サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 カラフルなウエアに身を包み、さっそうとスポーツサイクルで駆け抜けるサイクリストたち。健康志向の高まりや環境にやさしいスポーツとして、サイクリング人口は増加傾向にある。こうした自転車愛好家を取り込もうと、全国各地で、旅先で自転車を楽しむ「サイクルツーリズム」に力を入れる。先ごろ、県内でもサイクルツーリズムを推進する団体が協議会の準備会を立ち上げた。11月の「風は東から」は、県内の事例を紹介しながらサイクルツーリズムの可能性を考える。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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サイクルツーリズムで県内団結 相互交流とインバウンドに期待
健康志向、個別旅行志向を反映
 自転車ブームと言われる近年、美しい自然景観を自転車で楽しむ「サイクルツーリズム」が盛んになっている。団体から個人に旅行の形が変わる中、家族や小グループで手軽に楽しむアクティビティーとしても人気が高い。
 瀬戸内海横断自転車道(通称「しまなみ海道」)は、 歴史と文化にあふれる島々を結ぶ海の道だ。年間を通じて多くのサイクリストが走行を楽しむ。石川県の能登半島は1周400キロのコースを3日間で走り切る「ツール・ド・のと」が有名だ。富士山ろくを静岡・山梨両県にまたがり1周する「Mt.富士エコサイクリング」には、毎年1,500人が参加する。
 静岡県の温暖な気候は通年でサイクリングが楽しめ、風光明媚な景観や適度に起伏に富んだ多彩な道がある。サイクリングブームを背景に(1)伊豆狩野川流域(2)浜名湖沿岸・天竜川流域(3)小笠山山ろく(4)富士山ろく―の4エリアが自転車適地として形成されつつある。
■城山を背に狩野川沿いのサイクリングを楽しむ参加者(狩野川100キロサイクリング)


900人を集める定番イベントに成長
狩野川100キロ サイクリング
 「狩野川100キロサイクリング」は、2000年の伊豆新世紀創造祭で旧大仁町のイベントとして始まった。今年で13回を数え、2日間で延べ958人が参加した。100キロコース(中学生以上)と30キロのファミリーコースがあり、狩野川や大見川沿いの道を走る。今年は新たに、頼朝挙兵830年祭と連動した「よりとも歴史めぐりコース」も設定した。
 参加者は県内が多く、中でも東部が全体の6割弱を占める。県外は神奈川、東京の順で、遠くは東北からの参加も。リピーターが半数を占めるのも特徴だ。
 主催する伊豆の国市観光協会によると、今年は120人が市内の旅館に宿泊した。同イベントの実行委員長を務めるサイクルスポーツセンターの佐藤和広サイクルスポーツ普及事業部次長は「参加者向けに自転車の保管に対する配慮や割引料金を設定している宿も増えてきた」と語る。
 しかし、年に1回のイベントでは受け入れ人数に限界があるため、今後は同イベントで培ったノウハウを生かし、いつでもサイクリストを受け入れられる地域づくりを広域連携で進めるという。その一例として、同市観光協会は100キロサイクリングのコースを一部使った「朝一サイクリング(5〜11月)」やレンタサイクルによる歴史めぐりスタンプラリー(通年)を行っている。参加者の評判も上々だ。
 十数年の間に、900人以上のサイクリストを集める定番イベントに成長、狩野川堤防上のコースも舗装が進み、休日にサイクリストの姿を数多く見かけるようになった。


イタリア製サイクルで天城を楽しむ
伊豆市観光協会天城支部
■天城支部の内部にあるサイクリングコーナー。簡単な工具類も常備している
 イタリアで人気のスポーツサイクル「ビアンキ」を貸し出し、天城のダイナミックな自然を自転車で楽しむ提案をしているのが伊豆市観光協会の天城支部だ。同協会の板垣敏弘事務局長は「未舗装の道、里山の風景などを自転車で楽しんでもらいたい。途中、地元ならではのうまいものや足湯、立ち寄り湯なども楽しめる。ここには、サイクリングで回れる魅力的な素材がたくさんある」と天城の自然と自転車の相性の良さをアピールする。
 同支部には、サイクリストのために空気入れや工具はもちろん、サイクルスポーツセンターでメンテナンスの講習を受けたスタッフを常駐させている。今後は「自転車部品や携帯スナックなど、サイクルステーション化に向けた整備を行いたい」(板垣氏)と抱負を語る。並行して、自転車のメカニックが分かる人材やツアーガイドの育成にも取り組みたい考えだ。
 こうした試みが外部からも評価され、星野リゾートの1つ「リゾナーレ熱海」は、天城のガイド付きレンタサイクルと石窯のピザが楽しめる宿泊プランを企画した。地元の大型リゾート施設でも現在、プランを検討中だ。
 サイクリストの受け皿整備も地域ぐるみで進む。1台数万円から十数万円、ものによっては100万円を超す高級自転車もあるため、部屋まで持ち込めるサービスを行う旅館も出始めた。また、地区内にサイクルラック(専用スタンド)を10カ所設置、明徳観光センターは草もちの“サイクリスト割引”がある。今後、天城支部はサイクリスト特典が付く店などをマップ化する予定だ。


