サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部地域の活性化に向け、官民一体で提言を行うサンフロント21懇話会は、活動の模様や地域が抱える課題を毎月1回「風は東から」で取り上げている。本年度は、プラサヴェルデのグランドオープンや、防災面から見た道路網の活用などを取り上げた。年度を締めくくる3月は、川勝平太知事、懇話会代表幹事の岡野光喜スルガ銀行社長を迎え、ファルマバレープロジェクトが進む東部の地域づくりについて聞いた。聞き手は懇話会アドバイザーで、静岡産業大学総合研究所の大坪檀所長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ12

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健康長寿に「場の力」生かし地域学通じて地方創生実現
■ファルマ新拠点に期待

■ 本年度の県東部を振り返る(左から)川勝知事、大坪所長、岡野社長

大坪 ファルマバレープロジェクトは、今や日本を代表するプロジェクトになり、地方創生のモデルとなっています。
川勝 ファルマバレープロジェクトは医療・健康産業を育成するものです。1期戦略から始まり、現在3期目の戦略を前倒しして実行中で、数年前に、イギリスの有名な科学誌「ネイチャー」に特集されました。
本県の医薬品・医療機器の総生産額は1兆円規模となり、過去4年連続で全国1位をキープしています。静岡がんセンターの山口建総長が、それを2兆円にするとおっしゃっており、頼もしい限りです。センターに隣接する長泉高校の跡地を新たな研究開発拠点にすることにし、現在、工事を進めています。大手医療機器メーカーのテルモさん、地元の東海部品工業さんの入居が決まっています。医療関係の研究やプロジェクトを興す企業を募っています。
岡野 臨床現場の静岡がんセンターと隣接しているというのもプラスに働きますね。ファルマバレーでは、01年以降、約30社が新規参入して、70を超える製品が生まれています。医薬品・医療機器産業のメッカに静岡県がなれば2兆円産業も夢ではないでしょう。
川勝 東海部品工業の社風はユニークで、伊豆で畑をやりながら、最先端の医療産業に挑戦されている。本県のプラモデル産業は著名ですが、ネジを作る技術を生かして人体の骨を接続する極小ネジなどを作られており、野菜づくりで社員の健康を実践する社風もいいですね。
静岡県の健康寿命は日本一です。健康寿命を延伸する産業は国家プロジェクトに位置付けられました。
団塊世代を中心に高齢者人口が増えますが、元気と病気の間に「未病気」という段階があり、略して「未病」。高齢者のほとんどが「未病」です。県東部は「未病気」の「気」を「元気」に近づける。県東部は「気」が満ちており、今風で言えば「パワースポット」です。駿河湾と富士山を望む静岡がんセンターには独自の「場の力」を感じます。


■ヘルスツーリズムをPR
 大坪 富士山を眺め、おいしい水を飲み、おいしいものを食べていれば元気になります。伊豆には温泉を健康に活用している「かかりつけ湯」という取り組みもありますね。
 川勝 東駿河湾環状道路が昨年2月に前倒しで開通し、沼津インターと修善寺が30分で結ばれました。圏央道の一部開通で、北関東方面からの来客が目に見えて増えました。関東圏の人たちにとってリフレッシュするには伊豆半島はうってつけです。
 紀伊半島は、伊豆半島と相似形ですが、語り部と歩く熊野古道ウオーキングが盛んです。伊豆半島には温泉があり、浜辺を歩いたり、森の気をいただいたり、紀伊半島と同じことは伊豆半島でもほとんどできます。しかも交通の便ははるかに良い。自転車も楽しめるし、巡礼道もあります。
 岡野 「伊豆八十八ケ所霊場巡礼」はまだ十分な認知がされていません。訪れる側も受け入れる側も環境整備やルール作りが必要となってきます。各自治体が一丸となって取り組むことが、さらに求められてくるのではないでしょうか。
 川勝 熊野古道にまさる魅力が伊豆にあることを宣伝していきます。伊豆には平安朝初期の仏像もあり、近代の夜明けとなるペリー来航も伊豆下田です。川端康成は「伊豆序説」で、いみじくも「伊豆は日本の歴史の縮図」と述べています。ただ、なかなか伊豆がまとまらないので、ジオパーク活動を始めました。ジオパークを通して伊豆が一つになり、ジオスポットを、かかりつけ湯や伊豆八十八ケ所とともに、地図に落とし込めば重層的に楽しめます。

