サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 富士山が世界文化遺産に登録され1年が過ぎた。県が発表した昨年度の観光交流客数の速報値は過去最高の1億4400万人を超え、世界文化遺産登録をその大きな要因として挙げた。周辺の地域にとって、富士山の景観を損なう電柱や看板などをどのように制限・規制するかが大きな課題だ。また、景観を整備することで定住人口や交流人口の拡大につながった地域も現れている。9月の「風は東から」は県東部の景観整備の取り組みを紹介する。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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富士山生かす街並みに 住民が景観育む時代へ
■富士山と共存する住環境整備―小山町

 小山町は、北西にそびえる富士山、北東に丹沢山地、東南に箱根外輪山・足柄山嶺と、1,000メートルを超える山々に囲まれた緑豊かな地域だ。縦横に配した堰(用水)は周囲の山に降った雨を勢いよく流し、石積みに仕切られた幾枚もの田んぼは、どこか懐かしさを感じさせる。
 昨年6月の富士山世界文化遺産登録によって、同町の「冨士浅間神社」と「須走口登山道」を含む5合目以上の富士山域が構成資産として登録された。こうした動きを受け、同町は、環境と景観を保全する取り組みを加速させている。
 冨士浅間神社周辺の須走地区は住民が「須走まちづくり推進協議会」を立ち上げ、「富士山に抱かれるまち」をテーマに将来像を模索。数度のワークショップを経て今年3月「須走地域金太郎計画2020素案」をまとめ、町に報告した。

■雄大な富士に抱かれる小山町。町内にはどこか懐かしい風景が広がる


 素案では住みやすく、来訪しやすい街にするために、浅間神社を核にした景観形成のアイデアや、バイパス開通後新東名からのアクセスが容易になる須走口登山道をどうPRするか―などが提案されている。同町町長戦略課は「街灯のLED化や花の会による沿道美化など、地域でできることは率先して進めてもらっている。景観を損なう電柱の移設・地中化などの素案は次年度策定する町総合計画などの施策に反映させたい」と語る。
 また、住環境にも配慮している。町が自ら町内南藤曲地区に新たに整備する宅地は、「家・庭一体の住まいづくり」というコンセプトのもと設計・施工を一括で発注。自治体の事業としては珍しい試みだ。

■周辺の自然と調和した宅地開発のイメージ

 宅地は16〜17区画で、コモンスペースと呼ばれる住民が共有する広場を数カ所設けている。各戸の境は塀などを用いず、植栽も敷地全体を明るく見せる斑(ふ)入りの樹木や、維持管理がしやすい樹木を指定するなど、一定のルールを決め統一感を出す。地元の富士山金時材を使ったモデルハウスを建て、他の住宅の手本にする方針だ。
経済建設部の溝口久専門監は「建物のデザイン、色、植栽まで細かくコントロールすることで、富士山や周辺の自然と調和した宅地を目指す」と意気込む。
 景観計画も2017年度内に策定する。都市整備課は現在の良好な景観を保全・活用し世界遺産にふさわしい景観形成を目指したいという。今後は住民説明会やパブリックコメント、広報誌などを通じて住民との合意形成を図っていく。


