小山町は、北西にそびえる富士山、北東に丹沢山地、東南に箱根外輪山・足柄山嶺と、1,000メートルを超える山々に囲まれた緑豊かな地域だ。縦横に配した堰(用水)は周囲の山に降った雨を勢いよく流し、石積みに仕切られた幾枚もの田んぼは、どこか懐かしさを感じさせる。
昨年6月の富士山世界文化遺産登録によって、同町の「冨士浅間神社」と「須走口登山道」を含む5合目以上の富士山域が構成資産として登録された。こうした動きを受け、同町は、環境と景観を保全する取り組みを加速させている。
冨士浅間神社周辺の須走地区は住民が「須走まちづくり推進協議会」を立ち上げ、「富士山に抱かれるまち」をテーマに将来像を模索。数度のワークショップを経て今年3月「須走地域金太郎計画2020素案」をまとめ、町に報告した。
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■雄大な富士に抱かれる小山町。町内にはどこか懐かしい風景が広がる |
素案では住みやすく、来訪しやすい街にするために、浅間神社を核にした景観形成のアイデアや、バイパス開通後新東名からのアクセスが容易になる須走口登山道をどうPRするか―などが提案されている。同町町長戦略課は「街灯のLED化や花の会による沿道美化など、地域でできることは率先して進めてもらっている。景観を損なう電柱の移設・地中化などの素案は次年度策定する町総合計画などの施策に反映させたい」と語る。
また、住環境にも配慮している。町が自ら町内南藤曲地区に新たに整備する宅地は、「家・庭一体の住まいづくり」というコンセプトのもと設計・施工を一括で発注。自治体の事業としては珍しい試みだ。
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■周辺の自然と調和した宅地開発のイメージ |
宅地は16〜17区画で、コモンスペースと呼ばれる住民が共有する広場を数カ所設けている。各戸の境は塀などを用いず、植栽も敷地全体を明るく見せる斑(ふ)入りの樹木や、維持管理がしやすい樹木を指定するなど、一定のルールを決め統一感を出す。地元の富士山金時材を使ったモデルハウスを建て、他の住宅の手本にする方針だ。
経済建設部の溝口久専門監は「建物のデザイン、色、植栽まで細かくコントロールすることで、富士山や周辺の自然と調和した宅地を目指す」と意気込む。
景観計画も2017年度内に策定する。都市整備課は現在の良好な景観を保全・活用し世界遺産にふさわしい景観形成を目指したいという。今後は住民説明会やパブリックコメント、広報誌などを通じて住民との合意形成を図っていく。 |