サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 今、お仕着せの観光商品ではなく、地域の魅力を生かした「ニューツーリズム」が各地で始まっている。4月の「風は東から」は、2月に行われた富士地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、和歌山大学の大澤健准教授、富士山観光交流ビューロー(富士市)の福本公美さん、富士山登山学校ごうりき(山梨県富士吉田市)代表の近藤光一さん、藤枝市観光協会の渡村マイさんを迎え、「ニューツーリズム」の具体例を聞いた。コーディネーターはサンフロント21懇話会シンクタンクTESSの大石人士研究員(静岡経済研究所理事)。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

富士地区分科会パネル討論

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ニューツーリズムで地域おこし 心の触れ合いと感動体験がカギ
始まった 新しい観光の形
●パネリスト
和歌山大学経済学部准教授
大澤健さん

和歌山県内を主要フィールドとして、観光による地域活性化を研究している

大木貴之 ワインツーリズムプロデューサー
●パネリスト
富士山登山学校ごうりき代表
近藤光一さん

富士山のふもとから山頂までをフィールドに富士山エコツーリズム事業を展開中
大石 今、新しい観光の形 「ニューツーリズム」が注目されています。活動をご紹介ください。
近藤 富士登山ツアーを数多く手掛ける「ごうりき」の代表をしています。キャッチコピーは「富士山の空気を感じてほしい」。参加される方一人一人の想(おも)いに寄り添えるように、少人数で行っています。
 山好きの友達と一緒に登ったり、旅行会社のツアーに参加したり、富士登山の仕方はいろいろあります。一方で、健康に不安がある方、登りたいけれど膝が痛い方、普段何もやっていない方、精神的に富士山に登るのが怖い方なども多くいらっしゃいます。私が行っているのはこういう方たち向けのツアーです。
福本 富士山観光交流ビューローは近隣の市町との連携と、観光交流のさらなる発展を目指し、2008年に設立されました。
 私は「しらす街道推進事業」を担当しています。当時、田子の浦のしらすは、ほとんどが地元で消費されていました。しかし、毎年のしらす祭りには千人以上の人が訪れます。そこで観光誘客ができないかと、田子の浦漁協、しらすの販売店、富士市観光課、ビューローが協議をし、しらすの販売店が点在する通りを「富士山しらす街道」と名付けてPRを始めました。
 セリ場に簡単な机とテーブルを並べて、海を見ながらしらすが食べられる場所を作りました。漁協の組合長には「こんな所で?」と言われましたが、「お客さんにとっては、この風景こそ非日常」と説得し、ご理解いただいて今があります。
 今では個人のお客さま約2万人、バス255台に来ていただくまでになりました。
渡村 4年前に観光協会に入り、藤枝の観光振興に携わるようになりました。市内をくまなく回った結果、職人さんや歴史研究家など、そこに住んでいる人を主役にした観光をしたいと「たびいく」を作りました。
 キーワードは「出会い」「五感で感じる体験」です。普段のツアーでは出会えない酒造会社の社長さんに出会うといったことをやらせてもらっています。受け身の観光ではなく、一緒に何かを作る、何かを体験することを心掛けています。
 環境省の「五感で楽しむまち大賞」もいただき、エコツーリズムの関係でも全国的に注目していただいています。


