サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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来年、伊豆半島ジオパークは、国連科学教育文化機関(ユネスコ)が支援する世界ジオパークネットワークへの加盟に挑戦する。2009年に活動を開始してから「最短ルート」で日本からの推薦2枠の一角を占める快挙だ。12月の「風は東から」は、伊豆半島ジオパークを取り上げる。今見えている課題や世界ジオパーク加盟に向けた期待などを関係者に聞いた。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

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世界ジオパーク加盟控え「伊豆は一つ」具体化へ
■現地調査で課題浮き彫りに

 世界ジオパークとは、貴重な地質遺産が多数あり、それらを地域に根付いた伝統や文化とともに守りながら、教育・地域経済・防災などに活用し、持続可能な発展を目指す地域。加盟認定後も4年に1度再審査がある点が世界遺産とは異なる。
 認定地域は現在、欧州や中国を中心に32カ国111地域。国内では、洞爺湖有珠山(北海道)、糸魚川(新潟)、山陰海岸(京都、兵庫、鳥取)、隠岐(島根)、室戸(高知)、島原半島(長崎)、阿蘇(熊本)の7カ所だ。
 伊豆半島ジオパークの世界推薦にかかる国内現地調査は7月20日から2泊3日で行われた。審査を務めた日本ジオパーク委員会からは「地質を生かしたレベルの高い活動に取り組んでいる」と高い評価を受けた。
 一方で、課題も浮き彫りに。(1)外国人を意識したジオツーリズム対応(2)伊豆半島全体の成り立ちと各ジオサイトの関連付け(3)世界ジオパークネットワークに対する貢献の明確化(4)伊豆半島ジオパークが一体であるという意識の醸成―などだ。
 特に(3)と(4)は今後積極的に取り組んでいく課題だ。15市町からなる伊豆半島ジオパークは、ほかの地域に比べ構成自治体の数が突出して多い。審査員からは「市町単位のサイトの説明には違和感をもった」という意見も出た。また、世界ジオパークネットワークに加盟することは、「ブランドを得るのではなく、メンバーとしてどのような役割を担っていくのかが問われる」(県観光政策課)という。

■シーカヤックで海から見るダイナミックな海岸線は、新しい“伊豆の顔”だ (南伊豆・龍崎の「蛇くだり」)



■ユネスコ憲章に基づき相互理解を深める

 9月に行われたジオパーク国際ユネスコ会議カナダ大会に、伊豆市の菊地豊市長は伊豆半島ジオパーク推進協議会の会長代行として初参加した。「今までジオパークは観光振興にどのように役立てるかが主眼だったように思う。しかし、国際会議に参加し意見交換をする中で、実は世界平和につながる活動だということが分かった」とその印象を語る。
 そもそもジオパークは、ユネスコ憲章(※)に基づき、地質的特徴やその上に育まれた文化や歴史を相互に理解し交流する中で、世界の平和と安全に貢献する取り組みだ。「そうした活動に県でもなく市町でもなく、伊豆半島が一丸で取り組めることに感銘を受けた」と力を込める。

  最も必要なのが、地域住民への啓発だ。「国際会議でフランスの若い女性のスピーチを聞いた。彼女は直接的なジオパークの説明はせず、地域住民の活動報告に終始した。世界では、いかに住民の参画をうながしているかが評価される」と菊地市長。「博物館とも、手を加えてはいけない自然遺産とも違い、今生きている地域の人たちの活動そのものがジオパークである、というコンセプトは本当に面白い」という。

■「ジオパーク活動は世界の平和と安定に役立つ取り組み」と語る菊地市長

ユネスコ憲章
国連の専門機関として発足したユネスコの精神・目的・任務などを定めた条文。その第1条1項には「この機関の目的は、国際連合憲章が世界の諸人民に対して人種、性、言語又は宗教の差別なく確認している正義、法の支配、人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を助長するために教育、科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することによって、平和及び安全に貢献することである」と規定されている。



■地域にジオパーク広める取り組み加速

■災害発生時の準備と課題について話し合われた
「伊豆半島防災シンポジウム」

 

