サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 ファルマバレープロジェクトは、「ものづくり」「ひとづくり」「まちづくり」「世界展開」の四つの戦略を通じて、医療健康産業クラスターの形成に取り組んでいる。中でも医療と産業を担う「ひとづくり」は時間も労力もかかる息の長い取り組みだ。6月の「風は東から」は、同プロジェクトが進める産業クラスター形成に欠かせない多様な人材育成の手法を紹介する。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3

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産学官連携し人材育成 ファルマの理念 具現化へ
■地元企業の参入促す PVCなどが講座開設

ファルマバレープロジェクトは2002年の第一次戦略計画の策定から11年が経過。同プロジェクトの中核的支援機関ファルマバレーセンター(PVC)を中心に、産学官金が連携して事業化・製品化を推進し、現在までに60を超える製品を生み出している。県全体の医薬品・医療機器生産額は3年連続全国1位。昨年は初めて1兆円を超えた。多くの産業が業績を伸ばせずにいる中、医療健康産業は数少ない右肩上がりの分野で、周囲の期待も高い。
しかし、地元中小企業が医療機器開発に参入するには、薬事法などの高い壁がある。そこで同プロジェクトでは、地元企業向けに医療機器参入を促す人材育成事業を展開している。

戦略構築を学ぶ「MOT講座」

 今月7日に始まった本年度のMOT講座。オリエンテーションには全県から職種も業種もさまざまな21人が参加した。
 MOT(Management of Technology)は、「技術経営」と訳される。科学技術の知識を利用して、市場ニーズに応える製品を生み出したり、新しい市場を創出する製品やサービスを具現化したりできる人材を輩出することが目的だ。
 今年で10回目を迎え、受講生は190人を超えた。参加者には毎回アンケートを取り、その声をプログラムに反映させてきた。講座では事業計画づくりに必要な知識と理論や、補助金申請やファイナンスに必要なビジネスプランの作成とプレゼンテーションの方法などを学ぶ。実践で即役立つ内容だ。
 県経済産業部新産業集積課は「医療機器は開発から製品化までの期間が長く、多品種小ロットで販路も特殊だ。難しい事業環境の中で、技術と経営を一体にした戦略が必要。MOT講座はその戦略構築に有効だ。また、参加企業は多岐にわたるので、人的ネットワークを築けるのも魅力」と語る。
 受講生のひとり、東洋技研の木村哲也さんは「プログラマーの業界は競争が激しく、新規事業開拓が不可欠。この講座で戦略の立て方を学び、競争力をつけたい」と抱負を述べた。

■産学官が連携し、ファルマバレーに必要な人材育成に力を注ぐ

医用機器生み出す 「F‐met」

■実践的なカリキュラムに定評があるF-met

 富士山麓地域の中小企業を対象に、医療機器開発をリードする中核的な人材の養成と、企業の技術力を生かした医療機器開発を促進する「富士山麓医用機器開発エンジニア養成プログラム(F‐met)」事業に注目が集まっている。
2009年度から文部科学省の支援を受け、(独)国立高等専門学校機構沼津工業高等専門学校(沼津高専)、東海大開発工学部の協力のもとスタートした。今まで延べ40人の「即戦力」を輩出している。
文科省からの補助事業は3月末で終了し、4月から沼津高専専攻科に「医療福祉機器開発工学コース」を新設。若手技術者の育成を目指すべく、教育カリキュラムを刷新した。
また、本年度から「沼津高専特別課程」として社会人向けに「F‐met」事業を継続して行っている。
新たな講座は、募集対象を全県に拡大し、医用機器開発に必要な薬事法に関する知識、医用材料・医療機器の基礎講座、医療現場・介護現場事情などを1年間、24回の講座で学ぶ。
 PVCの植田勝智所長は「同プロジェクトの開始当初から10年間で、医療機器生産額は2・5倍、雇用は2・2倍に増えた。県内には100、県東部には51の医療機器製造事業所があり、うち創業・起業は5社だが、第二次創業や事業拡大での参入は数多い」と人材育成の成果を語った。

 



