サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 地域の高齢化と医療費増大が急速に進む中、国は課題解決の糸口としてヘルスケア産業の創出・推進に力を入れている。伊豆の人口減少や基幹産業の低迷をこうした産業で増加に転じることができるのか、県東部で新たな試みが始まっている。9月の「風は東から」は国が進めるヘルスケア産業の方向性と、伊豆の観光資源活用への可能性について考える。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

バックナンバー


次世代担うヘルスケア 伊豆の資源価値を転換
■健康寿命延伸の試み

 今月、厚生労働省は2014年度の医療費が概算で39兆9556億円となり、12年連続で過去最高を更新したと発表した。医療費の約3分の1は高血圧性疾患や糖尿病などのいわゆる生活習慣病関連に使われている。ここにかかる医療費を公的保険外のサービスを活用し、予防や健康管理にシフトさせることで減らそうという動きが始まっている。
 経済産業省は13年12月に「次世代ヘルスケア産業協議会」を発足。これは日本再興戦略の一環で、官民連携して「健康寿命延伸産業」の創出・育成を目指すものだ。
 「健康寿命」は、「健康上の問題がなく、日常生活を送ることができる期間」を指す。健康寿命を延ばすことは、医療費の適正化はもちろん、国民の健康増進や、関連産業の活性化につながる。
 同協議会は、公的保険外サービスの育成を需要と供給の両面から検討した。
【主な検討項目】
(1)既存の法律の適用があいまいな「グレーゾーン」の解消やヘルスケア産業向けの金融支援など、多様なサービスや商品を生み出す環境づくり
(2)東証の「健康銘柄」や日本政策投資銀行の「健康経営格付・優遇金利制度」など、健康増進を積極的に進める企業や健保組合へのインセンティブの付与
(3)消費者が「信頼」「安心」「安全」を判断できる品質の「見える化」(健康運動サービス分野を対象にしたアクティブレジャー認証制度)や認証を受けたサービスの広報・普及
 今年5月には「アクションプラン2015」が発表され、予防や健康管理などのヘルスケア産業と、食・農、観光など地域資源を融合し、新たな農業のブランド化や観光などの新たな需要獲得を目指している。
 具体的には、「健康に良い農産品のデータベース構築」と、「ヘルスツーリズム創出のための第三者認証の仕組みづくり」だ。ヘルスツーリズムとは、旅行で健康になったり、健康的な習慣を身に着けたりする旅行を指す。現在、国と観光業界が科学的根拠に基づく効果測定やサービスの品質を評価する仕組み(第三者認証制度)を検討している。

健康寿命を延ばすヘルスケア産業への参入を呼び掛けた「新しい伊豆の産業創出セミナー」



■伊豆の課題 解決図る
  伊豆の基幹産業である観光は、市場ニーズの変化に対応できないまま宿泊者の減少に歯止めがかからない。また、県全体の人口は05年の約380万人をピークに、40年までに2割減。中でも伊豆地域は4割人口が減り、高齢化率も47%に達する見込みだ。
 こうした課題解決の一つの方法として、県はヘルスケア産業の創出を進めている。伊豆には豊かな自然や食材、温泉があり、ゴルフ、マリンスポーツ、トレッキングなどをはじめとするスポーツ、観光農園などの農業体験施設が数多くある。これら資源を健康寿命の延伸につながるサービスに転換し、新しい伊豆の産業を生み出すのが狙い。
 6月には県ヘルスケア産業振興協議会を立ち上げた。これは経済産業省の本年度健康寿命延伸産業創出推進事業の一環で、(1)地域版ヘルスケア産業振興協議会の立ち上げと運営(2)ヘルスツーリズムの実証事業―を行う。
 8月末から伊豆地域3カ所で、「ヘルスケア産業」の理解と参入促進を目的に「新しい伊豆の産業創出セミナー」を開催した。観光事業者、金融機関、行政など延べ130人が参加した。あいさつに立った県経済産業部の松下育蔵商工振興課長は「人口減少で国も危機感を募らせている。地方自らがその危機に立ち向かっていく気構えが必要だ。皆さんの資源を活用し、知恵を絞ってヘルスケア産業の新しいマーケットをつかみ取ってもらいたい」と参加者に呼び掛けた。
 続くセミナーでは、県商工振興課、健康増進課の担当者らが次々と登壇、国のヘルスケア産業施策や伊豆の課題、県が進める健康増進の取り組みなどを説明した。また、ヘルスケア産業の具体的な参入例として、アクティブレジャー(健康運動サービス)認証などについて専門家が講演した。
 参加者からは「勉強になった」との声が聞かれる一方、「個人事業主や中小企業が入り込む余地があるのか」「アクティブレジャー認証の費用対効果を知りたい」などの質問が出された。
 セミナーに参加した松崎町の深澤準弥企画観光課課長補佐は「松崎町はダイナミックな景観を生かしたウオーキングやサイクリングが楽しめ、良質な温泉がある。こうした資源をヘルスケア産業という切り口で振興したい」と期待を膨らませる。
 同協議会は10月にも県の東中西3会場で説明会を開き、広くヘルスケア産業の参入を促していく。

