サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 地産地消が叫ばれる中、生産量の少ない地元産品は既存流通にのりにくい。生産者の顔が見える、取れたての食材を楽しんでもらうには今、地域に何が足りないのか。11月の「風は東から」は、今月9日に開かれた静岡県の「ファルマバレー地域ダイナミズムセミナー」を取り上げる。落合楼村上の村上昇男社長、柿島養鱒の岩本いづみ専務、農業系シンクタンク、エムスクエア・ラボの加藤百合子社長にそれぞれの課題と解決のヒントを聞いた。聞き手はシードの青山茂副社長。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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流通改革で顔の見える取引を地域の最高食材を一枚の皿に
生産者と販売者 結ぶ仕組み
●パネリスト
エムスクエア・ラボ
加藤百合子代表取締役

東大農学部卒。英国で修士号取得後NASAのプロジェクトに参画。帰国後は精密機械の研究開発に従事するも、子育てから農業の大切さに気付き、2009年エムスクエア・ラボを設立

大木貴之 ワインツーリズムプロデューサー
●パネリスト
柿島養鱒
岩本いづみ専務取締役

1973年に父が養殖業を開始、手伝いを始める。大学卒業後、会社勤務、結婚を経て、2007年から本格稼働。現在、函南と富士宮、伊豆の池でイワナ、ニジマス、サクラマスなどの養殖を手掛けている
青山 地産地消を実現するために、今日は生産者と販売者、いわゆるBtoBをどのように地域内で結び付けるかを伺います。
村上 落合楼村上は140年続く、国指定有形文化財の宿です。納得のいく食材を提供したい、と3年前から減農薬で作った新潟・魚沼産こしひかりを直接、生産農家から買い付けています。毎年1.2〜1.8トンのお米を私自身がトラックで運びます。当初は地産地消というよりも、安全でおいしいもの、お客さまに誠実に対応できる食を提供しようという気持ちでした。
 最近は、できるところから地元産の食材に切り替えています。たとえば三島西麓の大変甘みのあるニンジン。生産者の方と知り合いになり、畑を見させていただきました。生産量が少ないため、今年分からやっと分けていただけることになりました。地元生産者が作る無農薬米も入荷し始めています。
 岩本 富士宮と中伊豆でニジマス、サクラマス、イワナなどの淡水魚を養殖しています。ニジマスはなじみがあまりない魚ですが、回転ずしやスーパーでおなじみのサーモンは多くがニジマスを海で養殖し、大型にしたものです。私の会社では「富士山サーモン」という名前で出荷していて、富士山の世界文化遺産の関係で引き合いが多く来ています。本当においしい魚を育てようと、餌から自前で作っています。
 地産地消を実現するために、私たちは沼津の水産会社が持つ海産物の販売ルートにのせています。淡水魚は海産物と競合しませんし、同じサーモンなら外国産より地元産がいいという方も多く、富士山サーモンを扱ってくれています。
 青山 加藤さんはITを使って生産者と購買者を結ぶ新しい流通システムをつくっていますね。
 加藤 静岡市内をメーンに農業系シンクタンクと農産物卸売をやっています。流通における一番の問題は「情報」と「信頼」の断絶です。ここを解決しようと、われわれが生産者の営業代行をし、思いをきちんと購買者に伝えるとともに、現場まで見に行けない購買者に代わって生産現場の管理、情報把握に努めています。
 農産物卸売では、地元産の野菜を少量のA品、B品、大量のA品、B品に分け、用途ごとにいろいろな販売先に振り分けています。今力を入れているのがレストランなどの外食向けで、こだわりの強いレストランに関しては、シェフの好みまで把握しています。

■食の地域内流通実現に向け、活発な意見が交わされた


地域サイズに合った流通網構築
●パネリスト
落合楼村上 村上昇男代表取締役
国登録有形文化財の宿「落合楼村上」主人。明治時代から140年続く老舗旅館「落合楼」を2002年に先代から受け継ぎ、日本の伝統建築と文化を守り伝えながら旅館事業の再生に取り組んでいる

