サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から富士山が世界文化遺産に登録されて今年で4年がたち、今年12月には富士山世界遺産センター(仮称)が富士宮市に開館予定だ。4月の「風は東から」は、先月行われたサンフロント21懇話会富士山地区分科会の基調講演に続く、パネル討論を取り上げる。パネリストに、筑波大大学院の稲葉信子教授、日本旅行業協会の中尾謙吉国内・訪日旅行推進部長、富士山を撮り続けている写真家の植田めぐみ氏を迎え、富士山との向き合い方について議論した。コーディネーターは静岡経済研究所の大石人士常務理事。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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ファルマ起点のまちづくり 農・医・スポーツを産業化
■ 影響力高い文化的な自然

 大石 世界遺産における富士山の価値をご説明ください。
 稲葉 富士山の価値は「信仰の対象」と「芸術の源泉」です。ある特定の時代、ある特定の地域の象徴として存在する山は世界に数多くありますが、富士山はどの時代でも、かつ、国際的に見ても影響が大きい山です。
 世界遺産の主流が、自然と文化の境界領域にあるものとなっていますが、これだけ文化的影響力のある自然が世界遺産になっている例はあまりありません。また、どうやって地域振興や観光に結び付けるのか、そのモデルになるものです。
 中尾 富士山は日本のインバウンドに欠かせません。アジアでも欧米でも、訪日したらまず最初に富士山に行くという意識があるようです。ゴールデンルート上にありますし。国立公園のインバウンドの状況では、昨年545万人が国立公園に行っていますが、その半分が富士箱根伊豆。おそらく富士山と箱根だと思います。
 登山者動向を見ると、最近女性を中心に若い人が登っています。世界遺産登録の年が最高集客で、2014〜15年は落ち込みましたが、昨年やっと盛り返した感があります。テレビなどで「山を踏破する」とか「制覇する」といった表現が見受けられますが、個人的には感謝の心をもって登ってほしいと思います。世界遺産センターで説明を受け、浅間大社にお参りして、1合目から富士山に登るという文化が根付いてくれるといいですね。 
 植田 世界遺産登録後、何も知識はないけど楽しそうだから登っちゃえという方が多くなりました。サンダルにTシャツ姿の方もいます。晴れていればいいのですが、天気が悪い日は本当に危険で、雨の日は死人が出てもおかしくない過酷な場所です。また、高山病になっているのに無理して登ったり、ストックの突き方を知らなかったりする人が本当に多い。でも、そういう情報が発信されていないのが現状です。
 山に登るだけが富士山の楽しみ方ではありません。どこかに泊まるとか、帰りに温泉に入るとか、そういった情報があまり発信されてないことに気づきました。
 中尾 以前は日本人の登山マナーが悪いとか、ルールが守られていないとか言われていましたが、今はそんなことありません。
 むしろ、インバウンドの個人旅行が増える中、そうしたルールやマナーをどこで知るのだろうと思いますし、啓発の部分は国がやるべきでしょう。また、安全のためにも旅行会社やガイドがやっているツアーに参加するように奨励してほしいと思います。

■稲葉 信子 氏
筑波大大学院教授

専門は世界遺産・建築学で文化庁文化財調査官、独立行政法人東京文化財研究所文化遺産国際協力センター国際企画情報研究室長なども務める。2008年から現職。日本イコモス国内委員会理事

■中尾 謙吉 氏
日本旅行業協会
国内・訪日旅行推進部長

1981年日本旅行業協会入社。外国人旅行、研修試験、消費者相談の各業務を担当。2003年から社会貢献委員会(環境対策部会、バリアフリー旅行対策部会)と旅行業ツアー登山協議会。08年から国内・訪日旅行業務部

 

 


