サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 人口減少時代に入った日本。全国の自治体は生き残りをかけてさまざまな政策を行っている。その一つが、観光客の増加・定住人口の獲得・企業誘致などを目的に、地域のイメージを高め、知名度を向上させる「シティプロモーション」と呼ばれる手法だ。県内では先駆的にシティプロモーション課・シティセールス課を設置し、積極的な活動で成果を上げている自治体もある。7月の「風は東から」は、県東部の自治体が取り組むシティプロモーションを紹介する。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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美しい伊豆創造センター共通のみらい創造へ始動
■県東部の8市が展開

 県東部の自治体を見てみると、ホームページに「シティプロモーション」が記載されているのは、三島・沼津・裾野・富士・富士宮・伊豆の国・伊豆・熱海の8市。活動の内容は自治体によって異なるが、映画・TVなどのロケ支援、誘致が大半を占める。ふるさと納税を挙げる自治体もある。
 富士市は観光課内に「富士山・シティプロモーション推進室」を設置。基本計画を策定し、「若い世代の人口の確保」を最上位目標にかかげ、最大の武器ともいえる「富士山」を活動のキーワードに「富士市ブランドブック」の作成や「富士山と、」キャンペーンを展開中だ。
 沼津市は企画部に「沼津の宝推進課」を設け、市のPRや集客に向けたプロモーションを専門に行う。これまで企画部や産業振興部などが個別に行っていた事業を一元化し効率を高めた。市民から公募した地域資源「ぬまづの宝100選」の普及・啓発や、市内での映画・TV撮影を支援するフィルムコミッション事業などを通じ、同市を全国にPRしている。



■戦略的な情報発信―熱海市

 熱海市は2013年2月に「熱海市シティプロモーション基本指針」を策定した。「住むひとが誇りを 訪れるひとに感動を 誰もが輝く楽園都市 熱海」の実現を目指し、シティプロモーションを展開中だ。推進にあたっては、継続的で一貫性のあるプロモーションによる「都市イメージの向上」、目標やターゲット、費用対効果の検証などを細かく設定した「戦略的な情報発信」、ニュース性の高い情報をタイムリーに提供することによりメディアとの良好な関係を築き、露出を獲得する「情報発信力の強化」など共通のルールを決め、(1)観光(2)移住促進(3)投資促進―の3分野でプロモーションを展開している。
 「観光プロモーション」は、マーケティング機能の強化と計画的なプロモーション、テーマの設定と恒常的な魅力の整理など、具体的な指針を挙げた。それに沿って、自治体では珍しい3ヵ年の観光ブランドプロモーション「意外と熱海」キャンペーンを行っている。またTVや映画などの徹底的なロケ支援で熱海露出が飛躍的に増えたという。
 「移住促進プロモーション」は「熱海時間」というウェブサイトを立ち上げ、実際に移り住んだ人の熱海ライフを数多く紹介。新幹線で品川まで39分、東京駅までは47分という立地の良さや温暖な気候、温泉が身近にある魅力などを効果的にアピールしている。
 「投資促進プロモーション」は、企業の投資マインド向上をにらみ、市が持つ遊休資産をリスト化し、ホームページなどで公開している。
 同指針を策定したグループの、杉山由記同市広報情報室主幹は「既存の熱海の魅力に加えて、熱海梅園の全面リニューアルなど、新生・熱海の魅力を発信していきたい」と語る。

