サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 今や国民医療費は39兆円を超え、2025年には60兆円を上回ると試算されている。治療から予防に国の施策がシフトする中、公的保険外の予防や健康管理サービスの創出で、医療費の削減を図る取り組みが加速している。
5月の「風は東から」は、健康寿命延伸に向けた、県東部地域の新たな取り組みの紹介と、産業化へのヒントを探った。

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

バックナンバー


無関心層を健康に国がビジネス化後押し
■健康寿命延伸に多面的アプローチ

 健康寿命日本一となった静岡県。さらなる健康寿命延伸に向けた「攻めの健康づくり」を官民で推進している。 
 県が進めるのは、健康寿命を延ばす「ふじのくに健康長寿プロジェクト」だ。
 主力は「ふじ33プログラム」。普段の生活で実行可能な「運動」「食事」「社会参加」の3分野で目標を決め、3人が一組になって励まし合いながら3カ月実践し、望ましい生活習慣の獲得を目指す。2013年の「健康寿命をのばそう!アワード」は厚生労働大臣最優秀賞を受賞した。
 「健康マイレージ事業」は、日々の運動や食事の見直し、健康診断の受診、健康講座やスポーツ教室、ボランティアなどの社会参加を通じて健康づくりに取り組む住民に優待カードを発行し、協力店でドリンク1杯無料やポイント加算などのサービスが利用できる制度。県内35市町のうち、本年度は24市町が参加する。カード発行累計1万枚、協力店は約700店舗に増えた。
 県健康増進課の土屋厚子課長は「本県の健康寿命は日本一だが、平均寿命との差はまだ男性が8.35年、女性は10.89年もある。その間は自立した生活ができず、何らかの介護が必要となる。健康寿命を延ばす一方で、生活の質を向上するために介護期間を短縮するのも大きな目標だ。それには、7割と言われる健康無関心層をいかに健康づくりに向かわせるかがポイントで、若いうちから多面的なアプローチをしていきたい」と語る。

■三島市街地に開設した「みしま健康塾」
新たに取り組んでいるのが「健康データの見える化」だ。市町や企業など医療保険者から健診データを集め、分析し、血圧や喫煙率などをチャート化している。例えば熱海市や伊東市は女性の喫煙率が県平均の2倍だったり、職種によって肥満が多かったりといった状況が浮き彫りになった。それらの課題解決に向けたピンポイントの施策を打っていくという。


■三島市に健康増進拠点が誕生
■気軽に立ち寄り健康づくりができる

 今月2日、三島市中央町に開設した「みしま健幸塾」。健やかで幸せなまちを目指す「スマートウエルネスみしま」の拠点として三島市が設置した。スポーツ科学の第一人者で東京大学名誉教授の小林寛道氏が考案した「認知動作型トレーニングマシン(※1)」や、ノルディックウオーキング、各種健康講座などが体験できる。
 スマートウエルネスみしまは「健康づくり」「いきがい・きずなづくり」「地域活性化・産業振興」の三つを目標に、歩いて楽しく、にぎわいを生み出すまちを目指している。同市健康推進部の柿島淳健幸政策室長は「健康を核に人が交流したり、情報を発信したり、指導が受けられたりする“場”がほしかった。健康づくりに関心がない市民も、市街地なら買い物や通勤、通学の途中で気軽に立ち寄れる」と開設の狙いを話す。
 7月からは総合健康企業タニタと連携し、市民、市内在勤・在学者を対象に「みしまタニタ健康くらぶ」を発足する。会員は活動量計(有料)で日々の活動量を計測、市内に設けられた計測スポットからデータを送信し、スマートフォンやパソコンで管理する。日常生活を数値で「見える化」することで、原因に気付き、改善し、また測るというPDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)サイクルを構築する。
 計測スポットは「みしま健幸塾」以外に、市内のカフェ(3カ所)、飲食店(5カ所)を募集する。計測スポットでは、タニタオリジナルブレンドコーヒーやタニタ監修メニューの食事が提供される。まち歩きをして時にはカフェでコーヒーを飲み、カロリー計算された料理を楽しむ。健康づくりを無理なく楽しく続ける環境整備に注目が集まる。

