サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から 2020年の世界的なスポーツの祭典に向け、盛り上がりを見せる県東部。2月の「風は東から」は自転車をテーマにした地域づくりを取り上げる。トップアスリートだけでなく、地域住民や観光客、サイクリストが楽しめる地域をどう創るのか、開催後に地域に何を残すかについて、中心となって進める土屋優行副知事に聞いた。聞き手は海野俊也静岡新聞社・静岡放送東部総局長。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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千載一遇の好機生かしサイクリストの「聖地」へ
■ 試される本気度
■PRイベントで矢羽根(青い路面表示)に沿って走るサイクリストたち  
海野 自転車競技のトラック、MTB(マウンテンバイク)に続き、ロードレースも県内開催が決定しましたね。
土屋 初の県内開催です。トラック、MTBが開かれる伊豆市周辺は、観客と選手の輸送に関する計画が道路整備を含めて進んでいます。新たに、ロードレースのゴールとなる富士スピードウェイ(小山町)にどう人を運ぶか、そして沿道の観客にどうやって競技を見てもらうかが大きな課題です。 
来年には、MTBのテストイベントや、ロードのプレ大会をやるかもしれません。課題はたくさんありますが、千載一遇のチャンスととらえています。
海野 これをレガシー(遺産)として残すにはどうしたら良いとお考えですか。
土屋 本番に向けた準備、受け入れはもちろんのこと、県民、そして日本中、世界中の方の記憶に残るイベントにして、2020年の後も世界中からサイクリストが集まる場所にしたいですね。一つは、コースを残すことが重要です。ベロドロームはそのまま残ります。MTBコースはプロ用ですから、一般の方も使えるように改修したいと考えています。
土屋 優行 氏
静岡県副知事

1978年東北大法学部卒業後、静岡県に入庁。2012年経営管理部長、14年経済産業部長、15年賀茂振興局長兼政策調整監(伊豆半島担当)を経て、同年8月より現職。下田市出身。
また、もう一度伊豆に行きたい、東部に行きたいと思ってもらえる方策を考えています。周辺の観光地を回って面白かったと思ってもらいたいですし、映像しか見ていない方に自転車に詳しく、こんなに熱くなる県民性がある静岡に行ってみたいと思わせたいですね。
それと、日本のシンボル富士山をきちんと見せることが必要です。富士山に向かって疾走する、という絵をどんどん発信し、自転車好きが多い地域というイメージを展開したいですね。私たちは地元でおもてなしをするとともに、その「熱量」を発信したいですね。
海野 県民のみならず、市町の協力が不可欠ですね。
土屋 伊豆半島地域サミット、東部地域サミットで受け入れについて話し合いをしました。「ロードレースの県内開催が決まれば、伊豆以北の市町とおもてなしや交流拡大を一緒に考えたい」という意見があり、1月末の「東京オリンピック・パラリンピック自転車競技伊豆半島・東部地域首長協議会」設置につながりました。こうした動きはおそらく初めてではないでしょうか。


