サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から 少子高齢化の進展で、ペットの存在はますます大きくなり、今やペットの数が15歳未満の子どもの数を上回っている。2月の「風は東から」はサンフロント21懇話会20周年記念事業に位置付けられた「人と動物が共生できる社会の実現」に向けた動きを紹介する。2011年の川勝平太知事への提言から、拠点の予定地を巡って二転三転したが、昨年11月にNPO法人「人と動物のハッピーライフ」が設立された。その背景や今後の取り組みを懇話会メンバーで同法人の井口賢明理事長に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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人と動物の共生社会へ 幸せな地域づくりを
■ NPO設立で活動本格化

 ― 懇話会が提唱する「人と動物の共生社会の実現」。その背景をお話しください。
 井口 県東部の活性化に取り組むサンフロント21懇話会は、活動の一環で「人と動物が共生できる社会の実現」を目指し川勝知事に提言を行いました。
 日本は先進諸外国に比べ、ペットを取り巻く環境の未熟さが指摘されています。今も年間1万5000頭の犬、6万7000頭の猫が殺処分となっています。こうした現状を変えていくには、殺処分ゼロを目指し地域ぐるみの啓発を進めたり、一時預かりの拠点を整備したりして、県東部を動物愛護の先進地域にしていく必要がある―といった内容でした。
 ― その活動が実を結び、昨年11月、NPO法人「人と動物のハッピーライフ」が設立されたのですね。
 井口 人と動物が共生し、安全・安心に、そして幸せに暮らすためには、突然飼い主をなくした犬や猫の保護をはじめとするさまざまな社会システムの整備を官民挙げて進めていかなければなりません。NPOはこうした活動を行う推進エンジンとして誕生しました。
 活動の柱として「動物の殺処分ゼロ化推進」「動物愛護、福祉の普及啓発」「動物同伴行動環境の拡大」「動物一時預かり」―の四つを進めていきます。
 例えば、動物の飼い方やしつけ方教室の開催、子どもたちへの動物愛護教育、保護動物の譲渡会などです。また、住む人だけでなく、県東部を訪れる人もペットと自由に旅して、建物などへの出入りが自由にできる環境を整えるのも役割の一つです。ペット同伴の旅館・ホテルが増えたり、リードなしで公共交通機関に乗れたりしたら楽しいと思いませんか。
 ― 飼い切れなくなった動物の引き取りも大きな課題です。
 井口 殺処分ゼロ化の推進にはそうした動物たちを一時的に預かる場所も必要でしょう。東日本大震災で浮き彫りになった被災動物の受け入れもありますし、将来的に拠点は必要です。ただ、一足飛びには難しいので、できるところからコツコツ積み上げていきたいと考えています。
 急ぎたいのは、地域の動物愛護・福祉団体とのネットワーク化。目指す方向は同じですので、啓発セミナーやしつけ方教室をスタートさせ、一時預かりボランティアの協力をお願いしていきます。また、NPOの活動資金は皆さんの寄付に頼らざるを得ません。活動を広報するとともに、目的を明確にし、クラウドファンディングやふるさと納税の仕組みづくりなどにも積極的にチャレンジしたいと思います。

■井口 賢明 氏
NPO法人「人と動物のハッピーライフ」理事長
1967年弁護士登録、93年県弁護士会会長。このほか県収用委員会会長、県人事委員会委員長、サンフロント21懇話会運営委員長などを歴任した。沼津市出身

 



■ 医療水準の底上げ期待

 ― 4月には動物の高度医療病院も長泉町に誕生します。
 井口 ペットに長生きしてほしいというのは、飼い主なら誰もが思うことです。ペットを取り巻く環境の変化は著しく、以前はかからなかったがんや肝臓病など、難治性の病気を発症し苦しむ動物が少なくありません。新しく開設する病院は高度がん治療が受けられると聞いています。こうした先端医療を行う病院ができることで、地域の医療水準が上がったり、治療から予防へシフトしたりすることが期待できると思います。
 また、県東部で進む「ファルマバレープロジェクト」との連携の可能性も大いにあると思います。 
 ― 県東部の将来像についてお願いします。
 井口 2年後、3年後には静岡県が世界的なスポーツの祭典の会場になり、世界各国から大勢の方がやってきます。盲導犬や介助犬も当たり前のように見られるでしょう。ペットと一緒に旅行したい人の受け入れがきちんとできる「世界基準」の動物愛護・福祉が浸透した地域にしたいですね。



