サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 工場夜景の美しさが注目を浴びる富士市。産業のまちから観光のまちへどのように転換していくのか。4月の「風は東から」は、2月に開催した富士地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、富士市の小長井義正市長、富士工場夜景倶楽部の鷲見隆秀会長、県地域づくりアドバイザーの花井孝氏、照明デザイナーの石井幹子氏を迎え、夜景による地域活性化について議論した。コーディネーターは静岡経済研究所の大石人士常務理事。

富士地区分科会パネル討論
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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工場夜景が新観光資源 活動通じ存在感を示せ
■産業資産を観光資源に

 大石 富士の工場夜景について説明をお願いします。
 鷲見 子どもの頃から工場の夜景や配管を眺めるのが好きでした。工場夜景の写真をSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で発信し始めたところ、反応が良く、観光資源として富士市に人を呼べるのではないかと思いました。
富士山の世界文化遺産登録は大きなチャンスです。構成資産でこそありませんが、富士山の湧水に恵まれて産業が栄えた歴史があります。工場と富士山が共存する風景は富士市の特徴の一つですね。
工場夜景は商工会議所青年部のバックアップを得て、昨年3月にモニターツアー、6月には岳南電車で夜景ビールトレインを行いました。メディアにも取り上げられ、富士市が工場夜景の観賞を推進しているというイメージが少しずつ根付き始めました。冬場なら4時ころから煙突をライトアップすれば、新幹線からも見えるのではないでしょうか。
外から人を呼ぶことももちろんですが、産業やそこで働く方々に光を当てることで、地域に自信と誇りをもつことが大事だと思っています。
 小長井 昨年、商工会議所青年部の公開レクチャーがあり、観光振興が大きなテーマでした。新しいものを持ってくるのではなく、すでにあるものに光をあて、磨き上げ発信をする、しかしその中に工場夜景が含まれるとは昨年は全く思っていませんでした。
富士市がこれまで唯一、観光に取り入れてきたのはスポーツです。かつてのビジネス需要が減り、それに代えてスポーツ大会の誘致に力を入れています。サッカーやフライングディスクの大会です。スポーツ観光は先駆的取り組みをしてきたと思いますが、「工場夜景が観光に結びつく」というのは半信半疑でした。しかし、公開例会でそのお話を聞き、全国でも盛り上がっている事例を知りました。
 市制施行50周年というイベントとして発信するには大きなテーマだと思いますし、何より、行政からでなく民間から出てきた動きというところがいいと思います。

■照明デザイナー
石井 幹子 氏

都市照明から建築照明、ライトパフォーマンスまで幅広い光の領域を開拓する。日本が誇る世界的な照明デザイナー。主なライトアップ作品は、東京タワー、レインボーブリッジ、歌舞伎座ほか


■富士市長 小長井 義正 氏
富士市議を5期(15年半)務め、2014年1月、市長に就任した。市議時代に議長、市監査委員、県市議会議長会長などを歴任した。富士市出身



■人が集まる場をつくる

■県地域づくりアドバイザー
花井 孝 氏
国際A級レーシングドライバーとして活動後、県商店街連盟青年部長、清水みなと祭り実行委員長などを歴任。岐阜県美濃市の「美濃和紙あかりアート展」を企画、プロデュース。静岡市出身


■富士工場夜景倶楽部会長
鷲見 隆秀 氏
 旅行業のエクセルツアーズ専務取締役。富士市内を走る岳南電車(岳鉄)の魅力を発信する「岳南鉄道サポーターズクラブ」会長。意欲的に地域おこしに取り組んでいる。富士市出身

