サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 伊豆半島の観光交流客数は1988年をピークに、2011年には約半分にまで減少。まったく歯止めがかからない。この状況から抜け出すには何が必要か―。5月の「風は東から」は、これからの伊豆の観光の在り方を考える。4月に就任した県観光協会の太田忠四郎専務理事(前・袋井市観光協会長)に、今後の伊豆観光について、付加価値をつけ規模を拡大した「ふくろい遠州の花火大会」やご当地グルメ「たまごふわふわ」を実例に聞いた。
併せて、伊豆の魅力を新たな切り口や手法で発信する3事例を紹介する。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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「あるもの探し」で観光振興 地域の誇りを「感動体験」に
先人の知恵を今に生かす

太田忠四郎 県観光協会専務理事
1943年袋井市生まれ。日産自動車(旧プリンス自動車工業)でカーデザインに携わった後、地元に戻り、89年に椛n建を設立、代表取締役就任。袋井商工会議所専務理事、袋井市観光協会会長、5市1町で組織する静岡遠州観光ネットワーク会長などを歴任し、4月から現職。

 「観光」とは優れたものに光を当てるという意味だ。自分の住んでいる地域をよく知り、住民が誇りに思える地元の宝をどう発見し、光を当て形にするか。食べ物、神社仏閣、景観―調べていくとたくさんある。
例えば、昔からやっている袋井の花火大会。日本一の大会にしようと、全国花火選抜競技会で選ばれた花火師に集まってもらい、打ち上げるようにした。おかげで日本で5本の指に入る大会に成長した。 
全国的に珍しい袋井の丸凧(だこ)も浮世絵に残っていたものだ。偶然、美術雑誌で見つけた。調べるうちに、浮世絵が全部で9枚、版木も見つかった。復元した丸凧の保存会をつくり、今では地域が誇れる名物になっている。各地の凧団体との交流も盛んだ。
ご当地グルメ「たまごふわふわ」も江戸時代の文献から見つけたものだ。江戸時代の料理に詳しい人や地元の料理人と試行錯誤で作り上げた。ネーミングも大事で、聞いた時に「あれ?」と思われるよう、「ふわふわたまご」でなく「たまごふわふわ」にした。

■袋井丸凧(再現)


「待つ観光」から「仕掛ける観光」に
■たまごふわふわ(再現)

 「たまごふわふわ」は袋井に来ないと食べられないようにしている。それが観光とつながる。「たまごふわふわ」を食べに袋井に来て、遠州三山や百合の花を見てくれてもいいし、袋井に来たついでに、「たまごふわふわ」を食べてもらってもいい。まずは地域を知ってもらい、来てもらうこと。そして、しっかり「おもてなし」をする。その先に経済効果はついてくるだろう。
 長年観光に携わる中で、究極は「ファンとリピーターづくり」だと考える。地域にあるものを掘り起こしたり、組み合わせたりして、お客さまに新しい魅力を常にお届けする。つまり、いつも「旬」であること、そして「待つ観光」から「仕掛ける観光」に変わることが大切だ。



選ばれる「伊豆」になるには

 伊豆は個々の観光地の個性が強く、なかなか一つになれないと聞く。確かに市町の観光も大切だが、お客さまから見れば市町の境は関係ない。お客さまに合わせ、地域がつながることが大切だ。伊豆全体を何かでつなげる、つながるものを考えていきたい。この「連携」というキーワードは、これからの地域づくり、観光振興で大きくクローズアップされる考えだ。
特に今は、昔のような団体旅行は減る一方で、多くは個人・グループで動く「私(わたくし)の旅」だ。「私」に来てもらうには、「人の心に残る、心を動かす仕掛け」が必要であり、選ばれる観光地になることが必要だ。



