サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 JR沼津駅北口の複合型コンベンション施設「プラサヴェルデ」が来年夏、グランドオープンする。地域活性化につながるコンベンション誘致をどう進めるか。8月の「風は東から」は、東部地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに川島アソシエイツ(神奈川県)の川島久男代表、静岡県文化・観光部の塚本高士交流企画局長、日本コンベンションサービス(東京都)の広江真執行役員MICE都市研究所長、アニマルステムセル(東京都)の窪島肇代表取締役を迎え、プラサヴェルデのマーケティングや組織のあり方を聞いた。コーディネーターはサンフロント21懇話会シンクタンクTESSの中山勝研究員(企業経営研究所常務理事)。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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複合型の強みを生かす誘致戦略 顧客視点、連携、人材育成がカギ
戦略的マーケティングが必須
■パネリスト
川島 久男
川島アソシエイツ代表

MICE(マイス=セミナー、会議、展示会などの総称)コンサルタントとして、500件以上の国際会議の誘致、運営にかかわる。VISIT JAPAN大使。群馬県出身。64歳。
■パネリスト
塚本 高士
静岡県文化・観光部
交流企画局長

1979年静岡県庁入庁。2003年静岡総合研究機構主席研究員。06年交通政策室長、くらし・環境部県民生活課長を経て13年現職。静岡市出身。57歳。

 中山 今日は「プラサヴェルデ」のコンベンション誘致と組織のあり方についてうかがいます。
 広江 今、学会や展示会の形態が変わってきています。大勢を集め、偉い人が話をして、意思統一を図るセレモニー型会議が主流でした。これだとせいぜい半日、会場は広ければいい。
 ところが最近は、いろいろな課題に対して合意形成をしたり、新しいアイデアを出したり、グループで討論して結果を持ち寄り、また検討したりといったことが欠かせません。時間がかかるし、大小の会議室が複数必要です。つまり、施設を複雑に使うということです。
 企業の新製品発表なども、多くの人に向けて背景などを説明したり、個別の商談をしたり、用途の異なる会場が複数必要です。プラサヴェルデのように複雑なものに対応できる施設が今の時代には合っていると思います。
 中山 窪島さんは医療系の動物関連のコンサルティング会社を経営されています。獣医学会の規模や形態をお聞かせください。
 窪島 動物医療業界は一兆円産業と言われています。国際学会は主要都市で開きます。日本国内では大阪などで3日間開催し、1日2000〜3000人が集まります。年1、2回は地方都市で開催し、30〜300人程度の規模です。先端医療を議論する会などは中核都市で開かれます。
 学者や研究者は開催場所に、さほどこだわりません。温泉も確かに魅力的ですが、ネットワークや情報収集が主な目的ですので、決め手とはならないでしょう。
 研究者にとって、学会を請け負うのは非常に労力が必要です。大概が持ち回りで、いやな飲み会の幹事みたいです。非常に頭を悩ませますが、それをまるまる受けてくれてコストが安ければアウトソーシングの対象になります。
 塚本 すでに市の展示場が稼働し、来年には、県の国際会議にも対応できる会議場と民間ホテルが稼働します。企業や旅行代理店、学会を請け負うPCO(※1)や業界団体に施設のPRをしているところです。ただ、そこに戦略性がないと効果に結び付かないというご指摘を受けました。きちんとした戦略を立てる必要性を痛切に感じています。
 重要なのは、主催者のニーズをどう捉えるか、ソリューション(課題解決の手段)を提示できるかです。しかし、そこまでのノウハウがまだありません。指定管理者のコングレさんの力を借りるわけですが、地元自治体もきちんと役割を果たさないといけないと思います。



「日本一やさしい」コンセプトを踏襲

 中山 旧キラメッセは「日本一やさしい施設」をコンセプトに多くの支持を集めました。
 川島 島根県松江市に「くにびきメッセ」というコンベンション施設があります。ここのウェブサイトは「心のこもった細部まで行き届いたサービス」「マンツーマンのサポート」。この二つをメッセージとして発信しています。松江市も沼津市と同じ20万人都市ですが、国際会議の誘致数は全国12位です。完全な顧客視点、顧客のメリットを考えたメッセージがウェブサイトの隅々まで行き渡っています。
 海外ではノルウェーのオスロ(人口50万人)も国際会議の開催件数が多い。ここのウェブサイトにはオスロコングレセンターが選ばれる理由が書いてあります。「主催者の困りごとを解決します。担当者が一貫してサポートします」―。松江市と一緒ですね。そういう精神が営業や運営に反映されていて、それが誘致につながっています。ですから、このサイズでは国際会議が無理だと軽々にあきらめる必要はありません。
 広江 プラサヴェルデで一番大きな会議室の収容人数は1,100人、多目的ホールの平土間なら5,000人です。細かく区切ればもっといろいろな使い方ができるでしょう。しかし、主催者から何ができますかと聞かれた時に「何でもできます」は、かえって分かりにくい。
 ですから、国際会議、企業展示で3パターンずつ、それに観光をセットしたパターン、食をセットしたパターンなどを作って提示しないと伝わらないと思います。その情報はウェブサイトにも必要です。
 窪島 地域の強みを生かす方法もあります。米ミネソタ州のロチェスター市にメイヨークリニックという病院があります。患者には米国の歴代大統領やヨルダン国王をはじめ、各界のVIPが名を連ねています。医療をやっている人間はここに行ってきたよ、というと自慢になります。ロチェスターには医療以外の学会は行かないが、医療関係者は行きたがります。
 強みが先か、施設が先かというところですが、強みを生かした理由を見つければいいと思います。

