中山 昨年の伊豆地区分科会で古賀さんから「『文豪と老舗旅館』で日本遺産の登録を目指したらどうか」という投げ掛けをいただきました。まずは伊豆の観光動向についてお話しください。
菊地 伊豆市の総生産額は2009年から緩やかな回復基調にあります。これは道路開通の効果が大きく、新東名が東駿河湾環状道路を経て修善寺温泉までつながった結果、修善寺温泉の宿泊客は前年比9%増となりました。
また、土肥、湯ヶ島ともにウオーキング、ハイキングのお客さまが伸びています。「水恋鳥広場」という川遊びができる場所は有料ですが、口コミでどんどん利用者が増えています。また、天城山ハイキングに年間10万人が訪れます。こうした要素に加え、食と日本文学がありますので、日本遺産登録を目指さない理由はありません。
中山 稲穂さんは「伊豆の踊子」の舞台となった福田家を経営されていますね。
稲穂 今の湯ケ野に昔の面影はありません。旅館は3軒となり、湯ケ野温泉のシンボルだった国民宿舎も取り壊しが決まっていま
す。ただ、共同風呂は健在です。作品の中で14歳の踊子が真っ裸のまま飛び出してくる、あの共同風呂は大切にしていきたいですね。
数年前まで中高年のご夫婦が利用の中心でしたが、インターネットの関係でしょうか、20代、30代のグループ、カップルが増えました。源泉かけ流しを目当てのお客さまが7割、あとの3割が「伊豆の踊子」巡りです。外国客に限っては9割が「踊子」です。
外国の方向けに伊豆の踊子の着付けサービスを始めました。皆さん写真をすぐにツイッターなどで友達に送っています。
古賀 高度経済成長期を過ごした子ども時代、家に日本文学名作全集があり、岡本綺堂、川端康成、井上靖を読んでは伊豆の風景を空想していました。
名だたる文豪を育てた白壁荘の「先生の間」では仕事もさせていただきました。同じ場所で仕事をすることができ、感慨深かったです。
こうした、文豪たちが伊豆に残した文化的な遺産やゆかりのある温泉旅館を何とか残してほしいという思いから日本遺産登録をご提案しました。 |