■「三島らしさ」を醸し出す景観づくり―三島市

■水辺でザリガニを取る子供たち。三島駅から至近の場所にこうした環境があるのは素晴らしい

 三島市は1996年から「街中がせせらぎ事業」を官民一体で進めてきた。中心市街地を流れる川や水路、三嶋大社、楽寿園をはじめとする緑あふれる空間は、駅から至近の立地も手伝って今では多くの人々を引きつけている。
 また、三島大通りの電線地中化、源兵衛川沿いの散策道や駅前広場の整備を行い、07年に景観条例を策定。10年には景観形成をさらに進めるためのテキスト「建築物等景観マニュアル―『三島らしさ』のデザインコード―」を作成し、ホームページで公開している。
 これらの取り組みは、国土交通大臣表彰「手づくりふるさと郷土賞」(2005年)、第14回日本観光協会主催「優秀観光地づくり賞」(06年)をはじめ、静岡県都市景観賞を4回受賞するなど、県内外から高い評価を受けた。また、11年からは市内の優れた景観に贈る「三島市景観賞」も実施している。
 こうした活動を引き継いだのがまちづくり事業「ガーデンシティみしま」だ。市民団体、NPO事業者など約120の団体が「ガーデンシティみしま推進会」を結成、水と緑と花に彩られた品格あるまちづくりを目指している。その活動は、地域清掃や花壇づくりにとどまらず、コミュニティーの醸成や産業の活性化、映画やドラマ撮影の誘致など多岐にわたる。今月初めに開かれた総会には100を超す団体の代表者が集まり「市民が主役」のまちづくりが進んでいることを印象付けた。
 本年度はアクションプランに基づいて推進会メンバーが行う活動に、市が上限10万円の支援をする。また、月に一度、まちづくりに興味のある若手、特に女性を中心としたコア(核)スタッフ会議を開き、今後の方向性や新規事業を検討している。先日は、花と緑のまちづくりを一歩進め、「三島らしい景観をどう創っていくか」について意見を交わした。
 「市街地に足りないのは調和や物語性」と語るのはメンバーの一人、キャリア・リング共同代表の上原祥子さん。「ガーデンシティで新たな街並みを生み出すのか、古き良き物を大事にしていくのかをはっきりさせるとわかりやすくなるのでは」と言う。他のメンバーからも「世代や地域によって三島に対する印象がバラバラ」といった意見が相次いだ。
 イメージの統一を図るため、三島市在住で、景観形成の専門家・清水裕子さんとともに中心市街地を視察、三島にふさわしい部分、ふさわしくない部分をピックアップし、検討を重ねている。 同市商工観光課は「アクションプラン実施の3年間で統一感のある街並み形成は難しいが、一部のエリアだけでも整備し、中心市街地における景観の方向性を具体的に示したい。それが、中長期で面的な整備につながれば」と語る。2年後の市制75周年に向け、今年から市民参加の映画づくりも始まる。ガーデンシティみしまの活動を通じて、スクリーンに永遠に残る三島らしい風景、人々の営みをぜひつくり上げてほしい。


県と周辺9市町が連携景観保全行動計画を策定

 県と富士山周辺9市町は「富士山周辺景観形成保全行動計画」を昨年3月に策定。多くの来訪者が見込まれる世界遺産構成資産や各駅の周辺など42カ所を「重点箇所」に指定し、良好な景観づくりのモデルとして整備を進めている。

「景観に対するオーナーシップを持つ」

■大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員(静岡県景観賞審査員)
清水 裕子氏

 三島市は以前から民間・行政・市民の協働がバランスよく、うまくいっている地域だ。ガーデンシティみしまの総会にも100人以上の団体の代表が集まった。この“市民力”の裾野の広さは素晴らしい。
水と緑、歴史が育んだ風景を生かし、街中がせせらぎ事業で形づくった拠点が徐々に周囲に広がり、ガーデンシティの取り組みと一体化するよう、進んでいくとより三島らしさが生まれるだろう。
必要なのは、オーナーシップ―。この地を訪れる人にとっても自分の家の周りを快適な空間にしていこうという意識、その景観を自身が育んでいくという気概だ。例えば、桜川沿いの家々はいつも手入れがされていて、大変意識の高い人たちが住んでいるエリアだ。行政はこうした人たちの意見を丁寧に吸い上げ、それをガーデンシティの中で具体化していくと良いと思う。

 景観の形成は最終的には環境をつくることにつながる。環境とは、花だけでも、庭だけでもない。食、生態系、子育て、高齢者、経済活動―こうしたものすべてが統合された概念だ。だから、街なかは三島らしさを強調したグランドプランで、また、郊外は豊かな自然を生かすというような、多様性があっていいだろう。

 



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