今年6月に世界文化遺産登録が期待される富士山、同じく世界文化遺産として九州・山口の近代化産業遺産群の構成資産となった韮山反射炉、そして、昨年日本ジオパークの仲間入りを果たし、これから世界に挑戦する伊豆半島ジオパーク─。1月の「風は東から」は、今後数年のうちに、静岡県東部に生まれるであろう世界レベルの価値について、それぞれの概要や関係者の意気込みを紹介する。
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10
伊豆地区分科会 パネルディスカッション
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「日本の宝」登録まで秒読み
「世界遺産暫定リスト入りから国、山梨県、市町村、民間の方と一緒になって進めてきた。富士山を守ってくれた思い、努力をここでもう一度思い返して感謝したい」と語る下山県文化・観光部部長
富士山は2007年1月、世界遺産暫定リストに登録された。世界遺産とは、遺跡、景観、自然など、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つ資産のこと。三つの種類(文化遺産、自然遺産、複合遺産)があり、富士山は「神聖で荘厳な姿を基盤として、さまざまな信仰や芸術を生み出した『名山』として世界に類を見ない価値」を持つとして、暫定リスト入りを果たした。
12年1月に日本政府が推薦書をユネスコ(国連教育科学文化機関)に提出し、8月から9月にかけてイコモス(国際記念物遺跡会議)による現地調査が行われた。今年6月に開かれる世界遺産委員会で、登録の審議が行われる。
静岡県は山梨県、関連する市町村、住民、NPOなどと連携して「価値の証明」と「適切な保護保全についての体制」を整えてきた。すでに、包括的な「保存管理計画」を作りユネスコに提出。県独自に行動計画も作成した。
世界文化遺産登録は、富士山を将来にわたり責任を持って守ることを、世界に約束することを意味する。静岡県文化・観光部の下山晃司部長は「今まで登録に向け努力してきたが、ある意味、登録されてからが本当のスタートだ」と表情を引き締める。
審議の結果をただ待つだけでなく「現地調査で出た質問にきちんと答えること、また行動計画に沿ってやるべきことを着実にこなしたい。イコモスの方の反応もよかった。富士山を守っていくというわれわれの思いも伝わっているだろう」と下山部長。6月の結果が待ち望まれる。
■右手に富士を望み、左手には韮山反射炉が位置する。世界遺産候補が一度に見られる絶景ポイントだ(伊豆の国市中・蔵屋鳴沢敷地内の茶畑から)
日本の産業革命を生み出した遺産
「九州・山口の近代化産業遺産群」は、19世紀末から20世紀初頭という、短期間のうちに近代化を果たした日本を支えた「鉄・石炭・造船」に関わる産業遺産群だ。鹿児島市の旧集成館、佐賀市の三重津海軍所跡、北九州市の八幡製鉄所など、九州および山口県を中心に全国8エリア・28資産で構成されている。2009年、世界遺産暫定リストに記載され、15年の登録を目指す。
韮山反射炉は、日本の製鉄技術導入の黎明期を象徴する建造物として、構成資産に加えられた。実際に稼動した反射炉としては世界で唯一、現存する。
反射炉がある伊豆の国市は、世界遺産登録に向け周辺整備を含む景観条例の策定を急ぐ。同市の望月良和市長は「近代化産業遺産群の資産候補入りをきっかけに、自分たちが持つ資産の価値を正しく認識し、後世に伝えたい」と語る。反射炉建造を幕府に進言した韮山代官江川太郎左衛門英龍(1801 —
55年)の先見性、行動力、また、国を守るという強い信念などもきちんと掘り下げ、整理する予定だ。
市民レベルで活動の輪を広げようと「反射炉応援団」も結成。約3000人が登録した。小中学校などの団体を加えると6000人を超す。望月市長は「かつて日本を揺り動かし、世界に羽ばたく大きな1ページを作った坦庵公(江川英龍)の精神を受け継ぎ、社会に貢献できる人材をこの地から一人でも多く輩出したい」と期待する。
世界的な価値を新しい観光の形に
観光とは、価値あるものを観るという意味だ。富士山、韮山反射炉の二つの世界遺産登録と伊豆半島の世界ジオパーク認定。次々と世界レベルの価値が県内に生まれていく。下山部長は「日本国内を見渡してもこれほど恵まれているところはない。それをよく認識して生かしていかなければならない」と指摘する。
道路インフラの整備も進む。今年、清水港と土肥港を結ぶ航路が県道223(ふじさん)号の認定を受ける。2013年度には東駿河湾環状道路が全線開通し、新東名と伊豆中央道も直結する。伊豆半島、富士山周辺がより一体的になる。
一方で、観光の形が変わった。職場の団体旅行で、温泉に入っておいしいものを食べるというのもいいが、ジオパークのように親子で一緒に学んだり、体験したりできる旅行も増えてきた。さまざまな資源、それも超一流の資源が数多くある東部・伊豆。その一つ一つをどう磨くか、どう組み合わせるか、従来の観光とは一線を画すテーマやストーリーが必要だ。
長く低迷する伊豆観光にとっては明るいニュース。今までのアプローチとは違う、地域の売り出し方が求められている。
伊豆の国市の望月市長は「富士山、韮山反射炉の世界遺産登録、伊豆の生成の遺産としての世界ジオパーク認定。この3つの出来事がこれからの伊豆の再生や、自分たちの気持ちをつくり上げていく大きな材料になっていくだろう」と期待する
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