サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から 昨年9月、長泉町に研究開発拠点を開設し、入居企業発の成果が出始めたファルマバレープロジェクト。今夏、同プロジェクトをさらに推進させるための新財団「ふじのくに医療城下町推進機構」を設立し、医療健康産業集積の加速化が期待されている。「風は東から」11月は「ファルマバレープロジェクト」を取り上げる。同機構の理事長に就任した静岡産業大学総合研究所の大坪檀所長に、同プロジェクトの今後について聞いた。(聞き手・編集部)

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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ファルマの実績基盤に 頭脳産業集積図る
■ 医療産業の集積で所得水準アップ

― ファルマバレープロジェクトが始まって15年、医薬品と医療機器の合計生産金額が1兆円規模に成長するなど、好調ですね。
大坪 なぜこのプロジェクトがうまくできたか、それは関係者が大きな夢を持ったからです。今後は、それをもっと大きくして、アメリカのシリコンバレーに対抗できる日本の一大プロジェクトにしたいと思います。
 静岡がんセンターのある長泉町は、ある調査で年収1千万円以上の世帯が12%を占めるという結果が出ました。同センターができ、関連する企業も進出し、高度な医療関連の産業の集積が進んだのです。ある意味、ファルマバレーの推進がこうした所得水準の高い地域を生み、本当の意味で活性化をしたと言えるでしょう。現に長泉町は地方交付税交付金の不交付団体です。
 将来の日本にとって、高度頭脳産業を中心とした新しいまちづくり、都市づくり、地域づくりが必要だということを、ファルマバレーは証明したのです。
 ただ、いくら県が一生懸命旗を振ってもそれだけでは難しい。地域の人たちが県と一緒に大きな夢を描くことが必要で、これはサンフロント21懇話会の最大の成果と言えます。



■ ファルマの手法を他分野にも
― 着々と産業集積が進んでいる点についてどう受け止めておられますか。
 大坪 頭脳産業、高付加価値産業の一つの良い例がファルマバレーです。今までの15年間は実証実験のようなもので、いろいろなことを学んできたから、次は医療に限らず県内に研究開発産業を集めていく。静岡に来て高度研究型産業を興せば、県が応援しますよ。一生懸命やればこうなりますよ、日本でなくても世界中からいらっしゃい、それが次の段階です。世界に開かれた新しい産業づくりの場所であり、みんなが応援する場所なのです。
― 応援の具体的な方法をお教えください。
 大坪 産業界の最大のリスクは、投資した事業がうまくいくかどうかの判断が難しいこと。できるだけ判断ミスをせず投資して企業を育てるには、市場のニーズが分かっていることが大切です。例えばファルマバレーでは、同センターを中心に医師や看護師など医療現場のニーズを吸い上げ、地域企業の技術とマッチングさせています。ニーズが分かっているものに取り組むことで、リスクヘッジをしています。つまり、マーケットインの発想です。容易にその情報が手に入るわけではないですが、こうした道筋をつくったことは高く評価したいですね。
 これからはファルマバレーで培ってきた方法を違う分野に応用すると良いと思います。例えば同センターや三島市の国立遺伝学研究所は人材育成などの点で素晴らしいリソースをもっています。新しい財団では、地域の智をもっと顕在化させてネットワーク化したいと思います。その過程で、例えば医療系の学校で使う医療教材を医療産業が作るといったことができるといいですね。より現場に近い、実践的な内容になるのではないでしょうか。

■ 医療のIT・AI化さらに加速
― 今後重点的に取り組む内容のご説明をお願いします。
 大坪 すでに同センターでは手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を取り入れた手術等を行っておられますが、AIやITをもっと医療分野に取り入れるような取り組みを行いたいですね。シリコンバレーの躍進はデジタル革命です。同様にファルマバレーでは、医療にITやAIの導入を加速することで、シリコンバレータイプの、日本版の新たな集積ができるでしょう。「ファルマバレープロジェクトプラス」という発想があってもいいと思います。
 もう一つ、フーズ・サイエンスヒルズやフォトンバレーなどの県内クラスターとの連携を考えています。特に、フォトンバレーを展開する県西部地域はこれから大革命が起きる時です。というのも、そう遠くない将来に自動車の現在のエンジンはEV化により姿を消してしまうと考えられています。EV化の研究は進んでいますが、光技術も研究されています。こうした技術を更に医療分野に展開したい。
 医療は幅が広い分野です。食もあれば生理学、物理学、人間工学にも注目したい。いろいろなところとの結合が大事です。
― 東部地域との一層の連携をどう図りますか。
 大坪 世界中でも県東部ほど恵まれた場所はありません。世界都市・東京から近く、新幹線があり、東海道線があり、東名・新東名があり、国道もある。富士山と箱根がそばにある。一番発展するのは東部だと思っています。
 ファルマバレーセンターと東部市町との連携を深めようと、市町や金融機関に順次あいさつに回っています。市町と共通のビジョンを持ち、それを支援したいと考えています。また、産業界の方たちとも意見交換を通じて関心を持ってもらい、参画してもらうつもりです。
 ファルマバレーは新しい概念を世に送り出しました。理事長を引き受けたのも、健康長寿の取り組みがビジネスになり、それが人の暮らしを豊かにするからです。これは健康長寿に貢献する世界的なプロジェクトなのです。
大坪檀
ふじのくに医療城下町推進機構理事長

東京大経済学部卒。カリフォルニア大大学院で日本人初のMBA取得。帰国後、ブリヂストンに就職。経営情報部長、米国ブリヂストン経営責任者、宣伝部長を歴任。1987年より静岡県立大経営情報学部教授、学部長、学長補佐。98年静岡産業大学長、2013年より静岡産業大学総合研究所所長


ファルマバレープロジェクト最近の成果

■インクジェット技術を使った製剤技術を開発
リコー×静岡県立大
 リコーは昨年9月、ファルマバレーセンターの開所とともに入居。同センターの仲介で、県立大と同社のインクジェット技術を活用した医薬品の製剤技術開発に着手している。この技術は薬剤を微細かつ均一にすることができ、経肺薬などへの応用が期待されている。
 県立大では実薬を使った動物実験を行い、その成果を5月の日本薬剤学会で発表、最優秀発表者賞を受賞した。現在は、製薬会社からの問い合わせも多く、事業化に向けた取り組みが加速している。

■心臓カテーテル手術用腕固定具「ラディ丸」を製品化
丸井商事(静岡市)×澤海綾子看護師(埼玉県新久喜総合病院)
 寝具やウレタン加工メーカーの丸井商事は、ファルマバレーセンターの支援で医療機器分野に新規参入。医療機器製造業の登録と医療機器製造販売業の許可を取得した。
 看護師のアイデアを具現化した「ラディ丸」は心臓カテーテル治療の際に、患者の安定した姿勢を保ち、安全に治療するための腕固定具だ。同種のものとしては国産初の一般医療機器として6月から販売され、すでに10施設で採用されている。

 

■高密着度オーダーメイドボーラスを製品化
ア・ジャストポリマー(御殿場市)×静岡がんセンター
 ボーラスとは、放射線治療の際に皮膚の上に置き、最適な放射線線量を確保するための緩衝材のこと。市販の平板状ボーラスでは、凹凸部位や頭部などの曲面に密着させることができなかった。
 樹脂加工メーカーのア・ジャストポリマーは、3Dプリンターと新たに開発した透明軟質素材を用いて、凹凸部位にも密着度の高いボーラスを作成。世界初の成果として、共同開発した静岡がんセンターが17日の日本放射線腫瘍学会で発表した。同社も医療機器分野へ新規参入している。



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