【静岡県次世代ヘルスケア産業説明会】
   ○10/ 9(金)浜松会場
   ○10/16(金)沼津会場
   ○10/20(火)静岡会場
※詳しくは静岡県ヘルスケア産業振興協議会のホームページを参照


■「伊豆で健康!」ヘルスツーリズムのモニターツアー開催へ
募集パンフレット
 実証事業では伊豆の資源を活用したヘルスツーリズム商品を作る。参加者は
3カ月間、県が開発した健康増進プログラム「ふじ33プログラム」を日常で行いながら、毎月1回、伊豆かかりつけ湯選定宿で運動、食事、温泉を楽しみ、3カ月後に筋肉量やバランス力、柔軟性と健康への意識の変化を比較する。
 ポイントは、健康効果が実証されている「ふじ33プログラム」を導入すること、国が進めるアクティブレジャー認証に基づく運動体験を盛り込むこと、提供される食事は栄養士がカロリー、塩分、栄養バランスを分析していること―の3点だ。
 実証事業を県と進める日本規格協会の加藤芳幸参与は「健康のための運動はつらいし長続きしない。しかし、ゴルフや山歩きなど、自分が好きなこと、楽しいことは続けられる。また、まずいと思われがちな低カロリー、薄味の料理も板前の技をもってすればヘルシーでおいしい料理になる」と伊豆の資源の価値転換を呼びかける。

 来年度から実施予定の「ヘルスツーリズム認証」をいち早くにらんだ旅行商品づくりが始まっている。

カロリー、塩分が考えられた食事(上)や普段の生活で手軽にできる運動メニュー(下)などを紹介

見方を変えれば「ヘルスケア産業」

伊豆の資源を使った食、温泉、各種体験はヘルスケア産業(楽しみながら健康維持や疾病予防を可能にする公的保険外のサービス)と言うことができる。

ノルディックウオーキング
ポールを使うことで普通のウオーキングよりエネルギー消費量が約20%増加する。美しい自然を楽しみながら気軽に体力づくり、スタミナアップ、減量などができると伊豆各地で導入中だ。 (写真提供:三島市)

スタンドアップパドル(SUP)ボード
下田市自然体験活動推進協議会(市観光交流課)が主催する「55歳からのSUP講座」。不安定なボードの上に乗ってバランスをとることで体幹が鍛えられ、エクササイズ効果があるといわれている。 (写真提供:下田市)

天城流湯治法
温泉の中でストレッチやマッサージをしながら筋肉や骨の動きをスムーズにし、血液やリンパの流れを良くして体をリセットする入浴法。温泉の中や体を温めた後に行うのが効果的。(写真提供:船原館)

くわや(企業組合松崎桑葉ファーム)
昔、養蚕が盛んだった松崎町で桑の葉を使った加工品販売所「くわや」が昨年オープン。食用の桑の葉は血糖値上昇の抑制や糖尿病、高血圧などの改善が期待されている。 (写真提供:佐野勇人さん)



■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.