■パネリスト
広江 真
日本コンベンションサービス執行役員

1979年入社、2013年現職。専門はMICEによる地域の活性化、受け入れ体制づくりなど。観光庁のMICE人材育成や仙台、金沢、横浜市などのMICE誘致事業に携わる。東京都出身。60歳。

■パネリスト
窪島 肇
アニマルステムセル
代表取締役

2001年NTTから外資系大手会計事務所へ。11年アニマルステムセル設立。国内初の動物再生医療における医師主導型臨床試験に取り組む。鹿児島県出身。45歳。



コンベンション誘致の決意表明を
■コーディネーター
中山 勝
企業経営研究所 常務理事
1982年スルガ銀行から企業経営研究所へ出向。2008年現職。日本大学国際関係学部非常勤講師も務める。サンフロント21懇話会TESS研究員。島田市出身。55歳。

 中山 誘致はどのように行っていますか。
 塚本 コンベンション、PCO、地元企業団体など、相手先をある程度グループ化してPRをかけています。予約や引き合いもいろいろ頂いていますが、実際に施設が稼働していない中で、具体的にソリューションを提案する能力が不足していると感じています。
 エクスカーション(小旅行)についても、地元の観光資源をどういうパッケージで具体的に提案すれば満足いただけるか、その方法がまだ決まっていません。ある程度、顧客をパターン化して、パターン別に具体的な形を示すことができれば、もっと迫力のある提案ができるのではないかと思います。
 広江 誘致する組織を二つに分けて考えるといいと思います。一つは外に向けて魅力を伝えることを専門に取り組むグループ。もう一つは売るべきものを一生懸命つくる。プラサヴェルデを素材に、学会用、国際会議用、企業ミーティング用に料理する手法です。
 多くの場合、ビューローや観光協会など公的性格の強いところが売りに行きます。商品を開発するのは、最近の傾向としては民間、施設、宿泊施設、観光関係者など地域です。重要なのは食の提供。温かいものは温かく、冷たいものは冷たくできるノウハウを持っているケータリング業者が集まって商品を開発すればいいと思います。
 金沢市では民間がMICE(※2)推進協議会をつくりました。札幌にはコンベンション開発をするNPOがあります。最近では新潟で印刷業者を中心としたMICE推進研究会を作りました。役割分担をして進めるというのがパターン化していますので、参考にされるといいと思います。
 川島 キーはやはり地域全体の「コミットメント」(公約、誓約)です。国際会議やコンベンションを通じて地域に、にぎわいを創るんだということを地域全体で決意する。これは市長に先頭に立っていただきたい。
 具体的には顧客視点の営業サービス、民間も館長もビューローも全部連携して誘致に当たること。そして人材育成。少人数でも結構ですので専任で最低5年の経験を持った人が必要です。MICE誘致は時間がかかるので、人間関係が大事になります。役所から出向して2、3年で変わったり、民間から出向してきて本社ばかり向いていたりだと誘致ができないばかりか、ノウハウも、お客さんも蓄積できません。
 中山 コンベンションも一般の企業経営と同じです。マーケティング戦略を考える基本的なフレームワークに「4C」(※3)があります。これに「コミットメント」のCを加え、五つのCのもと、誘致を一所懸命行っていくと、優位性を築き、「地方にプラサヴェルデあり」ということになると思います。

 

※1  PCO
コンベンションなどを専門的かつ総合的に組織・ 企画・運営する専門業者、
Professional Congress Organizerの略
※2  MICE
Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、 ConventionまたはConference(大会・学会・ 国際会議)、 Exhibition(展示会)の頭文字をとった造語
※3  マーケティングの4C
Customer solution(顧客の抱える問題の解決)、 Cost(顧客が支払う費用)
Convenience(顧客の利便性)、 Communication(顧客へのコミュニケーション)




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