※1 認知動作型トレーニングマシン=体幹深部筋を効率的に鍛えられるマシン。高齢者の転倒予防やアスリートの競技力向上まで幅広い効果が期待できる。


■「つらい努力」を「楽しい」に変える

 国は2020年までに、健康寿命の1歳以上の延伸や、メタボ人口の25%削減(08年比)などの目標を掲げる。経済産業省は「健康寿命延伸産業」の創出に向けて、「次世代ヘルスケア産業協議会」を立ち上げ、供給側への支援と需要喚起の両面から検討を進めている。
 静岡産業大学の大坪檀総合研究所長は「健康を保つには体を動かす、食事に気をつける、学ぶなどが有効だ。例えばスポーツはこうしたことに自発的に取り組むきっかけになる」と語る。県はスポーツ産業の振興を目指し、東・中・西部に産学官で構成する「スポーツ産業振興協議会」を立ち上げた。スポーツと健康づくりは親和性が高いことから、今後は協議会メンバーにヘルスケア産業への参入も促す(県商工振興課)予定だ。
 また、来年度から国のヘルスツーリズムの認証制度も始まる。ヘルスツーリズムとは旅を楽しみながら健康づくりをすること。先端医療や検診を受けるツアー、ウオーキング・トレッキングツアー、癒やしの温泉旅行など幅広い。ヘルスケア産業に詳しいコスモプランの長谷川清一社長は「健康寿命延伸に実効性のある商品開発と販売は今後ますます求められる。健康づくりにありがちな“つらい努力”を“楽しい”に価値転換する工夫が必要で、今年4月から始まった『アクティブレジャー認証』(※2)もその一つ」と語る。 
 国の流れを受け、健康増進のための多様で魅力的な民間による公的保険外サービスを地域で創出することが求められている。さまざまな事業者が参入し、富士山や伊豆の資源を生かした新しい産業が生まれることを期待したい。

※2 アクティブレジャー認証=健康のための運動(フィットネス)ではなく、アクティブレジャー(活動的に余暇を過ごす)を楽しむという新たな運動の考え方で、そのサービスを提供する事業所を日本規格協会が認証する。


糖尿病予防 × ツーリズム
 ■関係者による熱心な打ち合わせ

 厚生労働省は糖尿病予備群向けに旅館やホテルなどの宿泊施設や地域の観光資源を活用した宿泊型新保健指導プログラムの実証事業を行っている。静岡県からは聖隷浜松病院とSBS静岡健康増進センターが参加した。
SBS健康増進センターは、健康増進と癒やしのサービスを提供する「かかりつけ湯」加盟のラフォーレ修善寺で1泊2日の「ストップ・ザ・糖尿病セミナー」を6月に行う。
糖尿病予備群と診断された健診受診者20人を対象に、管理栄養士や保健師による個別面談、ストレッチやウオーキング指導、各自の生活改善目標設定などを行う。また、県が推奨する「ふじ33プログラム」を活用して生活習慣を見直しながら、栄養士が監修した食事を提供し、食生活のアドバイスも行う。セミナー終了後6カ月間、学んだ内容が実践できているかの追跡調査をし、効果を測る。
受け入れ側のラフォーレ修善寺渡邉繁樹さんは「通常のヘルスツーリズムは健康な人が対象だが、今回は糖尿病予備群のため、運動など安全管理の面で意識を変えていく必要がある」と気を引き締める。
また、リゾート環境を生かし参加者に楽しんでもらうことも課題。「例えばフォトロゲイニング(※3)のような、チームで競い合うプログラムを開発し、自然を楽しみながら知らぬ間にウオーキングができる、という提案をしたい」と語る。
県の土屋課長は「伊豆は農産物が豊かで温泉もあり、花やジオパークなど、歩いて楽しむ場所も多い。そうした資源を上手に健康増進に結び付けられれば」と期待する。

※3 フォトロゲイニング=地図をもとに、時間内にチェックポイントを回り、得点を集めるスポーツ。チームごとに作戦を立て、チェックポイントでメンバーが写った写真を撮影、各ポイントに設定された数字がそのまま得点となる。


■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.