■ SNSでも情報発信を

 大石 登録から4年がたち、地元の取り組みはどう進んでいますか。
 稲葉 三つあります。一つは登山者の数です。適正値がどのくらいなのかは今後の議論になりますが、どうあるべきかを考えてほしい。もう一つは景観の保存です。富士山の価値は信仰の対象・芸術の源泉です。拝む山であり描く山であり、歌を詠む山です。富士山の景観をどう守っていくのか。国立公園の制度、市町独自の制度、それで足りるのか足りないのかの議論が必要です。三つ目は、いにしえから現代まで日本人の文化に影響を与えてきた自然の価値をどのように総合的に伝えていくか。その三つをきちんと考えてほしいという宿題がユネスコから出ています。
 それに日本がどう答えるのか、まさにこの4年間の活動であり、将来への取り組みです。富士山のアクションプランと保存管理計画を山梨県、静岡県の職員の皆さんと一緒に作って昨年提出し、高い評価を受けています。と言っても計画倒れになってしまえば元も子もありません。
 大石 富士山の魅力をどうやって伝えていかれますか。
 植田 登山者には最低限のマナーや服装、安全面、また頂上だけがゴールでなく途中であきらめる勇気も必要だと伝えたいです。富士山は見るものでもありますから、遠くから眺めてみたり、麓から見たりする楽しみ方も発信したいですね。近くまで来られない方や登れない方にも見せて差し上げたい。また、それらをワンストップで、SNSなどで発信していくことで、少しでも富士山の素晴らしさを伝えていければと思います。
 中尾 気軽に登る方が多くて、毎回引率すると高山病になる方が出てきます。山梨、静岡県は注意を呼び掛けるDVDを作っていますが、その場で見ても間に合いません。事前に富士登山の怖さも学んでほしいと思います。
 高山病になっても登りたいという人がいますが、私は絶対やめてくださいと言います。個人ではなかなか判断できませんから、旅行会社のツアーに入っていただけると安心ですね。

■植田 めぐみ 氏
写真家

2010年から夏は富士山頂にある山小屋で働きながら、毎日頂上からの景色や生活などの写真を撮り続けていた(15年から御殿場口5合目のトレイルステーションにて活動)。夏は富士山、冬は宮城蔵王を主な活動の場に。吉田町出身


■ 新センターを楽しい場所に

 大石 富士山と地域とのかかわり方についてそれぞれお考えを聞かせてください。
 稲葉 地元をPRしたいと思う、勝手な思い込みのようなもの、観光に来る人の勝手な期待、その両方のすり合わせが難しいと思います。まじめに答えれば、ぜひ開発は止めて環境保全に尽力してください、と言いたいところですが、それだけだと地元はたまったものではない、となります。
 世界遺産になったことで、東京を通さずとも世界につながった、世界に発信できる力を得たということです。同時に世界に発信する責任も得たと言えるでしょう。先ほど世界遺産は文化と自然の境界領域にあるということを言いました。ユネスコが最も力を入れてプロモーションしている大きなテーマが文化と自然の融合で、まさに富士山はそれに当たりますから、これを利用しない手はありません。
 中尾 植田さんが富士山の情報発信をしたいというお気持ちは本当によく分かります。どこで風呂に入れるのか、ご飯が食べられるか、そういう情報を発信する基地がほしい。富士山世界遺産センターがその起点になるのではないでしょうか。また、近くで地元の野菜や海産物が買えるという情報があると地域の方々にもメリットを感じていただけると思います。
 植田 訪れる皆さんは富士山に登りたいというより、富士山を見たいという気持ちが大きいと思います。例えば夏に富士山が見える時間帯は朝の8時までです。それ以降は気温が高くなって雲が出てしまうからですが、こうした時間帯や見える場所を発信するということも大事だと思います。
 大石 最後に、富士山世界遺産センターへの期待をお話しください。
 中尾 堅苦しい場所でなく、楽しい場所であってほしい。外国人は日本の漫画が大好きですから、漫画で簡単に案内ができるような工夫がほしいですね。また、富士山を守ろうと活動してきた人たちを忘れないでほしい。感謝の心を忘れてはいけないと思います。
 稲葉 現地に調査に来た外国の専門家と議論している中で、富士山の姿はよく分かりました。構成資産には浅間神社があり、忍野八海がある中で、それぞれの場所を訪ねるとそれぞれの宣伝で終わってしまっています。富士山の自然をベースにした文化的価値と、それを支える構成資産の個別の価値をどうやって一緒に説明するか、その役割をセンターに担ってほしいですね。
 基調講演をした田代博日本地図センター常務理事 植田さんの写真を見て、これに電線・電柱があったらどんなに残念だろうと思いました。ぜひ地中化を進めていただき、富士山の景観を守っていただきたいと思います。
 また、富士市から見る富士山にはどんな特徴があるのかなど、各地域から見た富士山の個性や特徴を外来者に分かりやすく、多言語表記も含めたツールを作ってほしいと思います。

■コーディネーター
大石 人士 氏
静岡経済研究所常務理事

静岡銀行入行後、1982年静岡経済研究所出向。2005年より研究部長、12年理事。専門分野は地域経済、企業経営、まちづくり、行政改革など。静岡地方労働審議会委員など、県をはじめ市町の委員を務める。



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