サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から農業に世界的な転換期が訪れている。「ものづくり県」のイメージが強い本県だが、お茶、ミカンをはじめとする食材数(野菜、果樹、作物、畜産物、林産物)は 339品目と、日本トップクラスだ。1月の「風は東から」は、県が沼津市に今夏開設する「アグリイノベーションセンター(仮称)」を取り上げる。同センターは県が進める「先端農業推進プロジェクト」の拠点施設。プロジェクトの概要やどんな研究開発が進み、県東部にどんな価値が生まれるのかを、県経済産業部の若原幸雄農林水産戦略監に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10

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「攻めの農業」にICT活用 多様性生かし生産性向上
■ 「場の力」とICTを融合

 ― 本県が農業に力を入れる背景の説明をお願いします。
 若原 農業は今、世界的に大きな変革期にあります。個人的には、1万年前の農業開始から、18世紀の資本主義経営の誕生、そして20世紀、「緑の革命」に代表される化学肥料などによる穀物の大量増産に続く第4の革命期と考えています。
 具体的には、ICTを活用し農業の生産性を飛躍的に伸ばす時代に入った、というのが現状です。
 もはや国土が広いというだけで農業輸出国として成功する時代ではありません。ICTを活用し、温度・湿度・二酸化炭素などをコントロールし生産性を高めることなどで、九州とほぼ同じ大きさのオランダは今や世界第2位の農業輸出国となりました(トップは米国)。
 日本でも「スマートアグリ」と言われる手法が数年前から本格化してきました。本県では昨年稼働したサンファーム富士小山(小山町)の高糖度トマト「アメーラ」プラントが代表例です。オランダの環境制御システムをベースにアメーラ用に大幅な改良を加えました。
 本県には豊富な日射量と良質な水があり、339もの多品種の食材を生み出すばかりか、それぞれが一定の評価をいただいています。
 また、すでに「アメーラ」や、ロボット工学から農産物の流通システムに参入したエムスクエアラボ(加藤百合子社長・菊川市)など、農業分野で先進的な取り組みをしている企業がたくさんあります。
 こうした本県の「場の力」に加え、ご縁があって、理化学研究所(理研)や慶応大環境情報学部など日本でもトップクラスの研究機関と一緒に、農業の高度化に取り組む機会を得ました。
 現在、沼津市の愛鷹山ろくに位置する東海大学旧開発工学部を活用し、農業・食・健康をテーマに、産学官・農商工連携したオープンイノベーション拠点「アグリイノベーションセンター」を整備しています。

■若原幸雄氏
県経済産業部農林水産戦略監

1994年旧大蔵省入省、金融庁総務企画局企画課長補佐、保険企画室長を経て、2014年7月から県経営管理部財務局長。15年県経済産業部理事、16年4月より現職。

 

■富士のふもとに多品種の「農芸品」が育つ(イメージ写真)