犬や猫に高度がん治療。長泉に今春、先端病院開院
長泉町に開院する「動物先端医療センター」で、4月から院長に就任予定の東京農工大学附属動物医療センター長の伊藤博教授に、病院の概要やNPOと連携した活動について聞いた。
■ がん治療に特化

 ― 人と動物の関係はどのように変化しているのでしょう。
 伊藤 少子高齢化、核家族化を背景に動物に依存する人が増えています。今、ペットは子どもの数より多くなりました。服を着せたり、誕生日にケーキを用意したり、ペットを「擬人化」している方が皆さんの周りにもいると思います。それは決して悪いことでなく、夫婦間、親子間、時に地域間の精神的なつながりを動物が担っている場合が少なくないのです。
 ― そんな中、動物の高度医療がついに実現しますね。
 伊藤 ここは腫瘍(がん)治療を中心に行う専門病院です。内科系、消化器系、循環器系は東京農工大の協力で診療します。動物に対する新たな治療法はどんどん開発されており、カテーテルを用いたがんに対する動注療法や免疫療法も行います。幹細胞を使った再生医療にもチャレンジしていきます。これは椎間板ヘルニアや、重度の肝障害の治療に効果があります。
 また、おおむね2〜3年後をめどに、診療を24時間体制にしたいと考えています。
 一番の特徴は、臨床治験ができることです。国立がん研究センターにご協力いただき、人間用の新薬を飼い主さんの同意を得て犬の難治性乳がんに用い、有効性を確認しました。犬の病気や、その病理形態は人ときわめて類似しています。人の1年は犬の7年に相当しますので、薬の有効性を短時間で調べるにも大変役立ちます。こうしたデータは新薬開発に役立てています。

■伊藤 博 氏
東京農工大学農学部附属動物医療センター長
1973年北里大獣医学部卒。95〜2005年同大獣医外科学助教授、05〜15年東京農工大附属動物医療センター専任教授、16年から現職。国内初の犬の免疫療法の基礎を確立した

■ 専門家の講座も
 ■動物先端医療センター・AdAM=長泉町
 ― 県東部ではNPO法人「人と動物のハッピーライフ」が立ち上がりました。NPOの活動に対して病院の役割をどうお考えですか。
 伊藤 先進国では「ペット」ではなく「伴侶動物」と言います。末永く伴侶として生活を共にしましょうという意味ですが、日本は言葉の使い方から変えていかないとなりません。
 また、こうした伴侶動物がもののように売買される現状があり、年間8万頭以上の犬や猫が殺処分されています。NPOの使命は、県内の殺処分ゼロを目指す、また震災などで飼えなくなったり捨てられたりした犬や猫を再び家族に返してあげる、ということだと思います。
 保護された犬や猫の健康を担うのも病院の役割の一つでしょう。病気を治して健康にして、新しい家族に引き渡す。重い病気の場合はNPOと私たちがしっかり最期まで面倒見ていきたいと思います。
 NPOと一緒に院内のセミナールームで、地域のみなさんに伴侶動物と人との深い絆をお伝えする活動も行いたいですね。これほど人間の生活に浸透している犬や猫ですから、病気で医者からさじを投げられるのは飼い主にとって大きな苦痛です。でも今は、高度な医療技術があり、あきらめなくても良いことをお知らせしたい。
 また、動物行動学の専門家による講座も開きたい。動物への理解が深まれば、接し方も変わりますし、ひいては環境も変わっていきます。これは大げさなことでなく、動物を排除しない、愛おしいと思う気持ちが人々を穏やかにし、安全で豊かな地域づくりにつながるのです。


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