サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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人と動物が共生できる社会の実現をどのように図るのか―。2月の「風は東から」は、このほど開催した東部地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、日本で動物保護の活動に尽力するNPO法人アニマルレフュージ関西のエリザベス・オリバー理事長(英国)、伊豆市の菊地豊市長、NPO法人静岡県補助犬支援センターの川口綾理事長を迎え、動物福祉に関する欧米と日本の違いや、アニマルシェルター設置の必要性や課題について議論した。コーディネーターは静岡経済研究所の大石人士常務理事。

東部地区分科会パネル討論
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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人と動物が共生できる社会へ 動物福祉を世界レベルに
■五輪へ都市デザイン検討

大石 2020年 、東京五輪自転車競技が伊豆市で開催されます。多様な価値観の方を迎えるにあたり、おもてなしだけでなく、動物愛護と福祉の考え方も問われる機会となりそうですね。
菊地 20年後、伊豆縦貫道が下田までつながることが想定されます。それまでに伊豆半島を世界レベルのリゾート地にしていきたい。五輪競技伊豆市開催の2020年は、その大きな目標に対する中間目標と位置付けています。
県東部は残念ながら、まだユニバーサルデザインの視点ではハンディキャップのある方々への対応ができていません。また高齢者に対するケアや、盲導犬・介助犬、ペットと一緒に旅行したい方々に対して、どのような都市のデザインをしていくか。極めて大きな課題だと思っています。
川口 NPO法人静岡県補助犬支援センターは、2007年に発足しました。県民の皆さんに、補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)の働きや、補助犬法を知っていただく活動を行っています。また、補助犬を希望する方へ情報提供をしたり、ユーザーには医療費の補助や、指導という立場で犬の行動管理や健康管理などをしています。
私たちはユーザーが社会参加することで、そのご家族やまわりの方すべてが生き生きと暮らせる社会になることを目指しています。
オリバー 英国では動物は家族の一員が当たり前です。盲導犬や介助犬も珍しくありません。日本と違い、英国は犬をどこへでも連れていくのが普通です。
動物に責任を持つことも小さい頃から厳しくしつけられます。私は馬が大好きで、3歳半から乗っていますが、まず覚えさせられたのが馬の手入れでした。馬舎の掃除やブラッシングなどを先にしないと乗れないのです。「ポニーが欲しい」という私に、母は、まず小動物から世話をさせました。今でも、自分が食べる前に犬にエサをあげる、そういう習慣が身についています。

エリザベス・オリバー氏
NPO法人アニマルレフュージ関西(通称アーク)理事長
英国生まれ。大学は農学部酪農コースを専攻。1968年に来日し、1990年大阪府能勢町でアーク設立。阪神淡路大震災後、1年間で600匹を超える被災地から来た動物に対応した。現在、大阪のほか、兵庫・篠山で動物保護施設を運営。



■不十分な日本の動物福祉

大石 菊地市長はドイツで動物の接し方をご覧になっています。
菊地 5年間ドイツで勤務しました。ドイツ陸軍には軍用犬がいて、犬と人間の関係がとても密接です。軍用犬は自宅に連れて帰り、夜は一緒に寝泊まりし、次の朝また連れて行く。犬はものすごく訓練されていて、そういう犬でなければ飼えないのがドイツです。
日本のように、誰かが行くと吠えたり、逆にうれしくて抱きついたり、ということは考えられません。人間の都合かもしれませんが、動物と人間が共生するために、私たちの生活に支障がないレベルにしっかり訓練して、その上で家族として接する。そんな文化がドイツにはありました。
川口 補助犬法ができて13年たちますが、今も入店を拒否されることがあります。経営者は知っていてもアルバイトが知らずに断る、補助犬法も分かっているが入れたくない、ということもあります。おもてなしの意味からも、この法律を知ってもらい、補助犬について理解が広まればと思っています。
一般の方に守ってほしいのは四つ。「触らない」「見つめない」「声をかけない」「食べ物を与えない」。どれも、補助犬が集中力を欠く原因になってしまいます。かわいいと言ってくれるのはうれしいですが、ぐっと我慢していただきたいですね。
オリバー いろいろな事情で飼えなくなったペットは、英国の場合はセーフティーネットがあるので、捨てる必要がありません。しかし、日本の場合、捨てるか保健所に連れて行くしかないですね。
日本は先進国で、ドイツ・英国などと同じレベルです。それがなぜ動物福祉は遅れているのか、私には不思議でなりません。ぜひこの分野でもアジアのリーダーになってほしいですね。
菊地 オリンピックは多様な価値観に対するおもてなしを考える絶好のチャンスです。4年後、あらゆる国々の方がいらした時、飼っている犬に吠えられたり、飛びかかられたりしたら、当然驚きますよね。この国はG7なのに、なぜ道路で鹿が死んでいるんだということにもなりかねません。世界は多様な価値観でできていて、われわれの中では普通でも、ある国から見たらものすごく特殊かもしれないのです。
動物との共生の仕方、ユニバーサルデザイン、ハンディキャップのある方々への対応はハードとソフトと両方あると思いますが、4年間では全部のハードは間に合いません。まずはソフト面の対応として、荷物のある方や松葉杖の方がいたら、さりげなく声をかける、手を貸すといった支え合いの気持ちを持ちたいと思います。

