サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 2019年のラグビーワールドカップ(RWC)、翌20年の東京五輪・パラリンピック開催が決定したことで、スポーツだけでなく社会や経済面への効果にも期待が集まっている。このチャンスを地域の活性化につなげようとする動きが全国各地で加速している。静岡県も今年4月にスポーツ交流を推進する部門を設置。観光やスポーツ振興部門と連携し、RWC開催会場の静岡県招致や五輪事前合宿誘致などの取り組みを推進している。10月の「風は東から」は、県東部地域のスポーツ交流の動きを取り上げ、大会や合宿誘致の先進事例を紹介しながら課題と展望を考える。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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スポーツ交流 新時代へ 広域連携の仕組み構築
■合宿受け入れで地域連携強化「静岡県富士水泳場」

 県富士水泳場は50メートル競泳プール、飛び込みプールを有し、水泳競技で全国に2カ所あるJOCの競技別強化センターのうちの一つに指定されている。昨年、天井の崩落事故があり現在は閉鎖中だが、来年10月に再稼働の予定だ。  例年、シンクロナイズドスイミングや高飛び込みの日本代表チームが合宿で利用していた。日本水泳連盟のジュニア育成の拠点でもあり、高校生以下の競泳の強化合宿では選手、関係者約130人が毎年訪れ、10日以上を過ごす。水温や室温の微調整はもちろん、試合前には時間外の対応をすることもある。「選手にとっていかに使いやすい環境をつくるかを代々の施設管理者が考えてきた」と三輪光司所長。また、トップ選手と地元選手の合同練習なども行い、地元の水泳関係者に刺激を与えている。  合宿の受け入れは、富士市のホテル・旅館組合が全面的に協力している。ホテルが栄養管理面までサポート、仕出し業者との調整も行うこともある。  昨年行われた全日本学生ライフセービングプール選手権大会には、3日間で延べ1000人が参加。歓迎の飾りつけや宿泊補助などを富士市観光交流ビューローがサポートしている。「もともとアルティメット(フライングディスクを用いたニュースポーツ)の全国大会などを開催しており、地域にスポーツ大会や合宿を受け入れる土壌ができている」と三輪所長はいう。

■JOCの競技別強化センターに指定されている富士水泳場。一般利用者も受け入れており、年間22万人が利用する



■ワンストップ体制でバレーの聖地づくり「東レアローズ」

■現役選手が指導するバレーボール教室は毎回好評だ

 地域に根差した男子バレーボール実業団のトップチーム、東レアローズ(三島市)。親会社東レの社会貢献の一環で、地域活動を行っている。
シーズンオフの6〜8月、近隣市町の主に小中学生対象にバレーボール教室を開く。今年は13回を数えた。また、現役選手が県東部にある高校のバレー部主将を集めて講義をするなど、地域や団体から依頼があれば講演なども受け入れている。週2回、アローズジュニアの教室もあり、ここで受講する選手が近隣中学で活躍をしている。
夏休みには大学や高校チームの合宿も受け入れている。毎年30チームほどで、1チーム平均20人。延べ600人以上が同市を訪れる計算だ。専用の宿泊施設も敷地内にあり、食事は社員食堂を社員の利用時間を外して使う。東レ三島工場事務部の矢島久コ総務課長(アローズ副部長)は「大学生は練習相手にもなるし、良い選手がいればスカウトもできる」と地域貢献だけではなく、アローズにとってのメリットもあると話す。
 大会前の調整合宿なども受け入れる。今月行われた長崎国体の前には、五つの県から選抜チームが訪れた。
こうした受け入れは東レアローズが窓口となる。「私どもの施設だけで足りなければ、市民体育館や近隣宿泊所の手配まですべてアローズ事務局が行っている」と矢島課長。
 スムーズな運営は50年以上続く東レアローズの伝統だ。「三島市・長泉町の周辺自治体には定期的にあいさつに出向き、協力をお願いしている」という。今後は伊豆市のサイクルスポーツセンターなど、市外のスポーツ施設や団体とも連携し、活動の幅をより広げたいと考えている。


