サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 ファルマバレープロジェクトは7月、国の「地域イノベーション戦略推進地域」に指定された。多くの大学・研究機関、300社を超える地域企業が参画し、静岡がんセンターを中心に高度な研究開発や医療現場のニーズを反映させた医療機器の開発で、すでに50を超える製品が生まれている実績が評価された。9月の「風は東から」は「地域イノベーション戦略支援プログラム」を取り上げる。プログラムの内容と、さらなる医療クラスター形成の方法を関係者に聞いた。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

バックナンバー


専門家集団が事業化支援 医療機器分野で海外展開加速
事業化を国も強力支援

植田勝智 PVC所長

 「地域イノベーション戦略推進地域」は、地域経済活性化に向け国が指定地域を集中的に支援する取り組み。今回、ファルマバレープロジェクト推進エリア東部12市町(※1)が指定され、中核的支援機関ファルマバレーセンター(PVC)の機能強化を軸に、5年間の財政支援を受ける。
 指定を受けた12市町の行政、商工団体、大学、金融機関は「富士山麓ファルマバレー戦略推進協議会」をつくり、事業計画を提出。こちらも国の「地域イノベーション戦略支援プログラム」に採択された。

 事業計画では、PVCの連携調整機能を強化するため、「地域連携コーディネータ」を2人から7人に大幅増員。大手製薬メーカーや医療機器メーカーに長年勤めたスペシャリストで構成され、医療現場のニーズの発掘や、企業が持つ技術力を使った医療機器開発、研究成果の事業化、国内外の販路拡大をより強力に支援する。
 

■ファルマバレープロジェクトのさらなる推進役が期待される地域連携コーディネータとアドバイザー。 前列左から佐々木、大竹、粟田、舘川氏、後列左から関口、鐘本、関和、田中、友田、木内氏



診断薬開発に意欲

 同プログラムで展開する産業分野は、(1)がん分野における画期的な医薬品の開発(2)外科手術ロボットなどの医療ロボットの開発(3)今後の超高齢化時代に対応した医療・介護機器の開発―の三つ。全体ディレクターを務めるPVCの植田勝智所長と、地域連携コーディネータに就任した佐々木康夫創薬マネージャー、医療・介護ロボット・機器チームの関口守氏に、事業の進め方や抱負を聞いた。
 ―三つの分野とコーディネータの役割を聞かせてください。
 植田 まず、静岡がんセンターの豊富な症例数を背景に、革新的ながん診断薬の開発に力を注ぎます。具体的には、肺がんの早期診断薬の製品化を目指し、臨床試験に進んでいきます。
 佐々木 その際、どのような患者さんにどのような試験をすれば診断薬の性能がより良くわかるか、臨床試験計画を立てなければなりません。この試験計画は診断薬メーカーが主に作りますが、医薬品の基礎研究から開発研究、マネジメントをしてきた経験から、メーカーと先生の間に入って計画がスムーズに進むようにサポートしていきます。
 植田 新たな診断薬のモデルケースが一つできれば、開発技術はある程度確立します。次にほかの標的が見つかれば、新しい診断薬の種に結び付く。そこで、またメーカーとの業務提携を考えます。その部分でもコーディネータのアドバイスは有用です。
 医薬品については、抗体医薬などの開発もこの5年間で臨床応用まで持っていければと考えています。
 佐々木 今までの研究成果をもとに、がんの診断薬や抗がん剤の芽を出していくことは可能だと思います。
 静岡がんセンターでは治験も数多く行っていると聞きます。PVCの治験推進部がコーディネートしていて、おそらく医師主導治験(※2)も行っているでしょう。通常創薬には長い時間がかかりますが、こうしたレベルの高い環境下で、画期的な新薬の芽を見つけ、臨床試験に入るというのが一つの目標と考えています。