■ 官民の取り組み続々
■自転車の簡単なメンテナンスができる「バイシクルピット」は、東部・伊豆に50カ所以上を設置する。写真のポスターが目印
海野 県が掲げる「自転車の聖地」とはどのようなイメージですか。
土屋 自転車の利用場面は幅広いですね。お子さんから、通勤・通学、買い物など日常の足として、また、健康のために乗る方もいます。観光面では2次交通として、そして自転車を楽しむサイクリストもいて、ハイエンドになると競技など、いろいろな目的がある。各層をしっかりと受け入れ、安全な環境を提供できる、それが聖地だと思っています。
海野 具体的にどのような取り組みをされていますか。
土屋 県東部20市町と、交通・観光をはじめとする幅広い企業、団体でつくるE―Spo(県東部地域スポーツ産業振興協議会)に、バイシクルピットなど、サイクリスト受け入れのための環境整備や、機運醸成イベントの開催などをお願いしています。
南伊豆地域ではICTを使ったレンタサイクルの実証事業をしています。伊豆はどうしても2次交通が弱いので観光客の“足”としてスマートフォンで簡単に予約できる仕組みを取り入れました。今までもこうしたサービスはありましたが、今回は広域で、レンタサイクルステーションごとの乗り捨てを可能にしたのが特徴です。3月末までの実証事業で、下田、南伊豆、松崎、河津など19カ所に電動アシスト付き自転車80台を配置しています。
サイクリストへのおもてなしは、スルガ銀行が旧天城湯ヶ島支店をサイクルステーションにし、受け入れやイベントの拠点に使っています。また、湯ヶ島の旅館は「サイクリストに優しい宿」キャンペーンを展開し、高額な自転車を部屋まで持ち込めるようにしました。
海野 課題はありますか。
土屋 今の課題は、荷物の当日配達です。瀬戸内のしまなみ海道がすごいのは、尾道で宅配便を頼むとその日のうちに宿に荷物が届くこと。手ぶらでサイクリングできるのです。それがこの地区でできないかなと思っています。
■松崎町内のレンタサイクルステーション。新レンタサイクルシステムは、スマホで予約、乗り捨てもできる。
また、競技選手の育成も課題です。残念なことに、今までは県内から選手はあまり出ていません。
海野 そんな中、ブリヂストンのプロチームが三島に拠点を移すと発表しました。
土屋 伊豆はベロドロームがあり、アップダウンの多い地形で練習にもってこいだと思います。この地で訓練を積み、良い成績を残してもらいたい。県民にとって自転車はまだマイナーな競技ですから、皆が憧れている世界が地元にあることを見せたいですね。


■ 環境整備に本腰
海野 俊也 氏
静岡新聞社・静岡放送
東部総局長
海野 「矢羽根」と呼ばれる路面表示も積極的に進めています。
土屋 2020年までに伊豆半島の主要道路に引く予定です。
「矢羽根」を最初に県道沼津土肥線に引いたところ好評でした。年度内には新たに石廊崎周辺から南伊豆町をぐるりと回る約25キロに引こうと思っています。
「矢羽根」自体の知名度がまだ低く「この表示は何?」という声も聞きますが、これから表示の間に自転車マークを付けるので一目でわかるようになります。
また、自転車は目線が下に向きがちです。道路標識は上に出ていることが多いので、サイクリスト用に目的地の方向や残りキロ数を表示しようと思っています。
海野 林道を自転車専用道にする構想もありますね。
土屋 MTBのコースです。松崎町の既存コースには年間約1200人が訪れます。MTBは長野県や山梨県で盛んですが、冬は雪で走れない。その人たちが伊豆にやってきます。ただ、コースが少なく、いろいろなコースがあればもっと人が来るのでは、と同町牛原山の県有林に初心者コースを造りました。子どもたちが遊べるので親もついて来て、公園の活性化にもつながっています。
さらに、トレッキングとMTBのコース設定を本年度中に進めます。伊豆半島を横断、縦断するコースを造りたいのですが、雨の後は危ないし道を荒らしてしまいます。そこで森林管理署に相談して、国有林を借りたらどうか、と考えています。
海野 2020年に向けて、さまざまな動きが出始めていますね。
土屋 昭和40年代に打ち出された、千葉県と和歌山県を結ぶ全長1400キロの「太平洋岸自転車道」構想があります。この構想の実現に向けて昨年12月、関係する6県が要望活動を行いました。もう少しすると新たな取り組みが出る可能性があります。
 先日は、ガソリンスタンドを経営する企業から、ロードのコース沿いにあるガソリンスタンドを使って何かできないかという相談をいただきました。富士、富士宮市は山梨県側と3市4町の協議会を持っていて、この機に富士山一周のコースを検討したいと言っています。数多くの団体、グループが自転車をツールとして使うことで、地域全体のレベルを上げ「自転車の聖地」を実現していく。自転車だけではもうかりませんが、それに付随する多くの「ひと・もの・こと」が地域の活力を生み出すと感じています。



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