サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 韮山反射炉が世界遺産登録され、9月に伊豆半島ジオパークの世界ジオパーク加盟が有力視されるなど、伊豆は世界トップレベルの地域資源・観光資源がある。一方で、若者の流出、高齢化、人口減、脆弱(ぜいじゃく)な交通網など、課題は山積している。8月の「風は東から」は先月行った伊豆地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、NPO法人全国街道交流会議の古賀方子専務理事、森延彦函南町長(美しい伊豆創造センター会長)、静岡県立大学の国保祥子経営情報学部講師、落合楼村上の村上昇男社長を迎え、伊豆が観光地としての競争力を高めるための課題と可能性について議論した。コーディネーターは企業経営研究所の中山勝常務理事(サンフロント21懇話会TESS研究員)。

伊豆地区分科会パネル討論

 

風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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伊豆の観光を再構築 若者の雇用の場創出へ
■地域資源を見直す

 中山 伊豆の観光と現状について伺います。
  伊豆半島は風光明媚(めいび)、気候温暖、農・海産物など豊かな自然資源に恵まれています。しかしそれが生かされているとは言い難い。最大の要因は、車社会に対応しきれない道路体系でしょう。下田から沼津インターまで3時間ほどかかる。鉄道やバスなどの接続も悪く、交通結節点へのアクセスが非常に脆弱です。
 さらに、人口減、少子高齢化、観光業の低迷や雇用の場の不足など課題は山積で、「今のままでいい」という伊豆半島の意識を変えない限り、“美しい伊豆の創造”はありません。
 伊豆半島7市6町首長会議が策定した「伊豆半島グランドデザイン」の実践組織「美しい伊豆創造センター」が稼働し、伊豆縦貫道が修善寺までつながった今こそ、伊豆が変われる最後の、そして最大のチャンスと考えています。
 村上 伊豆半島の観光交流人口は昨年約4000万人、対前年比103%、宿泊客数は1051万6000人、対前年比101%、県内シェア57〜58%です。一見伸びているように見えますが、宿泊客数はピーク時(1991年)の約53%、観光交流人口も2005年の約95%です。これは競合地域の台頭で伊豆に来る機会が減っているのだろうと思います。われわれ観光事業者が取り組むべきは、自分たちの魅力をもう一度見直し作り直すこと、リピーターやファンを作り直すこと、感動体験をしていただけるような場所を作り出すことです。
 落合楼が5年前から取り組むボランツーリズムは、国登録有形文化財の宿を掃除していただく代わりに無料で宿泊してもらう、というものです。参加してくれた若者たちは、文化財を磨く中で新鮮な発見をし、宿のファンになってくれるという効果が生まれています。
 国保 大学では、伊豆出身の若者の地元愛は強く、皆帰りたがっていると感じます。しかし帰っても活躍する場、仕事する場がなく、戻りたくても戻れない。若者が活躍できる場さえあれば、流出は何とかなると楽観的に感じています。
 次世代の居場所づくりについては、観光産業の観点から言うと、お金を払ってでも受けたいサービスは何か、それを求めている人がどこにいるかを正確に見極めることが課題だと思います。
 古賀 韮山反射炉を造った江川坦庵は甲州街道を管轄しており、江戸にもお屋敷がありました。もともと江川家は保元の乱の関係で、奈良県五條から酒造りの技術を持って伊豆に入ってきています。歴代江川家は朝廷や松尾芭蕉など、その時々の一流文化人との付き合いがある。蹴鞠(けまり)の免許があったり、雅楽にも通じていたりしています。
 江川家の財産一つとっても、時代的に、また広がりで見てみると、新しい価値がつくれるのではないでしょうか。特に外国人はヒストリーツーリズムが大好きです。

■パネリスト
森 延彦 氏
函南町長(美しい伊豆創造センター会長)
1969年静岡県入庁。総務部参事を経て2007年函南町副町長。10年4月同町長に就任。現在2期目。国内外の都市計画に詳しく、著書に「静岡県の都市景観」などがある。


■パネリスト
古賀 方子 氏
NPO法人全国街道交流会議専務理事内閣府地域活性化伝道師

編集者、プランナーの業務の傍ら、北部九州地域連携軸構想や日蘭交流400年記念事業に携わる。2002年有志で「全国街道交流会議」を設立。多くの街道団体を立ち上げている。