 大石 岐阜県美濃市は1300年の伝統を誇る「美濃和紙」を使ったあかりのアート作品を全国から募集し、かつて富の象徴とされたうだつの上がる町並みに展示することでまちづくりを進めています。
 花井 美濃市は立地が悪く、新しい産業の転換ができませんでした。しかしそのおかげで町も家並みも江戸時代のままです。そこに今や年間80万〜90万人の観光客が訪れています。
 どのような切り口でどのような提案をしていくかがカギです。美濃市の場合は伝統の和紙にテーマを絞りました。また、今までの行燈(あんどん)でなく、アート性を持たせた作品展にしたことがポイントです。工場夜景は県内では最初の切り口ですので、どのようにストーリーをつけて全国のマーケットに打って出るのか、これが富士市のみなさんに課せられた課題です。
 大石 美濃市の場合は単なるイベントで終わっていないと聞いています。
 花井 美濃市で試みたのはオール市民参加です。夜9時までのイベントで学校を説得するのが大変でしたが、中高生にもボランティアで参加してもらっています。
 もう22年続いていて、当時小学生、中学生で頑張ってくれた子は母親、父親になっています。そのくらい続いているとやめるわけにはいかなくなる。ものすごくエネルギーが必要ですが、今や伝統行事になっています。
 大石 長く続けられたのはオール市民という意識があったからではないでしょうか。工場夜景もオール市民で続けるにはどのような工夫が必要でしょうか。
 鷲見 市民が富士市を好きになる、というところがないと難しいと思います。公害や景観の悪さというマイナスイメージを少しでもプラスにできれば、ほかにもいろいろなことができるのではないかと思います。工場夜景で人をたくさん呼べるとは思っていません。これをきっかけに、さまざまな方と協働しながら地域を盛り上げていきたい。富士市って動いているな、変わってきたなということを感じてもらいたいですね。
 小長井 市観光課に富士山シティプロモーション推進室をつくりました。当然富士山は外せませんし、それ以外の魅力もある。そこで富士山に新たな魅力を付加して発信する「富士山と、」運動を展開しています。その中には工場夜景や岳南電車なども入っています。
 大石 富士市の潜在的魅力を顕在化するためのアドバイスをお願いします。
 石井 ドイツ西部のウンナ郡にある国際ライトアートセンターが参考になるのではないでしょうか。世界的に見ると、照明デザイナーになりたい人が増えていて、マーケットも広がっています。このアートセンターは今や照明関係者の出会いの場です。また、今年は国連が定めた国際光年で、日本ではあまり盛んでありませんが、ヨーロッパやアメリカでは光のイベントが数多く開催されます。
 確かに工場夜景だけでは限られた方へのアプローチにならざるを得ませんが、古い工場跡地を使って光のミュージアムにしたらどうでしょう。コレクションは要りません。アーティストに来てもらう、コレクターに公開してもらう。そこをキーにしていろんな人に語りに来てもらう。たとえば作家ならどんなふうに光を語るのか、またダンサーなら、どうやって光を表現するのか。そんなミュージアムがあれば見に来たい人、やりたい人が大勢いると思います。



■富士市を世界に発信

 大石 美濃市のイベントは市民に何をもたらすことができたのでしょうか。
 花井 このイベントによって美濃市が多くの方に知られるようになりました。存在を知らないまちに人は来ません。また、何かをやらないとまちは変化しませんし、議論している間も変化しません。とにかくやってみることが大切です。
最大の宝は「富士市」という自治体名称です。商標権にしたら数百億円の効果がある。この宝をどう活用するかは市民の皆さんの知恵の絞りどころです。
また煙突は「負の遺産」と言われることもありますが、こんなに煙突の多いまちはありません。鷲見さんの提案に「煙突のライトアップ」がありましたが、これは新しいアートになるのではないでしょうか。ぜひ挑戦してもらいたいと思います。
 鷲見 工場夜景のグループは、今後は夜景マニア、民間企業、宿泊、飲食、まちづくり団体などに入ってもらい、いろいろな広がりが持てる組織ができたらいいと思います。HPなど情報での発信は早いしコストもかかりません。環境問題に取り組んでいる企業さんもありますので、そういったことも発信できればと思います。
 小長井 市は、工場夜景については皆さんの活動を応援する立場でいいと思います。「富士山と、」運動にもしっかり組み込んでいきたい。最終的に市民が富士市の歴史に関心を持ち、愛着を持ってもらえるのかが重要です。
 石井 今の工場夜景はメンテナンス用に光らせているのであって、照明デザインとして見ると極めて原始的な配置です。工場夜景も環境面の配慮があって、なおかつ美しい、というのが次の研究課題だと思います。そうしたことを通じて世界に富士市という存在感を発信していってほしいと思います。

■静岡経済研究所常務理事
大石人士 氏

静岡銀行入行後、1982年静岡経済研究所出向。2005年より研究部長、12年理事、14年常務理事。専門分野は地域経済、企業経営、まちづくり、商店街活性化、行政改革など。藤枝市出身





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