サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 日本では年間約17万頭もの犬・猫が殺処分されている。一方、欧米では動物保護の観点から、厳しい販売制限、頭数の厳格管理、保護施設の整備などを通じドイツは国家レベルで殺処分ゼロを実現している。今や動物は人々の生活をさまざまなかたちで豊かにしてくれる、かけがえのない存在だ。10月の「風は東から」は、公益財団法人「動物臨床医学研究所」(山根義久理事長)が沼津市西浦に建設を計画している、動物愛護と啓発のための国内最大の総合施設「人と動物の未来センター」を取り上げる。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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沼津に動物愛護・啓発の新拠点 情操教育と交流人口拡大に期待
命の大切さ教え 学ぶ施設に

「人と動物の未来センター」は人間と動物の共生と「殺処分ゼロ」の社会の実現を目的に、飼えなくなった犬や猫を保護し、動物愛護団体などと連携して啓発や普及活動、獣医師や動物看護師の教育などを行う施設。
 運営する公益財団法人「動物臨床医学研究所」は、獣医学に関する臨床的研究や獣医療技術の向上、人と動物の共生の探求及び動物愛護思想の啓発普及事業を行っている。2011年に内閣府認可の国の公益財団法人となった。
 未来センターは、獣医師や看護師の研修施設、犬300頭、猫100匹を保護できる施設、ペット同伴者の宿泊コテージなどが予定されている。十数名の獣医師が常駐し、東日本大震災で飼い主を失ったペットの保護や受け入れも見据える。
 建設計画によると沼津市が昨年、伊藤忠商事(東京都)から寄付を受けた土地約232ヘクタールの一部2.5ヘクタールを利用する。完成は2015年度の予定だ。
 栗原裕康市長は9月の市議会で「命の大切さや動物愛護を身近に考えることができ、情操教育の一助になる」と、施設整備を積極的に支援する考えを示した。現在、基本インフラの現況確認や調査、開発に向けた許可手続きなど事務的な打ち合わせを財団と進めている。

■一説には、人が犬と暮らし始めてから1万5000年、猫は9000年と言われる。
いまやペットは家族の一員だ(写真はイメージです)


動物との共生 テーマに地域づくり
■未来センターの建設予定地。沼津市民の森に隣接し、戸田や修善寺など観光地にも近い
 山根理事長は「未来センターは内容、規模から見ても全国に類を見ない」と語る。動物愛護と福祉の精神を醸成するには、長い時間がかかる。その意味でも獣医師の集まりであり、動物の命を大切にする公益財団が運営することに意義がある―という。
 未来センターは保護動物が新しい飼い主を見つけるまでの預かりが主な業務。新しい試みとして、里親は必ず教育訓練を受け、引き取ってからも定期的に報告書の提出やセンターから派遣する獣医師・看護師の健康チェックを受ける仕組みを作る。
 また、活動に賛同する愛護団体のネットワークづくりも行う。参画の基準を設け、クリアした団体は資金や物資の援助、情報交換などをしていく。子どもやお年寄りが動物と触れ合う場や、獣医師・看護師のハイレベルな教育も行う予定だ。
 栗原市長は「センターができることで沼津の存在を全国にアピールし、来訪者が増えることを期待したい」と語る。毎年、公益財団が開催する「動物臨床医学会」は3日間で延べ4300人、200を超える企業ブースが出展する大きな大会だ。こうした大会を同市のコンベンション施設「プラサヴェルデ」に誘致することも可能だ。

「動物との共生」をテーマにした新しい地域づくりが今まさに始まろうとしている。

人の動物の未来センターに期待する

市民の幸福度を測る基準


栗原裕康沼津市市長


 人の幸せとは何か、政策にどう反映できるのか―。そういう研究が世界中で進んでいる。行政の究極の目的は市民が幸せになることで、単純化してしまえば「楽しい」「素敵だ」と思うことが多く、「いやだ」「こわい」が少なければ幸せと言えるだろう。そこを数値化して政策に結び付けるのはかなり難しいが、例えば沼津にはこんなに良いところがある、というのを市民にお伝えするのも「幸せ」の提供の一つだろう。
未来センターはこうした「幸せの物差し」の一つになりうる。動物好きの人には、自分が住んでいる沼津にこのような先進的な施設があり、全国、世界からも注目されるというのは大きな幸せを感じることになると思う。
 ただ動物嫌いの人達もいるので、ご理解を得る努力はしなくてはならない。




獣医学研究の情報発信沼津から


山根義久動物臨床
医学研究所理事長


■開所式の様子。アミティエには東日本大震災で被災した動物も保護されている

 今年7月に財団が開設した「人と動物の未来センターアミティエ」(鳥取県倉吉市)の開所式には、県内外から500人以上が詰めかけた。それだけ注目度は高い。すでに米国から麻酔学の教授も視察に来ている。倉吉市のバス会社は鳥取空港発のバスでセンターに来るお客さんが増えたと言っている。
沼津に建設する施設は倉吉市の約10倍の規模だ。里親の説明会、譲渡会、勉強会などを定期的に開催し、首都圏からも近いので全国から人が訪れるだろう。愛護団体が行うさまざまな動物のイベントを呼び込むこともできる。
獣医学の研究なども進めたい。例えば、静岡がんセンターの患者さんが未来センターの動物と触れ合うことで生きる希望を見いだせる。いわゆる動物介在療法である。米国では集中治療室の患者の元にも動物を連れて行く。また、動物を飼っている家族は保険料率を下げるという時代が来ている。動物との共生がいかにプラスになるかの研究が各分野で進んでいるので、こうした情報を沼津の地から発信してほしい。


新たな地域おこしの視点に注目

岡野光喜懇話会代表幹事
(スルガ銀行社長)

 サンフロント21懇話会は「人と動物の未来センター」設立を支援している。岡野光喜懇話会代表幹事(スルガ銀行社長)に、未来センターヘの期待を聞いた。
 今後、人と動物が一緒に暮らすことはますます一般的になってくる。こういう時代に、「人と動物の未来センター」が沼津市西浦にできることは非常に大きい意味を持つ。ファルマバレープロジェクトの第3次戦略計画にある「健康をテーマにしたまちづくり」にも合致する。ぜひ、国内のモデルとなる施設になってほしい。
特に力を入れていただきたいのは、ペットを取り巻く人々への教育だ。日本の場合、繁殖に関して法律的に緩い部分があり、それが年間17万頭もの殺処分を生む原因の一つとなっている。また、飼い主に対する教育も必要だ。かわいいから、と飼い始めても途中で面倒になってしまうケースも多い。ペットも人と暮らすルールをきちんとしつけることが必要で、トレーナーの養成も大きなテーマになると思う。
東日本大震災では、多くのペットや家畜が置き去りにされた。未来センターは災害時に小動物や家畜を一時的に預かる施設にもなると聞く。非常にいいことだと思う。
伊豆地区の観光交流客数は1988年に比べ、現在は約半分に落ち込んでいる。未来センターは100人規模の雇用が生み出され、「プラサヴェルデ」を活用した学術会議、研修会などの開催が期待できる。伊豆の交流という面からも新しい視点での地域おこしになるのではないか。
懇話会は11年にセンター設立推進の提言を川勝平太知事あてに行った。また、同年7月の伊豆地区分科会でも取り上げ、企業誘致や大学誘致とはまた違った「新しい地域の核づくり」として、地域への波及効果などを討論した経緯がある。 未来センターの開設予定は15年度。懇話会設立20周年に当たるので、記念事業の一環と考え、財団の取り組みを積極的に支援していきたい。


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