サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から  富士山が世界文化遺産に登録されて3年、韮山反射炉は1年が経過した。世界遺産を保有する自治体は、国内外から注目される一方で、保全や地域づくりに向けた課題も山積する。10月の「風は東から」は世界遺産を取り上げる。富士宮市の須藤秀忠市長と伊豆の国市の小野登志子市長に、世界遺産をどうまちづくりに生かしていくかについて聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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誇らしい世界遺産登録 責任の重さ地域づくりに
■ センター開設をまちづくりの起爆剤に ―富士宮市

 ― 富士山世界文化遺産登録から3年が経過し、まちづくりにどのような変化がありましたか。
 須藤 世界遺産登録は大きなチャンスになりました。市民挙げての「おもてなし」の心、そしてまちの品格を磨くことができました。ハード面では、富士山にふさわしい景観整備に力を入れています。特に、遠くからお見えになるお客さまにとって一番のおもてなしは清潔なトイレだと思っていて、構成資産にあるトイレもすべて改修しました。案内所も併設して、土日はガイドが常駐しています。
 市民向けの構成資産巡りバスツアーは年に5回行っていますが、非常に関心が高く、毎回満席になります。また、市民や民間が行う文化イベントにできる限り世界遺産という冠をつけてもらっています。
 防災面の意識も大きく変わりましたね。今まで「噴火」はある意味禁句でした。しかし、万が一噴火が起きた際に、富士山を見にいらした観光客をどう避難させるかも市の大きな責務。噴火の危険性を開示するとともに、きちんと対策を立てて実行できる状況を示すことも「おもてなし」だと考えています。そうすることで、安心して来てもらえるようにしています。
 ― 来年秋頃に、浅間大社に隣接して県の富士山世界遺産センターが完成しますね。
 須藤 当市にとって歴史的な提案で、まちづくりの起爆剤になると思っています。センターには教授が常駐しますので、富士山の文化的価値の研究がますます進むと考えています。坂茂さんの斬新な設計デザインは建築物としても多くの人を魅了することになるでしょう。
 センターの開設に合わせ周辺整備も進んでいます。南側にはバス20台、乗用車100台収容の神田川観光駐車場が完成し、大きなトイレも今後整備します。また、浅間大社境内地内ふれあい広場は芝生を植え、湧玉池の水を引いた親水空間を造りました。夏には涼を求めてたくさんの親子連れでにぎわいます。これから、伊勢神宮のおかげ横丁のようなまちなみの整備や食の商業集積も整備する予定です。
 ― 今後、この世界遺産登録の意義をどう次世代に引き継いでいかれますか。
 須藤 長い間人々が培ってきた富士山に対する思いは、多くの人の心の中だけでなく、ものの形や文化になって現在も残っています。今あるものの把握はもちろん、文化的価値の調査研究を深めていきたいと思っています。中でも出前講座や富士山学習を通して子どもたちに文化的価値を正しく伝えることに力を入れたいですね。当市は子どもたちが富士山に関する知識を学ぶ「富士山学習」を実施しています。それをまとめた冊子を作っているのですが、すばらしい出来です。こうした取り組みが将来にわたって富士山を守ることだと思います。
 また、富士山の景観を後世に活かすため、独自の条例を作りメガソーラーの規制をしています。これを全国の世界遺産のある自治体の長に訴えるとともに、法整備を国にも働き掛けています。地道な活動ですが、京都市をはじめ賛同してくれる地域が増えてきたのはうれしいですね。

■須藤 秀忠氏
富士宮市市長

1947年富士宮市生まれ。中学卒業後、東芝機械に入社。仕事をしながら静岡大法経短大卒業。市議、県議を経て、2011年から現職、現在2期目

 



