしょうね。

 ― 富士山周辺の観光連携を活発にするアイデアはありますか。
岡野 富士山は静岡、山梨両県にまたがります。両県と周辺市町村が協力して行う「Mt.FUJIエコサイクリング」のようなイベントを増やしていけるといいですね。例えば、都道府県対抗の富士山一周駅伝はどうでしょうか。中学生の大会から大学生、社会人までさまざまなカテゴリーが考えられます。新緑や紅葉の頃に富士山を見ながら走ると楽しみも増すと思います。

 ― 連携を促進するコツは何でしょう。
岡野 今は“天動説”の考え方が多いように見受けられます。富士山を中心に活動するときには、地動説的に皆で手を取り合いお互いに補完し合うという気持ちがあればできるでしょうが、おらが町、おらが村という天動説では連携や波及効果は見込めないと思います。
GNPのような有形の経済活動を優先するのか、ブータンの「幸福度」のように人々の心に響くことを大切にするのか。そこの考え一つでしょう。

 ― 連携促進を進める上での懇話会の役割は?
岡野 富士山が世界遺産に登録された時にわれわれはどう物事を行うべきか、ボーダーレスの世界においてどう富士山周辺一体で活動をしていくのか。懇話会でもきちんと話し合う機会をつくりたいですね。



登録にらみ、受け皿整備と意識改革急げ
富士急行 堀内光一郎社長

堀内光一郎 富士急行社長
慶大卒業。1983年日本長期信用銀行入行。88年富士急行入社、取締役、専務取締役を経て89年より現職。富士山会議理事、富士五湖観光連盟会長

 ― 富士山世界文化遺産登録がいよいよ現実味を帯びてきました。
 堀内 1992年にわれわれが登録に向けた署名活動を始めた頃は、登録されると規制がかかってしまい、裏庭に穴も掘れなくなるという声が出るほど反対の声がありました。普通、登録への活動は地元を中心に進めますが、富士山の場合、地元よりむしろ日本中が盛り上がるという、特別な例だと感じます。
 とはいえ地元の方も、登録の過程であらためて富士山を守るためのプログラムを考え、それを計画的に進めなければいけないことを再確認できたと思います。

 ― 国内外のお客さまを迎え入れる準備は進んでいますか?
 堀内 富士山周辺は国際観光地ですから、多言語表記などはすでに整っています。しかし、世界文化遺産となるとそれにふさわしい受け入れ方が必要ですね。
 一番大事なのは「富士山は世界の共有財産である」という意識だと思います。特に地元の方は、今までありのままの富士山を見てきたものが、今回、さまざまな価値をさまざまな方向から再認識できた。加えて新たな価値も発見できたと思います。
 その価値をきちんと理解した上で、言ってみれば「格の高い」方法で国内外の方をお迎えする。その意識があるかないかであって、決してハード面だけの問題ではないと思いますし、それができれば受け入れ準備の一番難しいところは越えたこととなると思います。

 ― 富士山周辺の観光連携を進める上で県境意識はあると思われますか。
 堀内 現在、岡野社長に会長をお願いしている「日本富士山協会」の発足時から、静岡、山梨両県には少なくとも観光連携に関する障害はありません。富士山憲章もでき、富士山には表も裏もないというのは行政面でもすでに成立していると思います。
 良い例が富士山静岡空港です。この空港ができて一番恩恵を受けたのは山梨県側とも言われています。事実かどうかは別として、山梨側でお客さまを受け入れたとしても、結果的に富士山周辺が繁栄すればいいじゃないかという温かい気持ちで見て頂いていると思います。まさに共存共栄です。
 「富士山一周ドリームウォーク」は、周辺市町村の協力を得て定着したイベントです。こういう実績を見れば県境がないというのは一目瞭然ですね。

 ― しかし、多くの観光パンフレットは自分のところの情報しか載せていません。
 ■富士山周辺の観光ポータルサイト「フジヤマNAVI」
堀内 それは仕方ないでしょう。自分のエリアの観光を深く掘り下げるのは当然で、むしろそれを結び付けるものがあるかが問題です。一例ですが、当社は富士山周辺の観光ポータルサイト「フジヤマNAVI」を、一企業の枠組みを越えて開設しました。
最初に富士山協会をつくられたのは時之栖の庄司清和現会長です。富士山を中心に据えた山梨・静岡分け隔てない地図を作られて、富士山を中心に地域を盛り上げたいとおっしゃった。当時、すごく画期的なことでした。

 ― 情報の共有とともに交通網の整備も欠かせません。
堀内 須走IC以南では自動車専用の須走道路、御殿場バイパスが建設中です。これらの区間が開通すると、高速道路のみで中央自動車道と新東名高速道路が接続されます。渋滞個所の解消も進むでしょうね。
また15年後、リニア中央新幹線が開業するまでに、甲府駅から富士山へのアクセスをもっと良くしておかないと、富士山観光のお客さまを取り込み損ねてしまいます。せっかく東京から15分、名古屋からも40分で来られるリニアという“武器”を活用できないのはもったいない。ここのアクセスを改善することは静岡にもメリットがあると思います。

 ― 来年6月の登録までに、意識面での受け入れ準備をどう進めますか。
堀内 先日、イコモス(国際記念物遺跡会議)の視察も終わり、皆さんほっとしているところでしょう。しかし、問題は登録された後です。ここで気を抜かず「登録を前提とした準備をどう進めますか」と問い続けていくしかないと思います。



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