サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 核家族化、高齢化が進む中ペットを飼う家庭は増加の一途。一方、国内で殺処分される動物の数は年間16万頭にも上る。こうした現状を打破し、人と動物が真に共生できる未来社会を創造することを目指して、沼津市西浦地区に民間初の「人と動物の未来センター(アミティエ沼津)」の建設が予定されている。11月の「風は東から」は東部地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに栗原裕康沼津市長、川崎市動物愛護センターの角洋之所長、ベリークルーズの高橋祐一社長、前環境大臣政務官の牧原秀樹衆議院議員(埼玉5区選出)を迎え、同センターの課題と展望について議論した。コーディネーターはサンフロント21懇話会シンクタンクTESSの中山勝研究員(企業経営研究所常務理事)。

東部地区分科会
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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人と動物の共生がテーマ新たな地域創生目指す
■動物愛護で地域活性化

 中山 サンフロント21懇話会は開設20周年記念事業の一環で「人と動物の未来センター」支援を挙げています。まず栗原市長にこの施設を誘致した理由をうかがいます。
 栗原 この計画を知ったのは新聞報道でした。当市は西浦地区に、ある企業から寄付された70万坪の土地があり、活用を模索しているところでした。今後、動物愛護は日本人にとって環境問題と同じくらい重いテーマになる。それに先進的に取り組めば、沼津を含めたこの地域の大きなアピールになると手を挙げました。
 中山 川崎市は昨年度、動物の「殺処分ゼロ」を達成しましたね。
  「殺処分ゼロ」は目標でなく、助けられる命は助けようということの結果です。攻撃性が強く、矯正できない犬、病気が治る見込みのない犬などがいますから、今後もこれが続くとは思っていません。今回達成できたのは職員の頑張りと、ボランティア、愛護団体、民間の動物病院など多くの方々の協力があったからです。長年、飼い主の啓発を進めていて、当市独自の条例に定める「かわさき犬・猫愛護ボランティア」の登録者は40人を超えています。
 センターの大きな役割の一つが子どもたちへの教育です。動物とのふれあいを通して動物愛護の心を育む「動物ふれあい教室」は、小学生を中心に年間2000人が参加しています。
 高橋 ペットと一緒に泊まれる宿泊施設を6カ所経営しています。15年前までお笑い芸人をやっていましたが、ある保養所の再建を頼まれ、1室だけペットを受け入れたことが動物との関わりの始まりです。
 ペットと泊まれる宿はまだ少ないので、リピート率は高いです。行ける場所があると行く人が増え、人が動くとインフラが整います。以前はサービスエリアになかったドッグランは今、ほとんどのところにありますね。将来、飛行機の座席にペットが座る時代が来ることを願っています。そのためにはしつけや飼い主のモラルが重要視されていくと思います。
 栗原 精神的な動物愛護も大切ですが、これをやることで地域が活性化するというのも大きな目標だと思います。建設予定地近くの戸田には、来春、道の駅「くるら戸田」ができます。動物と一緒に来られる道の駅にしたい。いい散歩道もありますので、ペットとゆったり散歩してもらいたい。それで地域が潤えば素晴らしいことだと思います。
 牧原 昨年9月に環境大臣政務官に就任し、「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクトアクションプラン(牧原プラン)」を作りました。当時は17万頭が殺処分されていました。現場の方にしたら殺したくて殺しているわけではない。それを大幅に減らす方向で国がビジョンを示さないといけない。細かい議論はたくさんあります。反対意見もあります。
 このプランは実務に関わっている人の意見を取り入れました。ポイントは(1)飼い主・国民の意識向上(2)引き取り数の削減(3)返還と適正譲渡の推進―の三つです。
 沼津の案で感銘を受けたのが動物愛護と福祉という観点です。また、地域活性化、まちおこしにいかすというのは良いアイデアですので、うまくいけば環境省で紹介したい。続々と全国から視察が来ると思います。

■パネリスト
栗原裕康 沼津市長

三光汽船勤務、衆院議員秘書を経て1991年県議、93年〜2000年衆院議員を2期務めた。08年11月沼津市長に就任、現在2期目
■パネリスト
角 洋之
川崎市動物愛護センター
所長

1985年川崎市役所入庁。保健所、夢見ヶ崎動物公園などを経て2010年4月から現職。動物の適正飼養や愛護精神の普及啓発に努め、子供たちの健全育成を視野に入れた「命の教室」を開催




