サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 ファルマバレープロジェクトが始動して14年、今年新たな局面を迎える。2016年春に開業するファルマバレー新拠点施設は今年、進出企業・団体を募集する。旧長泉高校の跡地を活用し、同プロジェクトが目指す「県民の健康増進・疾病克服」「経済基盤の確立」を一層推進するため、医薬品や医療機器の研究開発が生まれやすい施設や仕組みを取り入れる。1月の「風は東から」は新拠点施設の概要と、進出を予定している企業の意気込みを紹介する。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10

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ファルマバレーに新拠点 医療機器開発加速を期待
■ファルマバレーの転換期

 2001年、ファルマバレー構想が始まった。翌02年に静岡がんセンターが開業。03年にプロジェクトの中核的支援機関ファルマバレーセンターがオープン、05年にがんセンター研究所が開所し、同プロジェクト推進のための基盤が整った。
 11年には国の「ふじのくに先端医療総合特区」に指定された。2年連続で全国1位の評価を受け、医療健康分野の産業クラスターの先駆けとして大きな成果を挙げている。
 そうした中、国は医療健康産業分野を成長分野の一つに位置付け、本県以外にもこの分野に力を入れ始める地域が増えた。「県としてもう一度アクセルを踏みなおし、引き続き全国を引っ張っていけるプロジェクトにしたい」と県経済産業部の黒田晶信理事。今回、県は新たな拠点整備に着手した。
 新拠点施設は静岡がんセンターと目と鼻の先に位置し、東名沼津インターから車で2キロほどの場所にある。敷地面積は約4万3000平方メートル、旧長泉高校の校舎などをリニューアルし、新しく三つの建物も造る。延べ床面積は約1万7000平方メートルだ。

■ファルマバレー新拠点施設のイメージ図(上)と、旧長泉高校(右下)。ここからファルマバレーの新たな挑戦が始まる



■三つのゾーンと四つの機能
新拠点施設は大きく三つのゾーンで構成される。
(1)プロジェクト支援・研究ゾーンは、同プロジェクトの中核支援機関ファルマバレーセンター(PVC)が移転する。また、小規模のレンタルラボ(実験室・研究室)やレンタルオフィスを予定している。
(2)リーディングパートナーゾーンは約7000平方メートル。自ら高度な研究開発を行いながら地域企業や研究ゾーンへの進出企業に対して各種支援ができる大手企業の誘致を働き掛けた結果、公募を経て、テルモMEセンターがその役割を担う予定だ。
(3)地域企業開発生産ゾーンは、第二創業などで医療健康産業に進出した地域企業向けレンタル工場だ。医療産業に参入した事業を軌道に乗せ、最終的に地域の工業団地などへ移転するまでの間、利用する。地元でインプラントなどの開発製造を行う東海部品工業が進出を予定している。
機能面の特徴は次の四つだ。
一つ目はワンストップによる支援の提供。中核的支援機関PVCだけでなく、医薬品や医療機器の販売会社、知的財産(知財)に詳しいコンサルティング企業なども進出を予定している。これにより、専門的な支援が施設内で受けられる。
リーディングパートナーとなるテルモからも研究開発にかかる助言や情報などを受けられる予定だ。
二つ目は、成長のステージに応じた支援の提供。創業間もない企業は研究室をインキュベート施設として、また、医療産業に参入した地域企業が新たに開発や生産を行うためのレンタル工場もある。リーディングパートナーゾーンは大手企業の研究開発拠点として貸し出し可能だ。
三つ目は、交流・連携機会の提供。大企業から中小企業までさまざまな企業が進出する。PVC主催で異業種交流や連携を促し、施設内で創発が生まれる環境を作っていく。
四つ目が人材高度化のための機会提供。医療健康産業の中核人材の育成や医療分野の専門人材の育成の場としても活用する。県はこうした機能を集約することでオープンイノベーション(※)の新たなモデルを提示していきたいと考えている


■オープンイノベーションの時代へ

新拠点施設へ進出すると、PVC、販売会社、知財コンサルタント、テルモなどから一元的でつなぎ目のない支援を受けられるほか、静岡がんセンター・静岡がんセンター研究所の研究成果やゲノム情報が活用できる(共同研究が前提)こと、PVCが所有している11万8000の化合物ライブラリーが活用できること―などがメリットとして挙げられる。施設料金も1平方メートルあたり600円程度(共益費別)とリーズナブルだ。今後、募集に向けて県新産業集積課やPVCが企業訪問、説明会などを開催し、入居企業を募集する。
トヨタ自動車は燃料電池関連の全特許を世界に公開した。これからはトヨタといえども一企業だけで完結する時代ではない。広く特許を公開し、新しい活用を世界レベルで模索する、まさにオープンイノベーションの時代だ。この新拠点施設でもテルモをはじめ、地域のオンリーワン技術を持った企業が結集し、試行錯誤することでより良い成果が生まれることを期待したい。


※オープンイノベーション…自社技術だけでなく他社や大学などが持つ技術やアイデアを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや革新的な研究成果、製品開発につなげる方法



新拠点施設に期待する

■稲葉文章 テルモMEセンター長
「現場・現物・現実を反映した技術開発を」
MEセンターは医療電子機器(メディカルエレクトロニクス)の開発製造部門だ。機能強化を図るために移転先を探していたところ、医工連携、産学連携をより一層推進できるファルマ地域(新拠点)で事業を実施するのが良いと考え応募した。
われわれの製品開発は、車やAV機器と違って開発者がユーザーになれない。良い製品を開発するためには、医療従事者からの率直なフィードバックが不可欠なため、静岡がんセンターという医療現場との連携に大きな期待を寄せている。
また、先月PVCの働きかけで展示会を行い、高い技術を持った東部の機械加工や成型メーカーと知り合えた。今後もこうしたキラリと光る企業との出合いを期待するとともに、リーディングパートナーとしての役割もしっかり果たしたい。 例えば、医療機器の開発は法律や規格が数多く存在し、解釈・運用にあたってはいわゆる「勘どころ」が必要で、そうしたノウハウや最新の情報提供などを行いたいと考えている。

■盛田延之 東海部品工業社長
「ファルマ産の医療機器生産可能に 」

医療機器開発には数多くの制約がある。材料一つとっても医療機器に使える材料は決まっている。それを用いなければ認証が下りない。部品メーカーにとっていちいち材料を調べるのは難しい。また、開発した製品が医療機器のどのカテゴリーに入るのかの目利きも必要だ。開発当初から医療機器開発に詳しい専門家がひざ詰めで相談に乗ってくれる体制は、効率化を図る上で多いに歓迎したい。
開発に必要な骨や臓器のデータなども個人情報の壁があり、簡単には提供してもらえない。この部分も静岡がんセンターをはじめ、大手製薬企業や地元医療機関のネットワークで提供してもらう体制を望みたい。
また、中小企業は医療機器開発に必要なさまざまなパーツを他社の助けを借りて作っている。今の取引先は県外、それも九州や東北など距離がある地域が多い。新拠点施設が整備され、地元企業の情報が集まることで、地元でパーツがそろい、名実ともにファルマ産の医療機器が生産できることを期待している。



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