佐々木康夫 PVC
地域連携コーディネータ



上位レベルの医療機器開発

関口守 PVC
地域連携コーディネータ

 ―医療ロボットの開発についてはいかがですか。
 植田 医療現場からは、全身に激しい痛みをともなう患者さんをベッドから起こし、車いすなどにやさしく移動させるロボットがほしいといわれていて、現在、市場面、技術面の調査をしています。
 また、抗がん剤の中には揮発性のものもあるので、ロボットが一定のところまで調合できると人の負担は軽くなるでしょう。放射線治療などもそうですね。こうした医療従事者にリスクのある作業を代わりにできる機械の開発も考えています。
 関口 患者さん、医療従事者にとって安全と安心が提供できる機器開発がポイントです。
 植田 医療機器については、今までのやり方を変えるのでなく、今まで以上のレベルの医療機器、介護機器を目指してどんどん製品化していきます。
 植田 今まで製品化されたのは、カフ圧制御装置、チューブ類自己抜去防止着衣など、それほど難しくないクラスI、クラスII(※3)レベルの医療機器だと思います。今後は、もうワンランク上の機器を5年後を目安に手掛けていきたいですね。
 このプロジェクトには350社以上もの地域企業が関わっています。その中に医療に貢献できる素晴らしい技術があるのではないでしょうか。



国際展開を目指す製品を

 ―国際展開も大きな柱の一つですね。 
 関口 医療機器は世界が相手。国内だけにとどまっている必要は全くありません。医療機器の国際展開はステップをきちんと踏んでいれば意外とすんなり進みます。ただし各国により認証基準が異なるので専門家の支援が必要です。
 植田 新規に医療機器に参入した中小企業の方たちは、製品づくりに一生懸命になるあまり、過程の資料をないがしろにしがちです。出来上がってから、再度データを取ったり設計し直したりするのは大変な労力。それで認可に時間がかかっている例も少なくありません。
 関口 海外で認証を取るには各国の許認可が必要であり、そのためには開発段階から市場導入に至るまでの設定根拠とその記録が極めて重要です。しかし、基本規定をしっかりマスターすれば難しくありません。
 植田 時間がかかるということは、コストがかかる。そのリスクを軽減できる。新たに医療分野に足を踏み入れる企業にとって、専門家の方々に最初から薬事法に基づいた手順を教えてもらえるというのは大きな福音になると思います。
 関口 医療機器開発には医療従事者との協力体制がなければ商品になりません。この地域は静岡がんセンターを核に病院のネットワークがあり、数多くの機械産業があります。またアクセスも良く、医療産業を振興する上で恵まれた環境です。できればこの地域に根差したオンリーワンの商品を生み出すお手伝いがしたいですね。


がん研究に特化した地域一丸の協力体制評価

北欧にある世界的な医療健康産業クラスター「メディコンバレー」で国内外の産学官を結び、共同研究や研究開発、事業化の橋渡しをしているトーマス・ヨンソン氏に、同プロジェクトについて聞いた。

 ファルマバレーは病院と企業が近い。ライフサイエンス分野では、病院の存在が欠かせない。企業や研究者のアイデアをすぐ患者さんに生かすことができるし、ドクター、看護師の評価がすぐに聞ける。また、一つのエリアに研究に携わる機関がまとまっていて、かつ協力体制がとれていることは、ほかの海外のクラスターと比較しても大いに評価できる点だ。 ファルマバレーの成果品はすでにいくつか見ている。ぜひ、世界中に紹介していきたい。静岡での成功例を作りたいし、必ずできると思っている。がんに特化するのはいいと思う。また医療機器開発だけでなく、がん患者の食事や術後のケアなどのソフト面も研究している。この分野も非常に大きなチャンスとなるだろう。



※1 12市町…沼津・三島・富士宮・富士・御殿場・裾野・伊豆・伊豆の国市、函南・清水・長泉・小山町
※2 医師主導治験…医療的、社会的に必要性がありながら、コスト面などで製薬企業が手がけにくい治験などを医師や医療機関主導で、企画・実施すること
※3 クラスT、クラスU…人体に与えるリスクの程度によって医療機器を分類し、規制を変える仕組み。クラスT〜Wがある



■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.