サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

風は東から 地域の歴史的魅力や特色を通じ、わが国の文化・伝統を語るストーリーを文化庁が認定する「日本遺産」。伊豆地区では伊豆市と河津町が登録を目指している。10月の「風は東から」は、先月行われたサンフロント21懇話会伊豆地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、東洋大大学院客員教授でANA総研の丁野朗シニアアドバイザー、県教育委員会文化財保護課の菊池吉修班長、白壁荘(伊豆市)の宇田治良社長、富士山浪漫之旅の朱珠さんを迎え、日本遺産への申請をきっかけに、伊豆の魅力をどのように編集・発信するかを議論した。コーディネーターは企業経営研究所の中山勝常務理事(サンフロント21懇話会TESS研究員)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

バックナンバー


日本遺産申請機に魅力再編 事業化、活性化へ道筋を
■ インバウンド客 伊豆は5倍増に
 中山 伊豆市と河津町が日本遺産登録を目指しています。そのきっかけはこの分科会でした。伊豆の文豪や温泉、ワサビなどの地域資源をどう発信していくか。討論の後半では日本遺産申請に向けた動きにも触れたいと思います。まずは湯ヶ島周辺の観光動向について伺います。
 宇田 湯ヶ島は、平成3年をピークに38軒あった宿が今は15軒に減りました。
 伊豆半島はほとんどがマイカー利用で、首都圏がメインです。東京・神奈川だけで50%、また県東部地区のお客さまは少し減っています。10年前から体験型やグリーンツーリズムという言葉は出てきてはいますが、旅館でゆっくり過ごすお客さまが大半です。
 ビジットジャパンが始まる前、外国人観光客は年間100人でした。それが今年は5倍の500人です。中国、香港、ヨーロッパがほとんどです。伊豆は日本観光のゴールデンルートから外れていますので、わざわざ来ていただくには何らかの施策が必要です。
 朱珠 中国人の訪日旅行は、団体客が減って、個人旅行にシフトしています。外務省の発表では、ビザ発行も個人が団体を抜きました。
 伊豆に来るお客さんは、団体の場合は温泉が目的、また「伊豆の踊子」が有名で、ツアーを組んで来ています。個人になると旅館を体験したい、中国内陸部の人は海を見たい、海鮮料理を食べたい、自然の中でぼーっとしたいなどさまざまです。団体はバス旅行のため、走行中は寝たり携帯を操作したりですが、個人の場合は移動そのものを楽しみます。
 インスタグラムはあまり使えませんが、中国独自のSNSで移動中の写真をアップしています。
宇田 治良 氏
天城湯ヶ島温泉「白壁荘」 代表取締役

民話と民芸の宿「白壁荘」の二代目主人。湯ヶ島を文学の郷にするべく「川端康成はなぜ10年間湯ヶ島にとどまったのか」「井上靖は何に触発されて作家になったのか」など、地元ならではのエピソードを中心に、文学散歩の案内人も務める。

 

 


■ 地域資源を視点変え見直す
 菊池 伊豆の文化財について言うと、ジオポイントはほとんどが文化財指定と重なります。名勝・伊豆西南海岸や堂ヶ島の天窓洞、清水町の柿田川、伊東市の大室山などです。世界遺産は、本県は富士山と明治日本(韮山反射炉)があり、異なる遺産を二つ同時に見られるのは韮山だけです。
 伊豆地区は昨年、伊東市と熱海市にまたがる石丁場、MOA美術館の木造十一面観音像など4件が国の文化財に指定されました。国には指定文化財と登録文化財があり、前者が保護を前提とするのに対し、後者は活用が主目的です。伊豆地域には近代の保養所や別荘、旅館の庭などがたくさん残っていますので、こうしたものを登録文化財にしていけば、登録文化財の建物に泊まり登録文化財の庭を見て温泉に入るという楽しみ方ができますね。
 今の課題は、本県に重要文化的景観の指定がないことです。国からはワサビ田や漁村の風景を残したらどうかと言われています。また、下田市や松崎町などの古い町並みも重要伝統的建造物群保存地区で残すべきと考えます。
 丁野 「観光」の語源は「国の光を見る」ですが、その光を再発見するのが「日本遺産」です。では伊豆の光とは何でしょうか。なぜここに人が集まるのでしょうか。
 「千客万来」という言葉があります。この「千」は大量、つまりマス(大衆)が対象です。伊豆の「千客万来」はロケーション、温泉、多様な自然があったから成り立ちました。
 もう一つは、「選客万来」。観光において今や大量のお客さまを集める3割バッターはどこにもいません。文豪、ジオ、アート、自転車といったテーマはマスにはなりませんが、リピートします。
 千と選、その二つをきちんと組み立てる必要がありますね。
 また、少し視点をずらして眺めてみる。例えば、京都は「海の京都観光圏」を推進していて、非常に効果を上げています。このように、資源は同じでもそれをどんな赤い糸で貫くか、またそれにとても素敵なキャッチコピーを付ければ注目されますよね。

