大坪 韮山反射炉も「明治日本の産業革命遺産九州・山口と関連地域」の構成資産として世界遺産への登録が期待されますね。
川勝 韮山に象徴されるのは伊豆地域の潜在力です。すでに平安時代から都の文化が入っており、歴史・文化が豊かで、景色、気候が良く、食べ物も良い。願成就院の近くで、鎌倉に行くのを渋ってそこにとどまった堀越公方(伊豆公方)のように、伊豆の魅力が人を引き付け、その人のもたらす文化が根付いて蓄積し、幕末には鉄鋼業を自分で学んで反射炉を作った江川太郎左衛門を生み出しました。
韮山反射炉は、韮山高校の生徒さんが、それをテーマに、見学者に説明できる力をつけてほしいですね。伊豆半島の大地を学んでいけば、おのずとプレートテクトニクスについても知ることができます。自分の生活の場についての知識をグローバルに広げていくことが望ましいのです。何も東京に行く必要はありません。自分の足元を学びの立脚点にできます。伊豆には人間を豊かにする資源がありますから。
岡野 私より5代前の先祖は、米公使のハリスが下田に総領事館をつくったときに、沼津から徒歩で下田まで行き、奉行に掛け合って帯刀を許され2年間、同館で働きました。しかし、総領事館が横浜に移る際、ついていくことを実家に許してもらえず沼津に残ったそうです。
このような気概や感性、好奇心を静岡の子どもたちにも持ってもらおうと、私たちは本物のオペラを鑑賞したり、富士山の湧水が駿河湾までいく「水の循環システム」を学んだり、裏千家の方と一緒に本物のお茶会を楽しんだりといった機会づくりをしています。
川勝 学生だけでなく、大人も自らの足元を見直して学び直す時ですね。松下村塾の吉田松陰は学習指導要領に従っていたわけではありません。彼の個人的魅力にひかれて地域の青年が育っていった。学校では全国共通の学科を教えていただいて、地域については、広い視野を失わないように、地域の大人が子どもに経験と見識を伝えるのがよいでしょう。大人による子どもたちへの地域の生きた知識や技能の伝達を通して、地域を自立させ、地方創生を実現したいですね。学びの材料は静岡県にたくさんあります。世界クラスのジオパーク、富士山世界遺産、韮山反射炉のほか、裾野市の深良用水も世界灌漑(かんがい)遺産になりました。それらを題材にした知識、技術、経験を子どもに伝えていく。たとえば、スルガ銀行の自立の思想研究所がいい活動をされています。先ごろ出版された「Nippon Do(日本道)」は素晴らしいテキストです。
大坪 今後の東部をどう考えていきますか。
岡野 静岡県東部地域スポーツ産業振興協議会が発足しました。地元スポーツクラブの「アスルクラロ」がちびっこサッカー教室を開くと、お子さまのご両親、ご祖父母など皆さんがいらっしゃる。こんなにぎやかな会はありません。そういうものを核に健康長寿の発信をしていきたい。
伊豆市のベロドロームにオリンピックの自転車競技がやってくるのもほぼ確実のようですし、地域の皆さんも関心を持つでしょう。茨城県は70面の遊休農地をサッカー場にして学生の合宿をたくさん呼んでいるそうです。東部もそんな可能性も考えてみるといいかもしれません。沼津アルプスは看板整備をしたらもっと歩く人が増えるのではないでしょうか。伊豆八十八ケ所も公認ガイド制度を取り入れると面白いかもしれませんね。広い意味でのヘルスツーリズムが盛んな地域になれることを期待しています。
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