大石 世界遺産における富士山の価値をご説明ください。
稲葉 富士山の価値は「信仰の対象」と「芸術の源泉」です。ある特定の時代、ある特定の地域の象徴として存在する山は世界に数多くありますが、富士山はどの時代でも、かつ、国際的に見ても影響が大きい山です。
世界遺産の主流が、自然と文化の境界領域にあるものとなっていますが、これだけ文化的影響力のある自然が世界遺産になっている例はあまりありません。また、どうやって地域振興や観光に結び付けるのか、そのモデルになるものです。
中尾 富士山は日本のインバウンドに欠かせません。アジアでも欧米でも、訪日したらまず最初に富士山に行くという意識があるようです。ゴールデンルート上にありますし。国立公園のインバウンドの状況では、昨年545万人が国立公園に行っていますが、その半分が富士箱根伊豆。おそらく富士山と箱根だと思います。
登山者動向を見ると、最近女性を中心に若い人が登っています。世界遺産登録の年が最高集客で、2014〜15年は落ち込みましたが、昨年やっと盛り返した感があります。テレビなどで「山を踏破する」とか「制覇する」といった表現が見受けられますが、個人的には感謝の心をもって登ってほしいと思います。世界遺産センターで説明を受け、浅間大社にお参りして、1合目から富士山に登るという文化が根付いてくれるといいですね。
植田 世界遺産登録後、何も知識はないけど楽しそうだから登っちゃえという方が多くなりました。サンダルにTシャツ姿の方もいます。晴れていればいいのですが、天気が悪い日は本当に危険で、雨の日は死人が出てもおかしくない過酷な場所です。また、高山病になっているのに無理して登ったり、ストックの突き方を知らなかったりする人が本当に多い。でも、そういう情報が発信されていないのが現状です。
山に登るだけが富士山の楽しみ方ではありません。どこかに泊まるとか、帰りに温泉に入るとか、そういった情報があまり発信されてないことに気づきました。
中尾 以前は日本人の登山マナーが悪いとか、ルールが守られていないとか言われていましたが、今はそんなことありません。
むしろ、インバウンドの個人旅行が増える中、そうしたルールやマナーをどこで知るのだろうと思いますし、啓発の部分は国がやるべきでしょう。また、安全のためにも旅行会社やガイドがやっているツアーに参加するように奨励してほしいと思います。 |