台湾からファムトリップ誘致
静岡遠州観光ネットワーク
■台湾では旅行会社(左)に遠州の魅力を説明した
 静岡遠州観光ネットワーク(会長・太田忠四郎袋井市観光協会長)は、5市1町(※)でつくる観光振興のためのネットワークだ。歴史や食などをテーマに6つの地域の特徴をくくり、「B級グルメスタジアムinエコパ」やグルメと酒蔵を巡る(仮称)遠州「グル蔵」などを開催している。
 同ネットワークが力を入れるのが「ゆるゆる遠州サイクルツーリズム」。大井川と天竜川に挟まれたこの地域は、緩やかなカーブや適度な起伏を持つ地形の上に広大な茶畑や田園風景、大海原が次々と広がる。点在する神社仏閣や古い街並み、観光施設などを網羅したマップづくりやガイド養成に力を入れている。
 10月23〜26日には視察とPRを兼ね、サイクリング先進地・台湾へも赴いた。世界的な自転車メーカー「ジャイアント」の本拠地があり、欧米に多くの自転車フレームを供給している。街中には専門店が立ち並び、地下鉄やエレベーターへ乗り入れることもできる。ICカードを使ったレンタサイクルは乗り捨ても可能だ。
 太田会長らは台湾の観光関係者、出版社などを訪問。「待っているだけでは人は来ない。こちらから仕掛ける観光をしていきたい。そのために、おらが町ではなく、エリアでつながり、地域の持ち味を生かした旅行商品を創る。創った商品はPRし、来ていただいた方を精いっぱいもてなす。その積み重ねが大切」と太田会長。こうした活動が実を結び、今月末、台湾から自転車関係と旅行会社が同地域を訪問、富士山静岡空港を活用した相互のサイクルツアーなどを模索していく。


協議会立ち上げ、サイクルツーリズムを推進
 静岡遠州観光ネットワークと伊豆市・伊豆の国市・函南町の各観光協会が発起人となって全国でも珍しい「静岡県サイクルツーリズム協議会」を設立する。
 同協議会は(1)自転車適地としての特徴と個性を地域別に整理し、自転車旅の商品化や誘客活動を計画(2)サイクリングマップの標準化や宿泊業に対するサイクルツーリズムの対応推奨(3)海外からのファムトリップにおける連携や合同セールス活動の実施─などを行う。「サイクリングを軸に新しい地域の魅力を掘り起こし、広域で連携しながら静岡の良さを発信したい」と代表に就任予定の太田会長。12月12日に設立総会を開く予定だ。

※静岡遠州観光ネットワーク…磐田市、袋井市、掛川市、菊川市、御前崎市、森町の5市1町の観光協会で設立。


 「地域連携で静岡ファン増やせ」
  ■サンフロント21懇話会アドバイザー土居弘幸氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授)
  ■加藤博昭
静岡県観光・空港振興局長
 サイクルツーリズムは県が進めるニューツーリズムの中でも力を入れたい分野だ。
 気候が温暖な本県はサイクリングにはうってつけの場所。伊豆なら伊豆の、中東遠なら中東遠の特色がしっかり出せ、それぞれに違った風景、歴史、文化が1年中楽しめる。
 静岡県サイクルツーリズム協議会という、全県をカバーした民間の動きは県も歓迎したい。海外からの誘客も、例えば「ジャイアント」の会長をファムトリップで呼ぶなど、県ができる支援もあるだろう。
 伊豆半島ジオパークは先日、日本ジオパークに加盟を果たした。今後、ジオサイトを巡る手段として自転車にも注目が集まるだろう。富士山世界文化遺産登録も期待されている。サイクリングは四季折々、いつも新しい発見がある。各地で頑張っている団体が、それぞれのお客さんに「次は伊豆に行ってみてよ」「遠州にはこんな見どころがあるよ」と相互に紹介しあい、静岡ファン、サイクリングファンを増やしてほしい。

■企画・制作/静岡新聞社営業局

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