■ 高付加価値化と販路構築が必要

 ― 同センターの役割と機能をお願いします。
 若原 多品種の県産品を支えてきた県農林技術研究所を軸に、理研や慶応大などの研究機関、アグロメディカルフーズ(AMF)と呼ばれる健康増進効果の高い農産物や加工品などの研究者団体AMF研究機構などが入居して、オープンイノベーションを起こしやすい環境をつくります。 
 例えば、慶応大はICTを活用した暗黙知の見える化に取り組んでいます。三ケ日ミカンの篤農家の栽培や農作業の様子をアイカメラなどを使って収集・分析し、学習支援アプリを開発、新規の就農者に効率的に作業を学んでもらうという研究です。
 また、理研はイチゴ生産において、病害虫の影響を受けた植物が出す微量のガスをレーザーで検知し、早期に取り除く技術を開発しています。
 こうした取り組みを通じて生産性の向上を飛躍的に高めたいと考えています。
 ― 生産性の向上は価格の低下につながりかねない一面もありますね。
 若原 より求めやすい価格になること自体は良いことなので、ビジネスとして成り立つような生産性の向上も、このプロジェクトが目指すものの一つです。他方、新しい価値、例えば「おいしい」や「体にいい」を生み出すことで、価格以外の点でも消費者に評価してもらえるようになっていただきたい。同センターにはAMF研究機構はもちろん、光や温度、CO2濃度などを制御できる「次世代型栽培実験装置」を整備します。企業などの目的に応じた「機能性」や「おいしさ」を追求する実験ができますので、大いに活用していただきたいですね。
 また、栽培法の確立とともに欠かせないのが、作ったものを商品として世に出すこと。例えば市場価格、生産量、それを実現する施設規模などをどう考えるかです。
 そこには、特殊な構造のハウスや農機具、新しい有機肥料などが必要になることもあるでしょう。これらの開発に協力してくれるパートナー、おそらくものづくり企業をはじめとする多くの産業分野が対象となりますが、こうした情報を熟知したコーディネーターを配置し、マッチングを促します。
 磐田市で展開する「スマートアグリカルチャー」は、種苗を提供する増田種苗、環境制御の富士通、販路開拓のオリックスの3社マッチングで、業種・業態を超えて“食”や“農”のバリューチェーン構築した新たなビジネスモデルです。これは民間の事例ですが、同様の仕組みをわれわれが提供できれば、生産から小売りまでを網羅したマーケットインの流れができてくると思います。
 農業に取り組んでいる皆さんには、ぜひ抱えている課題や問題点を持ち寄ってもらい、研究機関や他分野の技術を取り入れることで、自社で10年かかるところを、ここでなら3〜5年で成果が出るようにしたいですね。


■ 早期の研究成果を期待
 ― 研究成果が楽しみです。
 若原 今夏の開設をにらみ、入居企業の公募を行い、12社を選定しました。自社開発では行き詰まっているとか、着手したいが展望が見えていない、という方々がブレークスルーを狙って多数入居されると思います。そこさえ突破すれば商品化にたどり着く段階の研究ばかりですので、成果が生まれるのも早いと思います。
 イメージとしては「低カリウムレタス」。重い腎臓病の方などが安心して召し上がれるように改良した野菜ですが、今、普通のスーパーでも扱うようになりました。三ケ日ミカンも昨年から機能性を表示して販路を拡大しています。割合に短期間のうちにこうした県産品がみなさんの目に留まるのではないでしょうか。
 また、同センターだけでなく、県が進める先端農業プロジェクトは、磐田市にある農林技術研究所本所が西部のものづくり企業と連携して農業ロボットの開発を進めています。前述のエムスクエアラボはICTの知見を流通の合理化、物流の効率化に生かす取り組みをしています。このように、農業にイノベーションを起こすには、
県内の多様性をいかに強みにしていけるかが重要だと思います。
 私は、川勝平太知事の言う「ジャパニーズドリーム」を、本県が持つ多様な土地―富士山と駿河湾に挟まれた県土に広がる山や川、平地など東西に長く広がる風土の上に、本県で生まれたり、引っ越して来たりして、いろいろな縁で集まり生活している多様な人々が、それぞれ望む人生を満喫できること―と理解しています。
 その農業版がこのプロジェクトです。日本一多品種の農芸品を育てている環境を生かすことが、オープンイノベーションを起こしやすくし、世界的に大きな変革期においてもその流れをうまくつかんで本県の農業が発展していく―これがわれわれの目指す姿です。
■アグリイノベーションセンターのエントランス。ここから本県の農業がドラマチックに変わる
 同センターの開設に先立ち、3月に農・食・健に関する国際フォーラムを沼津市のプラサヴェルデで開催します。こうしたイベントなどは今後東部が中心になります。人材育成にも力を入れていきますから、まずは地元の方に知ってもらい、積極的に参画してもらいたい。一流の研究者が集まりますので、ぜひ東部の若者にもつなげられたら良いと思います。
 県東部は医療健康産業の集積を図るファルマバレープロジェクトが進んでいます。そこに農業のイノベーション拠点ができることで、健康寿命全国トップクラスの本県ならではの成果が次々と生まれてくれることを期待しています。


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