“いつ来てもあるもの”の価値を最大化

ロケに使われた路地裏を案内する山田さん。名刺には「365日、24時間対応」の文字と携帯電話番号が記されている
 映画「機動警察パトレイバー」、サントリーのウェブ動画「忍者女子高生」など、さまざまなロケ地に選ばれている熱海市。立役者は「ADさん、いらっしゃい」というロケ支援を行う山田久貴さん(同市観光推進室主幹)。
 TV番組や映画などはAD(アシスタントディレクター)や制作スタッフがロケ地探しから撮影交渉、出演者やスタッフの食事、宿泊などの手配を行う。山田さんはそのサポートを徹底して行っている。
 入庁前、数多くの仕事を経験した山田さんは、海外の観光地もたくさん見た中で「自分が生まれた熱海が、首都に近く、海・山などの自然、温泉、島、温暖な気候という観光客が訪れる絶対的な要素を持つ」ことに気付いた。同時に「こんなに素晴らしい魅力があるのに、なぜ低迷するのか」という疑問も。
 「熱海の観光PRはイベントがメーン。花火大会は混み合うが年に数回だ。本来の熱海の魅力を生かし、訪れた人を精いっぱいもてなせば、イベントに頼らなくても箱根のように通年で人は来る。雇用の安定も図れる」。それには少ない予算で効率よくPRできるロケ支援を徹底的にやろうと考えた。 
 市がシティプロモーションに力を入れ始めると、山田さんは今までの思いを「ADさん、いらっしゃい」という企画にまとめ、提案。市民の協力もあり、今やロケの年間受け入れ100本以上、広告費換算で数億円ともいわれる。常時10〜15本のロケを掛け持ちしている。そのかいもあって14年度の宿泊客数は、対前年18万2000人増の287万人となった。  露出が増えたことで、ツイッターなどでも盛んに取り上げられるようになった。山田さんは「地元の若者が誇りを持ち、生き生きと働ける街を目指したい」と決意を新たにしている。


■市民が主役の映画製作―三島市

 「まちづくり」と「シティプロモーション」を両立するのが三島市。来年の市制75周年に向け、昨年6月から市民総参加の映画製作「みしまびとプロジェクト」を支援している。
 市民総参加といっても市民が映画を撮るわけではない。映像制作会社「ファイアーワークス」が総指揮を執る。同社は、映像を通じた地域づくりを手掛けるユニークな手法で知られ、岐阜県恵那市を舞台にした「ふるさとがえり」は全国で1200回も上映されている。
 「みしまびと」を担当する三島市地域ブランド創造室の小嶋敦夫室長は「市民の思いはたっぷり盛り込むが、脚本、出演者やロケ地選定はプロに委ねている。作るからには内輪受けでなく一般の人にも価値を感じてもらえる作品になれば」と言う。
 製作費は5200万円。うち、市が1500万円を補助し、残りは寄付を募る。 
 核となる運営メンバーは市民を中心に110人、サポーター300人、後援協賛団体・企業は54を数える。通常、脚本やキャストなど全てが決まってからロケ地探しが始まるが、「みしまびと」はゼロからのスタート。脚本作りの座談会や、映画製作のワークショップを通じ、地元に対する市民の思いを徐々に形にしてきた。ロケ地も市民から情報をもらい、制作会社が一緒に回りながら決めていく。
 多くの市民に関心を持ってもらおうと、プロジェクトを紹介するショートムービーも作った。公民館や企業、学校に出向き、上映会を重ねている。上映会に足を運ぶ、製作費を支援する、エキストラで出演するなど、延べ4000人が関わっている
 8月からはいよいよ本編の撮影が始まる。完成は来年4月。作った映画の上映権はNPO法人みしまびとの収入となり、次のまちづくりに活用する。「シティプロモーションといっても、住む人が満足していない街に人は来ない。映画製作の手法を借りて、一人でも多くの『みしまびと』が生み出せれば」(小嶋室長)と期待を寄せる。

「みしまびと」で街を変える

「まちづくりは楽しみながら」がモットーと話す前田会長
 「地域愛あふれる人を『みしまびと』と呼ぶ」と話すのは「みしまびとプロジェクト」の前田磨(おさむ)会長(前田建設社長)。地域に一番大事なのは人材。ならば地域の未来を創る人を生み出そう、というのがこのプロジェクトの目的だ。「地方創生が叫ばれている昨今、消滅しない地域の基盤づくりや人口減少社会へ歯止めをかけるには、地域に体力がある今のうちに行動を起こし、各人が責任を持って“地域の未来”を築いていかなければならない」と危機感を募らせる。
誰もが参加しやすい映画製作に取り組むことで、多くの人々に参画してもらい、絆づくり・人づくりを通じて“地域の未来をつくる人”を育て、地域の輪を拡げている。
もちろん、まちづくりに関心のある人だけではない。しかし“脱無関心”からスタート。少しでも参画してもらい、完成時の達成感を味わえたら未来へのステージに進めるかもしれない。
 近隣市町から参加する人も多い。前田会長は「このプロジェクトを通じて『みしまびと』だけでなく、あちらこちらに『○○びと』が生まれ、互いに集い、交流し、つながれば地域全体が活性化する」と語る。


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