サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

風は東から 今月3日、東海大の旧沼津校舎(沼津市西野)を一部リノベーションし、県が先端農業の技術研究開発拠点「AOI‐PARC(AOIパーク)」を開設した。関係者約150人が出席、川勝平太知事を中心にテープカットが行われた。川勝知事はあいさつで「農芸品日本一(339品目)の本県にこのような農業、食、健康を結びつける最先端の拠点ができたことは素晴らしい。ここから攻めの農業をやっていきたい」と力を込めた。8月の「風は東から」は同施設の機能や可能性について関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

バックナンバー


農中心のクラスター形成 沼津に世界水準の拠点
■ 「知の集積」と次世代栽培装置

 愛鷹山麓に広がる茶畑にひときわ目立つ白亜の建物。地上5階建て、1万平方メートルのこの施設は県が約10億円をかけ整備した。「AOI‐PARC(Agri Open Innovation -Practical and Applied  Research Center)」の名前が示す通り、農業をテーマに「日本トップクラスの研究」と「事業化を目指す企業」をマッチングし、新しい価値を創造する。
 本年度は建物の1、2階が稼働。1階は県農林技術研究所や慶応大、理化学研究所などの学術・研究機関が入る。慶応大はICTを農業に応用し、ベテラン農家のノウハウを可視化、マニュアル化し、農業への新規参入を容易にする。理化学研究所は、植物が発する微量なガスを察知して病気の早期発見をする―など、それぞれの得意分野を農業に生かす。
 また、「次世代栽培システム室」は、光(光量・光質)、温度、湿度、CO2濃度などの環境要因を同時に制御することで、農作物の育成条件を約30万通り再現できる。これにより、最適な栽培方法の決定や、優れた機能性を持つ種苗の選抜が可能だ。このほか、環境・植物計測機器や遺伝子解析装置、機能性成分分析装置などがあり、マーケットニーズに応じた農産物の生産に必要な研究が行える。
 県経済産業部の芦川敏洋先端農業推進担当理事は「目的は二つ。一つは品種開発や栽培技術の開発による農業の飛躍的な生産性の向上。もう一つはさまざまな要素を組み合わせて、農業だけでなく食品やヘルスケア、エネルギー関係などビジネス展開を図ること」と語る。

 ■開所式でのテープカットの様子。中央は川勝知事。右はAOIパークの外観(上)と次世代栽培装置

 


■ 推進エンジン役のAOI機構
■「県内だけでなく日本、世界の農業をけん引したい」と抱負を語る芦川理事

 2階はレンタルラボとレンタルオフィスだ。昨年、県はAOIパークで学術・研究機関と共同研究や共同開発を希望する企業を募り、県内外の12社を採択。そのうちレンタルラボに7社、レンタルオフィスに3社が入居する。
 12社は拠点の機能を活用し、研究開発を進めており、早ければ年度内に何らかの成果が生み出せるという。
 こうした民間企業の研究開発支援やAOIパークで生まれる成果の実用化を推進するのが4月に設立されたAOI機構だ。農業分野はもちろん、デジタル機器や金融など異分野のエキスパートがそろう。もう一つの大きな役割がオープンイノベーションを加速する「AOIフォーラム」の立ち上げだ。AOIパークに入居した学術・研究機関や企業をコアメンバーに、産学官金の多様な参画により、事業連携や共同研究を通じて産業の好循環、産業起こしを狙う。初年度は100社の参加を目標にしている。
 芦川理事は「オープンイノベーションを旗印に、農業の飛躍的な発展を目指す全国でも例のない取り組み。AOIパークを中心に本県が培ってきたものづくりの技術も応用し、339の農産品の中から大きく成長する可能性のある農産物を見いだしたい」と抱負を語る。ファルマ、フーズ、フォトンに続く本県四つ目の先端産業クラスター「AOIプロジェクト」に期待が集まる。