菊池 吉修 氏
静岡県教育委員会  文化財保護課班長

1995年に遺跡の発掘等に携わる埋蔵文化財専門職員として静岡県に採用。2008年より文化財保護課で、文化財の保護に関わる業務を担当する傍ら、日本遺産への申請に関する業務にも携わる。


丁野 朗 氏
東洋大学大学院客員教授
ANA総研シニアアドバイザー

同志社大学を卒業後、マーケティング・環境政策のシンクタンクを経て、89年余暇開発センター入所。2002年に社会経済生産性本部(現日本生産性本部)に移籍。08年日本観光振興協会常務理事・総合調査研究所長に就任。16年6月より現職。


■ 歴史的魅力をストーリー化
 中山 実は本県には、日本遺産登録がまだ一つもありません。
 菊池 過去に本県から3件申請しましたが、認定には至っていません。来年の申請に向けた動きがあるのは伊豆市・河津町と、掛川、浜松・三遠南信、三島市の計4件です。
 伊豆市・河津町のテーマはこれから決まるそうですが、候補のひとつが「温泉と文豪」です。例えば、文豪が温泉に引き付けられた背景をストーリー化したり、五感に訴える内容を多く盛り込んだりする。また、それがオンリーワン、ナンバーワンになっていることが大切です。
 もう一つの候補が「ワサビ」。県を中心に、伊豆のワサビ栽培の特徴である「畳石式」で世界農業遺産を目指していますが、文化庁からは歴史的な切り口でストーリー化ができるのではと言われています。
 朱珠 文豪でいうと、「伊豆の踊子」は中国でも50代、60代に良く知られています。若い人も名前だけは知っています。
 中国のツアーで浄蓮の滝と河津七滝は定番です。とても感動する人と、中国やアメリカにもっと大きい滝があるので、何が魅力なのか分からないという人がいます。「伊豆の踊子」を知っている人も、なぜ滝が関連しているのか分からないと感動まではいきません。そこに、現地ガイドや資料などを付けてきちんと説明してほしいですね。
 三嶋大社も同様です。明治神宮など大きい神社が他にたくさんあるのに、なぜ三嶋大社に行くの―という説明をしっかりすることです。先日、中国旅行客に正式参拝ツアーをしてもらいました。神職の服装でまず驚いていましたし、作法の詳しい説明や体験はとても喜んでもらえました。「水を飲むひしゃくを最後にすすぎ洗いするのは、次の人のため」ということを、参加していたお母さんがしっかりお子さんにも説明をしていました。
 宇田 川端康成がなぜ伊豆に通ったか、一つには伊豆地域が非常に豊かだったことが挙げられます。金山の開発やシイタケ栽培、その後有東木(静岡市)からワサビの苗をもらい栽培しました。かなりのお金が湯ヶ島に入った記録が残っています。
 また、天城峠の宿場町だったので、湯ヶ島の人たちはオープンで旅人を温かく迎えたという歴史的背景があります。そんな理由から多くの作家が訪れ、温泉に入り、作品を残したのだと思います。
 丁野 テーマについては考えないとなりませんが、伊豆半島ジオパークは「南から来た火山の贈り物」と書いてあります。では、その贈り物とは一体何なのか。温泉、天城連山、ワサビ田、金山、これらの資源はオンリーワンです。ここしかない。そういうオンリーワンの中にとても素敵な言葉があるのにそれをきちんと説明していないので、一貫性を持ったストーリーがほしいですね。
 新たな国の支援策が出てくる中で、日本遺産が本当に成功するのかは、認定の先に事業化が見えること、この地域の活性化の軸になること―これが隠れた重要な審査ポイントだと思います。
 中山 日本遺産は登録が目的ではなく、それをきちんと地域振興につなげるための熱意が、私たち地元には必要だと思います。

朱 珠(しゅじゅ)氏
旅行代理店「富士山浪漫之旅」

中国四川省出身。ホームページ、ブログ、SNS、動画サイトを通じ、主に中国向けに伊豆や県東部の情報発信をする傍ら、自治体や各団体と連携し中国や台湾からの旅行客をアテンドする。観光商品の企画や販路開拓など多岐にわたって活躍。


中山 勝 氏
企業経営研究所常務理事

慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了。スルガ銀行入行後、1982年企業経営研究所出向。研究員、主席研究員を経て2000年部長、08年常務理事。静岡県、沼津市、三島市などの委員や日本大学国際関係学部非常勤講師などを務める。



■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.