サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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ファルマバレープロジェクトの第3次戦略計画(2011〜20年度)策定から3年が過ぎ、県は進展状況の中間評価を行った。改定版では、最終年度の目標額が倍増し、新たな研究開発拠点の整備が盛り込まれた。10月の「風は東から」は、同プロジェクトを取り上げる。改定のポイントを紹介するとともに、これからのファルマバレーの方向性について、元日本政策投資銀行副総裁で、ファルマバレー応援団代表を務めるANAホールディングスの大川澄人常勤監査役に聞いた。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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ファルマ目標を情報修正 ブランド化への本気示せ
■3次戦略改定で目標倍増へ

 ― ファルマバレープロジェクトは夏に第3次戦略計画の改定が行われ、医薬品・医療機器の合計生産金額の目標を当初の年1兆円から2兆円に大幅に引き上げました。
大川 ここまでの集積ができたのは、確実に静岡がんセンターの力です。病院だけでなく地域全体で医薬工連携を構築していくのだ、という山口建総長の思いが非常に強い。また、病院は通常何らかの形で公的支援が必要ですが、これは県がきちんと支援をしています。県政そのものがぶれておらず、実績をきちんと数値で上げ、定期的に未達成を含めて全て開示することで信頼度を高めています。
― 国の特区(ふじのくに先端医療総合特区)も高く評価されています。
大川 国はバランスよく評価するので、それで高い評価というのは素直に喜んでいいでしょう。しかし、これはあくまで国の基準です。世間一般に、人間は数値目標に対して何らかの無理をしがちです。本来はその数字は本当の目標の一指標でしかないのに、それを目指してしまい全体像がなくなる。ですから評価に左右されず、当初描いた地域構想を堅持して進めるのが一番大事です。

大川澄人
ANAホールディングス
常勤監査役

1969年東大法学部卒。同年日本開発銀行入行。90年米スタンフォード大国際政策研究所客員研究員。99年北海道東北開発公庫と統合され設立した日本政策投資銀行総務部長。2000年3月に理事、04年副総裁就任、06年顧問就任。07年一般財団法人日本経済研究所理事長就任。11年6月より現職。三島市出身



■次のステップへ新拠点整備

 ― 現在、長泉高校跡地にファルマバレープロジェクトを次のステップに飛躍させる新拠点が整備されています。進出が決まったテルモMEセンターは、地域企業や入居企業の積極的な支援、入居企業との共同研究開発や、医療機器の品質マネジメントシステム「ISO13485」の構築促進などの役割が期待されます。
 大川 マーケットで抜きん出るには、多くの知恵が必要です。拠点をつくり、いろいろな企業が自由にコラボレーションするというのは研究開発にとって間違いなく大きいことです。
 ― また、研究開発では地域企業をグループ化し、生体適合素材(チタン)の研究会を立ち上げ、競争優位を創り出していきます。
 大川 ファルマバレーには、今まで取り組んだ中で「これなら世界に肩を並べていける」というものについて深掘りをすることが必要だと思っていました。そういう方針でやっていくのであれば素晴らしいですね。ただ、公的支援には当然制度上の制限があります。それは補助金等を執行する説明責任です。しかし見込みがあると判断したら支援側の弾力的運用を期待したいし、また、研究開発を行っている人たちは、腹を決めて、補助金をもらわなくてもやりきるという気持ちにならないと本当に世界マーケットで勝てるものはできません。
 ― 県は企業誘致にも力を入れていく予定です。
 大川 静岡県は製造業の進出もありますが、撤退も多い。これには製造業の海外移転に加え、新しいリスク管理要因が二つあります。一つは3月11日に発生したサプライチェーン切断問題。これを避けるために企業は異なる場所からの2カ所調達を進めています。
 もう一つは自然災害です。もし、これが懸念されているとしたら気になるところです。これに対しては現在県などの公的機関が防災、減災対策を十分行っているということを真正面から堂々と説明すれば、より安心して進出してくると思います。そういう中で内陸のフロンティア構想(※)はいい施策ですね。

※「防災・減災機能の充実・強化」「地域資源を活用した新しい産業の創出・集積」「新しいライフスタイルの実現の場の創出」「暮らしを支える基盤の整備」の4つを目標に官民が連携して防災・減災と地域成長の両立を目指す


■ファルマが核の地域づくり

 ― 今後、ファルマバレーに必要なことは何でしょうか。
大川 ファルマバレーのブランド力を高めることでしょう。静岡県が男女とも健康寿命日本一を目指すとしたら、それに沿った形でのファルマバレーのブランドをどう高めたらいいか。医学部のある慶応大学をはじめ、工学系の大学などとの医工連携は着実に進んでいる気がしますが、それ以外のところでより一層の努力が必要だと思っています。
 例えば、かかりつけ湯。いいネーミングですが、ブランドを磨く努力が業界の方を含めて足りない。本気でかかりつけ湯をファルマバレーのブランドにするなら、10か20に数を絞って再スタートする、くらいの気持ちでやらないと難しいと思います。
 人材育成も継続した取り組みになっているでしょうか。中途半端でなく、ファルマバレーの地域に来たらそういう教育はシステム的にできている、それも他の地域に比べて優れているというものが必要です。
 本当に磨きに磨いたものをつくっていくことが今や必要になっていて、山口総長がまいた種に花を咲かせるための努力を誰かがしていかなければいけない。そこが最大の課題だと私自身は見ています。
 ― 市町の積極的な参入も期待したいですね。
大川 最近、長泉町や三島市のHP(ホームページ)でファルマバレーが出てくるようになりました。7、8年前はなかったので、市町が意識をし始めている証拠でしょう。
 今、地方創生で市町が総合戦略を作っていますが、これは自分の市町だけで考えるのか、もう少し広い範囲で考えるのかで違ってきます。特に東部は小さい市町が集まっているので、私はもっと広いエリア、例えば駿河・伊豆地域で、産業構造や人口動態、観光の人の流れなどの現状・ 実態を分析し、戦略を立てれば職場の確保もできると思います。
 その時に、医療機器や健康関連、伊豆に行けば観光もあるファルマバレーは、広域のテーマとしては一番いいと思いますし、地域の核になり得るものとして育ってきているのではないでしょうか。




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