■継続へ 収益性確保

 中山 センターを運営するにあたっての課題や解決法について議論していきます。
  所長に就任して5年になりますが、最初にしたことはセンターを市民に対してオープンにする。殺処分室も含めてです。後にも先にもこれ一つしかやっていません。
 センターには獣医師と現業職(運転手、動物保護作業員)など複数の職種があります。外に出ての業務量が減少し、殺処分をしない分、センター内の業務量が増え、獣医師は休む暇がない。幸い現業職の皆さんから、手が空いている時は獣医師の手伝いをしようという声が出てきました。このまとまりと頑張りが殺処分ゼロにつながったと思います。
 また、ボランティア、愛護団体との信頼関係の構築が大きなカギです。信頼関係ができるまで10年近くかかりました。要望はなるべく聞いてあげたいのですが、行政ですからできないところはできないとはっきり言わないとなりません。
 牧原 課題は四つあります。まず、幅広い方の参加を求めること。一部では学校教育に取り込んだり、老後に犬を飼いたいという人が行けるようにしたりすることで多くの方の理解につながります。また、そういう方に実際に行って体験してもらうことが大切です。
 二つ目は官民の連携です。動物愛護の分野には愛護団体、ボランティアが大勢います。プランを発表した際、賛成と反対が半々でした。そういう人も巻き込んで協力してもらうことが大切です。
 三つ目は人材です。獣医師以外、動物の世話、経営の手腕などプロとして出来る人はなかなかいない。さらにどんなに不当なことを言われても耐えうる精神力をもった人材の確保も必要です。
 四つ目は財源です。ペット税を導入する、民間のファンドを作って運営に使う、税制上の優遇措置を設けるなど、アイデアは出していますし、国もモデル事業という形で応援していきたいと思います。
 高橋 一番難しいのは継続です。収益性をきちんと確保しないとなりません。それには「その施設に行かなければいけない理由」が必要です。私どもが経営する修善寺の「絆」という宿は1泊3万〜5万円と高級ですが、ペットと行ける高級旅館はここしかありませんでした。また、那須や軽井沢などは地域が協力してペットと一緒に来る人を受け入れています。
 栗原 センターについては市議会でも議論があります。騒音の問題、野生動物への影響、施設が引き取れない場合、その辺に放置されてしまうのではないか。こうした懸念への対策を講じていかないとなりません。市内の愛護団体や獣医師への理解促進も必要です。
 残念ながら、市民全体が応援するという雰囲気はあまりありません。市は土地を提供するだけですが、民間団体だから勝手にしてくださいとは言えません。ふるさと納税に動物愛護という項目を作って寄付を集めていくことも検討しています。もちろん設置者がしっかりとした経営手腕を持つことも必要でしょう。
 賛否両論ありますが、正しいと思うことをやるには政治的な決断が必要です。その覚悟は持たなければと思っています。
中山 取り組みの認知度を上げるため、本日基調講演をされた浅田美代子さんや、沼津にゆかりのある佐藤浩一さんなどにも協力していただくことが必要ですね。

人と動物の未来センター「アミティエ沼津」

■施設イメージ(完成予想図)

人間と動物の共生社会の実現を目的に、飼えなくなった犬や猫を引き取り、一定期間飼育する中でしつけのできた健康な犬・猫を新しい飼い主に譲渡していくことと、動物愛護思想の啓発や普及活動、獣医師や動物看護師の教育などを行う施設。運営する公益財団法人「動物臨床医学研究所」は、獣医学に関する臨床的研究や獣医療技術の向上、人と動物の共生の探求及び動物愛護思想の啓発普及事業を行っている。

■パネリスト
高橋祐一
ベリークルーズ
代表取締役社長CEO

高校卒業後、サラリーマンを経て芸人に。芸人を辞めた後、ホテル再建を手掛けるベリークルーズを設立。「ペットと泊まる」を再建アイデアにペット宿泊事業に進出

■パネリスト
牧原秀樹
衆議院議員

2003年経済産業省入省。05年9月衆議院選挙(埼玉5区)で初当選。現在2期目。13年9月環境大臣政務官に就任し、犬猫の殺処分ゼロを目指すプロジェクトを立ち上げた。14年9月自民党副幹事長
■コーディネーター
中山 勝
企業経営研究所常務理事

スルガ銀行入行後、企業経営研究所出向。主席研究員を経て2000年より部長、08年5月から常務理事。沼津市などの委員を務める



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