世界ジオパークの加盟を目指すには、今まで行ってきた活動に加え、「世界平和への貢献」という目的を伊豆半島全体で共有できるかが大きなポイント。それには、伊豆半島で行われているさまざまな地域活動を「ジオパーク」というくくりの中でとらえ直してみることが必要だ。
例えば、伊豆13市町が行う伊豆半島防災シンポジウムも立派なジオパークの活動と言える。毎年約500人が集まり、地震や津波、狩野川台風の歴史などをテーマに開催している。また、温暖な気候や温泉は伊豆に文人墨客を呼び寄せ、今も作家ゆかりの宿や半島中に散らばる文学碑などで楽しむことができる。韮山反射炉の基礎は伊豆特産の「伊豆石」でできている。シーカヤックや水流に乗って滝を滑り下りるキャニオニングも伊豆ならではの大地と地域特性があるからこそ楽しめるスポーツだ。
来年の秋には、世界ジオパーク加盟の可否が決まる。「ジオパーク」という、世界に開かれた新しい“称号”を手に入れ、伊豆半島の今を広く発信することが世界平和につながり、ひいては新たな市場を開拓することにもつながる。 推進協議会は今後、拠点整備やガイド育成と並行して、住民やジオガイドが楽しみながらジオパーク活動に取り組める仕組みづくりをさらに進めたい考えだ。3月には、県主催でユネスコ関係者を招いた国際シンポジウムの開催も県東部で計画している。

■伊豆半島の世界ジオパーク認定に向けた流れ
2014  12月

世界ジオパークネットワーク(GGN)に申請書を提出

 15年2〜4月 GGNによる書類審査
6〜8月 GGNによる現地審査
9月

山陰海岸で開かれる第4回アジア太平洋ジオパークネットワーク大会で認定の可否 結果を発表



足元の宝を発見!! 伊豆半島ジオパーク◇

■多くの文学作品に登場した 「天城隧道」と「伊豆の踊子」初版本

■長倉書店 社長 長倉一正さん
「文学片手に ジオパークを楽しもう」
文豪・川端康成は「伊豆序説」の中で、「伊豆半島全体が大きな公園である」と言った。温暖で風光明媚(めいび)な伊豆は古くから多くの作家を引き付け、数々の作品を生み出す温床となった。
例えば天城峠。川端の「伊豆の踊子」をはじめ松本清張「天城越え」、池波正太郎「天城峠」、内田康夫「天城峠殺人事件」など、名作が次々と浮かぶ。
井上靖は滑沢渓谷で、冷たく光る猟銃を持った猟師を連想し、三島由紀夫は黄金崎の美しい光景を豊かな感性で印象的につづった。文学書を片手に伊豆の地形を楽しむのもジオパークの新しい魅力だろう。

■サーフェイス
カヤックガイド サービス代表 武田仁志さん
「地元を見直す 機会づくりを」

カヤックで国内外を見て回った。伊豆半島の優れている点は、東伊豆、南伊豆、西伊豆と風景の印象がダイナミックに変わることだ。海から見る伊豆半島は最高に不思議で美しい。伊豆半島の大地の成り立ちが今、われわれが見ている風景をつくり出し、アウトドアの楽しみを提供している。
これからは、地元の人たちがジオに興味を持つような活動もしていきたい。例えば下田・南伊豆には昔から伊豆石で作った石臼がある。これで小麦をひいてパンを焼く。これも立派なジオだ。そんな話題を紹介する取り組みも面白いと思う。

■日本旅行 国際旅行事業本部 チーフマネージャー 緒方葉子さん
「外国人にもジオパークは二重丸」
伊豆半島はいわゆるゴールデンルートからは外れているが、箱根と違い、海も山も富士山も楽しめる。最近は建築だけを見る、面白い景観だけを見るといった「テーマ旅行」が受けているので、ジオパークも伊豆半島にお客さまを引き込むための大きな魅力になるのではないか。
外国人は長期間、日本中を旅行するので、日本列島がどのような地質学的特徴を持っているのか、例えば九州の火山帯と伊豆半島はどう違うのか、といった説明があれば興味を持ってもらいやすい。

■大滝温泉天城荘  若女将 田中智与さん
「温泉からジオの魅力を発信」
河津七滝めぐりの最後を飾る大滝。天城荘では、大滝を見ながら露天風呂で湯あみが楽しめる。本や写真では分からない、来てもらって初めて分かる大滝の迫力、柱状節理の形、水しぶきをぜひ体験してほしい。
ここは世界レベルの価値がある宿泊施設だと思っている。天城峠を越えた南の玄関口としての役割も持たせ、さまざまなアクティビティーの提供など、広がりをつくっていければいい。そのためにもジオパークを通じ「地域との良い関係」を築いていきたい。



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