■ 市民にも訪れる人にも正しい価値を伝えたい ―伊豆の国市

 ― 昨年7月、韮山反射炉を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録されたことについてどう思われますか。
 小野 江川坦庵公の業績が広く世界に認められたことが何よりうれしかったですね。2013年の市長就任後、8月には萩市の野村興兒(こうじ)市長たちと首相官邸、国土交通省、内閣府などを訪ね、推薦のお願いをしました。また、イコモスの現地調査の前には、県東部のすべての市町を訪ねご協力をお願いしました。15年7月5日、登録を決めるユネスコ世界遺産委員会のライブ中継には市民500人が参加、なかなか結果が出ず気をもんだのも今となっては懐かしい思い出です。
 翌日、庁舎玄関に「韮山反射炉を未来へ」の懸垂幕を設置しました。この誇らしさは何物にも代えがたいですね。同時に、未来に継承するものとして、ユネスコに認めていただいた管理保全計画にのっとり、保護保全を図り、確実に次世代につなげることを最優先に考えています。
 ― 韮山反射炉ガイダンスセンターが12月に開設予定ですね。
 小野 明治日本の産業革命の一翼を担った反射炉の鋳造技術とその価値を多くの方に知っていただくための施設です。
 鉄をイメージした赤銅色の建物は一見、鉄工場、あるいは倉庫のように見えます。しかし、中に入るとその美しさに驚かれると思います。壁の塗り方一つにまでこだわった自信作です。メーンは反射炉立体図館と名付けたシアターで、反射炉の構造だけでなく、築造に至った当時の政治的、社会的背景や江川家の邸内が美しい映像で描かれています。
 また、反射炉のガイダンス施設としてだけでなく、夜間のコンサートなどにも使いたいですね。この施設を振り出しに江川邸や願成就院など地域全体にも目を向け、周遊してほしいと願っています。
 ― 世界遺産登録をまちづくりにどう生かしていきますか。
 小野 世界遺産登録後、年間72万人の方にお越しいただきました。今後は反射炉の価値を正しく伝えるべく研修や修学旅行なども積極的に受け入れていきたいと考えています。そのために、子どもたちが気軽に反射炉の仕組みを学べる「ミニ反射炉」も作りたいですね。周辺に、坦庵公が日本で初めてパンを作った史実にちなんでパン工房などもどうでしょう。
 当市には反射炉だけでなく、六つの国指定史跡、51の神社と51の仏閣があり、「歴史のまち」と呼ぶにふさわしい文化財がそろっていますので、それらを周遊するコースを作りたいですね。さらには豊富な温泉もありますので、歴史、文化、温泉保養のできる「伊豆の国市型バーデンバーデン(注=ドイツの温泉保養地)」を目指したいと思っています。

県東部が世界に誇る、二つの世界遺産(伊豆の国市提供)

 

小野登志子氏
伊豆の国市 市長

1944年江間村(現伊豆の国市南江間)生まれ。67年日本大芸術学部卒業後、実家の鈴木助産院勤務。韮山町議会議員、静岡県議会議員を経て2013年より現職



総局長's Eye 世界遺産背景に新たなまち創造へ

 お話を伺った須藤、小野の両市長からは、ともに世界遺産を背景にした新たな「まち創造」への意気込みを強く感じた。
 富士山は2013年6月、「信仰の山」としての価値が認められ世界遺産に登録された。富士宮市が15年に策定した「世界遺産のまちづくり整備基本構想」の基本理念には「富士山信仰の歴史・文化が香るにぎわいとおもてなしのまちづくり」をうたう。富士宮本宮浅間大社から世界遺産センター建設予定地までをコアエリアとした門前町の再生を狙う構想の役割は大きい。山体への来訪者抑制を求めるイコモスの注
文にも沿うだろう。
 韮山反射炉はイコモスが登録勧告を行った15年5月以降、爆発的に入場者が増加した。15年度は前年度比6・8倍の72万人を記録している。ただ周辺への登録効果は現時点では限定的といわれ、入場者増も一服した感がある。江川邸など地域資源への周遊性向上が課題だ。12月開館のガイダンス施設に期待が集まる。小野市長は「パン祖」と呼ばれる江川坦庵公を由来とする「パン祖のパン祭」を軸とした構想も披露してくれた。
 「創宮」。これは富士宮市が発刊する広報別冊の名で、富士宮のまち創りと「SO GOOD」とを掛けているという。国内外に発信できる「まち創造」は、市民が他に誇れるまちづくりが前提だろう。世界遺産をまちの未来につなげるには、市民の理解と協力が求められる。

■静岡新聞社 東部総局長海野俊也


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