サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から  伊豆の玄関口である二つの新幹線駅と駅前が相次いで新しくなる。インバウンドの増加や2020年東京五輪・パラリンピックの開催を見据え、多機能で快適な交通の結節点が誕生する。9月の「風は東から」は11月に駅ビルがオープンする熱海駅と、先ごろ三島駅南口西側整備の開発事業者の募集が始まった三島駅を取り上げる。それぞれの開発概要と、地元への波及効果、期待される役割について、熱海市の齊藤栄市長と三島市の豊岡武士市長に聞いた。(聞き手 編集部)

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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変わる熱海、三島駅前、新たな伊豆の玄関に期待
■駅改修で市の“格”向上 多様な働き方を提案 ―熱海市

 ― 熱海駅が11月に新しく生まれ変わりますね。
 齊藤 駅舎が変わるのは実に90年ぶりです。熱海は1896(明治29)年の人車鉄道に始まり、軽便鉄道を経て1934(昭和9)年の丹那トンネル開通で一気に大衆化し、戦後、新幹線が通りました。今回の駅舎改修は熱海の発展の歴史上、大きなインパクトを持つ出来事です。平成の時代のニーズに合わせて新しく生まれ変わるという意味でも、駅は「新生熱海」の象徴になると思います。
 ― 広域観光の玄関口として周囲の期待も大きいでしょう。
 齊藤 熱海駅は伊豆の玄関口でもあります。駅舎の観光案内所には、デジタルサイネージ(電子看板)を2カ所設置し、熱海の情報と伊豆半島の情報を常時発信します。
 また、コミュニティーFMのサテライトスタジオをつくり、駅前ロータリーもスタジオに見たてて積極的な情報発信をします。インバウンドも意識し、パーソナリティーは外国の方にもお願いしました。駅前広場は歩道を広くゆったりと作ってあるので、イベントなども行えます。
 ― 駅ビルには観光、住民両方に利便性の高いテナントが入居予定だそうですね。
 齊藤 特に私がこだわったのが高級スーパーです。別荘に行く前に駅でワインやチーズ、地元の食材が買える場が必要と考えました。熱海の別荘は1万世帯あります。年に2回別荘を訪れている方が4回、5回訪れるようになれば、市内への経済効果は今よりもさらに大きいものとなります。
 ― 駅前には超高層マンションも建設中です。
 齊藤 熱海から品川まで新幹線で40分と通勤圏で、都内からのアクセスは抜群です。人口減少が進む中、この地の利を活かすためにも、子育てや教育とともに、働く場づくりにも力を入れています。
 昨年度、宿泊客数は300万人を突破しました。今後は、基幹産業である宿泊業の高付加価値化が重要です。お客さまの満足と従業員の満足、双方を満たすようなまちにしていく必要があります。
 また、新しいことに挑戦する方を地域ぐるみで応援する創業支援も進めています。例えば、首都圏から市内に移り住み、空き家をリノベーションして、工房を作った方がいます。このような動きを行政としても後押しするため、まちのリノベーションを進め、不動産の流動化を促し、気軽に熱海で事業を始めることができる仕組みづくりを行っています。
 まだ小さな動きですが、観光一辺倒でない働き方ができるまちとしての模索をしています。今は多様な働き方を選択できる時代です。築60年のビルをリノベーションし、「Naedoco(なえどこ)」というコワーキングスペースもできました。市職員が常駐し、創業や移住を考えている方と一緒に悩みながら可能性を探っています。さらに、「熱海で林業」をコンセプトに、この秋から林業研修を実施し、若者を中心に新たな働き方も模索していきます。
 ― 2020年東京五輪開催も追い風になりますね。
 齊藤 東京五輪に向け、Wi―Fiスポット等、誘客環境の整備を進めています。また、パラリンピックへの対応という視点も重要と考えています。例えば、障害をお持ちの方々を主体に運営されるホテルというサービス提供のあり方も考えられます。パラリンピックの選手や観戦客に熱海で心身ともにゆっくりしていただく。ここには「日本」があります。海、山、温泉、芸妓、初島にいけば富士山も見える。障害をお持ちの方が運営に参画しているとなれば、より安心ですよね。障害をお持ちの方にいいということは、高齢者にも健常者にもいいまちです。それが「住まうまち熱海」です。

■齊藤 栄 氏
熱海市 市長

1963年生まれ。88年東京工業大大学院修士課程修了後、国土庁(現国土交通省)入庁。地方振興局東北開発室計画係長、土地局国土調査課専門調査官を経て、2004年国会議員政策秘書。06年より現職、3期目

 