■川勝平太 知事




■地域学の振興図る

 大坪 韮山反射炉も「明治日本の産業革命遺産九州・山口と関連地域」の構成資産として世界遺産への登録が期待されますね。
 川勝 韮山に象徴されるのは伊豆地域の潜在力です。すでに平安時代から都の文化が入っており、歴史・文化が豊かで、景色、気候が良く、食べ物も良い。願成就院の近くで、鎌倉に行くのを渋ってそこにとどまった堀越公方(伊豆公方)のように、伊豆の魅力が人を引き付け、その人のもたらす文化が根付いて蓄積し、幕末には鉄鋼業を自分で学んで反射炉を作った江川太郎左衛門を生み出しました。
 韮山反射炉は、韮山高校の生徒さんが、それをテーマに、見学者に説明できる力をつけてほしいですね。伊豆半島の大地を学んでいけば、おのずとプレートテクトニクスについても知ることができます。自分の生活の場についての知識をグローバルに広げていくことが望ましいのです。何も東京に行く必要はありません。自分の足元を学びの立脚点にできます。伊豆には人間を豊かにする資源がありますから。
 岡野 私より5代前の先祖は、米公使のハリスが下田に総領事館をつくったときに、沼津から徒歩で下田まで行き、奉行に掛け合って帯刀を許され2年間、同館で働きました。しかし、総領事館が横浜に移る際、ついていくことを実家に許してもらえず沼津に残ったそうです。
 このような気概や感性、好奇心を静岡の子どもたちにも持ってもらおうと、私たちは本物のオペラを鑑賞したり、富士山の湧水が駿河湾までいく「水の循環システム」を学んだり、裏千家の方と一緒に本物のお茶会を楽しんだりといった機会づくりをしています。
 川勝 学生だけでなく、大人も自らの足元を見直して学び直す時ですね。松下村塾の吉田松陰は学習指導要領に従っていたわけではありません。彼の個人的魅力にひかれて地域の青年が育っていった。学校では全国共通の学科を教えていただいて、地域については、広い視野を失わないように、地域の大人が子どもに経験と見識を伝えるのがよいでしょう。大人による子どもたちへの地域の生きた知識や技能の伝達を通して、地域を自立させ、地方創生を実現したいですね。学びの材料は静岡県にたくさんあります。世界クラスのジオパーク、富士山世界遺産、韮山反射炉のほか、裾野市の深良用水も世界灌漑(かんがい)遺産になりました。それらを題材にした知識、技術、経験を子どもに伝えていく。たとえば、スルガ銀行の自立の思想研究所がいい活動をされています。先ごろ出版された「Nippon Do(日本道)」は素晴らしいテキストです。
 大坪 今後の東部をどう考えていきますか。
 岡野 静岡県東部地域スポーツ産業振興協議会が発足しました。地元スポーツクラブの「アスルクラロ」がちびっこサッカー教室を開くと、お子さまのご両親、ご祖父母など皆さんがいらっしゃる。こんなにぎやかな会はありません。そういうものを核に健康長寿の発信をしていきたい。
 伊豆市のベロドロームにオリンピックの自転車競技がやってくるのもほぼ確実のようですし、地域の皆さんも関心を持つでしょう。茨城県は70面の遊休農地をサッカー場にして学生の合宿をたくさん呼んでいるそうです。東部もそんな可能性も考えてみるといいかもしれません。沼津アルプスは看板整備をしたらもっと歩く人が増えるのではないでしょうか。伊豆八十八ケ所も公認ガイド制度を取り入れると面白いかもしれませんね。広い意味でのヘルスツーリズムが盛んな地域になれることを期待しています。

■岡野光喜 スルガ銀行社長
サンフロント21懇話会代表幹事


■大坪 檀 静岡産業大学総合研究所所長
サンフロント21懇話会アドバイザー




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