地元の人の誇りにつなげる
●パネリスト
富士山観光交流ビューロー
福本公美さん

しらす街道推進事業をはじめとする観光客誘致に携わるほか、おもてなしセミナーなど地域啓発事業を担当

●パネリスト
藤枝市観光協会
渡村マイさん
「体験」と「出会い」をテーマとした観光体験プログラム集「たびいく」の情報発信・商品開発に取り組む
大石 ニューツーリズムならではのお客さまとの触れ合いや地域の方々との関係をお聞かせください。
近藤 富士登山という過酷な非日常の中で、参加者だけでなく私自身も心の鎧(よろい)を剥(は)がさないといけない場面が多くあります。例えば、高山病になる場合もありますし、酸素も薄くなってきますから体力的にきつくなったりもします。そういった時に心と心で、どうかかわり合うか。どちらかというと、山の説明より人生観の話になります。
 例えば、「実はリストラにあってしまい、富士山に気分を変えに来た」とか、「ずっと反発していたおやじと一緒に最後に富士山に登りたい」とかいう話をされますので、私もより深く向き合ってガイドをしています。また、こういう体験をされた方はリピーターになってくれたり、口コミで親しい人に伝えたりもしてくれます。
 シーズン以外には地元の子どもたちの体験活動をサポートしています。今は学校や企業などと連携して、地域の方たちとの体験の場を提供することを意識的にやっています。
福本 「田子の浦は富士市の誇りだね」という言葉や「外の人を連れて行くならば田子の浦漁港がおすすめ」という書き込みを見て、市民の方にとってそういった場所ができたんだなということがうれしかったです。
 また、日曜日や雨風の日など、普段なら漁に出ない日にも、バスでわざわざ東京から来てくれるお客さんのためにシラスを引いてくれるなど、漁師の皆さんが協力してくださっているところが大きいです。  
渡村 私の場合、お客さんと受け入れる側両方の反応が気になります。そこはアンケートなどには出てきませんので、直接いろいろ聞きに行きます。「すごく面白かった」「やって良かった」「次はもっとよくできるよ」という声をいただくと本当にうれしいです。
 受け入れる側の皆さんは、最初はあまりやる気でなかったりします。しかし、一度受け入れてお客さんの喜ぶ顔や、自分のところの茶畑も捨てたものじゃないなということを実感してもらうと、その人自身の中でそれが喜びになっているなと感じます。それをコーディネートできるのが、ニューツーリズムの面白さだと思います。
大澤 皆さんの取り組みから、観光が大きく変わっているのだということが分かると思います。「これは観光なのか」というものもありますし、「こんなことやっても、もうからない」「これで何人来るの」と思った方もいらっしゃるでしょう。
 ですが、やはりこれがこれからの観光だろうと思います。そこに心と心の触れ合いがあったり、珍しい体験があったりするからこそ、お客さんが来てくださる。
 私も方々からお茶をいただきますが、それらは「もの」なんです。ですが藤枝で、生産者の気持ちやお茶匠のプライドを見たり、聞いたりすると、それが単なる「もの」でなくなってきます。今では藤枝のお茶しか飲みません。


環富士山で着地型観光を
●コーディネーター
静岡経済研究所理事
大石人士

静岡銀行入行後、静岡経済研究所出向。静岡県社会資本整備重点計画策定・推進会議委員などを務める。サンフロント21懇話会TESS研究員

大石 富士山の世界文化遺産登録をにらんで、環富士山のニューツーリズムにもぜひ取り組んでください。
近藤 富士山の環境保全が観光振興につながると思っていますので、これからは保全、保護に尽力していきたいと思います。いずれは環富士山のくくりで皆さんと一緒に取り組んでいけたらと思います。
 また、私と同じような考えを持つガイドも育成したいですね。産官学、研究者の方、住民の方、あるいは訪れる参加者の方、そういった方々と一緒に人づくりをしていきたいと思います。
福本 富士市ならではの富士山の魅力をもっとアピールしていかなければならないと思っています。富士山が見えれば良いのではなく、富士山をきっかけに、訪れた方の心に残るような時間を提供できる仕掛けをしたいと思っています。
 一つの例ですが、新富士駅の観光案内所では富士山が見えなかった日に、「男前証明書」と「べっぴん証明書」を発行しています。富士山を女性に見立て、男性には「男前」が来たので恥ずかしくて、女性には「べっぴん」が、きれいなので嫉妬(しっと)して隠れてしまったという内容が記載されています。これで、富士山を見ることが出来なかったお客さんも喜んで帰ってくださるようになりました。
渡村 「近き者喜べば、遠き者来たる」と孔子が言っていますが、例えば、観光関係者が富士山を素晴らしいと言っても、住んでいる方がその楽しみ方を感じなかったら違うと思うのです。
 住んでいる人が豊かで幸せだと感じられるからこそ、外から来た人が本当に満足できるのではないかと思います。ニューツーリズムを通じた地域の再発見と来訪者の受け入れを、富士山をきっかけに深めていければ、東部と一体で情報発信ができるのではないでしょうか。
大澤 地域の人たちの想いが、最後には観光を支えるのだろうと思いますし、その想いが外から人を呼ぶのだと思います。観光はあくまで手段であり、地域の人たちが地域づくりのために観光をどう使うか、またそれを多くの人たちが考えていく。ニューツーリズムではこれが大事なことです。
 富士山に対する想いはいろいろあるでしょう。その想いを実現するために、観光をどう使っていくかを考えていかなければなりません。そのためには「どうやって集客するかを自分たちで考えられる」―これが必須条件です。
 大事なのは行動すること、一緒に行動する人を増やすこと。その人たちが連携することで、地域の想いを結びつけた本当の地域づくりになっていくのではと思います。



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