農林水・食産業の革新的発展を

■吉田新吾
AOI機構プロデューサー

― AOI機構の役割についてご説明願います。
吉田 機構にはコーディネーター2人、プロデューサー1人、シニアアドバイザー3人がおり、主に技術提案や技術・事業提携などを進めていきます。得意分野はそれぞれ違い、農業技術のプロ、金融や食の分野に強い人などです。慶応大や理化研の先生方からも、その都度助言をいただきます。
 現在は選定された12社が成果を出せるよう、コーディネーターが手厚い支援を始めています。すでに本機構が仲介し、完全閉鎖型の植物工場で生産した野菜を県内の中食事業者に使ってもらうなど検討が進んでいます。
― ご自身は家電メーカーでの製品開発や国に出向しマイナンバー関連のシステムづくりなどを手掛けたと聞きました。農業という分野をどう見ていますか。
吉田 栽培や食に関する信頼性の高いデータがなかったり、知財や契約に関するルールがなかったりと、製造業の当たり前が通用しない部分がありますが、かえって機構が支援可能な余地も多い。現行の商習慣を変えないと難しい部分もありますが、臆することなく進みたいですね。
― AOIフォーラムの運営も手掛けるそうですね。
吉田 農業に新規参入したい企業や農作物の生産に関わる方を積極的に募っています。数多くの企業と話をする中で、共通の課題も見えてきました。例えば農作物の価値を上げる観点で、有機農法をテーマに専門家を招致した勉強会などの開催も考えています。
― 最後に抱負をお聞かせください。
吉田 ここには世界最先端の研究者と設備が集まっています。その成果をどう広げていくかが問われていて、例えば機能性を高めた食材の研究はサプリメントの開発や給食・配食への活用、また観光産業との連携にまで広がります。ぜひ、このプロジェクトの成果を世界に広げていきたいですね。

■企業紹介

■共同研究採択先一覧
○栽培技術/富士フイルム富士宮工場、アイエイアイ、鈴与商事、トヨタネ、石井育種場、
      クレアファーム、イノベタス
○栽培装置/富士山グリーンファーム、アイゼット
○品種開発/増田採種場
○加工技術/スマートアグリカルチャー磐田
○エネルギー効率化/静岡ガス

AOIパークでの共同研究を開始する企業の関係者に研究概要と期待を聞いた。

エネルギー技術を農業分野に展開
大塚弘之 静岡ガス執行役員

 小型・汎用型トリジェネレーション(※)の開発(実用化)を目指す。ガスエンジンの発電機から電気、熱、CO2が生み出される。今まで捨てられていたCO2は農業分野では野菜の育成に必要なため、当社のエネルギー供給システムの応用を研究する。また、ハウス栽培では電気、熱、CO2が必要となるタイミングが異なる。こうしたことも研究テーマの一つだ。
もう一つは、農業分野におけるエネルギーマネジメントだ。植物工場や施設園芸ではエネルギーを必要とするため、安価で安全なエネルギーの安定供給が必要になってくる。その答えを出せるのはエネルギー会社だ。研究のみならず、実際に農家の方々の課題を探るための橋渡しもAOIパークに大いに期待したい。
※発電機から出る、電気に加え、発生するCO2も有効活用するエネルギー供給システム


オリーブを活用した地域貢献を
西村やす子 クレアファーム社長

 オリーブは静岡で栽培の歴史が浅く、海外から指導者を招き徐々に形が見えてきた。これをさらに進め、生産効率を上げ、病害虫の予防などの栽培に関する研究をする。
 また、ワサビやお茶など、県内を代表する食材とオリーブオイルを組み合わせた場合の相乗効果も研究する。オリーブは、葉はもちろん、搾りかすにも栄養があるので、活用法を研究したい。
 AOIパークはオープンイノベーションを標ぼうし、さまざまな知恵や技術、人材も含めて面白いものが集まっている。また、沼津にあるため東部地区への波及効果は大きい。伊豆の食材なども利用し、加工品を作っていきたい。特に東部の食は観光資源、お土産への展開が楽しみだ。より良いものを作る中で地域貢献をしていきたい。




■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.