■専門家集団を育てる県立静岡がんセンター

 今や日本人の2人に1人はがんにかかる時代。がん診療技術が多様化し、がん患者が増加する中、医師、看護師など医療スタッフのレベルアップは大きな課題だ。県立静岡がんセンター(静がん)は2002年の開業以来、「がんを上手に治す」「患者と家族を徹底支援する」「成長と進化を継続する」という理念に基づき、がん医療の専門家を数多く生み出している。
 伊豆は、伊豆南部地区(下田市、南伊豆・河津・東伊豆・松崎・西伊豆町)が先行してエリアDMOを発足する。県は4月に対象となる1市5町の行政、観光協会に説明会を開いた。まずは、各市町から観光情報や体験メニューを集め、それをもとに旅行会社や体験メニューを提供する個人・団体を交えたワークショップを開催し、着地型商品をつくるという一連の作業を行う。

■内視鏡では画面で患部部を見ながら直接指導を行っている

多様な選択肢が魅力 「医師レジデント制度」

 医師レジデント制度は、初期研修が終わった医師の研修プログラムだ。静がんはがん専門病院のため、一定の経験を積んだ30歳前後の医師の受け入れが多い。3年をかけ、がん診断・治療の基礎的な技術や知識を学ぶ。
研修はローテーションと専門科研修の2期に分け行う。
ローテーション期間は、興味・関心のある診療科を選択し学ぶ。感染症の基礎をもう一度学びたい、緩和医療を学びたいといったものから内科医が外科を経験したり、外科であれば専門以外の臓器を複数学んだりといったことができる。
年間の治療件数が1万件を超え、5大がん(胃、肺、大腸、肝臓、乳)の治療数は全国一。「症例が多い分、短期間で多くの経験ができる」と医師レジデント制度を統括する内視鏡科の小野裕之医師。今では毎年30人以上を受け入れ、常に70人ほどが在籍している。これは国立がん研究センター中央病院、同東病院に次いで国内3番目だ。
小野医師が部長を務める内視鏡科では、臓器内部の写真の撮り方、レポートの添削、所見の書き方など、きめ細かな指導を行っている。「がん医療の専門家を育てるとともに、静がんで共に働く医師を見いだすのが目的。ここで勉強してよかったと思ってもらえる内容にしたい」と力を込める。
受け入れる側の負担も大きいが、「若い医師が次々に入ってくることで病院にも活気が出る。何百人分のカルテを調べるなど、こちらのやりたい仕事の手伝いをしてもらえるし、その中からレジデントが研究をまとめて学会発表すれば本人の実績にもなり、病院の実績にもなる」(小野医師)という。このほかチーフレジデント制度、特別修練コース、短期研修コースなど、多種多様な研修メニューをそろえ、広く門戸を開けている。

臨床力をつける 「認定看護師教育課程」

 認定看護師は、特定の看護分野で専門知識と熟練した看護技術を持ち、看護現場で実践・指導・相談の三つの役割を果たす看護師のこと。静がんは08年に病院初の認定看護師教育機関として認定された。以来、160人のがん看護に特化した認定看護師を育てている。「皮膚・排せつケア」分野から始まった課程も今では5分野に広がった(※)。
青木和惠副院長は認定看護師が必要とされる背景を「日本の人口が減る中、がん患者は増えている。普通の看護師が1時間かかるケアを認定看護師が専門性を発揮して20分で行えば、同じ時間でより多くの患者さんに質の高いケアを提供できる」と説明する。
教育課程では、7カ月で看護管理や看護倫理、リーダーシップ論などの基礎知識と、専門知識255〜300時間、演習及び臨地実習240〜270時間を受ける(分野により演習時間は異なる)。
本年度からは認定看護師を対象に「がん看護エクセレントプログラム」を開く。「がん患者カウンセリング」や臨床研究に参加する患者さんへの理解を深め、認定看護師自身も研究能力を高めることができるように「生物統計学」「ゲノム研究」を中心とした研究倫理や「利益相反」などを学ぶ。修了者には「エクセレントナース」の称号が与えられる。
1日平均500人を超える入院患者と向き合う看護の現場。次から次に解決しなければならない課題が出てくる。「患者さんの問題を解決するために私たちに何ができるのか、それにはより専門性を高め、研究の分野にまで踏み込める人材を育てるしかない」と青木副院長。今まで培った認定看護師のネットワークも大きな助けになるという。
来年度からは、大阪大大学院と連携大学院制度を開始、がん看護実践の専門家育成に乗り出す。

※緩和ケア、皮膚・排せつケア、がん化学療法看護、がん放射線療法看護、乳がん看護の各分野





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