サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 静岡県の新しい観光の行動計画「ふじのくに観光躍進基本計画(2014-17)」が4月から始まった。少子高齢化が進む中、「交流人口の拡大による地域活性化」と「観光振興による地域づくり」を両立させる内容だ。5月の「風は東から」は、同計画の目玉施策となる新組織「しずおか型DMO」の概要と、伊豆地域でどのように進めるかを関係者に聞いた。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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伊豆観光 復権担う新組織 地域プロデュース力強化へ
■観光の“軸”を変える試み

 旅行の質が変わった。
 物見遊山的団体旅行が影をひそめ、安・近・短の観光が主流となった結果、今まで観光資源とみなされなかったものが既存の観光資源にとって代わる現象が起きつつある。
 これらは、ニューツーリズムや体験型観光、着地型観光と言われる旅行形態で、いわゆる観光地でない地域の魅力を体験するもの。担い手は、観光の主体だった行政や観光協会、旅館・観光施設だけでなく、商店街、地元農家、まちづくり系NPOや大学など、幅広い。そのため、地域づくりを通じた観光振興策として全国各地で行われている。
 問われるのは、地域自らが地域の魅力を掘り起し、旅行商品に仕立て上げ、販売する「地域プロデュース力」。「ふじのくに観光躍進基本計画」ではこの「地域プロデュース力」を強化する方向に大きく舵を切っている。
 県の伊藤秀治文化・観光部長は「旅行者の好みが変われば観光の中身も変わらなければならない。また、観光まちづくりを通じた地域のブランド化は避けて通れない。今回の計画はある意味、観光の“軸”を今の時代に合うように変えていくこと」と言い切る。

■伊豆各地のエリアDMOが地域の魅力を掘り起し、商品化し、情報発信する

 中でも力を入れるのが、DMOと呼ばれる仕組みの構築だ。 DMOとは、「Destination Management(Marketing) Organization」の略。観光プラットフォームとも呼ばれるもので、体験メニューのワンストップサービスから、観光地のマーケティング、プロモーション、集客、観光戦略の立案や事業計画のマネジメントまで幅広く行う。4エリア180コンテンツを提供する「阿蘇振興デザインセンター」(熊本県)や、小値賀島の暮らしそのものを民泊という形で商品化する「おじかアイランドツーリズム協会」(長崎県)などがその代表だ。


■しずおか型DMO導入のメリット

 県は本年度、「しずおか型DMO」の設立を目指す。
 車で30分から1時間程度の地域を一つの単位とし、エリアを構成する市町、観光協会、宿泊施設、交通事業者、旅行業者、各種地域団体などが「共同事業体」をつくる。この共同事業体をエリアDMOと呼び、エリア全体のマーケティング調査や事業計画の策定、地域資源調査、ツアーアテンダント育成、広報PR、パンフレット・ガイドブックの作成、モニターツアーなどを行う。今年は伊豆、浜名湖の2カ所で立ち上げを予定。共同事業体は自薦式で募集し、県(上限一千万円)と構成市町が同額の補助金を出す。
 県はこれまでも着地型観光商品づくりの支援をしてきたが、個々の事業主体が個別に造成から集客まで行っていたため、なかなか成果が出なかった。今回、DMOがエリア全体のプロモーションをすることで、個々の事業体は資源発掘や人材育成などに専念でき、よりよい商品づくりができるという。計画策定委員の一人、常葉大学経営学部の大久保あかね教授は「DMOに加わることで、着地型観光商品を提供する個人や団体に、きちんと支援の流れができたことは大きい」と同計画を評価する。

 伊豆は、伊豆南部地区(下田市、南伊豆・河津・東伊豆・松崎・西伊豆町)が先行してエリアDMOを発足する。県は4月に対象となる1市5町の行政、観光協会に説明会を開いた。まずは、各市町から観光情報や体験メニューを集め、それをもとに旅行会社や体験メニューを提供する個人・団体を交えたワークショップを開催し、着地型商品をつくるという一連の作業を行う。

■しずおか型DMOの事業スキーム



■成功のカギは仕組みと人材

 地域資源を活用し、観光誘客に結び付けるDMO。うまく運営するためのポイントについて、大久保教授は「しっかりした理念の下にまちづくりを進めること、着地型観光商品を提供する多様な個人・団体との連携、また広域連携も欠かせない」と語る。
 1市5町の一つ、松崎町の深澤準弥商工観光係長は「町単体で誘客できる時代ではない」と観光振興の難しさを肌で感じる一人。「伊豆が全国区になるために広域連携は必然。すでに西伊豆、南伊豆町と誘客促進を始めていて、DMO設立の動きは渡りに船」と期待する。一方で、「DMOはあくまで地域づくりの手段。県の施策にただ乗っかるのではなく、互いが切磋琢磨しながらも広域で一緒に頑張っていこうという気概と行動力がなければ失敗する」と気を引き締める。同町は「松崎町まるごとふるさと自然体験学校」をコンセプトに、地域の魅力を住民自らが誇りに思い、発信する取り組みを進めている。
 下田の海を舞台にした「海洋浴」や坂本龍馬にちなんだ街歩きなどを企画し、広域観光誘客の実績を積む「NPO法人伊豆のせんたんコンシェルジェ」の増田健太朗代表理事は「着地型観光が儲からないのは、儲ける仕組みが確立されていないから」と語る。今回のDMOには何より、旅行者のニーズに応じた資源の発掘と魅力的な観光商品の企画ができる地域コーディネーターなどの人材と、現地での案内や、宿泊、交通、レストランなどを手配するランドオペレート機能を期待したいという。
 「一人当たりの客単価は減っているが、旅とは非日常を求めてくるもの。普段と違う体験にはお金を払う。旅先で体験しなければ損と思われるものをつくり、いかにそれを産業にしていくか」と増田代表。伊豆の観光が元気になり、雇用の場を生み、若い世代が希望を持てる地域にしたいという強い思いがのぞく。

 これまで受け身だった地域が、自ら企画し、自ら売る、積極的な攻めの姿勢に転じるための「しずおか型DMO」。関係者の頑張りに期待したい。

■地元のお母さんたちが人懐こい笑顔で迎える=松崎町「蔵ら」

■龍馬ゆかりのまち歩きツアーが人気=下田市


伊豆から成功事例を
 ■伊藤秀治 県文化・観光部長
 富士山が世界文化遺産になった。伊豆半島ジオパークは世界を目指し、韮山反射炉も世界レベルの資源だ。加えて、東駿河湾環状道路が開通し、東名沼津ICと修善寺が30分弱で結ばれた。圏央道が開通すれば、一気に北関東まで商圏は広がる。国は2020年の東京オリンピックに向け、外国人誘客を今の2倍にしようとしている。伊豆を取り巻く環境は間違いなく追い風だ。それをどう生かすか。道路が便利になった、いい旅館があるだけで人は動いてくれない。
旅行というのは、個人の嗜好(しこう)の最先端を行くもの。一つのやり方では対応できない。利用者目線を入れ、さまざまな人が加わり、地域をまとめるリーダーシップももちろん必要だろう。なにより継続が大切だ。よく、1年2年やって成果が出ないと終わってしまう事業があるが、積み重ねていくことで利用者が増え、情報が蓄積、拡散されていく。
 県内では年間約1800万人が宿泊する。その6割が伊豆半島だ。DMOという“もうひとひねり”を加えれば伊豆はまだまだ伸びていく。ぜひ、しずおか型DMOの成功事例を伊豆から出してほしい。


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