■スポーツのまちづくり時代を先取り「NPO法人裾野市スポーツ協会」

■全国から選手が集まる全日本少年サッカー大会は裾野市の夏の風物詩だ

 特定非営利(NPO)法人裾野市体育協会は一昨年、「スポーツ協会」(以下スポ協)と名称を変更し、従来の「体育」の枠組みだけでなく幅広いスポーツへ活動の対象を拡大した。
鈴木啓久会長はその理由を「既存の体育関連の団体や組織の活動は、現在スポーツを行っている人だけを対象とした活動にとどまってしまいがち。組織や団体間の横のつながり、年代間の縦のつながりに欠けるといった構造的な問題もある」と説明する。
だれでも参加できる健康づくりやスポーツが楽しめる「場」を地域につくり、定着させることで同市が目指す「健康文化都市すその」の構築に寄与することもその一つの方向だ。
対象は幼児から高齢者、また、プロ、アマチュア、障がい者、健常者を問わない。例えば、同市の身体障がい者福祉会はスポ協に加盟しており、障がい者スポーツに取り組む体制もできている。そうした下地もあり、身体障がい者の全国野球大会「ドリームカップ」は11回を数える。
 鈴木会長は「将来的には、大会や合宿を地域ぐるみで誘致するスポーツコミッションの設置も視野に入れていきたい」と意気込む。裾野市は02年のFIFAワールドカップ開催時、御殿場市と連携してウルグアイチームの事前合宿を誘致した実績がある。ただし、「スポ協単体で頑張っても成り立たない、行政、民間などとの広域での連携が不可欠」。このため裾野市観光協会や、今年1月に設立された静岡県東部地域スポーツ産業振興協議会に加入し、情報交換や協力体制づくりを進めている。
 7人制ラグビーは16年リオ五輪でオリンピック競技に採用される。サッカー合宿で全国的に知られた存在の裾野市だが、スポ協は、RWC2019の静岡開催の可能性なども踏まえ、民間事業者やラグビー団体と連携してラグビーの大会や合宿誘致にも取り組んでいく方針だ。
 「スポーツはお金のかからないまちづくり」と鈴木会長は言う。行政、NPO、民間での協働体制の構築に向けスポ協の挑戦は続く。



■「面」の競争力強化へ 課題と将来像共有

 6年後に東京五輪、その前年にはRWCが開催される。
 東レアローズの矢島課長は「できれば、オリンピックの事前合宿も誘致したい。練習試合でチームの戦力強化にもつながる。すでにワールドカップや世界選手権ではブラジルやアメリカの代表チームが訪れており、海外とのパイプもある」と語る。誘致が実現すれば行政と協力して子どもたちとの交流なども計画したい、と意気込む。
  「大きな大会の誘致は選手の安全な移動手段と宿泊がポイント」と語るのは富士水泳場の三輪所長。市内に宿泊施設が少ないため、広域での受け入れが必須と語る。「水泳場が独り相撲を取るのでなく、市やホテル・旅館組合との協働などが必要。コミュニケーションをよく取ることが肝要だ」。
  「宿泊はやはりネック」と裾野市スポ協の鈴木会長もいう。スポーツコミッションの設立を考えるとき、地域が連携した受け入れのワンストップ体制づくりが重要になる。
 施設の老朽化はどこも避けて通れない課題。今後は、公共スポーツ施設を広域的な視点から再編成する取り組みも求められるだろう。大きな大会や合宿の受け入れにあたっては、地元利用との調整も課題となる。こうした問題の解決に向けて、鈴木会長は「体協も広域化し、地域で融通し合うべきだろう」と提案する。
 今月15日には、6市4町の首長が川勝平太静岡県知事と東部五輪合宿誘致について意見交換をした。首長からは自治体単独の誘致は限界がある、広域で力を合わせて進めたい、といった意見が相次いだ。そういった意味でも県東部地域の20市町が参加する東部地域スポーツ産業振興協議会の今後の活動に期待が集まる。県東部ですでに行われている数多くのスポーツ交流活動を丁寧に拾い上げ、その課題と将来像を共有し、スポーツツーリズムやスポーツを媒介としたまちづくりを継続的に推進する地域プラットフォームをぜひ構築してほしい。



■「競泳ジュニアの合宿から未来のオリンピック選手が数多く羽ばたけば」と語る県富士水泳場の三輪所長

■東レアローズの矢島課長は「バレーボールを通じた地域貢献にはまだまだ多くの可能性がある」と語る

■「スポーツコミッション設立に力を入れたい」と語る裾野市スポ協の鈴木会長



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