■優先すべきは道路と人材

 中山 さまざまなアイデアやご意見が出た中で、まず取り組む課題は何とお考えですか。
 村上 人材と財源の確保がとても重要だと感じています。伊豆半島にはまだ多くの魅力が隠れていて、それを発掘するのも人。われわれサービスに携わる者がお客さまを感動させるのも人。何を置いてもまずは人の教育です。落合楼では今年3人の新卒を採用し、「和のコンシェルジュ」と表現しながら、教育を第一優先に育てています。
 国保 若者を呼びたいという話はよく聞きますが、そのために必要なのは、地元にいる人たちの覚悟です。
 島根県の海士町という離島は、財政破綻が表面的な問題現象でしたが、ひもといていくうちに産業を支えてくれる人材がいないことが分かりました。そこで町役場は、町民の意識を変えるために外から人を連れてくることで、若者に刺激を与えました。また、町民の意識を変えるには自分たちからと、職員の給与カットに踏み切りました。
 古賀 創造センターの部会である「道路」「ジオ」「観光」、この一見ばらばらに考えそうなところをうまく連携して、ほかにない美しいジオパークの提案や、美しい道路を造り上げることは重要でしょう。富山県は、道路から立山連峰が美しく見えるスポットを上手に活用しています。鳥取県の岩美町あたりは美しい海岸線を存分に生かして、ジオウオークを行っています。
  地元としては、伊豆縦貫道を骨格に、伊豆半島全体の道路ネットワークを整備することが最優先と考えます。
 二点目は、道の駅などの交通結節点のネットワーク化です。伊豆半島は八つの道の駅でつくる「伊豆道の駅ネットワーク」が国土交通省の「重点道の駅」となりました。道の駅は有事の際の防災拠点ともなりますので、伊豆半島の防災・減災の観点からも道の駅ネットワークを拡充し、インフラを整えた中でソフトを考えていくことが重要です。
 三点目に、伊豆全体をカバーする情報ネットワークです。創造センターの活動を契機にNTT西日本から協力的な体制を組みたいとの具体的な申し入れもありますので、ぜひ広げていきたいですね。

■ パネリスト
国保 祥子 氏
静岡県立大学 経営情報学部 講師

専門は組織マネジメント。IT企業勤務を経て、慶應ビジネススクールでMBAおよび博士号を取得。主に地域活性化活動のような経済性と社会性を両立させる経営を研究する。


■パネリスト
村上 昇男 氏
落合楼村上 代表取締役社長

大学卒業後、大手メーカーに勤務。結婚を機に伊東市の名門旅館の経営に従事する。2002年、旧落合楼を継承、再生。地域の歴史や文化を守りながら旅館経営に当たる。



■創造センターの役割に期待

 中山 地元代表としてどのような形で美しい伊豆創造センターに関わっていかれますか。
 村上 美しい伊豆の景観形成にはお金が必要です。例えば財源確保の手段として、入湯税を50円値上げする。私の試算では、湯ヶ島だけで年間600万円程度が確保できます。もちろん条例改正など必要な手続きはありますが、美しい伊豆をつくるために50円値上げさせてくださいと、目的を明確にお客さまにお伝えすることで受け入れていただけるのではと考えています。
 国保 大学では地域の人と学生が一緒に問題の解決策を考える会議を行っています。これらを通して感じたのは、解決策は地域の当事者が考えるしかないということです。学生は思考のブレーンストーミングのお手伝いはしますが、最終的には地元にいる方が考え続けられるような仕組みをつくることが大事で、創造センターが情報や人が定期的に集まり続けるような場となり、仕組みを作れるかだと思います。
 古賀 具体的に提案したいことがあります。九州には波乗りに適した海岸があまりありません。そういう隠れたニーズを探し出し、フジドリームエアラインズを使ってこれまで宣伝をしたことがないところ、例えば福岡に向けて情報を出していくといいと思います。
 また、日本遺産に「老舗旅館の主たちと文豪との交友」でチャレンジしてはどうでしょう。日本遺産は文部科学省がオリンピックまでに100個程度つくろうとしています。文豪と老舗旅館のつながり、文豪が愛した景観、文豪との交友の集積では伊豆にかなう地域はありません。
  “美しい伊豆の創造”に創造センターがどのような役割を発揮するのか。まずは、伊豆縦貫道を中心に、地域の構造変革を図ります。それから住民の意識変革が極めて重要です。創造センターには各市町から職員が1人ずつ派遣されています。今後は、センターが中心となって首長はもとより関係機関、有識者、国、県、地域の人々が、多くの絆を深めて機運の醸成に努め、それを国内外にしっかり発信して、地方創生のモデルを目指したいと考えています。

■ コーディネーター
中山 勝 氏

企業経営研究所 常務理事
スルガ銀行入行後、企業経営研究所出向。主席研究員を経て2000年より部長、08年5月から常務理事。静岡県、三島市などの委員や日大国際関係学部非常勤講師を務める。



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