■進むコンパクトシティ 機能分担で広域連携 ―三島市

 ― 長い間の懸案だった三島駅南口の再開発が動きはじめました。今後、まちづくりのかじ取りをどう進めていかれますか。
 豊岡 国はまちの中心部にいろいろな機能を集積する「コンパクトシティ」を進めています。これに先んじて三島市は、美しく品格のある「ガーデンシティ」と誰もが生き生きと健康に暮らせる「スマートウエルネスシティ」を両輪にまちづくりを進め、大きな成果が出てきています。
 2012年には「三島駅周辺グランドデザイン」を策定し、現在、駅南口西側の土地0・34fの開発事業者を公募しています。
 ― グランドデザインでは、西側を「広域観光交流拠点」、東側を「健康医療拠点」と位置付けていますね。こうした位置付けの背景は。
 豊岡 まず、三島市も例外ではなく、生産年齢人口は減っています。産業振興策として現在工業団地を造成していますが、一方で観光振興を進め、駅前を開発することで働く場を増やし、市の持続的な発展を目指しています。
 他の地域と違う三島独自の街づくりが必要と考えています。しいて言えば「健幸観光都市」。加えて、「教育」「環境」「文化」などの要素も入ってくると思います。これらを進めることで魅力ある駅前となり、大きなにぎわいが生まれてくることを期待しています。
 ― 駅前はまちづくりの大きな核。再開発を進める中で市の指導力をどう発揮しますか。
 豊岡 募集要項にグランドデザインをしっかりと反映させていますので、その理念に合う事業者を選びたいと思います。
 西側は「広域観光交流拠点」の位置付けですから、都市型で多機能なシティホテルを建設し、広域観光の拠点機能を盛り込み、市の玄関口にふさわしい計画を作る、湧水の保全に配慮した計画にする―などを盛り込みました。
 東側は、年度内に事業協力者の公募を開始する予定です。一部市有地として残しつつ開発しますので、業務や商業・駐車場の割り振り方なども事業者と一緒に考えていきます。
 また、東西地区ともに楽寿園や市街地とのつながり、回遊性の向上を生かした計画にしたいですね。いずれにせよ、地下水に影響が及ばないこと、市民はもとより地域住民の期待に応えられるよう心がけて進めていきます。
 ― 広域観光の拠点という部分はどうお考えですか。
 豊岡 西側のホテルには観光情報の発信もしてもらいますので、富士・箱根・伊豆の玄関口としての役割もしっかり果たしたいと考えています。
 市長に就任した際、駿豆線沿線を活性化しようと、県、伊豆の国・伊豆市、函南町、伊豆箱根鉄道と協議会を作りました。Wi―Fiスポットの整備や観光情報の合同発信など、この地域の発展を目指してきましたが、駅前開発によって三島駅が魅力を増し、多くの人が訪れていただくようになると、今までの取り組みがなお一層進むと考えています。
 2020年の東京五輪に向けても、また今月、ファルマバレーの新たな研究開発拠点が長泉町に開設されましたので、国内外の研究者や医療関係者が相当数この地を訪れることなどからもシティホテルクラスの宿泊施設が必要になると思います。
 沼津の素晴らしいコンベンション機能、そして三島は広域観光交流拠点として、役割を分担していくことが東部にとって望ましいと思います。また、三島市にとってはシティホテル、ビジネスホテル、旅館と選択肢が増えれば多様な観光が成り立ちますし、回遊性も増すのではないでしょうか。

豊岡 武士 氏
三島市 市長
1943年生まれ。65年日本獣医畜産大卒業後、静岡県入庁。農畜産行政をはじめ消費生活課長補佐、緊急防災支援室長(初代)を経て、99年静岡県議会議員(3期)。2010年より現職、2期目




■経済消費型から 時間消費型へ

 交通の結節点である駅は人やモノが行き交うだけでなく、情報、宿泊、飲食サービスなどの基本的機能を持つのが一般的だ。しかし、これからはそうした利便性のほかに、快適性やにぎわい、ブランド力など、人口減少時代に人を集める役割が求められる。
 つまり、経済消費型から時間消費型への転換だ。それは商品そのものというより、快適に豊かな時間を過ごせる場所が必要になってくる。例えば、都市的文化の提供。また、健康や医療は不可欠で、しかも単に健康で病気を治すということだけでなく、「美しさ」といった概念も必要だ。
 もちろん、保育や教育もあるだろう。横浜市が駅前保育を実施し、待機児童ゼロにしたのも記憶に新しい。
 今までは駅や駅前などの“舞台”をつくるまでが行政や鉄道会社の仕事だったが、今後はそこで市民や観光客に何を、どう演じてもらうか、それをまちの活力にどう結びつけるかまでを、きちんと都市デザインに反映させなければならない。
 熱海駅、三島駅共に観光拠点であり、今の時代背景に沿った新しい機能を地域の特色を生かして付け加えようとしている好例だ。
 駅のあり方を考えたとき、地域資源や自然のみならず、この地域を愛してくれる人たちにどうアピールするかを前提に都市戦略を構築していくことこそが、今後のまちづくりに求められる視点だろう。

■企業経営研究所
中山勝常務理事

(懇話会TESS研究員)


■企画・制作/静岡新聞社営業局

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