菊池 豊氏
伊豆市 市長
1981年防衛大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。防衛大学教官。国連モザンビーク平和維持活動に携わる。在ドイツ日本国大使館防衛駐在官、第5普通科連隊長などを歴任し、一等陸佐で退官した。2008年伊豆市長。現在2期目。


■シェルター運営三つの課題

大石 沼津地区へのアニマルシェルター設立が中止になりました。しかし、現在、動物のためのNPO法人の設立が予定されています。懇話会も積極的に支援をしたいと思いますが、アニマルシェルターの運営には多くの課題もありますね。
オリバー シェルターは、スペース、世話をするスタッフ、そして運営費が課題です。阪神大震災の時、被災した動物を10年預かりました。飼い主が放棄すれば里親探しができますが、また飼いたいという希望を持っていた人です。迎えに来るのを待つ間に、その犬は死んでしまいました。シェルターは立ち上げて1年、2年で終わるものではないのです。初期はボランティアが多く来ますが、続けるには専属のスタッフが必要です。
大石 運営費はどのように工面をするのでしょうか。
オリバー 活動のアピールをし、サポーター制度や寄付金などを募ります。
菊地 今は資金集めのさまざまな選択肢があります。目的を明確にして、インターネット経由で不特定多数の人から資金調達するクラウドファンディングや、ふるさと納税の仕組みも使えるでしょう。海外からの寄付を募っても良いのではないでしょうか。
川口 ユーザーへの医療費補助は、皆さんからのご寄付が原資です。赤い羽根共同募金は使い道を選べるので、うちも参加をしています。
盲導犬や介助犬の育成は県が今、10頭分の予算を取ってくれています。その後はすべてユーザーの自己負担になります。経済的に苦しい希望者はそこで諦めてしまう。補助犬を得て、社会復帰、社会参加することが大きな目的であるので、希望する人には、補助犬と一緒にいろいろな所に出掛け、職も得て、生活してほしいと思います。
オリバー 人と動物との共生は、長いスパンで考えないといけません。犬を飼った時はまだ若くても、だんだん年をとり、病気・入院などで飼えなくなるケースが増えています。英国では、ペットと暮らせるケアホーム(老人施設)が9000施設以上あります。しかし日本はほとんど断っています。最近、老犬を引き取るビジネスが増えていて、何百万円も出さないと施設に入れないと聞きます。それが私はすごく残念です。これからこういう問題が増えていくと思います。
世界では動物虐待にも目を光らせていて、虐待の一歩手前で告発されるなど、その法律はどんどん厳しくなっています。
菊地 動物虐待への罰則は、先進国の中では常識になりつつある中で、動物に関する安全保障も国際的に共通認識になっています。世界レベルでの違法行為は、日本の中でも許さないような新たな社会的な対応というのが絶対必要です。
生きている動物や飼えなくなったペット、病気やけがをして放置されている野良犬・猫などを、われわれの家族・友人として、命を大切にする国民として、どのように保護していくかを考えるべき時です。そういった事業・施設が、伊豆半島のどこかにできることは、観光地としても好感をもたれることだと思います。

川口 綾氏
NPO法人静岡県補助犬支援センター 理事長
高校教論だった25歳の時に交通事故に遭い、視力を失う。その2年後に最初の盲導犬と生活を始めた。28歳の時、同じ高校教論と結婚。二次の母。2010年4月、静岡県補助犬支援センター理事長に就任し、啓発活動を行っている。


大石人士氏
一般財団法人静岡経済研究所 常務理事
静岡銀行入行後、1982年静岡経済研究所出向。2005年より研究部長、2012年理事。専門分野は地域経済、企業経営、まちづくり、行政改革など。静岡地方労働審議会委員など、県をはじめ市町の委員を務める。




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