大木貴之 ワインツーリズムプロデューサー
●パネリスト
シード 青山茂取締役副社長
オリエンタルランドを経て、2005年から現職。静岡県内外の企業、自治体のプロジェクトプロデュースを手掛ける。ふじのくにしずおか観光振興アドバイザー
青山 生産者と購買者を結ぶ仕組みを作る上での課題は何でしょうか。
村上 通常、旅館が直接農家の方と知り合う機会はほとんどありません。たまたま地元に自然農法に取り組んでいる団体があり、そこを通じて1年に1軒、2軒と増やしている状況です。
 また、配送とともに扱う量も問題です。うちのような小規模の宿がトン単位で生産している農家さんと取引するのは難しい。さらには、自然農法の場合、形や大きさがまちまちで、そうなると調理場がお手上げです。
 加藤 商品のマッチングは、今は人海戦術です。ジャガイモ1キロと注文が入った場合、このシェフは大きめが好き、別のシェフは小さめを素揚げにして提供したい、こちらの店はB品でもいい、と用途に合わせてえり分けています。本来ここをシステム化しないとならないのですが、難しいですね。
 岩本 流通コストは大きな課題です。大口注文は水産会社を通じて配送していますが、個店には宅配を使っています。送料がかかって大変ですが、今は地元に知っていただくことが優先と考えています。
 水産会社を通すメリットの一つは「市場渡し」という安い販売ルートにのせることができることです。このルートを知ったことで地産地消に取り組みやすくなりました。
 加藤 効率面から小規模流通が淘汰されてきているのも課題の一つです。皆さんの周りも八百屋さん、魚屋さんがどんどんなくなっているのではないでしょうか。
 われわれはその逆、昔のような小さい流通を最新のIT技術と何かを組み合わせて、もう一回取り戻せるか、ということをやろうとしています。
 岩本 今、肉も魚も野菜も別々の市場で取引されています。これらをもっと小さい範囲で一緒にしたら流通コストも下げられるのではないでしょうか。仮想市場でいいと思いますし、その部分でITに期待しています。
 加藤 仮想市場は作れると思いますが、結局は誰が倉庫を持ち、配送するのかに立ち戻ります。宅配会社を入れるとコストが高くなりますので「相乗り便」を利用します。地域には既存の流通ルートが数多くありますから、それにいかにのせるかを考えるべきだと思います。大手の物流と地元の小さな物流をどう組み合わせるかが非常に重要です。
 青山 地産地消の流通ネットワークが成立するビジネスサイズをどう考えていますか。
 加藤 試算では月商700万円程度です。一般的なレストランは野菜だけで月4万円、肉魚まで流通できれば10万円、つまり70軒程度の売り先を確保できればいい。毎日注文はありませんから100軒程度集まると採算がとれると思います。


観光地に必要な「地産来消」の視点
 青山 流通の仕組みの一方で、食の魅力を外に向けてどのように伝えていけばいいでしょうか。
 岩本 昨年末に高級旅館の関係者がいらして、この土地でとれた最高食材を集めるにはどうすればいいかと聞かれました。
 たとえば地キンメダイの最高級品は築地に行ってしまい、地元で提供したければ買い戻すしかありません。ミシュランの星をとるには地元の最高食材を最高のサービスで提供しないといけませんが、まずその食材が手に入りにくい。流通の仕組みを考える一方で、生産者自身が地元のものを食べて知ることが必要ではないかと思います。
 幸い、そういうことを一緒に考える仲間が増えつつあります。私はイワナを送るときに近所でとれたワサビも一緒に送ります。一枚の皿の上に伊豆の食材が収まっていればいいし、決して競合しません。それによって豊かな大地のイメージを作り上げていくことができるのではないでしょうか。
 村上 私どもでは「和のコンシェルジェ」と呼んでいますが、私や女将だけでなく宿のスタッフを生産現場に一緒に連れて行き、実際に生産者と触れ合い、食べた感動をお客さまにお伝えするようにしています。
 中伊豆の農家さんで西村ナスという品種を作っている方がいます。マシュマロのような皮の柔らかいナスですが、食べて初めて分かる感動があります。それをお客さまに提供したいと思い、生産農家さんに会いに行く。すると、農家さんはナスではなく土をほめてくれ、と言います。それをスタッフがお客さまにお伝えします。生産農家さんから最後にお客さまが口にするところまで情報が一つの流れとなって伝わり、本当の地産地消に行きつくと思っています。
 加藤 言うまでもなく富士・箱根・伊豆は一大観光地です。「地産地消」ならぬ「地産来消」の視点が大切だと感じています。これからもっと盛り上がる場所であり、外国人観光客も戻ってきた実感があります。私はこの地域はメディカルツーリズムが日本で一番やりやすいと思っていて、医療、食、農業、温泉―それらを組み合わせていくと世界でもまれな成功事例になると思います。
 青山 生産者の思いと流通に携わる者、消費者を結ぶ“顔の見える”流通の仕組みが必要です。顔の見えるやりとりから、おのおのが高め合い、地域ならではの食文化がつくられていきます。そういう仕組みが整っていくことで、富士・箱根・伊豆という地域サイズが十分生きて、おそらく将来の食糧危機などを含めて、安心・安全な食づくりの先進的な地域ができるのではないでしょうか。




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