事例紹介

―江戸城築城石の歴史を再現―
熱川温泉石曳(ひ)き道灌まつり

 東伊豆町には、江戸城築城に使われた石が切り出された「石切り場」が数多く残る。同町は2年前から、築城石を大勢の人力で運ぶ「石曳(ひ)き祭り」を行っている。敷板を何枚も地面に並べ、その上に12トンもある本物の築城石を載せ、太い綱で引く。引き手は約250人。地元はもちろん、観光客からも広く募集するが、昔から「100人持ちの石」とも言われ、引き手の息がぴったり合わないとびくともしない。
 7月21日(日)に、熱川温泉で初となる「熱川温泉石曳き道灌まつり」が行われる。熱川はその昔、江戸城を築城した室町時代の武将、太田道灌(1432-86年)によって名付けられたと言われていて、今回、道灌の物語を加えることで、熱川の歴史を色濃く反映した祭りにアレンジした。
 熱川温泉観光協会の嶋田愼一朗会長(熱川プリンスホテル社長)は、道灌の墓がある神奈川県伊勢原市に働き掛け、「伊勢原甲冑隊」20人の招へいを決めた。また、祭り当日は、道灌から数えて18代目にあたる子孫が石曳きをリードする。
 将来的には「全国8カ所の道灌ゆかりの地と連携し、道灌サミットなどを行いたい」(嶋田会長)と意気込む。また、道灌が熱川を発見した経緯や、築城石を切り出し、石曳きの行列が港まで連なった様子を説明した看板も新しくした。

■大きな石を力を併せて引く(昨年の様子)
■「熱川の歴史にスポットを当てたい」と話す嶋田社長


―懐かしい伊豆の風景を再び―
伊豆絵葉書ガラス乾板

 日本大学国際関係学部図書館(三島市)には、修善寺出身で絵葉書製造販売をしていた上田彦次郎が撮影したガラス乾板約2,000枚が収蔵されている。息子の英男氏が父が残した古き良き伊豆の風景を観光振興に使えないかと日大に維持管理を依頼。上田氏の自宅倉庫に眠っていたガラス乾板を譲り受け、全てデータベース化した。
 乾板には、昭和30年代を中心に、伊豆各地の風景が写る。片瀬海岸を走るボンネットバス、湯けむりが何本も立ち上る下賀茂温泉、周囲を田んぼに囲まれた韮山反射炉・・・。どこか懐かしいモノクロの世界が広がっている。
 データベース化を中心になって進めた日大の宮川幸司教授は、「山の稜線、川の流れなど地形自体は大きく変わらないため、場所の特定は割合スムーズにできたが、年代の特定が難しい。自動車や護岸工事の様子などから割り出していくしかない」と苦労を語る。昨年11月の文化祭で行ったパネル展には、3日間で300人以上が訪れるなど大きな反響を呼んだ。
 「白黒のシンプルな中に当時の文化や風俗、風景が凝縮している。多くの方に見てもらい、その価値を分かってほしい。この事業はまさに『伊豆再発見』だ」と西ヶ谷洋司同図書館事務課長。今年は、韮山郷土史料館での展覧会を皮切りに、地元信金ギャラリーでの展覧会や、伊豆箱根鉄道での車内つり展示なども予定されている。

■懐かしい風景がよみがえる写真
■ガラス乾板を手に持つ西ヶ谷課長


―不思議な地形を菓子に写して―
ジオガシ旅行団

 昨年、日本ジオパークに認定された伊豆半島ジオパーク。この「ジオパーク」をテーマにした菓子「ジオガシ」が今注目を浴びている。「ジオガシ」とは、地層や地形をクッキーなどの焼き菓子で表現したもの。企画しているのは女性2人のユニット「ジオガシ旅行団」だ。
 寺島春菜さんは南伊豆町生まれ。一昨年ジオガイドとなり、伊豆の風景の素晴らしさ、面白さを多くの人に伝えたいと、もともと好きだった菓子で表現している。鈴木美智子さんは伊豆の国市出身。美大から広告代理店に就職し映像や広告を学び、南伊豆の自然の美しさに強く引かれ、Uターンを決めた。
 ジオガシは現在、伊豆全域10カ所で売られている。渋谷区の商業施設「ヒカリエ」でも取り扱われるなど、評判は上々だ。だが、「ジオガシはツールの一つにすぎない」と2人は言う。地元・伊豆の素晴らしさを発信しながら地域おこしをするのが旅行団結成の目的のため、「一つ280円と、お土産にしては高い。その分、地図や詳しい解説を付け、現地に足を運んでもらう仕掛けをしている」と説明する。ヒジキや黒米など地元の食材を積極的に使うのも、こうした理由からだ。
 「ジオガシを通じて地元の人たちに伊豆の素晴らしさを気づいてもらい、地域のために行動するきっかけになれば」との思いから、今年は地元向けのジオツアーを数多く開催する予定だ。また、伊豆各地のお菓子屋さんに、地元ならではの「ジオガシ」を作ってもらう企画も進めている。

■「多くの人に伊豆に足を運んでもらいたい」と語る寺島さん(右)と鈴木さん
■伊豆の風景を巧みに写し取ったジオガシ



■企画・制作/静岡新聞社営業局

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